その男、奔放につき── 作:サトリ
「──ここにいたか
グラウンドの隅に置かれたベンチに寝そべり心地よい風を感じていると不意に聞こえた声。体を起こし、視線を移してみるとそこにはスーツ姿の麗人が火のついてない煙草を口に咥えながら立っていた。
「お、
「その呼び方はやめろ」
そう言って流れるように隣に座ってくる。
ライターと携帯灰皿を取り出せば、そのまま口のタバコに火をつけ紫煙を口から吐き出した。
「お前も吸うか?」
「全部ちょーだい」
「殺すぞ」
「おお、ヤニカスこっわ」
いつの間にか握られていた拳銃の銃口がこめかみにめり込んでる。
これがヤニカス。ひえぇ、くわばらくわばら。
「えへ、えへへ冗談ですやん。……1本ぷりず?」
「……はぁ」
ため息を零しながら煙草の箱を上下に1回降ると飛び出る1本。それを差し出してくる彼女にペコペコしながら抜き取る。
「火、つけてくださいよぉ」
「……ほら」
そう言って火をつけたライターを突き出してくる。
それに向けて口に咥えたタバコを近づけ……ふぅー、うん、美味い……のか?
「……なんか、キャバクラみたいですねー」
「何を言ってるんだお前は?」
「この後アフターとかあります?」
「私は既婚者で子持ちだ。変な期待はするなよ」
「うんうん、それもまた
「やっぱり殺すか」
「ステイステイ、落ち着て下さいよって」
両手に握られた拳銃を構えて、鬼神のごとき圧が放たれた。
両手を上げて降参ポーズ。
ガチですやん。そういうノリ?
「……ったく、変な洒落はよせ。くだらん噂が立たれるとお前も面倒だろう。無論私もな」
「くーちゃん理事長だったらありよりのあ──さーせん。最近練習した土下座を披露するんでガチの殺気は抑えて欲しいですはい」
洒落にならない殺気が飛んできてさすがに撤退。これ以上の"チョケ"は我が身が危うい。傷モノにされちゃう。
「かの【
「はっ、ぬかせ。そんなタマでもないくせに。本気で殺り合ったら良くてここら一体更地といったところだろうに」
「……無抵抗で美女に一方的に責められるシチュって興奮しません?」
「私はお前の将来が心配になってきたのだが?」
「え?俺の将来に興奮してるって?先生えってぃー」
「………」
「あの、ガチの冷めた目はやめません?心に深い傷を負っちゃうよボク」
突き刺さるジト目がハートにクリティカルヒット。
その目やめて。そんな目を向けられると……興奮するじゃないか…♠
「……何を言っても無駄だな」
「お?俺が何考えてるか分かります?」
「くだらないことだというのは分かる」
「僕らはいつも以心伝心〜♪」
「…………強制退学させた方がいい気がしてきたな」
「えへ、えへへへ、えへへへへへへ理事長、お靴舐めますぜ」
そう言って屈もうとすると靴を避けられべしっと頭を叩かれた。
痛い、気持ちいい。
「はぁ……常々思う。なんでお前みたいな男に"それほどの力"が宿ってるのかとな」
「ふっ、俺ってば罪な男……」
「ほんっっっとに軽口が止まらないな」
呆れの混じった声でそんなことを言われた。
俺から軽口を抜いたらね、何も残らないからね、しょうがないね。マグロとおなじ。止まったら死ぬの。
「そんで、くーちゃん理事長なんか用?」
「……ようやく話が先に進むな。さっき、"黒鉄"と新入生の《紅蓮の皇女》の模擬戦があったんだが──」
「何それっ!?お祭りごとやんけェ!!」
くっ…!出遅れた…!
ブラザー黒鉄と新入生の模擬戦…!《紅蓮の皇女》ってのはよくわからんが楽しそうなことしてからに…!
新1年生ならお出迎えのファンファーレってやつをしに行ってあげたかった…!
