彩葉目線で、かぐやへの想いや、今の自分に対してのあれこれ。
本編見たあとに読むことをおすすめします。
小説としての初作品、初投稿となります。よろしくお願いします。
「今から勉強だから!集中するから!声かけないでね!せめて1時間は!」
事前に言い含めていたにも関わらず、私の集中時間は30分ほどで終わってしまった。
それはノックもなしに扉を開けて入り込んだかぐやによるものだ。
希望した半分だけでも集中して勉強できたと考えれば良いか。いやそれは甘やかしすぎか…?
「ねえ、彩葉ーねえねえ、いーろーはー!聞ーいーてーよー!」
私の肩を背中から掴んで揺らしてくるかぐや。
何やら私に聞いてほしいことが有るらしい。
ここは私、酒寄彩葉と、月からやってきた宇宙人を自称するかぐやがつい最近引っ越したばかりのタワーマンション、その最上階の一室。
月々の家賃が以前のアパートとは比べ物にならないほど高いものの(月35万円!)、その広さはも比べ物にならない。
二人で住むにあたってあーでもないこーでもないと相談を重ねて部屋割をきっちり決め、お互いに自室を作り、プライベートは守ろうと話し合った。
かぐやに揺さぶられながら、半覚醒した私は思った。
…守られてないな、プライベート。
話し合ったはず、なのだ。
話し合ったよな…あれ?
今、まさに崩壊した私のプライベート時間。
だが、結局のところそれに思いを馳せるよりもまずは背中側にいる我が家のお姫様への対応をおろそかにしていい理由にはならない。
かぐやはこちらのパーソナルスペースを軽く飛び越えてくるくらい心身共に身軽では有るが、言い出すわがままは重量級だ。
無反応をコレ以上続けると、声も揺さぶりはさらに大きく、激しくなるに違いない。
「もうかぐや、揺らさないで。一体、どうしたの?」
30分だけでも集中できただけ僥倖かと、参考書を畳んで机の端に積み上げる。
対話する用意を見せたことに気を良くしたのか、待ってましたとばかりにかぐやは肩越しに私の顔を覗き込んできた。
かぐやが最近のお気に入りである整髪料の香りがふわりと漂い、こちらの鼻をくすぐった。
「あれ、それ片付けちゃうんだ。勉強はもう良いの?」
「集中させてって言ったのに、邪魔をした本人がしちゃ駄目な発言だと思うんだけど?」
「それもそうだ!」
一応こちらを気遣った言葉が出るが、あっさりしたものだ。
「それで?どうしたの。まだ夕飯には早い時間じゃない?呼びに来たわけじゃないんでしょ?」
「うん、ご飯の準備してたんだけど、テレビからね、彩葉の歌ってのが流れてきたの」
「彩葉…の歌?」
「だからてっきり彩葉が私の知らないところでライバーデビューしたのか!って嬉しかったり、ライバルになるのかと焦ったりもしたんだけどさぁ、流れてきたのは知らない歌だったの!もう、がっかりー!」
「…あー、それってもしかして、彩葉の歌、じゃなくていろは歌じゃない?」
「いろは、うた?」
きょとんとした顔のかぐやに、いろは歌についてかいつまんで教えておく。
恐らくかぐやの最近のお気に入りの番組から流れてきたのだろう、主に子供向けの歌を流す番組だが、短いながらアニメーション付きで音楽が流れてくるのでわかりやすく、心がおこちゃまなかぐやはすぐに気に入ったようだ。
それ以来、朝や夜の放送タイミングを覚えて毎日のように見ているのだ。
「何ソレー!まーぎーわーらーしーいー!彩葉関係ないのなら、”いろは歌”じゃなくて、”いろはじゃない歌”に曲名変更すべき!」
「そんなこと出来るわけないでしょ…まぁ、私の名前とは無関係ってほどじゃないし。いろは、ってのは物事の初歩とかを意味するの。その歌の歌いだしの最初の三文字に由来していてね。まぁ、つまりは私の名前って、それから取られているんだよね」
そう、聞いている。
よくある話だ。小学校の頃、自分の名前について親から由来を聞いてきましょう、なんて宿題が出た。
その時、聞いたのだけども。もっと何かあった
「ほう、ほうほうナルホドナルホド…目の付け所が違いますなぁ…」
「あんたのそれ、何目線なのよ…」
「ってことは、彩葉の名前って、誰かがそれが良いって思ったってことだよね?誰が決めたの?」
名前は普通決めた、ではなく、つけたであるが…それは些細な言い回しの違いだ。
私を彩葉と名付けた人。
酒寄、彩葉。
彩りの葉、彩る、葉。
その名前を、誰が、私にくれたのか。
「…私の、お母さん、だよ」
