Re:あなたのそばで 作:KY
さて、補完計画に先立って、やっておかなければならない事を一つ。それは命を救うという事です。全部拾えと言われてしまいましたからね。助けてみましょうか。
「ヴィレのクルーは…全員退避済み…残っているのは艦長だけ」
艦長も避難すればいいのものを槍を必ず届けるために、ヴンダーに残りますからね。全くもって責任感が強いと思いますね。ですが、その反面、死に場所を探していたとも私は思います。
「死が救済となるのはこれからの時代には合わないでしょう」
故に、その覚悟を踏みにじり、救い出そうと思います。
やり方は簡単です。拝借しておいたエントリープラグに乗せるだけです。つまり、私の装備はアポステルの槍とエントリープラグとなりますがサイズ感が違い過ぎて笑えてきますね。
地獄の門から、白い仮面を被った巨人が出てくる。その顔は仮面がはがれると綾波レイの顔とそっくりだった。
「そっくりと言うにはリアルすぎますよねぇ」
かの巨人の正体はエヴァイマジナリー。葛城博士が予測した現世にはない想像上のエヴァです。なぜ、現世に出てきているかというとシンジ君とゲンドウ君がいるゴルゴタオブジェクトでアディショナルインパクトを起こそうとしたからですね。
虚構と現実が溶け合い、全てが一つになっていく。旧劇におけるサードインパクトですね。人類をエヴァインフィニティの形にし、魂をコア化…つまり、物質化する事で永遠に生きる事を目的としたゼーレやネルフの人類補完計画とは全く別のものです。
全てが一つになり、争いも貧富も悲しみもない、統一された世界を造るための儀式です。
「全く…そこにはユイはいないというのに…。いや、だからこそあの時に気付いたのでしょう」
そう。碇ゲンドウはユイに会うために色々な計画を立てました。その中にシンジ君が計画に必要か否かは最後まで分からなかったのです。それはそうです。子供を自分の罪と見立て、子供に会わないという間違った贖罪を進めていた。
「…いやぁ…多分、怖かっただけですね。ゲンドウは。ユイ以外愛した事がない自分が子供を愛せるのか。それが怖かったのでしょう」
「ヴンダーがエヴァイマジナリーに突撃して行ってますね。急がなければ」
爆発が広がる。ボロボロの艦をさらに酷使しているのだ。それでも、届けたい…届けなくてはいけないものがある。
届けなくてはならない想いがあった。
「まだまだぁ!」
管制室に一人で雄叫びをあげながら佇む人がいた。
葛城ミサトだ。手元の装置を起動し組み換えた脊髄結合システムを廻す。次第に光をおび、聖なる槍へと姿を変える。
「馬鹿な…聖なる槍はもうないはずだ。世界を書き換えることの出来るマテリアルなど…」
ゲンドウは列車の窓に手を付けて見上げる。
『割とそこら辺にあったりしますよ。君が信じきれなかった人の意志とかですがね』
どこからか、青い瞳を持つ綾波レイの声が聴こえる。
『私の槍も槍でどうしようもない悪足搔きの末にできたものなので聖なる槍とは呼べないでしょう』
『…神が与えたのは希望の槍のカシウスと絶望の槍のロンギヌス。そのどちらでもない新たな槍。世界をありのままでいさせたいという人々の願いから造られたガイウス…ヴィレの槍』
神や私の手助けなしでここまで…世界を変える所まできた。これも彼女の計画の内なんでしょうけどね。
エヴァイマジナリーは両手を用いてヴンダーの突撃を阻もうとする。だが、少しずつ押され始め。ついには突き破った。
エヴァイマジナリーの瞳に取り付く
「取りついた!マリ!シンジ君を!」
「あたぼうよ!必ず連れて帰る!」
「頼むわ!」
ミサトはロックを解除し、ヴィレの槍をマリに預ける。
反動型エンジンが止まり、ついにヴンダーの動力源もついえた。
「お母さん…これしか貴方にできなかった。ごめんねぇ。リョウジ」
そう言い残し、目を閉じる
