『魔法先生ネギま!』の原作最終盤の分岐IF 。

百年の眠りについたアスナを見送った後も、タカミチは魔法世界のために戦い続けていた。
しかし十年の歳月を経て、彼はようやく、自分が抱え続けてきた本当の気持ちに気付く。
長い別れと喪失の先で、タカミチとアスナが再会する物語。

※原作終盤のネタバレを含みます。
※本作はpixivにも掲載しています。

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キミに捧ぐ

 二〇〇五年三月

 

 やわらかな日の光が差し込む麻帆良中学校三年A組の教室。

 

 春休み中のため、誰もいないはずの教室に、タカミチ・T・高畑、ネギ・スプリングフィールド、そして、神楽坂明日菜の三人がいた。

 とある事情のため、卒業式に出席することができなくなったアスナの卒業式を一週間早く行うためだ。

 

 ネギが校長代理となり、アスナへ卒業証書を手渡し、ささやかな式が終わる。

 続いて響いたのは、タカミチの拍手だけだった。

 卒業を祝うはずの音は、かえって教室の静けさを際立たせ、彼の胸を深く沈ませた。

 

 アスナはこれから百年の眠りにつく。

 魔法世界を救うための計画、その礎として。

 

 しかも、それは多くの友人との別れだけでなく、自身が消えてしまう可能性を秘めていた。

 神楽坂明日菜──黄昏(たそがれ)姫御子(ひめみこ)アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアの代理人格が、百年の年月に耐えられるかは誰にもわからない。

 

 だが、それでもアスナは決意した。

 

 魔法世界に生きる人たちのためなのかもしれない。

 魔法世界を救うための計画を進めるネギたちのためなのかもしれない。

 悲しい未来を防ぐために現在(かこ)へとやってきた(チャオ)のことがあったからかもしれない。

 あるいは、ウェスペルタティア王国の王族としての責務からか……。

 

 どのような理由であったかは彼女自身にしかわからないが、『いつかまた会える』、そんな淡い希望を胸に抱き、決意を固めたのだ。

 

「……すまない」

 

 ようやくタカミチの口からこぼれたのは、その一言だけだった。

 

 保護者として。

 教師として。

 一人の大人として。

 アスナを守ることができなかった思いが、彼の胸の奥で鈍く渦を巻いていた。

 

 もっと別の道があったのではないか。

 もっと何かしてやれたのではないか。

 

 けれど、それらが簡単に思いつくような状況であれば、このようなことにはなっていない。

 

 アスナは、そんなタカミチの思いを吹き飛ばすように笑った。

 

「高畑先生、大丈夫ですよ。百年後でも、ネギやエヴァちゃんがいます。長生きしている人には会えるかもしれません。それに、もしかしたら高畑先生のお孫さんと結婚しちゃうかもしれないですよ。……だから、ちゃんと結婚して、子どもを育てて、絶対に幸せになってくださいね」

 

「アスナ君は強いな……。そうだね……。卒業……おめでとう」

 

 後悔はあるだろう。

 悲しみもあるだろう。

 

 それでもアスナは、最後までそれを周囲に見せようとしなかった。

 

 かつての仲間に、師匠に守ると誓った少女のその強さが、笑顔が、タカミチの胸に深く焼き付いた。

 

 

 ◆

 

 

 あれから、十年の月日が流れた。

 

 ネギにはたくさんの仲間が増え、計画は着実に進められている。

 かつての生徒たちもまた、ネギを支える者、自身の夢を目指す者、それぞれの道を歩み、前へと進んでいる。

 

 彼らの絶え間ない努力もあり、世界は平和になった──とは言えなかった。

 

 魔法世界崩壊の危機に、かの世界では数多くの火種が生まれたからだ。

 

 国が、組織が、人が争う。

 多くの血が流れ、憎しみが積み重なっていく。

 

 そして、そんな彼らを止めるために、タカミチは戦い続けた。

 

 眠る時間を削り、食を忘れ、怪我を負おうが、常に前線に立ち続けた。

 

 かつての仲間たちの願いを果たすために。

 ネギたちの努力を無駄にしないために。

 

 けれど、それだけではない。

 

 アスナの最後の笑顔を見たときに胸に宿った思い。

 苦しく、熱を帯びて胸の奥に渦巻く感情。

 

 日を追うごとに重さを増していく、その想いに突き動かされるように。

 あるいは逃れるように。

 タカミチはただ、がむしゃらに戦って、戦って、戦い続けた。

 

 そして遂に、取り返しのつかない怪我を負ってしまった。

 

 魔法世界を少しでも長く存続させるために、とある国が虐殺を始めたのだ。

 魔法世界の維持には大量の魔力を必要とする。

 住民が減れば、その分だけ崩壊までの時を稼げる。

 

 そんな理屈であったが、当然許せるはずがない。

 

 タカミチはその争いを止めようとした。

 仲間たちと共に戦った。

 