「おかあさん、彩葉のお母さん…って、あの激ヤバおかしいお母さんっ!?」
かぐやの中では私の母は「宇宙人調べでも激ヤバ」らしく、その情報が常に脳内検索で最初にヒットするらしい。
「激ヤバおかしいって言うな。お父さんか、お母さんしか無いでしょ。名前ってのは、この世に生まれた時に、最初に贈られる贈り物だって言われてるんだから」
「おー」
私の母は父を亡くしてから女で一人で私と兄を育て上げた女傑である。
強い女性だ、一人で立てる、自立した人間である。
そのあり様は大木に例えることが出来る。
母という大木は常に私という苗木の傍にあった。
太い幹と大きく広がる枝葉がこちらを影を落とす。本人にその気はなくとも。
全てが変わってしまったあの頃から、私は影の中にいたのだろう。
見上げても母の存在が遮って、太陽が見えたことなんて無かった。
一人暮らしするようになってしばらく経ち、今このタワーマンションに引っ越すまでは。
「えへへへへへーうへへへへー」
一人で太陽のような笑顔を浮かべているかぐやを見やる。
「何で嬉しそうなの?今喜ぶポイントってあった?」
「ないしょっ!そういえば彩葉激ヤ…お母さんって、なんて名前なの?今まで気にしたことなかった」
「紅葉、だよ。酒寄紅葉(さかよりもみじ)。」
「もみじ…えっと、どういう字を書くの?」
「スマホで調べなさい…いや、まぁ良いけど」
一度は閉じたノートを広げ、空いたスペースに母の名前を書く。
「も・み・じ…ふぅーん、彩葉と紅葉…”葉”の部分がいっしょだね。」
かぐやの何気ない一言は思わぬ刃となって私の心に突き刺さった。
何も考えていないようで意外と物事の本質を鋭く突くのだ、かぐやは。
故に、ノーガード状態で喰らったこと数しれず。
落ち着け、私。そりゃ親子なんだから当然でしょ、そう言うだけで良いのだ。
だけどちょっと息が詰まる。どう言うべきかを頭の中で浮かべてはいても、言葉が喉に引っかかって出てこない。
私の兄である朝日だって、朝久という父に引っ掛けた名前なのだから、両親の名が子供の名付けに影響するというのはよくある話。そう…それだけのことなのに。
「紅葉…コウヨウ…えっと、秋、らくよーじゅの葉が、緑から赤、黄色に変わる現象…もみじって…ふーん、秋にしか見られないものなんだね。今は夏だから、見れないものなんだね。」
「っ…そ、そうだね。色が変わるのは理由が解明されているけど、季節というか気候条件が関わってくるから、とりあえず夏である今は…見れないかな」
かぐやはスマートフォンで紅葉について調べていたらしい。それに応じる形なら…言葉が動く。
一度声が出ればスッと喉が動くようになる。
ぎゅっと目をつぶってから気持ちを切り替えろと自分を鼓舞し顔を上げれば、窓へ寄ったかぐやが、外の光景を見ているところだった。
「夏が終われば、秋が来ます」
その姿が、何故か、ヤチヨと重なった。
いやいやそんなわけはない。
かぐやが動ならヤチヨは静、髪の色だって金と銀、ふたりは、あんなにも違うのに。
何故だろう。
「今は緑の葉でも、いずれ紅葉になる。いいなぁ、見たいなぁ彩葉」
タワーマンション最上階から見る地上の景色は色が溶け合ったようで、細かい色彩等わからない。
それを見下ろしているかぐやは、夕焼けに負けないくらいの光で、眩しく見えた。
この部屋の人工的な光で照らされているはずなのに、その立ち姿はまるで…
「何か、今のちょっとヤチヨっぽかった。ツクヨミにログインした時にヤチヨが言ってるお決まりのやつ。あれの真似?」
「うん?あれ、そう…?あー、うん、えへへ、ヤチヨのマネっ子ぉ~!」
おどけた調子でかぐやがその場でくるりと回れば、その回転に合わせて彼女の長い金色の髪も舞い踊る。
その様子は光を振りまくようで、陰ってることを自覚してしまった私には眩しく感じてしまった。
さっきの、何気ない様子で紡がれた言葉は、どういう意味なのだろう。
いや、わかる。わかってしまうけど、今はそれを言語化したくない。
かぐやはいつも太陽のようだ。
その笑顔は光そのもののようで、何を隠すこともなく私に届く。
母の元を出て、自立しているつもりになって。
それでも、私を照らしてくれるようになったはずの太陽を見上げる勇気は無かった。いつしか、上を向くことすら忘れていた。
そんな私へ光を届けてくれたかぐや。
その光を浴びて、今の私は…何色になっているのだろう。
そんな惚けた様子の私に気がついたのかそうでないのか、かぐやはスマートフォンを握った手をこちらに突き出してくる。
