うたわれるものssオリ主物   作:影後

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うたわれるもの〜散りゆく者への子守唄編2

「まーま?」「ま〜?」

 

「大丈夫、大丈夫だからね」

 

ウルトリィはリオとフミルィルを抱きながら、

林道を走っていた。

リオとフミルィルはそんな母親の姿に、

不満や心配を感じたのか何処か不安げな顔で見上げる。

 

(私が……私が護る…)

 

ウルトリィにとって、もう二人はもう我が子なのだ。

例え血の繋がりがなかろうと、二人と確かな絆がある。

林を抜け、周囲がひらけた山道に入る。

既に夜は明け、明るくなり始めた。

本来なら寝ているはずのリオとフミルィル、

そしてウルトリィも眠れていない。

 

「……ここまで来れば」

 

「ここまで来れば、なんだ」

 

「はっ……」

 

それは山道の先から聞こえてきた声だ。

マスクをつけ、顔を隠しているがウルトリィを

じっと見つめている。

 

「オボロ…さん……」

 

「「若様の言う通りです。城に戻りましょう。

ウルトリィ様」」

 

ドリィとグラァも優しく話すが、

ウルトリィは二人を抱きしめる手を緩めない。

 

「…判らないか?結界だ。

普段のアンタなら気づいて然るべき物だ。

愛は盲目と言うことか…」

 

「誰の…誰の命で!」

 

ウルトリィはその馬にしゃがみ込み、叫んだ。

 

「私の命だ」

 

「お姉様!」

 

その声が聞こえてきた瞬間、

ウルトリィは耳を塞ぎたくなった。

聞きたくなかった。

 

「どうして……どうしてなのですか……こんな事…」

 

「その理由、貴女が一番存じてるのではなくて?」

 

見上げるウルトリィの前に、カルラが立っていた。

友人として、トゥスクルの城で生活していた女性。

だからこそ、判ってくれると信じていた。

 

「その娘を、フミルィルを渡しなさい」

 

「嫌です」

 

「さぁ」

 

「さぁ!」

 

2人を抱え込むようにウルトリィは抱き締める。

だがカルラは嫌われようと、己の仕事を全うする。

ウルトリィからフミルィルを回収しようと手を伸ばすが、

何かにカルラの身体が吹き飛ばされた。

 

「くっ…」

 

「ウルトリィ殿!何を」

 

トウカが受け止めたが、

ウルトリィも何が何だかという顔で理解できていない。

 

「違う……私は何も……」

 

「まーま…ふーちゃ…もる」

 

「リオ……まさか」

 

「……聖上、その時が来られたかと」

 

「リオ…駄目…リオ、止めて!」

 

ウルトリィの腕から離れたリオは段々と

異形の怪物へと変化していく。

肉体は肥大化し大人3人よりも大きな白と黒の

怪物が姿を見せた。

人が巨大化したような様であり、

リオの面影を残しながらも足ではなく脚と呼べる物に変化し、

口も大きく裂けている。

 

「ま……も……る」

 

「リオ!」

 

そう唸り声のように発した怪物は

トウカとカルラの向かって拳を振り下ろす。

 

「くっ…」「リオ、某がわからないのか!」

 

カルラとトウカは何とか回避し、

カルラが白い怪物に問いかける。

 

「…ねー……ちゃ?」

 

白い怪物は首を傾げたが、

振り下ろされた拳の威力は凄まじいものだった。

ただ殴り付けただけで立っていられない程の揺れが起き、

地面が裂けている。

 

「トウカ、話している場合ではありませんわ!」

 

「まて、カルラ!」

 

だが、カルラは己の大剣を白い怪物へ叩きつけようとするが

まるで壁に阻まれた様に何かに防がれる。

 

「何が」

 

「あ………」

 

「くっ…離せ……」

 

白い怪物はカルラを掴んだ。

だが、不思議そうに顔の前で見つめている。

 

「か……ら……ねー……」

 

「リオ、私は大丈夫!大丈夫だから!カルラを離して!」

 

ウルトリィは叫ぶ。

ウルトリィの視線の先にはリオを異形の怪物として、

殺そうとしている仲間の姿がある。

だが、リオ自身はそれを理解していない。

ただ、ウルトリィとフミルィルを守ろうとしただけなのだ。

それが、ウルトリィには理解できた。

今、リオは戸惑っているのだ。

だが、カルラを掴む手が緩まることはない。

カルラも抜け出そうとするが出られない。

殺されないのは、一重にリオにとっての家族だから。

 

「ぱー……ぱ……」

 

「!」

 

「聖上、何を」

 

「大将、今は総大将に任せましょう」

 

ベナウィは即座にハクオロを止めようとするが、

意を組んだクロウに阻まれる。

 

「リオ、カルラを離すんだ。

ウルトリィが哀しむぞ」

 

「ま……ま……」

 

「えぇ、大丈夫ですよ。まーまは此処に居ますからね……」

 

「ふ……ちゃ……」

 

カルラを掴む手が緩み、ゆっくりと地面に降ろされる。

それにカルラも拍子抜けし、大剣を拾う。

だが、警戒は怠らない。

 

「か…らねー……ちゃ…」

 

目に普段のリオとしての潤みが出ると、

恐る恐るだがカルラが頬を撫でる。

 

