【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常   作:ていん?が〜

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最終話です。
最後まで見届けてくださると嬉しいです。


最終話:おじさんの日常は、100トンの幸福を刻み続ける

【6 : 00】

 

 アビドス自治区、小鳥遊家の静寂が、微かな「地鳴り」によって破られた。

 

 それは目覚まし時計の電子音よりも先に、主役が意識を覚醒させた合図だった。

 

 ホシノが寝返りを打ち、100トンの質量が特注の超耐荷重マットレス(チタン合金スプリング・特殊低反発炭素繊維入り)の上で移動するたびに、住宅の基礎を成す強化コンクリートが「ミシミシ」と心地よい悲鳴を上げる。

 

「……ふぁあ……。うへ〜、よく寝たねぇ……」

 

 ホシノは重い瞼を持ち上げ、天井を仰いだ。彼女が上半身を起こすと、ベッドの脚が床に数ミリめり込み、室内の空気圧が急激に変化して窓ガラスが「ビリッ」と震える。

 

 これが彼女にとっての、いつもの、当たり前の「おはよう」の儀式だった。

 

 彼女はベッドから足を下ろし、床に足をつけた。

 

 

 ドォォォォォン……!!

 

 

 ただ立ち上がっただけ。しかし、重力に従う100トンの足裏が床を叩いた瞬間、アビドス自治区の精密地震計は一斉に「震度3」を記録した。

 

 近隣の住民たちは、揺れを感じるのと同時に時計も見ずに悟る、「ああ、ホシノちゃんが起きたんだな」と。

 

「うへぇ〜…目がしぱしぱするよぉ〜…」

 

 ホシノはピンク色の髪を掻きながら、洗面所へと向かった。一歩踏み出すたびに、廊下の強化アスファルトが「沈む」感触がある。

 

 蛇口をひねる際も、指先に込める力は羽毛を撫でるように慎重だ。さもなければ、真鍮製の水栓は一瞬で飴細工のようにひねり切られてしまう。

 冷たい水で顔を洗う。彼女の肌はダイヤモンドをも凌駕する密度を持っているが、水の冷たさは心地よく浸透する。

 

 鏡に映る自分を見つめ、ホシノは少しだけ目を細めた。かつては孤独だったこの「重み」も、今では愛おしい日常の重奏の一部だった。

 

 

 

【7 : 00】

 

 リビングからは、香ばしいトーストの匂いと、食欲をそそるベーコンの焼ける音が漂っていた。

 

「おはよう、ホシノ。今日も元気が良さそうだね」

 

 父親の太陽が、新聞を読みながら朗らかに声をかけた。彼はホシノが椅子に座った瞬間に発生した垂直方向の衝撃波を、鍛え抜かれた体幹(17年間の100トン育児の賜物)でさらりと受け流し、コーヒーを一口啜った。

 

「おはよう、お父さん。お母さんも、おはよ〜」

 

「おはよう、ホシノ。今日はエビフライ入りのオムレツよ。たくさん食べてね」

 

 母親のツキノが、特注の厚さ3センチもある鉄製の平皿に、山盛りの料理を乗せて運んできた。

 普通の陶器では、ホシノがフォークを立てた瞬間に粉砕されてしまうため、小鳥遊家の食器はすべて「戦車の装甲板」と同じ素材でできている。

 

 

 バキッ、ムシャ、ゴクッ。

 

 

 ホシノが食事を口に運ぶたびに、咀嚼の振動がテーブルを伝わり、太陽のコーヒーに細かな同心円状の波紋を作る。

 

「うへ〜、美味しいねぇ。やっぱりお母さんの料理が世界一だよ」

 

「あはは、ありがとう。ホシノが美味しそうに食べてくれるのが、一番の栄養よ」

 

 100トンの娘が放つ「存在の重み」を、これほどまでに暖かく、当然のものとして受け止める家族の風景。

 そこには不自然な気遣いも、怪物を見るような視線もない。ただ、愛する娘の成長を喜ぶ、どこにでもある幸せな家庭の姿があった。

 

「(……幸せだなぁ。おじさん、この朝ごはんのために生きてるって感じだよ)」

 

 

 

【8 : 00】

 

「それじゃあ、行ってくるね!」

 

 ホシノが玄関の扉(特殊強化チタン製・スライド式)を開け、外の世界へと足を踏み出した。

 

 

 ドォォォォォン!!

