「う、うわわ…………」
「オラたちのく、国がぁ!?」
ふよふよと、カタカタと灰燼と化した街の端に存在するモノが居た。
生物ではなく、しかしどこか生物らしいシルエットを持つそれらはゾンビ騒動の災いから難を逃れた国民だった。
「ガンツくん、どどど、どうなってるの?」
「分らないでやんす、友達がゾンビになったと思ったら、隣のおじさんまでゾンビに…………カタカタ震えが止まらないでやんす!」
「ガンツくんがカタカタしてるのはいつもの事でしょ!?」
二人は命からがら逃げだすことが出来たモノであり、何故かゾンビたちがほとんど興味を示さなかった種族である。
「とほほ、半透明なツナちゃんだけじゃ心細いでやんす。もう次また襲われたら骨がぽっきり逝きそうでやんす」
かたん、と顎の骨を落としながら肩を落とすガンツはスケルトンという人間の骨格のような種族である。
それに対し、人間の女性の様な姿でありながら色素が半透明であり空中に浮遊しているのがツナと呼ばれた、その通り幽霊族と呼ばれる種族である。
お気づきだろう、ゾンビは生者にしか興味を示さない。
特にウイルスが関わるゾンビは無機物には感染することは出来ず、魔力のみで構成されているような肉体を持たない種族にもウイルスは効果はないのだ。
だが、魔力を介しての干渉は受けることが出来る。
エネルギー源として他に感染しゾンビ化した魔族から狙われるようになっていたのだ。
「ううう、財産は放り捨ててきたし、これからどうしよう」
「全部一からじゃないでやんすかねぇ?」
「やだー!苦労して人間やめたのにー!」
「オラだって飢饉から解放されたでやんすのに、ああ、ぜいたくな暮らしが…………」
がっかりしながらも、もしかしたら何か残っていないかを探すために慎重に街へと戻っていく2人。
無一文はとにかく嫌だ。せめて誰かの遺品として残っているかもしれないものを火事場泥棒の如く持っていき、そしてこの街に起きた惨状を知らしめるための道具にしようと結構悪い考えをしていたりする。
そんな悪い考えの片隅に、それはそれとしてここで誰かが生きていた証拠を持っておきたい気持ちが無い訳ではない。
ここには友人、仲間が住んでいた。
皆殆どが種族が違えど、いつまでも隣人でいられるような仲間だったのだ。
数百年と月日が流れ、世代が交代しても寿命という概念が薄い種族の2人は残ってきたものを、失ってきたものを多く見ている。
だが一瞬で全てが灰燼となるのは無かったのだ。
自分の命を投げ捨てたことで得た第二の人生の区切りか、そう考えながら未だに熱と腐った肉が焼けた匂いが残る街へ降り立つ。
「…………ねえ、何か聞こえない?」
「うーん、オラも聞こえたような」
「それにこの魔力…………まさか!」
ツナはふわりふわりと浮きながら、自身が感じた音と魔力を頼りに徐々に加速していく。
ガンツも負けじと関節をきしませながら、そもそも足が遅いため急ぎながらもゆっくりと向かっていく。
「…………ぁぁぁ」
ガンツの耳の空洞にもようやく、小さく声が聞こえてきた。
その声は慟哭、しかし知っている者の声。
「ぁぁぁあああ」
そして悲しみ、怒り、やるせなさ。全てを混ぜてしまったような、聞きたくない叫びでもあった。
「ああ、魔王様!魔王様だ!」
ツナが歓喜の声を上げた。
何故なら魔王や軍隊を指揮する将軍たちが街に残り、そしてゾンビが居ない方向へできる限り住人を逃そうとしたのだ。
つまり、最前線や街の中で戦っていたのは国を守ろうとした戦士たちである。
非戦闘員であったツナやガンツが逃げきることが出来たのは彼等が居たからなのは間違いない。
「魔王様!ご無事でしたか!」
ツナはぶっちゃけ今まで魔王と話したことは無い。
だが、不敬として処分されるかもしれないと分かっていたとしても声をかけた。
何故なら、魔王は未だに心あらずと慟哭と小さな呻き声をあげていたのだ。
遅れてやってきたガンツも膝をつく魔王と触れてもいいのか迷って側を浮遊しているツナを見て大体の状況を察することはできた。
そして、今まで住んでいた国が滅んだという事を、王が嘆くほどの出来事であると嫌でも理解させられるのであった。
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