ある一般遊戯王プレイヤー side
「……もう一年か」
俺は献花と小さな買い物袋を手に、墓地へ続く坂道を歩いている。
あいつの訃報を聞いたのは、本当に突然のことだった。会う約束の日になっても連絡がないあいつを心配して、奴の家に電話を入れると、告げられた。
——まさかの感電死。
充電器に繋いだままスマホでプラモを撮影中、運悪く漏電遮断器が故障。そこへ落ちた雷による逆流で即死だったという。
最初聞いた時は「は? どんなバカな死に方だよ!?」と呆気にとられたが、後日届いた正式な訃報を目にしてようやく現実味が湧いてきた。
思えば、あいつは昔から電気と相性が悪かった。
パックを買っても雷族のカードは当たらなかったし、冬場に静電気がパチッとなるだけで「ぐわぁぁぁ!?」と大騒ぎするし。
だが……こんなのは笑えないジョークだ。
その夜は一人で泣きながらお酒を飲み、周りの迷惑も考えず叫び続けた。
そうして葬儀を待っていたある日、あいつの母親から電話がかかってきた。
「一条君……あの子の遊戯王カード、あなたが預かっていたりする?」
詳しく話を聞けば、あいつのマンションや実家から、所蔵していた大量のカードが跡形もなく消え失せているという。
あいつは家族公認の遊戯王バカで、俺と頻繁に遊んでいるのも知られていたから、真っ先に確認の連絡が来たわけだ。
一応、事件性を疑って警察の調査も入った。しかし結果は「第三者が侵入した痕跡なし」。
あいつの部屋には、なぜかぽつんと【ラーの翼神竜】3枚だけを残し、他の数千枚のコレクションが綺麗さっぱり消えていたのだ。
ご両親は「生前にカードを処分していたのでは」と納得しようとしていたが、俺は断固として否定した。
(数日後に俺とデュエルする予定だった奴が、デッキを手放すわけがないだろ!)
結局、捜査はそれ以上進まず、葬儀は淡々と執り行われた。
…………
現在、俺が抱えている袋の中身は、最近発売された【ラーの翼神竜】の新規サポートカードたちだ。
フルコンプするために何パックも剥がしたが、幸いに少ない出費で揃ってくれた。
もし、あのカード蒸発事件が警察の言う通り、事件ではないのだとしたら……あいつはあの大量のカードを、そのままあの世へ持っていったんじゃないだろうか?
(だとしたら、向こうの世界であいつのパッとしないごちゃ混ぜデッキで、少しは威張れるように応援してやらなきゃな)
俺のコレクションから持ってきた【ラーの翼神竜】3枚と、今回当てた新規サポートカードを一緒に墓前に供える。
「おい、新弾のサポート持ってきたぞ。あと、お前がうっかり置き忘れていったラーの3枚の代わりに、俺のもんを貸すからよ」
そう呟き、静かに目を閉じて合掌した。
——数秒後、目を開けると、さっきまで確かにそこにあった新規カード入りの袋が消えている。
そして墓石の前には【ラーの翼神竜】3枚だけが、ぽつんと残されていた。
「はは、マジかよ……」
目の前で起きた超常現象に、俺はただ苦笑するしかなかった。
▽
「ぶもぉぉ~」
「ん? なんだそれ?」
バトルシティを明日に控えた今日、さっきまでどこかへ出かけていたソピアが、手に何か買い物袋を提げて戻ってきた。
中身を覗き込んでみると、そこには見たこともないカードの数々が……
「【不死なる太陽神】? 『太陽神』テーマ……? なんだこれ、オリカか?」
「もっもっ~!」
「ん? 一条から受け取ってきた……? ……へぇ、一条……一条!? なんであいつの名前が出てくるんだよ!?」
久々に聞く親友の名前に、俺はパニックになってソピアに詰め寄った。
話を聞けば、墓前にあいつがカードをお供えとして置いていったそうで、それを回収してきたようだ。
その言葉を聞いて「もしかして元の世界へ移動できるようになったのか!?」と 尋ねてみたが、そういうわけではないらしい。
以前も言っていた通り、あの世界の物理法則は非常に堅牢で、ソピアでも干渉するのは困難とのこと。
今回は『お供え物』という一種の儀式的な形態で、さらにソピア自身と縁のある『遊戯王カード』を捧げたからこそ可能だった、特殊なケースと説明してくれた。
「はぁ、そういうことか……できるなら家族や友達に手紙の一本でも送りたいところだったが。まあ、死人に口なし」
「それじゃあさっそくこのカードたちを使ってみるか」と気を取り直していたその途中、隣でエジルを膝に乗せ、頭を撫でていたロゼが声をかけてきた。
「その前に、Z-ONEさんに確認するのが先では?」
そこまで急いで確認する必要あるか?と思いつつ、ロゼの忠告に従ってZ-ONEに直接見せてみた結果——それらのカードは、即座に封印処理された。
なんでも、カードがこちらの世界仕様に変換される過程で『次元の歪み』も一緒に伴ってしまうらしい。
その歪みはカードを使えば使うほど広がり、最悪の場合は周囲の次元ごと引き裂いてしまう可能性があるとのこと。
以前ソピアが持ってきた俺のカードたちにも歪みはあったが、あれは大量のカードが一度に転移してきたため、カード1枚あたりの歪みは比較的軽微だった。
だからこそZ-ONEも、俺が使うカードをリミットレギュレーション形式で制限する程度で済ませていたのだ。
だが、今回のように少量で持ち込まれたカードは話が違う。1枚でも使い方を誤れば、そのまま周囲を吹き飛ばす爆弾と化しかねない。
(……おいおい。ロゼの忠告を聞いてなかったら、バトルシティ始める前に御陀仏だったぞ!?)
幸い、次元の歪みは時間が経てば自然に霧散するため、数年待てば問題なく使えるようになるらしい。
チラッと見た限り『太陽神』テーマはラーをサポートする新規カード群。どちらにせよ、肝心のラーを持っていない今の俺には使いこなせないカードたちだ。
(これでまた、ラーを手に入れなきゃいけない理由が増えちまったな)
俺は遠い世界からプレゼントを届けてくれた親友に、心の中でそっと感謝を捧げるのだった。