爆発がミサトを包む。
はずだった。
「…?」
いつまでたっても衝撃がこない。
目を開けるとそこには彼女がいた。
「はい。目を開いたなら、手を取って下さい。長くは持ちませんよ」
青い瞳の綾波レイが見知らぬ槍を持ったままATフィールドでミサトを守っていた。
「ちょっと…!私は…!」
「碇ゲンドウやお父さんと同じ選択をするのですか?」
「っ!」
「リョウジは確かに良い奴でした。ただそれだけです。彼はどこにでもいる少年です」
強引にミサトの手を掴む綾波レイ。
「どこにでもいる少年にはどこにでもいる母親が必要でしょう」
天使の贈り物は消えることなく、届けられる。
「最後の贈り物です。少々入れ物がごついですが誤差の範囲でしょう」
「ちょっと待って!あなたはどうするの!?」
「私は私で終わりを迎えてきますよ。シンジ君だけでは私の補完は難しいと思うので」
「また、会えますよ。さよなら」
そう言って、ミサトをエントリープラグに転送する。
「さて、私も補完計画に乗り出しましょうかね」
エヴァイマジナリーの瞳に向かって、飛んでいく。エヴァイマジナリーは阻もうとはしない。まぁ、似たような存在ですからね。私とエヴァイマジナリーなんて。
シンジ君は…あそこですかね。どうやら、綾波レイともお別れをしたみたいです。
「エヴァが必要ない世界を目指す。正に新世紀。いい響きですね」
「君は…」
「久しぶりですね。碇シンジ君。あの場所以来でしょうか」
「…そうだね。君は綾波と一緒に行かなかったんだね」
「そうですねぇ。私は綾波レイであってそうではないですからね」
「君もエヴァが必要と考えるの?」
「いや、私は賛成ですよ。新世紀。ただ…終わりに混ぜてほしいだけですよ。…場所を変えますか」
色々な道具が置かれたガレージから場所が変わる。さざ波の音がシンジの耳に届いた。
目を開ける
「ここは…」
廃墟の海には碇シンジともう一人、何者かがそこにいた。シンジの手のひらには鏡のかけらが一つ。鏡の中に写る彼女は薄く微笑んでいる。彼女が僕の体に触れる姿が目に入るけど感触はない。
「別にそれを通して見る必要もありませんね」
振り向いてもいいですよ。その言葉を聞いてシンジは振り向く。そこには、青い瞳を携えた綾波レイがいた。
「ここに来るのも最後ですね。最後はここがいいと思ったので移動してみました」
「マリが探すのを手間取るでしょうが、問題はありません。君の精神世界は私が保障します」
「それはどうも。それで…君は何がしたいの?」
「おや、私が何者なのかは聞かなくてもいいのですが」
「…多分、使徒だろ?今まで戦ってきたその全て」
「ご明察。そう…私は使徒の代表みたいな存在です。そう造られたわけではないですが、結果的にそうなってしまった。渚カヲルは堕とされてしまいましたからね」
「そうか。君がカヲル君の代わりなんだね」
「まぁ…彼の代わりというよりかは、バグのような存在ですからね」
「…それで何がしたいかですか」
青い瞳の綾波レイは槍を片手に持ちながら、微笑む。
「新世紀というものに私達も行こうかと考えまして。今度は敵対者ではなく同じ人類として」
「それで、その槍を使うの?」
「そうと言いたいですが、補完の中心は君です。補完の中心の座をめぐって、戦うのもいやでしょう?」
「そりゃ、そうだけど」
「なのでこうします」
彼女は槍を掲げるとアポステルの槍は輝きだす。それは形を崩しながら、ヴィレの槍に取り込まれていく。
「こうすることで、槍はエヴァンゲリオンだけではなく、使徒も貫きます」
「さて、これでここでやることは終わりました。お疲れ様です」
「あ、あと私自身は新世紀に行くことはできません。バグですからね。ここでお別れです」
「君は…どこまでいっても自由だね」
「使命を失くした天使なんてこんなもんですよ」
それにと彼女は付け加える。
