家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第09話 ファンタジー世界でも世知辛いとは知りたくなかった……

「悪い、月ヶ瀬……明日から俺、ムショ生活かも……」

 

 まるで銃口を向けられているかのように諸手を挙げた姿勢で、妃菜に怯えるような目を向ける望。

 

 そんな様子を見たテュカは、少し乱れた薄桃色の髪の毛を整えてから、ホッと息を吐いて言う。

 

「いやあのぉ、そこまで重たく受け止めなくても大丈夫ですよぉ? 急なことでビックリしちゃっただけですからぁ~」

「つい出来心だったんです……」

「ほ、本当に捕まった犯罪者みたいな台詞を言わないでくださぁい……」

 

 もぉう、と腰に手を当てて呆れるテュカ。

 

 そうは言ってくれるものの、望は申し訳なさから両手を合わせて頭を下げることにした。

 

「本当にゴメンな……?」

「私からもゴメンね、テュカ。望くんは昨晩御使いになったばっかりで、私がきちんと説明しておけば良かったんだけど……」

 

 自分にも責任の一端はあると、望の隣で妃菜も謝罪する。

 

 二人揃って謝られたテュカは、逆に困ってしまったように眉を下げて笑った。

 

「二人とも大袈裟ですよぉ。テュカは本当に大丈夫ですからぁ~」

 

 テュカからきちんとお許しを頂けたので、望は下げていた頭をゆっくり持ち上げて妃菜を見る。

 

 良かったね、と伝えるように微笑む妃菜に、望も少し頬を緩めて返した。

 

「次からは一言言ってからモフってくださいねぇ」

「え、逆に一言言ったらモフって良いのか?」

 

 意外そうに聞き返す望に、テュカは愛くるしい笑顔に両手を添えて答える。

 

「可愛らしいものを愛でてしまうのは自然の摂理ですよぉ。恥じることなど何もないと思うのです」

「た、確かに……」

 

 顎に手を当てながら神妙な表情で納得する望は、しかし一言付け加えておくことにした。

 

「わかった。だが、モフるときは是非妖精の姿でお願いしたい。こちらの世界は世知辛くてな……俺みたいな男子が年端のいかない女の子を可愛がるというのは、下手したら警察案件なんだ……」

「それはそれはぁ、窮屈な世界なんですねぇ。あ、でもテュカ、間違いなく望ちゃん? の軽く十倍以上は年上ですからぁ、年端もいかない女の子というのには当て嵌まりませんよぉ?」

 

 それはたっぷり十秒近くもフリーズした思考の中で沈黙を噛み締めてから、望の口から零れ出たマジトーンの一声だった。

 

「…………え?」

 

 目で見て取れる情報と今耳に入ってきた情報の乖離が凄まじすぎるのだ。

 

 望が驚愕のあまり絶句するのも仕方がない。

 妃菜も隣で「そうなるよね……」と曖昧な笑みを浮かべている。

 

「……な、なるほど」

 

 ようやく情報を咀嚼し終えた望は、再び神妙な顔つきになる。

 

「つまりは合法ロリ……世間の目さえ気にしなければ、お触りオーケーということなのか……?」

「も、もぉう、御守くんっ……!」

 

 望の思考を遮るように不満げに声を上げた妃菜が、ギュッと望の袖を掴む。

 

「その話はお終いです……!」

「あ、あぁ。すっかり本題から逸れちゃったな」

 

 悪い悪い、と平謝りする望に、妃菜は拗ねたように頬を膨らませながらボソッと溢した。

 

「私にはそんな反応してくれないのに……」

 

 そんな小さな呟きはもちろん望の耳には届かず、一人テュカだけが人間よりも鋭敏な感覚器官もをもって聞き取っていた様子。

 

 そんなテュカは、クスッと小さく笑みを溢してから、本来の話題の路線を走り始めた。

 

「えぇっと、話を戻すとぉ……つまり妃菜ちゃんはこの望ちゃんと契約して御使いにしたから、その登録をしに来たってことで合ってますかぁ?」

「うん、そうだよ」

 