「…私がわかるの?リオ」

 

「にー………に…」

 

だが、後ろでフミルィルが泣きだす。

その声を聞いた途端、リオ

 

「まも……る……ま……もる」

 

「まずい!」

 

フミルィルの鳴き声が聞こえた瞬間、

リオの目から光が消え、漆黒の瞳がカルラ達を見つめる。

 

「ウォォォォォォォ」

 

リオは大気が揺れる程に哮る。

リオの肉体はより筋肉質を増していき、

背にはリオ特有の白と黒の4枚羽が大翼となり、

広がっていく。

 

「駄目!リオ…リオ、やめて!!」

 

まるで天候すら操るかの如く、

黒雲が立ち込め雷鳴が鳴り響く。

礫のような雨が降り注ぐが、

ウルトリィとフミルィルにのみ太陽が差し込める。

 

「なんだと…自然すら操ると言うのか!」

 

「聖上、これでは我々だけでなく民も」

 

「……総員、あの怪物を攻撃しろ!」

 

それはハクオロの下した非情なる決断。

先鋭達がリオに刃を向け、

襲いかかるがその肉体を傷付けることは叶わない。

 

「………」

 

「せぇあ!」

 

カルラの刃がリオの頬を吹き飛ばす勢いで殴るが、

多少顔を顰めるのみ。

 

「……」

 

リオは動かない、

だがひたすらに雨、風、そして雷を強めていく。

 

「薄皮1枚、きれんとは……」

 

「聖上、これでは…」

 

ジリ貧だ。リオは動かないため疲労もなく、

その身に傷一つありはしない。

だが、ハクオロ達は違う。

雨に打たれ、身体が冷え、泥に足を取られ、

疲労が蓄積していく。

時間後経てば経つほどに街も、人も、国も、

リオに滅ぼせるだろう。

今のリオはそんな厄災だ。

 

「リオ、聞いてリオ」

 

ウルトリィが歌いだす。

それはフミルィルと共に聞かせた子守唄。

オンカミヤリューに伝わる歌。

 

「……まー…ま」

 

目は閉じ始め、ウルトリィの腕の中に向かうリオ。

身体は段々と小さくなり、元の赤子に戻っていく。

 

「……空が…晴れた」

 

リオが眠りにつくと、空が晴れ雲一つない快晴が広がる。

 

「…聖上、リオを処分すべきです。

アレは」

 

「……わかっている、わかっているのだ」

 

ウルトリィは泣いている。理解している。

ただ、護りたいだけなのだ。

ただ、愛しているだけなのだ。

なのに…何故、奪われる。何故…と。

 

「ウルトリィ、3回だ。3回まで、リオを許そう。

リオはトゥスクルの防衛にも使えることが理解できた。

リオは」

 

「リオを戦力にするおつもりですか!」

 

「わかってくれ!」

 

ハクオロは叫んだ。

周りの者たちも、理解したのだ。

これはハクオロの温情だ。

リオが暴走したら誰もとめられない。

いや、ウルトリィ以外止められない。

そんな危険因子を許すと言ったのだ。

 

「ベナウィ、良いな」

 

「…聖上の命とあらば」

 

「…大将」

 

「だが、それにも条件がある。フミルィルを渡すのだ」

 

「それは…」

 

「さもなくば、この場にて」 

 

ウルトリィは選んだ。

 

 

数時間後、

ウルトリィとハクオロは城門にてフミルィルの

両親と対面していた。

 

「…ハクオロ様、我々は」

 

「その子を、大切になさってくださいね」

 

「はい、ウルトリィ様」

 

フミルィルの両親は涙を流しながら、

ハクオロとウルトリィに謝罪する。

涙し、我が子との再会を喜んでいる。

 

「行くぞ、ウルトリィ」

 

「はい…ハクオロ様」

 

「駄目だよ!リオっ!」

 

「ムックル、追って!」

 

「ゔぉふ」

 

「…まーま、ふーちゃ…ばっばい」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……リオ」

 

リオは非情に厳しい立場にありながら、

カミュやアルルゥと言った姉達に保護されていた。

だが、それから己の翼で逃げ出すとウルトリィと

ハクオロの前に現れる。

 

だが、抱かれることはせず

去っていくフミルィルを只管に見つめていた。

 

「……ふーちゃ……ばっばい」

 

別れを理解しているのか、

リオは手を伸ばすだけでそれ以上何も言わない。

遂にフミルィルが見えなくなると、パタパタと飛び、

ウルトリィに抱きついた。

 

「…リオ」

 

リオは泣いていた。声は決して上げない。

それは、フミルィルと居た時のようだった。

妹を心配させないため。

妹に泣いている声を聞かせないため。

リオはまた、成長していく。

 

「……お姉さま、リオは」

 

「リオは、悪い子じゃない。リオはよい子」

 

「アルちゃん」

 

「…えぇ、すみません。ハクオロ様」

 

ウルトリィはアルルゥとカミュと共に城に戻る。

一人佇むハクオロの後ろに、オボロが姿を見せた。

 

「兄者、あれで」

 

「オボロ、フミルィルの家に何かあれば知らせてくれ。

それが…私にできるあの子への……リオへの償いだ」

 

「わかった」

 

リオは初めて家族を喪ったのだ。

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