(後方腕組み蟲惑魔面
先行とってがちがちに固めた盤面を拮抗勝負1枚で壊されるのが癖になってます。
初動潰されるのは展開する楽しみもないので嫌いです。
ザクッ、ザクッ、ザクッ。
薄暗い森の中に、単調な音が響き渡る。
俺は、額から流れ落ちる汗を手の甲で拭いながら大きく息を吐き出し、体重をかけて再び鈍色の刃先を地面に突き立てた。
「……ふぅ。よし、深さはこんなもんか。あとは底に尖らせた木の枝を仕込んで、上に偽装の草を被せれば……」
手にした愛用の道具――剣でも杖でもなく、柄のしっかりとした鉄製のシャベル。
手のひらに出来たマメが潰れたせいで、汗が染みて痛みを感じる。
異世界に転移して、ちょうど一週間。
この世界には魔法が存在し、魔物が存在し、人と魔物が剣と魔法で生存圏を奪い合う、いわゆる典型的なファンタジー世界だ。
街には冒険者ギルドがあり、冒険者たちは富と名声、土地や特権を得るためにダンジョンや森へ潜っていく。
俺もそんな冒険者の一人……と言えば聞こえはいいが、実際のところにはこうして、森の片隅でひたすら
何故そんなことになっているのか。それは俺の能力が原因だ。
転生時に神様か何かが俺に与えた能力は【
『遊戯王』というカードゲームに登場する、食虫植物や昆虫をモチーフにした可憐にして残酷な少女たち――『
彼女たちを使役できるというのが、俺の転生特典だった。
最初は喜んだ。各種レア違いを集めるほど好きだったテーマだ。
美少女たちを侍らせて、華麗に魔物をトラップに嵌めて無双する。そんな夢の異世界生活を思い描いていた。
だが、現実はそう甘くはなかった。
「……おーい、トリオン。そっちの偽装の葉っぱ、もうちょっと自然に散らしておいてくれ。ティオも、つる草を引っ張りすぎだ。不自然に見えるぞ」
俺が声をかけると、近くの切り株に座って足をぶらぶらさせていた二人の少女が、ピクッと反応した。
一人は、アリジゴクをモチーフにした淡い色のドレスを着た少女、トリオン。
もう一人は、ハエトリグサを思わせる禍々しくも美しい装飾を身に纏った少女、ティオだ。
彼女たちは人間の言葉を話すことはできないため、会話はできないが、なんとなく感情だけはテレパシーのように伝わってくる。
『はー?めんどくさいなぁ』『おなかすいたー』
みたいな不満げで、無邪気な感情が脳内に流れ込んでくる。
彼女たちの身体能力は、控えめに言って俺以下だ。
条件を満たせば呼び出せる『アティプス』という
真正面からでも殴り合えばゴブリンにすら負ける程度の力しかない。
彼女たちの真骨頂は
逆に言えば、
では、その
答えは簡単だ。そう、俺が必死になって掘るしかないのである。
「現実は創作より甘くないつってもなぁ…厳しさのベクトルがなぁ…」
愚痴をこぼしながら、俺は脳内に浮かぶ能力の詳細を確認する。
ユニークスキル
【
・サモンコアを用いて
・直接召喚した
・
サモンコア:5/5 休眠コア0
ミッション
・スキルを獲得する:報酬 サモンコア×4 (達成)
・捕食
【ティオ】(37/100):報酬 サモンコア×1
【トリオン】(16/100):報酬 サモンコア×1
・
・
・
・冒険者ランクの上昇
冒険者登録:報酬 サモンコア×1 (達成)
Eランク:報酬 サモンコア×1
Dランク:報酬 サモンコア×1
・
・
・
俺は現在、サモンコアを5個所持している。
初期値の4個に加え、冒険者ギルドに登録した報酬で1個増えた。
基本となる
つまり、現状の俺は同時に1体の
今はティオとトリオンが外に出ているように見えるが、これは戦闘を出来ない精霊体として呼んでいるから可能なことだ。
ここら辺も複雑だ。多分、この能力を作った奴は適当に作ったんだろう。
カードゲームだった時の処理とこの世界での処理の仕方が違うことが多く、中々慣れない所である。
そのおかげで出来る無法が結構あるのは嬉しいところだが。
コアを増やすには、彼女たちに敵を「捕食」させる――つまり
「よし、このエリアの罠はこれで完成だ。あとは獲物が来るのを待つだけ……」
俺がシャベルを肩に担ぎ、木陰に隠れようとした、その時だった。
――ガサガサッ!!