 しかし、膨大な物量による攻撃は、いかにタカミチと言えど防ぐことはできなかった。

 最後に覚えているのは、それらの攻撃から人々を守るために身を挺し──そこで意識が途切れた。

 

 次に目を覚ましたとき、タカミチは病院のベッドの上にいた。

 そして、左目と左腕を失っていた。

 

 魔法を使えず、己の身一つで戦う術を磨いてきた彼にとって、それは戦闘力が大きく下がることを意味している。

 

 しかし、そんな状態になっても彼の心は折れなかった。

 

 元々才能がないと言われる中、不断の努力を重ね、世界でも最強クラスにまで上り詰めたのだ。

 

 この程度の怪我ではまだ諦められない。

 こんな体でもまだできることがある。

 

 タカミチに宿っていた思いは、一種の強迫観念のように成り果て、彼を突き動かそうとしていた。

 

 そんな彼を止めるために医者は説得したが、それでも止まらず、鎮静剤まで投与されることとなった。

 

 ──その夜、タカミチは久しぶりに静かな時間の中にいた。

 

 静けさは、どうしても余計なことを考えさせる。

 

 どれほど必死になって戦っても、少しも平和に近づかない。

 ネギたちが結果を出し続けている一方で、自分は何も成し遂げられていない。

 

 自責の念が胸を刺す。

 自分の不甲斐なさに嫌気がさす。

 しかし、そんな苦しみすら薬で鈍らされ、感情まで押さえ込まれているような不快感があった。

 

 自覚すればするほど、よくない感情が頭の中をぐるぐると巡っていく。

 

 そんなとき、病室のドアがノックされた。

 

 返事をするとドアが開かれ、入ってきたのはネギであった。

 彼は多忙であったが、友人であるタカミチの事態を知り、訪ねてきたのだ。

 

「久しぶりだね。タカミチ。大怪我をしたって聞いたけど、体は大丈夫?」

 

「ああ、左腕と左目を失ってしまったけど、まだまだ戦えるよ」

 

 ここ数年、タカミチはずっと魔法世界にいた。

 ネギと顔を合わせるのは、それこそ数年ぶりだった。

 魔法世界救済計画の責任者として、さまざまな重圧に晒されてきたのだろう。

 元々大人びた少年であったが、今のネギには精悍さが備わっていた。

 

 ネギは、無事とは到底言えない、しかし本人は無事と言い張るタカミチの姿を見て息をのんだ。

 そして、しばらく黙り込んだ後、胸を痛めるような眼差しを向けながら、静かに口を開く。

 

「……タカミチ、もういいんじゃないかな」

 

 主語はなかった。

 しかし、タカミチにはネギが言わんとしていることを、すぐに察することができた。

 

「まだだ。……まだ僕は何もできていない!」

 

 思わず口調が強くなる。

 

「そんなことないよ。腕も目も……そんなに傷つくほどがんばってきたじゃないか」

 

「……過程に意味はないよ」

 

 いつもの癖で手を組もうとして、右手が虚しく空を切った。

 

「……タカミチはどうしてそんなにがんばるの?」

 

「もちろん、魔法世界を救うためだ。ナギたちが道半ばとなってしまった願いを、僕は果たさないといけない」

 

「本当に? 父さんたちの意志は僕たちだって継いでいる。みんなで果たそうとしているよ」

 

「……わかっているさ。きっと魔法世界を救うのはネギ君たちだ。戦うことしかできない僕に出来ることは限られている。だけど、それでも……こんなんじゃアスナ君に顔向けができない……」

 

 結局のところ、タカミチにとって、それがすべてだった。

 

 これまで戦ってきた理由はたくさんある。

 正義も、責任も、贖罪もある。

 しかし、心の奥深くにある理由は、あの少女だった。

 

「……タカミチは、まだ気づいていないんだね」

 

「何にだい?」

 

「アスナさんのことだよ」

 

 急な言葉に、タカミチは答えを持ち合わせていなかった。

 

「アスナさんが眠りについて十年。今の僕ならわかるよ。……タカミチにとって、アスナさんはただ『大切な子』ってだけじゃないんじゃないかな?」

 

「当然だろう! まだ子どものあの子に全てを背負わせて僕は……」

 

「そうじゃないよ。……タカミチは、アスナさんに会えるとしたらどうしたい?」

 

「それは……」

 

 答えようとして、言葉が出なかった。

 

 彼女のためだけの卒業式の教室。

 祝うための拍手の音と、その後に胸に残ったどうしようもない痛み。

 最後に見た明るく笑う少女の顔。

 

 十年もの間、一度たりとも忘れたことはなかった。

 

 ストンと胸の奥に何かが落ちる。

 忘れられない理由を、感情を、ようやく理解できた気がした。

 

 もし会えるならば、もう二度と離れないように抱き締めたいと思った。

 彼女を取り巻く全てから守りたいと思った。

 

 それは、保護者でも、教師でも、大人としてでもない。

 一人の男としての想いだった。

 