 

 

 アビドスの朝を告げる「第一歩」。

 

 校門へと続く通学路は、現在では完全に「ホシノ専用・超強化重荷重道路」へと舗装し直されている。

 アスファルトの下には厚さ5メートルの鋼鉄製トラス構造が埋め込まれており、彼女が歩いても周辺の建物の倒壊を防ぐ設計だ。

 

「おはよ、ホシノ先輩。……今日も絶好の強奪……じゃなくて、登校日和」

 

 背後から軽快な自転車のブレーキ音が響き、シロコが隣に並んだ。彼女はいつもの「安全距離2メートル」を保ちつつ、ホシノの歩行リズムに合わせてペダルを漕ぐ。

 

「うへぇ、シロコちゃんおはよ〜。朝から元気だねぇ。若いって素晴らしいよ、ホント」

 

「ホシノ先輩もまだ17歳。……今日のステップ、昨日より0.03ミリ沈み込みが深い。ん、エビフライによる質量増加を確認」

 

「あちゃー、バレた? ノノミちゃんのクッキーも美味しかったからさぁ」

 

 二人が校門をくぐると、そこにはすでに後輩たちが待っていた。

 

「あ! ホシノ先輩、シロコ先輩! おはようございます!」

 

 セリカとアヤネが手を振る。彼女たちはホシノが近づくにつれ、地面から伝わる「ドォン、ドォン」という重低音に身体を預け、慣れた様子で膝のクッションを使って衝撃をいなす。

 

「おはよう、セリカちゃん、アヤネちゃん。今日もシャキッとしてて偉いねぇ」

 

「当然でしょ! 私たちがしっかりしないと、この学校の地盤がどうなっちゃうか分かったもんじゃないんですから!」

 

 セリカの威勢の良い声に、ホシノは「うへへ」と目を細めた。

 

 かつて砂漠化の危機に瀕していたこの場所。今は黒服の狂ったような投資と、ホシノ自身の存在がもたらす観光資源化によって、キヴォトスでも指折りの活気を見せている。

 

「あ、ホシノ先輩! おはようございます〜☆」

 

 ノノミが最高級の紅茶を淹れたポットを手に現れる。彼女はホシノのために、特殊な圧力容器で作られた「100トン用ティーカップ」を準備していた。

 

「さあ、皆さん。今日も楽しい一日を始めましょう!」

 

 

 

【12 : 00】

 

 昼休み。アビドス高等学校の食堂(耐震等級10以上)には、賑やかな笑い声が響いていた。

 

「こんにちは。……アビドス本校の賑やかさは相変わらずだな」

 

 アリウス分校から、サオリ、アツコ、ヒヨリ、ミサキ、そして副会長代理のスバルが遊びに来ていた。

 彼女たちはリニア鉄道であっという間に到着し、今や昼休みにアビドスへ来るのは日常の光景だ。

 

「サオリちゃんたち、いらっしゃい! 今日も一段と暑いけど、みんな元気そうだねぇ」

 

「あぁ、アリウスの行政業務も一段落したからな。……しかし、ヒヨリは……」

 

 サオリが見上げた先、全高10メートルに達したヒヨリが、食堂の吹き抜けから顔を覗かせ、涙を流しながら巨大なエビフライを頬張っていた。

 

「うあああん!! 幸せですぅぅ!! でも、お腹が空きすぎて足元が震えますぅぅ!!」

 

 スバルが眼鏡をクイと押し上げ、書類の束を片手に溜息をつく。

 

「ヒヨリ、泣きながら食べるのは非効率ですよ。……ホシノ会長、後でお時間を。アリウス分校の備品発注に、また『超高張力ワイヤー』が大量に必要になりまして」

 

「うへ〜、スバルちゃんは相変わらず真面目だねぇ。そんな難しい話はお昼ごはんを食べてからにしようよ」

 

「はい、お待たせ! 特盛りエビフライ定食(100キロ仕様)だよ!」

 

 ユメが運び込んできた山積みのエビフライ。

 

 

 バキィッ!!

 

 

 ホシノがエビフライを噛み砕く音が、衝撃波となって食堂内を駆け抜ける。

 アツコがその音に「ん……耳に響く……」と少しだけ目を細めながらも、ユメのお手製の煮物を口に運び、満足げに微笑んだ。

 

「……美味しい。……ユメお姉ちゃんの味、大好き」

 

「よかったね、アツコちゃん! いっぱい食べてね!」

 

 

 

【16 : 00】

 

 放課後。対策委員会の活動時間。

 

 生徒会室の重厚な扉が開き、不気味なほど礼儀正しい所作で一人の男が入室してきた。

 

「おやおや、素晴らしい。夕刻のホシノさんの細胞密度、本日も安定していますね」

 

 黒服である。彼は持参したブリーフケースから、最新鋭の端末を取り出した。

 

「黒服さん、また打ち合わせ? おじさん、そろそろお昼寝の時間なんだけどなぁ」

 

「そうもいきませんよ。本日はホシノーランドの次期アトラクション、『ホシノ・インパクト・クレーター』の安全設計についての打ち合わせですから。貴女が時速100キロで着地した際の重力分散データ……これの整合性を取らねばなりません」

 

 アヤネが胃を押さえながら黒服の隣に座る。

 

「黒服さん、その計算だとアビドスの地下水脈が一本死ぬんですけど……」

 

「クク、修正しましょう。……それとホシノさん。貴女の毛髪の『剛性テスト』の追加予算、振り込んでおきましたよ」

 

「うへ〜、おじさんの頭、そんなに大事? まあいいけどさ。じゃあアヤネちゃん、後はよろしくね」

 

