家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第88話 やはり一周回って魔法少女は肉弾戦なのか

 妃菜の弾幕。

 薫の一閃。

 

 一合交わしたことによって両者は改めて互いを油断できない相手と認識し、油断も慢心も捨てて睨み合う。

 

(魔力上限値の半分の魔力しか使えない以上、日比峰さんの魔力量的に恐らく大技は使えて二回……その点、私は三回は確実に使えるから、そこに勝機がある……!)

 

 妃菜は自身のアドバンテージを冷静に理解して、再び自身の周囲に大量の魔力弾を生成。それを見た薫が、今度は迷わず駆け出した。

 

「雨の中、傘も差さずに危ないよ」

 

 妃菜はすぐさま射出。

 今度は生成した魔力弾を一斉に放つことはせず、数発ずつを連射するようにして薫を狙う。

 

 距離を詰めるべく駆ける薫の目には、相対的に向かってくる魔力弾の速度が増して映るが――――

 

「この程度、雨は雨でも小雨よ」

 

 カッカッカッ、と下駄を硬く鳴らしながら白刃を煌めかせる薫。体捌きで避けられる弾とそうでないものとを瞬時に判断し、躱しきれないものを斬り伏せいていく。

 

 グングンと距離を縮めてくる薫に、妃菜は表情を強張らせる。

 

「なら、これはどうかな……!」

 

 妃菜は右手に持った長杖の先端を身体の正面に持ってきて、そこに左手を添える。自身の周囲に再び魔力が集められるが、それは弾ではなく――――

 

 バァァアアアッ――と、五つの細い光線が宙に迸った。一筋一筋が妃菜の意思に従って狙いを定め、燕の如き速さで疾走する薫の姿を捉える。

 

「ふん、鬱陶しいわね……!」

 

 身体の正面に大太刀の刃を立てて防ぐ薫。

 その一点に五つの光線の焦点が重なり、その重さに一瞬踏ん張る足が後退させられそうになる。

 

 しかし、刀身に魔力を込めて切れ味を底上げし――――

 

 ズパァン! と光線を断ち切ってみせた。

 大きく斬り上げられた刀身。

 光線の威力を拮抗したことによって状態が仰け反る。

 

 妃菜はその一瞬を見逃さない。

 

 淡紅色の瞳がキラリと輝く。

 長杖の先端に魔力を収束させ――――

 

「はぁっ!!」

 

 その場で剣のように横薙ぎに払った。

 先端からは柱のような魔力のレーザーが放たれ、振るった延長線上を掻き消すように迸る。

 

 一瞬音を置き去りにしたあとで、被弾したこの空間の壁や地面が爆発する。

 

 河川敷で警告のために放った一撃とは違う。しっかりと魔力の練り込まれた一薙ぎ。

 

 薫もそれを瞬間的に理解したのだろう。

 仰け反っていた身体を戻すことはせず、咄嗟に地面を蹴って僅かに跳躍し、走り高跳びのバーを越えるような姿勢で、寸前のところで眼下にレーザーを躱す。

 

 遅れて届いた爆風に、束ねられた黒髪が激しく揺れた。

 

「火力バカね……」

「一応言っておくけど、今のは大技じゃないよ」

 

 あくまで通常攻撃の延長線上にあるものだと説明する妃菜に、薫は鬱陶しげに眉を寄せた。

 

「脳筋通り越してゴリラね、貴女」

「っ、お、女の子に言っていい言葉じゃないからね、それ……!?」

 

 ムッ、と不服そうな表情を浮かべる妃菜。

 薫はヒュンと大太刀を軽く振って、構え直した。

 

「何にせよ……悠長に出し惜しみしている場合じゃないわよ、貴女。もう、そこは――」

 

 スッ、と低く腰を落とす薫。

 大太刀の柄を両手で握り、身体に引きつけるようにして構える。

 

「――私の間合いなのだから」

 

 ブワァッ!! と薫の全身から魔力が滾る。

 その勢いが周囲に放たれたのは一瞬で、すぐに薫の身体から立ち上っては揺らめく湯気のような落ち着きを得る。

 