背後の茂みが、不自然に大きく揺れた。
風ではない。何かが、明確な意志を持って草をかき分けている音だ。
俺はシャベルの柄を強く握り直した。
「ギギャッ!」「ゲギャギャ!」
下品な笑い声と共に茂みから飛び出してきたのは、緑色の肌を持った小鬼――ゴブリンだった。
しかも1体ではない。2体、3体……更にその後ろから、ねじ曲がった木の杖を持った一回り小さなゴブリンが姿を現した。
「ゴブリン……メイジぃ!?」
俺は顔を引きつらせた。
ただのゴブリンなら、俺がシャベルで殴り合ってもなんとかなる。だが、魔法を使う個体が混ざっているとなると話は別だ。
都合の悪いことに、俺がさっきから苦労して
せっかくの罠が全く機能しない位置で、俺はゴブリンたちと相対せざるを得なかった。
「ギギャアアア!!」
ゴブリンたちが俺を発見し、錆びた剣や棍棒を振り上げて突進してくる。
同時に、後方のゴブリンメイジが杖を掲げ、何やら呪文のようなものをブツブツと唱え始めた。杖の先端に、赤い熱を帯びた魔力の光が収束していく。ファイアボールだ。
「くっそ!ふざけ…やがって!」
先頭のゴブリンが降り下ろすこん棒を何とかシャベルで弾き、転がるように後ろに下がる。
その間にもゴブリンメイジの構える杖の先の熱量は増していく。
逃げる時間は無い。魔法の射程内に完全に捉えられている。
そう認識した俺は、手持ちのサモンコア5つのうち、4つを消費した。
「来てくれ! 『トリオン』!!」
俺の叫びに応え、目の前の空間が歪み、光の粒子が舞い散る。
そこから現れたのは、アリジゴクの意匠を組み込んだドレスを纏った少女。
『トリオンの
先ほどまでの精霊体ではなく、実体の顕現である。
彼女の持つ能力の一つは、『戦闘中に召喚された時、一度だけ相手の魔法を破壊する』という強力な能力だ。
「ゲギャァッ!!」
ゴブリンメイジの杖の先端から、バスケットボールほどの火炎球が放たれた。
それは俺とトリオンを消し炭にすべく一直線に飛来する。
しかし、トリオンは全く慌てる様子を見せず、あくびをするように伸びをする。
――パリン!!
着弾する直前、ファイアボールはまるでガラスが割れるような音を出してかき消える。
人ひとりを焼き焦がす熱量はあっけなく霧散し、その魔力も空中に溶けてなくなる。
「ナイスだ、トリオン!」
俺が褒めると、トリオンは振り返り、胸を張って「ふふんっ」と得意げな顔をした。
言葉こそないが、『どう? 私すごいでしょ? もっと褒めて!』という溢れんばかりのドヤ顔感情が伝わってくる。
「すごいすごい、超偉い! でも今は戦闘中だ! 前見ろ!すぐそこに来てるぞ!」
俺の悲鳴に近い声に、トリオンはハッとして前を向いた。
ゴブリンの戦士2体が、すぐそこまで迫っている。トリオンはか弱い。彼女が棍棒で殴られれば一たまりもない。
「トリオン、穴だ!」
俺の指示を受け、トリオンはコクリと頷くと、両手を地面に向けてかざした。
彼女のもう一つの能力――『1
ズゴゴゴゴォッ!!