「いつか彩葉も色付く日が来るよ!ほら、ここ!」
顔面に迫る画面は勢いもあって普通に怖い。思わず突き出されたそれをとっさに避けてしまった。
少し身を引いて、かぐやが差し出した画面を見ると、続けて調べたらしい秋のもみじが表示されている。
フンスフンスと鼻息荒くかぐやは続けた。
「葉っぱって色が変わるんでしょ?緑から、赤、黄色、鮮やかに!」
「そ、そうだ…ね?」
「彩葉って、葉を彩る、だよ!きっと、まだ染まってないんだ、染まっていない葉なんだよ彩葉は!これからどんな色になるかわかんないんだよ!決まってないんだって!」
知識としては反論が有る。紅葉というくらいだ、光合成の関係で緑色だった葉は、秋になるにつれて色が紅く変わる。
理由としては光合成のために使われる特定の色素が消えてしまうためだと見た記憶がある。
…消えてしまう。
紅葉という名の母は、父が亡くなった日から人が変わってしまったようになったが、それは何かが消えてしまったということなのだろうか。
私も、兄も、母も。あの頃の私達は、父という光を浴びて成長する木々のようだった。
人は変わる、成長する。そうして…色づき、成熟していく。
家族の何かが決定的に変わってしまったのは、あの葬儀の時に違いない。
お父さんという、要素が抜けたから。
「彩葉は、自由なんだよ!何色になったって、良いんだから!楽しみだね!」
「―――!!」
紅の葉になるしかなかった私のお母さん。
私の彩葉という名前をつける時に何を思ったのか、何を願い、彩葉という文字に込めたのかは推し量ることが出来ない。
何よりそんな話を出来るほど、私達の関係は一般的に良好と呼べるものではないのだ。
思い出す昔の記憶。
父が笑っていて、兄がサッカーに夢中になって、私が…いて、母ももちろんいて、そこには家族があった。
その家族に囲まれている中で、あの頃の母はどんな色だったのだろう。私も、どんな色だったのだろう。
思い出せない。
今、私はどんな色をしてる?
母の元と離れ、アルバイトに明け暮れ、学業も両立させるために心身を削っていた自覚はある。
もはや意地だけで生活を回していた。
今、私はかぐやと出会い、見たことのない景色を見て、様々なものを知った。
それは母の元では見られなかった風景であり、かぐやが連れて行ってくれる先に、もっと何かがある、そう確信がある。
もうあの頃の苗木の私ではない。
情けないな。連れて行ってもらうばかりでは駄目だろう。
”いろP”として名前とアバターが売れてしまった今、私はいっぱしのライバーと言っても過言ではない。
今の私はかぐやに振り回されているばかりだ。
それでは駄目、駄目なのだ。私がかぐやを振り回す…のは無理でも、一緒に、側で。
引っ張られるだけでは芸が無い。
どうすればいいかはまだわからないけど、かぐやがこちらを引っ張ってくれる限り、その手は離さないでおこう。
ひだまりのような暖かさを感じられている今の私は、きっと良い色に彩られているに違いない。
「彩葉?いーろーはー?」
「っ!!」
沈むように考え込んでしまった私を、かぐやの声が現実に引き戻す。
少々考え込んでしまったようだ。柄にもないことをいろいろと、ごちゃごちゃと。
気分を変えよう。
「よし!かぐや、夕飯作り私も手伝うよ。今日の献立は何?」
「えっ!?彩葉が手伝ってくれるの!?やったあー!!」
大げさに喜びすぎである。
嬉しさのあまり奇妙なクネクネダンスを踊り始めたかぐやを置いて、私はキッチンへ向かうため扉へ歩む。
「わっ、待って彩葉ー!かぐやも行く!」
ドアノブに手をかける私を慌てて追い掛けるかぐや。
「ん。」
それに対して、手を伸ばせば。
「…にひっ♪」
私と彩る太陽のようなあなた。
この繋いだ手のひらを通じて、ひだまりのような温もりをこちらに伝えてくれるのです。
その暖かさを離さないように、私とかぐやは手を繋いで、キッチンへと向かうのだった。
照れくさいので早足気味に前を歩く私は、手を繋いだかぐやの顔がいつもよりちょっと赤く彩られていたなんてことに気が付かない。
月を照らすのもまた、太陽。
太陽の光が彩るものは、何も地上だけではない。
その光は、すぐ隣りにある。
私も超かぐや姫!に脳を焼かれた人間です。
頭に浮かんだのが、まずタイトルだったりします。
そこから話を膨らませて書き上げたのが本作です。少しでも何かを感じていただければ幸いです。