地面に手を付き打ちひしがれる、そんな俺の様子を見て理事長サマはタバコをの煙を吐き出した。
「……ろくな事にならんだろうと思ってお前には教えなかったが、判断は正しかったな」
「と゛う゛し゛て゛そ゛ん゛な゛こ゛と゛い゛う゛の゛〜〜〜?」
「怖い怖いやめろ近づくな」
詰め寄れば、ウザったいとばかりに顔面を手で押してくる。
ほのかに指からタバコの匂いが香ってきた。
「まあ、ひょんなことから模擬戦することになってな……で?どっちが勝ったか、お前は分かるか?」
「え?黒鉄じゃないんです?」
「ほう即答か。お前も知っての通りあいつはFランクだ。対して新入生の皇女はAランク……これを聞いてもお前は黒鉄が勝ったと断言出来るか?」
「まあ出来ますね。にしても新入生Aランクなんですね。期待のルーキーじゃないですかヤダー」
どんな人物だろうか。
ゴリゴリの筋肉マッチョか、スラリとしたスタイリッシュなイケメンか。いや、皇女って言ってたし女子か?となると……いや、筋肉女子って線もある。こう……霊長類最強みたいな。いやあそこまで行くともはやAランクというよりSランクだな。
「根拠を聞いてもいいか?」
「んー、まあ普通に黒鉄に勝てる学生なんて限られるだろうなー程度のものですけどね。何せ俺のブラザーであり俺ーズブートキャンプ1号生なんで」
「そうか。まあそうだよな。お前はそういう奴だもんな」
「あの、遠い目やめて。適当に答えた訳じゃないですからね?」
実際、学生の枠の中では最低限勝てるくらいの実力はある。
ぶつかり合ったもの同士分かるのだ。例えそれがAランクという格上だとしても、"俺を一瞬でも押した"ブラザーが負ける事などほぼ無いだろう。
「ちなみに今更聞くが《紅蓮の皇女》のことは知ってるか?」
「紅蓮とは赤色の蓮の花や燃え盛る炎のことで皇女とは皇帝の娘と言った意味がある。つまり、燃え盛る蓮の花皇帝さんの娘って訳ですな?」
「ああ、分かった。お前が何も知らないということがな」
「( ´・ω・`)」
知ってるもん。僕なんでも知ってるもん。
雑学博士だねって小学生の時に隣の席の田村くんに言われたもん。物知りだもん。
「まあいいさ。いずれお前も顔を合わせることになるだろう。その時までのお楽しみだな」
「プレゼントを用意しなきゃですね。お手製鼻眼鏡と爆音ブーブークッションどっちが喜ぶと思います?」
「どっちもいらないと思うぞ」
「いいや、泣いて喜ぶね。俺にはわかる」
うんうん、歓喜の表情が目に浮かぶ。
去年同じクラスだった某《狩人》君に女子の前で(強制的に)鼻眼鏡をかけさせて後ろでブーブークッション鳴らしたら真っ赤な顔して喜んでたもん。皇女さんにもウケるって。
「さて、話は終わりだ。私はもう行く」
「えー、もうちょっとゆっくりしていきません?」
「私も暇じゃない。仕事があるんだ。主に【七星剣武祭】に関してのな」
そうか、もうそんな時期か。
若人がしのぎを削ってやり合うお祭り。アオハルだねえ。若いねえ。
「お前はどうする?今年は能力値による選抜はやめようと思ってる。故に出るも出ないも個人の意志だが……出るか?」
「それは命令ですかね?それともお願い?」
「いいや、選択だ」
「んー、じゃあNothingで」
「そうか。まあお前が出てもあそこに満足感は得られないだろうからな、気持ちはわからなくもない。そのように話を進めておいてやろう」
「あざまる水産よいちょまる」
「……お前はいつの時代を生きてるんだ?」
彼女はベンチから立ち上がり、呆れたような笑みを残して歩き出した。
「じゃあな天唯」
「くーちゃん理事長もお仕事頑張ってねー」
お互いそんなセリフを交わして手を振りながら別れた。
「……後でブラザーに顔出しに行こ」
▼▽▼▽▼▽▼▽
破軍学園生徒名簿
【