「まだ、天使の仕事は残っているので」
そう言って、彼女は消える。恐らくは、天使の仕事やらを行いに行ったのだろう。
シンジもシンジで自分がやるべき事をやることにした。
「やってみるよ…綾波…新世紀」
綾波レイが託した槍が融合したヴィレの槍がシンジの拳の中で光り出す。
その槍は形を変えてシンジの胸へと進んで行く。
覚悟は決めた。
泣くことで救えるのは自分だけ
だから、もう泣かない
そう決めた
シンジの目が紫に変化する。
槍を受け入れる直前、誰かの手がその槍を止める。
「誰?」
その暖かな掌で、シンジを押し出す。
「…綾波…いや違う…」
その女性は微笑みながら、槍を受け入れる。
「そうか…この時のために、ずっと僕の中にいたんだね…母さん」
初号機から13号機が出現する。
そして後ろから抱き着くように、初号機を抱える
「そうか…やっと分かった。父さんは母さんを見送りたかったんだね」
「それが父さんの願った神殺し…」
エヴァンゲリオンの咆哮と共に槍を受け入れる。その槍は様々なエヴァンゲリオンを貫いていく。そこには、かつて戦った使徒達も含まれていた。
そして、エヴァイマジナリーも崩れていく。
「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」
さて、シンジ君は新世紀を始めてくれたようですね。全てのエヴァンゲリオンが消えていきます。そして。サードインパクトによって、エヴァインフィニティとされていた生命が元の姿に戻ります。
「感動的ですねぇ。ただ、空中からの自由落下とはまごころが足りてないのでは?」
青い瞳を閉じて彼女は一人ため息をつく。
瞳を開き手を広げる。ATフィールドを展開し、人々に翼を与えていく。その翼は優しく人々を包み込み例え、地面と衝突しても問題なく動けるだろう。
「天使の仕事はこれにて終了です。後は、消えるだけですね」
力を失ったように綾波レイは空から落ちていく。その表情はとても安らかなものだった。
「はっ!」
シンジは気がつくと駅のホームにいた。駅にはまばらに人いる。電車がホームに入ってくるアナウンスが聞こえる。
突然、目を塞がれる。
「だーれだ」
シンジは笑って答える。
「胸の大きいいい女」
「ご名答」
メガネをかけた女性はシンジの匂いを嗅ぐ。これは彼女の癖のようなものだ。
「相変わらずいい匂い…大人の香りって奴」
「君こそ相変わらず可愛いよ」
「ほほーう。いっぱしの口を利くようになっちゃて」
そう言いながら、マリはシンジの首に付けられたDSSチョーカーを取り外す。
「さぁ…行こう」
そう言いながら、手を差し出すマリ
「ちょっと、待ってもらえるかな」
「おろ?」
シンジはポケットからある機械を取り出す。それはボタンのついた装置のようだった。
迷いなくシンジはボタンを押す。しかし、特に反応はない。
「シンジ君…なにそれ」
「これは約束の品だよ」
「約束?」
「これを押せば、彼女は来てくれる」
「そうは言いましたが、この場面で押すとは予想外です」
どこからともなくけだるそうな声が聞こえる。
「消えたくなった訳では…なさそうですね。その悪戯が成功したような顔を見るに」
そこには、誰でもない少女が立っていた。
「全く。天使が余計な約束するもんじゃないですね。まぁ、もう天使ではありませんが」
「君は本当に律儀だね」
「本当。この機械に頼らなくてもよかったんじゃない?」
「勤勉と言ってほしいですねぇ」
青い瞳を細めながら、やれやれと首を振る少女。
消えたと思ったら、新世紀に召喚されてしまった私です。
これはこれで仕方ないので、生きてみたいと思います。
この新世紀の世界で再び、あなたのとなりでね
「さて、これからもよろしくお願いしますね。善き隣人さん」
ご愛読ありがとうございました。感想、誤字報告など、感謝申し上げます。