突如として、突進してきていたゴブリンたちの足元の地面が、巨大なすり鉢状に陥没した。
土砂が渦を巻き、アリジゴクの巣のように中心へ向かって崩れていく。
カードゲームであれば魔法の破壊と
だが、通常召喚と特殊召喚の境目が曖昧なこの世界でならどちらも使うことが出来る。
こういう無法がなければ今頃俺は町の花屋で細々働いていただろう。
「ギギャァァァァッ!?」
リーダーのようにゴブリンたちの中心にいたゴブリンメイジが、足を滑らせて巨大な穴の底へと吸い込まれていく。
底には見えないが、
ゴブリンメイジの悲鳴はすぐに途絶えた。
「よし、メイジ撃破!」
だが、喜んでいる暇はなかった。
立ち止まり、恐る恐る穴の中を覗いていた3体のゴブリン達が一斉に振り返り、怒りに染まった顔で俺たちを睨みつけた。
トリオンの魔法破壊は「召喚された時の一度」だけ。穴を一瞬で作る能力も「1
召喚しなおせばその制約もなくなるが、今の俺のサモンコア事情では不可能である。
つまり今のトリオンは、可愛いだけの無力な女の子だ。
『やばい、やばいよー! 早くなんとかしてー!』
トリオンの焦った感情が流れ込んでくる。彼女はわたわたと走ってきて、俺の背中に隠れる。
「……結局俺がやるしかねぇのか」
俺は覚悟を決め、手にしたシャベルを両手で構えた。
「ぅぉおおお!!」
叫び声を上げながら、ゴブリン達に向かって駆け出す。
「ゲギャッ!」
ゴブリンが錆びた剣を振り下ろしてくる。
シャベルの柄でそれを受け止める。
がん! と鈍い鉄と硬い木がぶつかる音が響く。
感覚的にはゴブリン共よりも俺の方が身体能力が高い。だが手数が足りない。
ゴブリン達は囲んで殴るのが最強の戦術だと理解している。
バカ正面から殴り合いをしていては勝てない。
俺は受け流すようにシャベルを傾け、ゴブリンの体勢を崩した。すかさず地面の泥を足で蹴り上げ、奴の目にぶつける。
「ギギッ!?」
視界を奪われ怯んだ隙を見逃さず、シャベルの平らな部分でゴブリンの側頭部を全力で殴り飛ばした。
ゴブリンは脳震盪を起こしたようにふらつくが、倒れるまではいかない。その隙を埋める様に残りの2体がにじり寄ってくる。
「はぁっ……はぁっ……!」
どうする。
サモンコアの残りは1個。
トリオンを召喚しているため、これ以上、新しい
このままでは、ゴブリンたちの今日の餌になってしまう。
(……いや、手はある。初めてだけどいけるはずだ。
サモンコアが足りなくても、
サモンコアを使って召喚した任意の数の
条件:
「トリオン、ごめん! 一旦戻っててくれ! 【送還】!」
俺が叫ぶと、離れたところで手を振って応援していたトリオンが不満げに頬を膨らませた。
『えーっ、私せっかく頑張ったのにー!』という抗議の感情を残し、彼女の体は光の粒子となって消滅した。
送還されたことで、トリオンの召喚に使っていたサモンコア4つは『10分間使用不可』のペナルティ状態に突入する。俺の手元で使えるコアは、実質残り1つだけになった。
だが、これで条件は満たされた。
「来い! 『セラ』!!」
空間が縦に裂け、そこから新たな少女が足を踏み出した。
モウセンゴケをモチーフにした、くすんだ緑のドレスを着た少女。頭には触角のような可憐な飾りが揺れている。
セラの
彼女はにっこりと俺を見つめてきた。
『主、お目がたかいね~!』
そんなはつらつとした意志が伝わってくる。
セラの能力は強力だ。
『セラの近くで
しかし、この周囲に未使用の
トリオンが先ほど作った穴も、すでにゴブリンを1体飲み込んで沈黙している。
今から俺が穴を掘る時間などない。
「
俺は二体のゴブリンを無理やり振り払い、ふらつくゴブリンの首を掴み、無理やり引きずり倒した。
そして、渾身の力を込めて、先ほどトリオンが作った使用済みの
「落ちろぉぉっ!!」
ゴブリンの体は地面を転がり、すり鉢状の穴の底へと転がり落ちていった。
すでに捕食を終えていた穴だったが、新たな獲物が落ちてきたことで、内部の植物の蔓のようなものが反射的に動き、ゴブリンを絡め取って地中へと引きずり込んだ。
「どうだ!?
