初めて書くので時系列諸々違ってたらすみません。
色々な考察を参考にさせていただきました。
とあるセリフの前後で全然テイストが違うかも。
タイトルは椎名林檎「幸福論」より
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大丈夫、幸せになれるさ。
たとえどんな空や海でも。
赤い海が、続いている。
ずっと、続いている。
少年が、いる。
1人でなく、いる。
少女が、いる。
1人でなく、いる。
波音が、響いている。
静かに、響いている。
波音が、響いている。
騒々しく、響いている。
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ああ、もう無理かな…。
そんな情けない言葉が口をつきそうになる。
目が覚めた時、この赤い海の浜辺には私ともう1人、あのウジウジしたシンジだけだった。
あいつは、流木や端材で十字架を組んでいた。
きっと、もう帰らぬと思われる人々の墓のつもりなんだろう。
どこかへ行くあてもない私は、フラフラとその十字架の方へ吸い寄せられていった。
それは突然だった。
一つの十字架を見た。
ある文字が刻まれていた。
『アスカ』
あのバカが作ったのだろう。
あいつは目も虚ろにひたすら十字架を作り続けている。
いつまでもそうやって作り続けて、そのまま死ぬつもりなのだろうか。
私は真っ平だ。
その意思表示のために、私は私の十字架を蹴り倒した。
ぐしゃりという鈍い音が
静かでうるさい海岸に響く。
ふと考えると、あいつは私を『アスカ』と形容した。
『惣流・アスカ・ラングレー』
ではなく。
足元のそれを見ると、どこか脱力感が漂う。
ああ、あいつにとって私は紛れもない『アスカ』だったんだ。
「よかった。」
そんな言葉が自然と出てきた。
そんな自分に驚くと同時に、それでもいいかと納得する自分がいる。
つい最近まであり得なかったことだ。
シンジは私の気配にようやく気が付いた。
あまりの驚きゆえか、目を見開いている。
私はもう、声をかける元気も、体力も、怪我の状態でもなく、また元の浜辺にフラフラと戻っていった。
元のように浜辺に寝そべる私。
海の向こうにはファーストの、レイの顔が浮かんでいる。
いや、浮かんでいるという言葉も正しいかどうかわからない。
ただそこにあった。
どこぞのバカはノロノロと元の浜辺に戻ってきた。
会話をするでもなく、私の隣にこれまた寝転んだ。
いつまでも、そうするしかないかに思えた。
私たち以外は誰もいない。
エヴァに乗れと強要されることも、もうない。
手は、触れそうで、触れなかった。
もはや、何をするでもなく、何をする気力もなく、横たわるしかない。動きたくても、動くだけ体がついていかない。
意識がなくなると同時に、この世とおさらばになってしまうかもしれない。
それを避けようと必死に目を開け続けるが、それも限界が来そうだった。
死のまどろみは妙なことで破られた。
おもむろにシンジが私に馬乗りになって、私の首に手をかけた。
そして、大して残ってもいない残りの力を無理やり、無理やり、私の痩せてしまった首にこめる。
その瞬間、私は理解した。
ああ、シンジはやっと、自分で他人の運命を左右するようになったのだ。
人の運命を左右する時、自らは相手を見なくてはいけない。
これで、シンジは、やっと私を見たんだ。
そう思うと、今までずっと表せなかった好意が、溢れるように浮かんでくる。
なんだ、こんな健気な顔をしているではないか。
なんだ、必死に戦った顔をしているではないか。
なんだ、年相応の綺麗な顔をしているではないか。
なあんだ。
そう思うと、最後なのだとしたら、せめてその美しい顔に触れたくなった。
そーっと、いうことを聞かない右腕で、触りたくなった。
私が忘れたくなかったから。
君に忘れてほしくなかったから。
その願いはついに叶わなかった。
私の息の根を止めるには、シンジはあまりに脆かった。
目的を遂げるには程遠いまま、力が抜けて、私の胸に突っ伏し、力なく泣き始めた。
