家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~ 作:水瓶シロン
その週の金曜日。
望と妃菜は学校から帰宅すると、そのまま魔法少女協会へ足を運んでいた。
到着するなり、不安でいっぱいになった表情を浮かべるテュカが出迎える。
「ちょ、ちょちょちょ妃菜ちゃん望ちゃん~! どうしてこんなに大事になっちゃってるんですかぁ~!?」
協会の制服に着られている幼げな姿でパタパタと駆け寄ってくるテュカに、妃菜がご機嫌斜めに頬を膨らませて答える。
「日比峰の魔法少女が望くんを略奪しようとしてくるから、それを阻止する戦いなの」
望は御使いとしてテュカに日々報告を上げている。そのため、もちろんここ数日は薫が接触してきたことや、望を巡って妃菜と薫が一触即発の状況になったこと、何かしらの方法で勝負すると決まったらしいことなども伝えてある。
おおよその事情は把握したうえで、テュカは妃菜から詳細な経緯などを聞きたかったのだろうが、それは叶わず。代わりに隣に立っていた望に潤んだ瞳を向けてきた。
「望ちゃぁん……」
「悪い、俺のせいかも……」
理由は不明ながら、薫は望に並々ならぬ好意を抱いている。そんな望の傍に他の女がいるのが面白くないと感じるのは自然なことだし、それが魔法少女で望を危険な戦場に連れ回していると知って止めようとするのも理解出来ない話ではない。
望が意図的に招いた事態ではないにせよ、望を巡っての争いであることは疑いようのない事実だった。
「今からでも俺が薫を説得して――」
「――ううん、大丈夫だよ。望くん」
謎に敵対心を発揮している妃菜の言葉は届かないかもしれないが、昔馴染みの望の言葉であれば薫も聞き入れる可能性は充分にある。
そう考えて、望は本格的に二人が衝突する前に間に挟まる案を出したが、隣で妃菜が首を横に振った。
「確かに始めたのは向こうだけど、これは私が望くんをちゃんと守れるんだって証明する戦いでもあるから」
「もうすでに妃菜は俺どころか毎日街を守ってくれてるし、そんな証明しなくても俺は――むっ!?」
少し焦ったように言葉を紡ぐ望の唇に、妃菜がスッと人差し指で触れた。突然のことに、望は目を丸くしながら、唇から妃菜の指先の熱を感じてドキッと胸の奥を跳ねさせる。
そんな様子に妃菜も小さく笑みを溢し、気恥ずかしそうに目を細めて言う。
「ふふっ、これからも望くんが傍にいてくれるつもりなのは知ってるよ? でもね、それは私も同じなんだ。自分で自分が望くんの隣にいて良いんだって思えるように、頑張りたいの」
「……っ!?」
妃菜が望の唇から離した指を胸の前で優しく握る。望は微かに赤らんだ顔を逸らして、恥ずかしさを誤魔化すような半目を他所へ向けながら呟いた。
「気恥ずかしいことをサラッと言うな……」
「えぇ、望くんがそれを言うのはちょっとなぁ……」
と、そんな二人のやり取りを傍で見ていたテュカは――――
「てゅ、テュカは何を見せつけられてるんでしょうかぁ……」
これから始まることに慌てている自分の方が馬鹿みたいに思えてきてしまっていたのだった。
◇◆◇
巨大樹を成す魔法少女協会には無数の庭園が存在する。
望や妃菜が定期的にテュカと話すように、普段魔法少女やその御使いが担当の協会職員とミーティングする場所としても使われている。
しかし、用途はそこに留まらない。
純粋に協会職員の憩いの場として利用されている庭園もあれば、少し身体を動かせるようになっている庭園もある。
そして、魔法少女が訓練をするための庭園も存在しており、経験の浅い魔法少女や戦闘に不慣れな魔法少女がよく利用しているのだが――――
「ひ、広い……のに、誰もいないな……」
そんな望の戸惑いの声が大きな空間に吸収されてしまって静寂が保たれる。他の魔法少女が訓練している様子などは一切見受けられない。
フィールドは楕円形に近く、まるで繭の中。広さはおおよそ学校の体育館を丸々覆えるほどだ。地面は土や砂で壁は植物の蔓がびっしりと張り巡らされており、自然の息吹を感じる。
「貸し切り、みたいだね」
「――当たり前でしょう」
妃菜の言葉に反応したのは、既にフィールドで待っていた薫。傍らには御使いと思しき妖精が浮遊していた。
「月ヶ瀬と日比峰の魔法少女の決闘なんて見せられるわけないじゃない。結果如何では、御三家のパワーバランスを揺るがしかねないもの」
「……今回のことに家は関係ないよ」
「関係なくても関係させてくるのが御三家の
対面早々睨み合う妃菜と薫。
やはり両者の間には不可視の火花が飛び散っている。
家の事情や『御三家』という初耳の単語はよくわからないまでも、相当に根の深い面倒事があるだろうことは隣で聞いている望にも察せられた。
「それとも、日比峰の私に負けたことが周知されて月ヶ瀬の権威を叩き落される方が良かったかしら?」
腕を組んで不敵に笑ってみせる薫に、妃菜も表面上可愛らしく笑って返す。
「正直家の権威とかどうだっていいけど、決闘のあと同じようにその大口が叩けるとは思わないでね?」
「私に勝てると?」
「そうだね。負けるとは思ってないよ」
妃菜はサッとフィールドを見渡す。
自然豊かな雰囲気ではあるが、森林のように木々が生い茂っているワケでもなく遮蔽物は少ない。
「念のため確認だけど、勝負の方式は決闘――つまり、私と君が直接戦うってことで良いんだよね?」
「ええ、それが手っ取り早いもの」
「そっか」
妃菜はそれなりに近接戦闘もこなせるが、得意は射撃や砲撃による距離を保っての戦い。特に広範囲への攻撃や火力を活かした殲滅攻撃に関しては相当な自信を持っている。
大量の遮蔽物が設置され見通しが悪く、隠れられながら距離を詰められる環境であれば振りに立たされることも想定していたが、これだけ見通しの良いフィールドであれば最初から妃菜の土俵。
加えて――――
(……見たところ、魔力量は大したことないよね)
正確に測量することは出来ないが、相手を集中して見ればおおよその魔力量を把握することが出来る。
流石に日比峰の血統の魔法少女というだけあって一般的な魔法少女よりは魔力量に優れているようだが、それでも平均よりやや多いという域を出ない。むしろ御三家の出の魔法少女と聞かされては拍子抜けするくらいだった。
もちろん魔力量がイコール魔法少女の強さではないが、それでも重要な要素の一つではある。そして、その差が大きければ大きいほど、その他の要素では覆すことの出来ない残酷なまでの才能の格の違いとして現れることになる。
どれだけ見事な業物を拵えた剣士でも、重戦車相手に勝ち筋を生み出せないように。
「じゃあ、やろうか。望くんは渡さないから」
「ええ、始めましょう。望は必ずもらっていくわ」
魔法少女二人によって、火蓋が切られる――――