ごり押しもごり押しだった。こんなものを罠発動とは言えない。
だが、セラはにっこりと微笑んだ。
条件が満たされたのだ。ガバガバ裁定で助かった。
セラが優雅に腕を振るうと、空間からもう一人の少女が飛び出してきた。
「ナイス!! 頼むぞ、『プティカ』!!」
現れたのは、ウツボカズラをモチーフにした巨大な装飾を背負う、少し幼い顔立ちの少女だった。
プティカの
『がんばるよぉ~』
彼女がフィールドに舞い降りた瞬間、『戦闘中に召喚された時の能力』が発動する。
『相手を少しの間、何処かに幽閉する』
「ゲギャッ……!?」
無理やり蹴り飛ばしたことで体勢を崩し、隙だらけの俺に向かって、ゴブリン剣を構えて突進して来る。
だがその足が地面につくことはなく、踏み外すように地中に落ちていく。
気付けば空間そのものが口を開けたかのような、漆黒の裂け目が地面に現れていた。
ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく、その異空間へと落ちて消えた。
「はぁっ……! 助かった……」
俺はその場に座り込みそうになるが踏みとどまる。
まだゴブリンは一体残っている。
それに、プティカの幽閉は
けれど、もう勝負はついたようなものだろう。
プティカには、もう一つの常時発動型の能力がある。
『周りを、
プティカがクスクスと笑いながらステップを踏むと、周囲の空気が一変した。
湿った森の匂いが、甘ったるく、脳を麻痺させるような魅惑的な香りに変わる。地面がぬかるみ、周囲の木々の根が蠢き始めた。
そして、このプティカの能力発動をトリガーにして、セラの『第二の能力』が連鎖する。
『他の
セラが地面に手を付ける。
ズゴッ、ボコボコボコッ!!
最後のゴブリンの足元に穴が開く。
粘着質の液体に満たされた特別製
『蟲惑の
ポトン
粘りつくような水音が鳴った。
『ふふっ』『あははっ』
セラとプティカが、完成した自分たちの庭を見て、楽しそうに笑い合っている。
そして、数分後。
空間が再び歪み、上空から最後のゴブリンがポロリと吐き出された。
「ゲギャァァッ!?」
幽閉空間から解放され、空中で状況を理解できないゴブリン。
奴が落下した先は――言うまでもなく、セラたちが作り上げた凶悪な
セラとプティカが
彼女たちはニコニコと無邪気な笑顔を浮かべている。
その瞳の奥にあるのは、食欲だった。
『いただきまーす』
そんな無邪気な感情が伝わってきた直後、
「…………」
俺は、シャベルを杖代わりに寄りかかりながら、ただその光景を眺めていた。
可愛い顔をしているが、彼女たちはちゃんとモンスターだ。
ピロリン、と脳内で電子音が鳴り、ステータスウィンドウが自動的に展開された。
・捕食
【トリオン】(17/100):+1
【セラ】(2/100):+2
【プティカ】(1/100):+1
戦闘が終わり、蠱惑の園の展開が解けると、森は元の静けさを取り戻した。
『ご主人様ぁ~…』
プティカが嬉しそうに駆け寄ってきて、俺の服の袖を引っ張った。
『もっと食べたいぃ… もっと敵いないのぉ?』
セラも隣に立ち、コクリと頷いている。
「んー、敵を見つけても
『がーん!』
という様な表情でわざとらしくジェスチャーをする
「これ埋めないと駄目だよなぁ…こんなとこにあったら危ねぇもんなぁ」
俺は再びシャベルを肩に担いだ。
戦闘は終わったが、今日のノルマはまだ終わっていない。
とりあえずこの穴は埋める。冒険者たちが良く通る道にあっていいものではないからだ。
その後はまた新しい罠のポイントを探して、穴を掘らなければならない。
「掘って埋めて掘って埋めて…アメリカの刑務作業かよ」
その後、勝手に召喚されてきたキノに、穴埋めの妨害をされた俺であった。
サボウ・クローザーでロックされているので、次話は投稿されないと思います。
拮抗勝負を持っている方は是非好きなテーマでの異世界物を書いてください。
色々なテーマを見たいです。