また、こいつは、自分で独りよがりに考えて、それでも1人で決めきれなくて、そのままメソメソするのか…。
それもシンジなのかもしれない。
私が、日常の家事を自分でできなかったのと同じように、シンジは、それが自分でできないのかもしれない。
しょうがないやつだ。
ここでふと、自分も、シンジも自分のできないこと、満たされないものを他人で満たそうとしていたのだと気がついた。
他人で自分を満たす。
まさに自慰行為である。
とある光景がフラッシュバックする。
無機質な病室。
少女に縋りつく少年。
少年に応えない少女。
不意に訪れる、少年の中の男。
自らで空虚に満たされる。
その言葉は生理的に、かつ自らに対しては理性的に放たれた。
「気持ち悪い。」
そうつぶやくと、自分でも驚いてしまった。
シンジの顔を無理やり自分の顔に近づけて、キスをした。
した方も、された方も目を丸くしている。
「口直し、よ。」
もうこんなこと言いだしたら、自分のとげで隠し続けた本心をさらすようなものではないか。
まあ、いいか。
どうせ、だれもいないし。
呆気に取られてこちらを見つめるシンジ。
「やっと、こっち見たじゃない。シンジ。」
やっぱりこの顔だ。いい意味でも悪い意味でも間の抜けた顔。
「あ、あ、ああ…あの…。」
「なによ、なんか文句あんの?」
「い、いや、いやその…」
「首を絞めたことなら、さっきのでチャラよ。」
もはや言葉が出ず、口をパクパクさせるばかりのバカの顔を今度は私の胸に無理やりうずめる。
若干貧相になってしまったが知ったこっちゃない。
「いい、ちゃんと聞きなさいよ。」
どこにそんな力が残っていたのか、シンジをしっかり抱きしめる。
「シンジ、あんた私を見てえっちなこと考えてたでしょ。」
わかりやすくギクッとした表情をするシンジ。やっぱりばれてないと思っていたらしい。
「別にそれを責めようってわけじゃないの。」
ふと遠くを見るとあれだけ大きかったファーストの顔がほぼ消えてきていた。
「わたし、思うの。今考えれば、あんたも、私も、人類全員が自分で自分を慰め続けていただけなんじゃないかって。みんな人のことなんか考えていられなくて、自分で自分の傷をなめるので精いっぱいで、その結果がこれね。」
赤い空。
明けない夜。
「シンジ、あんたが私にしたことはずっと私が忘れない。たぶんあんたも忘れないんでしょう。私は私で、あんたをさんざんコケにして、傷つけた結果、こんな風にサードインパクトが起きたのを忘れないんだろうね。お互いがお互いのことに精いっぱいで、相手のことなんか見れなくて、それでまた傷ついて、またそれを自分で慰めて。それが破綻したから、いまこんなことになっている。」
ここまで言ったところでシンジの顔を見ると、今にもまた泣き出しそうな顔をしていた。
「まだ泣かないで。泣いてもまた自分が慰められるだけだから。でもね、忘れないからって、私はあんたを責めない。責任を乗せようとか思わない。赦すんじゃないの。一緒に背負うの。どうせみんないなくなっちゃったんだから、法律とか、モラルとか、マナーとかそんなものはないんだから。私とあんたで決めるの。で、私の中では、こういう結論に至った。あんたは、シンジはどうなのよ。」
「僕は…」
「僕は、ずっと一人で自発的に物事を決めることができなかった。量産機がアスカを襲っているときも、直前までずっとうじうじして乗るか乗らないか決められなかった。その結果が見ての通りだ。みんな消えちゃった。みんなみんなもっと僕が救えたはずだったんだ。それなのに、自分で決めなくて、運命を左右することができなくて…。罪を償うための人すらいなかった。さっきの十字架は、僕が目に見える形で自分の罪を認識しようとした。でも、アスカは違った。自分の十字架を蹴り倒した時、ただの自己満足だと気がついた。1人じゃないなら、相手のこと考えるべき、そう思ったら…このまま過ごすことは考えられなくて、アスカが怪我で苦しんで死んでいくのは見てられなくて…。結局自分勝手だった。」
そう言うと、ついに我慢できなくなったのか私の胸に顔を埋めた。
「シンジ、もっかいこっち見なさい。」