所属クラス:2年1組
伐刀者ランク:A
2つ名:【
普段の素行について目に余るものが多い。
しかしながら、この者を制御する術が未だ確立できていない点について注意が必要。
実力は申し分ないが、それ故に留意する点が多々あるのが難点である。
この者の動向には常に注意を向けるべし。
「…………ふぅ」
理事長室にて新宮寺黒乃は煙草を吹かしながら引き継ぎ書類の中にある生徒名簿を開いていた。
たった今読んでいたページには先程まで親しく会話をしていた男子生徒、"天唯尊"についてが書かれていた。
「まったく、去年はどれだけ傍若無人に振舞っていたんだか」
興味を示したことにはとことん首を突っ込み、興味のないことにはとことん無関心。好奇心が原動力として行動する奔放さ。
周りの目は気にしない。いつだって己の快楽を優先させる。そんな生徒。
しかし、話してみれば存外会話は成り立つ。たまに理解不能な言動は目立つが害は……ないとは言いきれないのだが、まあ許容範囲だろう。
「……七星剣王なぞには興味ナシ、か」
出れば確実に頂きに立てる。断言できる実力は持っている。
実際去年も出場はしていた。が、とある理由で七星剣王にはなっていない。
「好敵手……ライバル……切磋琢磨できる、そんな友人を持たせてやりたいが…」
それは不可能だろう。
天唯と肩を並べられる学生がいるか?思い当たる人物はおらず。もはや学生の枠で戦っていいような存在じゃない。
それを本人はなんとも思ってはいないようだが教師としては少しばかり歯痒くなる。
「──くーちゃんさっきからボソボソ何ひとりで喋ってんだよー」
そんな風に黒乃が思い馳せている時だった。
理事長にいたもう1人の女性が呑気な声音で話しかけてきた。
「なんでもない。あと暇だからって理由でいちいち理事長室にまで来るなたわけ」
「なにおう。くーちゃんが寂しそうだなーって思って来てやってるんだぞうちは。感謝して欲しいくらいだっての」
「いい迷惑だ」
頭を抑えながら視線を向けた先にいるのは、理事長室のソファにだらりと体を預け横になっている着物姿の頭に大きなリボンを結んだ女性"西京寧音"。
足をプラプラと動かし、履いた一本下駄をぶつけ合わせる音が室内に響いた。
「で?さっきから何見てんのさ?」
「なんでもない。ただの生徒名簿だ」
「どれどれ」
「……おい」
シュパッと移動した寧音は黒乃が手にしていた書類を横から掻っ攫い、紙に目を通す。
「くーちゃんがお熱な生徒はどんなのだーっと……うっわ、なんつうか特徴のねぇ顔だな。フツメンてやつ?くーちゃんってばこんなの好みなん?」
「お前の想像してるようなことはない」
「なんだよつまんね……ってこいつAランクかよ!人は見かけによらねえなあ!もしかしてくーちゃんより強かったりすんの?ってなわけねえか!」
「…………」
寧音が冗談で言った言葉。
それに返ってくるのは黒乃の真っ直ぐな視線と無言の圧。
「は?何その無言?まじ?」
「さあな。実際戦ったことはない。ただまあ、あいつがいつも通りなら勝てるだろうな」
「…………」
黒乃の言葉に違和感を感じる。
"いつも通りなら勝てる"
この言葉は黒乃のセリフから察するに自身のコンディションの話ではない。相手、天唯尊という男の
しかも、それでも勝てると断言しない。勝てる
さらに言えば、この男はいつも通りじゃない何かも持ってる。そうなれば黒乃ですら手をつけられない程になるのではないか。
「……はは」
「寧音?」
「面白そうな奴もいるんだな、
「……あまり下手に騒ぎを起こすなよ。この学園の長は私だ」
「わーかってるって!適度に楽しむっての!」
睨む黒乃とそれをお気楽に笑いとばす寧音。
黒乃はいずれ来るだろう【
久しぶりに書くと文がしっちゃかめっちゃか。
続きは気が向いたら書く感じで。