 妃菜があっさり頷いて見せると、テュカが困ったように眉尻を下げた。

 

「あのぉ、わかっているとは思いますが、基本的に妖精が御使いの役目を担っているのは魔力量に優れているからですぅ。それだけ魔法少女に魔力供給出来る回数が多くなるワケですからね~」

 

 すでに承知の上だったようで、特に驚きもせずに話に耳を傾ける妃菜。

 

 テュカはチラリと望に視線を向けながら話を続けた。

 

「まぁ、見たところ確かに望ちゃんは人間にしては魔力量が多いですよぉ? 二回……頑張れば三回くらいはギリギリ魔法少女に魔力供給出来るかもしれないですねぇ~」

 

 このとき、テュカから向けられる視線に、望は既視感を覚えていた。

 

(あぁ、なるほど。この感じ……昨日、家事代行が終わって見送りしてもらったときに、月ヶ瀬が見詰めてきたときと同じ感覚だ。月ヶ瀬はあのとき俺の魔力を見ていたのか……)

 

 ここにきてようやく、望はあの身体の奥底を見透かされるような感覚の正体を知ることが出来た。

 

「――でも、妖精ならその倍は魔力供給出来ちゃいます」

 

 それがわかっていても正式に御使いとして登録しますか? とは、あえて言葉にはされなかった。

 

 しかし、テュカが妃菜に向ける視線には、無言のうちにその是非を確認する意味が含まれている。

 

 妃菜はそんなテュカの視線を真っ直ぐ受け止めてから、微笑んで目蓋を上下させた。

 

「それでも、私の御使いはこの御守望くんです」

「……はぁ、わかりましたよぉう。もう心に決めているなら、テュカの方からとやかく言うことは出来ませんからぁ」

「べっ、別に心に決めた人ってことじゃ――」

「――あぁ~、テュカの言い方が悪かったですね。別に他意の有無を確かめようとしたワケじゃないですよぉ~」

 

 先走って何かを弁明しようとした妃菜の前で、テュカがひらひらと手を揺らす。

 

「まぁ、魔法少女協会(こちら)としても人手不足ならぬ妖精不足のせいで、各地の魔法少女全員に御使いを派遣することが出来ないのが正直なところなので……こうして自分で見付けてきてくれると、実はとってもありがたいんですよねぇ。やはは……」

 

 そんな実情を聞いた望は、テュカにつられて思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

(どこもかしこも人手不足な世の中だけど、まさかファンタジーな妖精の世界までもそうだとは……世知辛いなぁ……)

 

 ファンタジーだからと言って夢ばかりではないんだなと、望は何とも言えない気持ちになってしまった。

 

 しかし、そんな空気をサッと払うように、テュカが胸の前で手を叩いた。

 

「さぁ、ともあれそうと決まったなら早速、望ちゃんの御使い登録手続きを済ませちゃいましょうか。正確な魔力量の測定もしなきゃですし、書類もたくさん書かなきゃですし、御使いとしての具体的な業務内容も説明しないとですし……やること沢山ですからねぇ~」

 

 指折りにToDoを並べていき、明るく笑うテュカ。

 

 

 このあと、望はテュカに魔法少女協会内を連れ回されて、何やらファンタジーな水晶で魔力量を測定したり、何枚もの書類に必要事項を記入していったりと手続きを進め…………

 

 最後に『誰でもわかる!御使い業務マニュアル!』なる冊子をもらって、およそ三時間経ったあと、ようやく妃菜と共に帰宅することが出来たのだった――――

 




【魔法少女協会からのお知らせ】

 現在どこもかしこも人手不足で魔力不足。
 各地で頑張る魔法少女へ供給する魔力も不足している状況です。

 有志者がおられましたら、日夜自分達の街を守ってくれている魔法少女たちのため、献血ならぬ献魔力にご協力お願いいたします。

 作品ページ下部の『評価する』から、任意で☆を調整して送る魔力量をご選択いただけます。

 以上、魔法少女協会からのお願いでした。
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