 ホシノは特注の、半分ひしゃげたソファで丸くなった。打ち合わせの声をBGMに、彼女の意識はゆっくりと夢の世界へと沈んでいく。

 

 

 

【20 : 00】

 

 夕食の時間。小鳥遊家のダイニングには、今日はさらに賑やかな顔ぶれが揃っていた。

 

「お邪魔します……」

 

 ユメの背中にセミのように張り付いたアツコが、おそるおそる小鳥遊家の敷居を跨ぐ。

 

「いらっしゃい、アツコちゃん。今日はホシノのお父さんが腕を振るったんだよ」

 

 太陽が自信満々に出したのは、特注の極厚鉄鍋で煮込まれた「100トン対応・牛すじ煮込み」だ。

 アツコはユメから離れ、自分の席(太陽が用意した子供用・高密度椅子)に座ると、箸を器用に動かした。

 

「……熱い。……でも、すごく優しい味がする。……ホシノのお家、あったかいね」

 

「うへへ、そうでしょ? アツコちゃん。おじさんの自慢の家族なんだよ」

 

「うん。……ねえ、ホシノ。……明日も、一緒に遊んでくれる?」

 

 アツコのまっすぐな瞳に見つめられ、ホシノは「もちろんだよ」と力強く頷いた。

 

「お父さん! 煮込みのおかわり頂戴!」

 

「はいよ! たくさん食べなさい!」

 

 笑い声が絶えない食卓。そこには、キヴォトスの未来を憂う深刻な会議も、誰かを傷つけるための策謀もない。

 ただ、今日あった出来事を報告し合い、明日の天気を予想する。そんな「当たり前」の時間が、100トンの質量によってドッシリと守られていた。

 

 

 

【22 : 00】

 

 就寝前。ホシノは自室で、一日の締めくくりの日記(タングステン板製)にペン(筆圧1トン仕様)を走らせていた。

 

『9月26日。晴れ。

 朝ごはんはエビフライオムレツ。最高に美味しかった。

 学校にサオリちゃんたちが来た。アツコちゃんが笑ってた。

 黒服さんがなんだか楽しそうに難しい話をしていた。

 ユメ先輩にまた怒られたけど、それもなんだか嬉しかった。

 お父さんとお母さんは、今日も優しかった。

 おじさんの体は相変わらず重いけど、心はなんだか、風船みたいに軽い気がするよ』

 

 ペンを置き、ホシノはパジャマに着替えた。

 彼女がベッドに「どっこいしょ」と横たわると、家全体が「ズン……」と深く沈み込むような安定感に包まれた。

 

 窓の外には、アビドスの美しい星空が広がっている。

 遠くでホシノーランドの夜間パトロールをするメカホシノぬい(全高50m)の巨大な影が月の前を通り過ぎるのが見えた。

 

「うへ〜……今日も、いい一日だったなぁ……」

 

 ホシノはふかふかの枕(超高密度ウレタン製)に頭を埋めた。

 

 100トンの質量が、母なる大地と一体化していく感覚。それは、かつて彼女が感じていた孤独な沈み込みではなく、世界を抱きしめているような、深く大きな安心感だった。

 

「……明日も、楽しい日がいいなぁ」

 

 ホシノはそっと呟くと、指先に集中し、壊さないように優しくスイッチを押して照明を消した。

 

 

 パチン。

 

 

 闇に包まれた室内。

 しかし、彼女の心には、今日という日の輝きと、明日への希望が満ち溢れていた。

 

 アビドスの夜は、100トンの優しさと、規則正しい大地の鼓動と共に、静かに、そしてドッシリと更けていった。

 

 

 

 

 

 小鳥遊ホシノの日常は、これからもずっと、この場所で続いていく。

 

 一歩ごとに地形を変え、物理法則を置き去りにしながら。

 

 誰よりも重く、誰よりも温かい、最高の「青春の記録(ブルーアーカイブ)」を刻みながら。

 

 

 

 

 

 『100トンホシノ先輩の規格外な日常』 ――完

 




この度は、『100トンホシノ先輩の規格外な日常』を見ていただきありがとうございます!

この物語は、ここで終わりますがホシノ先輩の日常はいつまでも続きます。

そしてお知らせですが、明日の18時05分より新作を投稿します。溜めてる分だけ毎日投稿する予定です。投稿ペースが変わる場合はその都度、お知らせします。

そして新作もブルーアーカイブ作品で以下の内容になります。


・ブルーアーカイブの各学園の生徒がクソゲーをプレイして、ブチ切れ、発狂するオムニバス形式のコメディ作品。


なお、上記作品ではクソゲーをプレイする生徒とクソゲーのジャンルを随時募集しておりますので、Xや感想やメッセージにて気軽にリクエストいただけますと励みになります。一度リクエストされた方が再度リクエストされても全然OKです!

そしてアル様の作品については、不定期で更新していく予定ですがそちらも見ていただけますと嬉しいです。

それでは、皆様改めて最後までありがとうございました!
明日からの作品も見ていただけますと嬉しいです!
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