そう言って無理やり顔を私に向けさせる。
いつもの少し怯えた、目をしている。
でも、
「ちゃんと目の奥が光ってるじゃない。」
「いい?もうどうせ私たちしかいないから、言っておく。涙は自分のために流さない。自分が傷付いたら相手に癒してもらう。そうしなきゃ独りよがりな私たちは結局自慰してるのと一緒になっちゃうから。わからないから。そのためにはお互い思ってることをちゃんと表さなきゃ。自分の感情はもう自分だけのものじゃないから。」
「そう、だね。そうだよね。2人で生きていかなきゃ、だもんね。」
「じゃあ、私から初めてシンジに気持ち伝える。」
少女が、思い切り、息を吸う。
少年が、思い切り、息を呑む。
「好きよ、バカ!」
「自分のことばかり考えてしまうなりに人のことについて考えようとしたあんたが好き。私のこと見ようとしたあんたが好き。惣流とか、エヴァのパイロットとかじゃなくて、アスカとして見てくれたあんたが好き。アスカとして縋ったあんたが好き。どんな時でも何とか足掻くあんたが好きよ。」
そう言うと私は無理やり自分とシンジを座らせて、今度は私がシンジの胸に飛び込んだ。
「シンジはどうなのよ。」
そのままの体勢で無理やり問いかける。
少年が、思い切り、見上げる。
少女が、思い切り、みつめる。
「僕は…僕も…アスカのことが好きなんだと思う。人をちゃんと見たことがなくて、はっきりと言い切れないんだけど…。でもこんなふうに思ったのははじめてだから…。君の蒼い真っ直ぐした瞳が好きだ。素直に感情が出るところが好きだ。美味しそうな顔でご飯を食べるところが好きだ。ふとした時の優しい顔が好きだ。僕が持てなかった意志の強さを持っているところが好きだ。」
その瞬間、今度はこっちが我慢できなくなって
「シンジぃ、好きよ…。」
こんなふうに人に甘えるなんていつ振りだろう。
あーあ、こんなふうになる前に気がつけばよかったのに…。
もっと普通の暮らしをしながら言えればよかったのに…。
でも、普通の女の子と普通の男の子なら、こんなロマンチックにであって、戦って、後悔して…そんなこと起きっこなかったわね。
「ねえシンジ、ここでキスして。」
こんな碌でもない風景で見つめあって、泣いて、笑って、それはそれで、まあいいか。
「行くよ。」
「ウン。」
シンジの顔が近づいてくる。
綺麗な顔。
素直に思う。
波の音だけが響いてうるさい。
静かにならんもんかな。
そう思った時。
「ちょっ!シンジ!波が!」
「何でこんな高くに!溺れる!」
咄嗟にシンジに抱きつく私。
ん?なんか聞き覚えのある声がしたような…?
「あら〜あんたたちぃ、な〜にいい感じになっちゃってんのよ〜。」
「げっ、ミサト!ついに私幻覚見え始めたかも。」
「おかしいな、僕にもミサトさんに見えるなあ。」
「あっらぁ?しつれーね。ちゃんと二本足で立ってるわよ〜。」
誰も幽霊だとは言っていないが…。
「ねえアスカ、あれ…。」
浜辺がうるさいのは、波のせいではなかった。
「人が、海から、戻ってきている…!?」
波が引くたびに、人がひとり、またひとりと戻ってきている。
「ミサトさん、生きてたんだ。」
「てっきりミサトは死んだのだとばかり…。」
シンジがたてていた十字架の中にはミサトのペンダントが掲げられたものがあった。そこから私は、ミサトが死んだのをシンジは見たのだとばかり思っていた。
「僕をケージに行くエレベーターに乗せた後、すごい銃声が聞こえて…てっきり死んじゃったんだと…」
「確かに私は撃たれたけど何とか生きてはいたのよ。で、もう無理かと思って意識がなくなって気がついたらここにいたってわけ。」
まさに奇跡としか言いようのない出来事だ。
「シンちゃん、大人になったのね…。」
ミサトは意味深に、感慨深そうに呟く。
「もう続きをする必要はなさそうね。」
「なっ!ミサトさん!!」
「ミサト!まさかシンジに変なこと吹き込んでないでしょうね!?」
「ぶぇっつに〜。シンちゃんに直接聞いて見なさーい!」
「ミサトあんたねえ!シンジに変なこと吹き込んだらただじゃ置かないわよ!だってシンジは…シンジは…」
「シンジは私の恋人よ!」
終劇