 その静けさの中に、確かな迫力を内包していて――――

 

「ほら、どこを見ているのかしら?」

「そんなっ――」

 

 妃菜は薫から目を離したつもりはない。

 文字通り瞬きする間に、先程まで薫が立っていた場所にその姿は消えており、背後から冷たい声が聞こえた。

 

 低く見積もっても二十メートルは固くあった彼我の距離が、刹那のうちに縮められた。

 

 咄嗟に振り返ろうとする妃菜。

 横目に薫の黒髪が揺れる。

 煌めくのは白刃。

 最優先で魔力による障壁を展開すべく全神経を集中させ、その間にみるみる鋭利な刃が迫ってきて――――

 

 バリィン……!

 

 急拵えの障壁などいとも容易く砕かれて、大太刀の刃が妃菜の身体を打った。

 

「きゃぁっ……!!」

 

 砕け散った魔力障壁の欠片と共に、妃菜の身体が大きく吹っ飛ぶ。魔法少女として身体能力や肉体強度が高められていなければ、今頃身体を二枚に卸されていたところだ。

 

 

 

「――ちょ、今の何だ……!?」

「縮地ですね」

 

 中二階で観戦していた望の驚愕の声に、ニュイが淡々と答えた。望は焦りながらもその聞いたことのある単語の意味を自分の脳内で検索に掛けて、恐る恐る声に出した。

 

「しゅ、縮地って……古武術とかにある、めっちゃ速く移動出来る技……みたいなやつだよな?」

「よくご存じでいらっしゃいますね。流石は薫様がお熱になられる望様、博識です。パチパチパチ」

「……パチパチ言うならせめて拍手しろよ。擬音喋って済ますなよ……」

 

 興味があるのかないのかよくわからない視線でじーっとフィールドを見下ろしたまま淡々と喋るニュイに、望は半目を向ける。

 

「申し訳ありません。今、目が離せなくて」

「目は離せなくても手は空いてるだろ」

「……何か炭酸飲料とポップコーンを所望します」

「無理に手を塞ごうとしなくていいからね?」

 

「お、お二人とも漫才始めてる場合じゃないですよぉ~!」

 

 望としては別に漫才をしているつもりはなく、ただボケたことを言うニュイに思わずツッコミを入れてしまっていただけだったのだが、テュカに注意されてしまった。

 

 望は気を取り直すようにコホンと咳払いを挟んで、改めてニュイに尋ねる。

 

「それで、あれが縮地だって言うのか? 二、三歩くらいの距離ならわかるが、あの長距離だぞ? 俺には瞬間移動したようにしか見えなかったが……」

「テレポートという意味での瞬間移動ではないですが、確かに瞬く間に移動はしていますから、ある意味間違いでもないかもしれません」

 

 ニュイは相変わらず淡々とした口調で語る。

 

「妃菜様もそうですが、多くの魔法少女は魔力を外に放出するのを得意としています。ですが、薫様は反対で内に魔力を集中させる技術に秀でてらっしゃるのです」

 

 眼下で攻防は今もなお繰り広げられている。

 文字通り言葉通り、目にも留まらぬ速さで攻撃を繰り出してくる薫に、妃菜が防戦一方になっている。

 

 ニュイは捲し立てる薫の身体から揺らめく魔力を見据えていった。

 

「一撃高火力の派手さはありませんが、あれこそ薫様の大技。一定時間魔法少女として底上げされた身体能力や肉体強度を更に爆発的に昇華させる技術。あの強化状態にあるときのみ、薫様はあの瞬間移動染みた縮地を可能とするのです」

 

 そして――と、ニュイの続く言葉と同時に、

 

「ふっ!!」

「かはっ……!!」

 

 妃菜は薫の一太刀をかろうじて長杖で受けたものの、勢いを殺すこと叶わず、そのまま吹っ飛んでフィールドの壁に叩きつけられた。

 

「神速に迫る勢いの乗った攻撃一つ一つの威力は、計り知れないでしょう」

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