 かつて、麻帆良祭でアスナに告白されたときには、まだそういった感情はなかった。

 

 きっかけは、最後に話した時の笑顔だったのだろう。

 その強さ、気高さに惹かれた。

 そして、その想いを十年燻ぶらせてきた。

 

「……ああ、そうか」

 

 絞り出すようにタカミチは呟いた。

 

「僕はいつの間にか……アスナ君を愛していたんだな」

 

 ネギは少しだけ困ったように笑った。

 

「タカミチって、案外不器用だよね。僕はちょっと前からもしかしたらって思ってたよ」

 

「……それなら一言くらい言ってくれてもよかったんじゃないかな」

 

「そういうことは、自分で気づくことが大事だって教えてもらったんだよ」

 

 そこでネギは咳払いをし、表情を引き締めた。

 

「タカミチにもう一つ聞きたいことがあるんだ。……もし本当にアスナさんに会えるって言ったら、どうする?」

 

「……っ!?」

 

 息が止まる。

 

「それは……。それが……本当に叶うのなら……何としてでも会いたい」

 

 自覚した積年の想いを吐き出すように、タカミチは答えた。

 

「時間停止系の保存術式をベースに、百年の時を超える魔法を作ってみたんだ。……空いた時間に開発したものだから、かなり無茶なアレンジだけど、上手くいくはず。……たぶん」

 

「たぶん!?」

 

 タカミチは思わず、ネギに突っ込むと、二人は昔のように笑いあった。

 

「ネギ君。このままだと僕がアスナ君に会うことはないだろう。だから、少しでも可能性があるのなら賭けてみたい」

 

「わかったよ。全力をもって、タカミチをアスナさんのもとに送る。……今の時代を離れる覚悟は出来てる?」

 

「ああ。大切な友人もいる。僕が前線から離れたら迷惑もかけるだろう。それでも、この想いを止めることなんてできない」

 

 ネギは、少しだけ安心したように微笑んだ。

 

「元気になってよかった。さっきまでより、いい顔をしているよ」

 

「ネギ君……」

 

「魔法の準備が出来たら連絡するよ。タカミチは、とりあえずは、怪我が治るまで大人しくするように」

 

 そう言って、ネギは病室を後にした。

 

 希望を残して。

 

 それから三か月後、全ての準備が整い、タカミチは魔法により眠りについた。

 

 

 ◆

 

 

 二一三五年三月

 

 当初の予定よりも数十年遅れて、神楽坂明日菜は目覚めた。

 疲れ果て、それでも諦めず、彼女の人格は無事であった。

 

 かつてよりも発展した麻帆良の街中、知り合いを探す。

 自分の知る場所はほとんど残っていなかった。

 もしかしたらと思ったエヴァの住処は、風化し、廃墟となっていた。

 

 ネギを探す。

 彼は、闇の魔法(マギア・エレベア)の習得により、不老不死となっていた。

 この時代でも生きているはずである。

 しかし、行方不明ということがわかるのみであった。

 

 親友の雪広あやかの家を探す。

 彼女はおそらく亡くなっているだろう。

 けれど、彼女の家は財閥だ。

 家の場所がすぐにわかったため、訪ねてみた。

 

 すると、あやかによく似た少女に出会うことができた。

 

 そして、その少女の案内した先で、ネギが亡くなっていることを知った。

 あやかが百十五歳で亡くなったことを知った。

 

 これからどうすればいいのだろうか。

 わからなくなってしまった中、ふと、あやかと一緒に埋めたタイムカプセルのことを思い出した。

 

 その場所は昔と変わらない姿だった。

 あの頃よりも大きくなった木のふもと。

 穴を掘り、それを探し出した。

 

 かつては、あやかとの二人の思い出を詰め込んだ。

 しかし、そこに詰められた思い出は増えていた。

 

 みんなで過ごした中学の頃の写真。

 学生生活、修学旅行、懐かしい思い出だった。

 

 みんなの未来の写真。

 アスナのいない未来で、楽しく過ごし、夢を叶えた姿であった。

 

 ネギからのメッセージ。

 大人になったネギの日々を語るもの、アスナに会いたいという願いだった。

 

 ──そして、最後にあやかからの音声メッセージを見つけた。

 

 それは、年老いたあやかからのものであった。

 

 自分の知る声よりも老けた声。

 けれども、面影を残した優しく、親しみの込められた声。

 

 アスナとネギの願いの先の星で、もう一度アスナに会いたいというものだった。

 

 そして気付く。

 

 あやかは百十五歳まで生きた。

 

 それは、アスナが眠りについてからちょうど百年後。

 本来アスナが目覚めるはずだった時までの年月だった。

 

 彼女は普通の人間だ。

 いくら医療が進歩したとしても、百歳を超えて生きることがいかに難しいことか理解できる。

 

 けれど、もう一度アスナに、親友に会うために。

『もう一度会おう』という約束を果たすために。

 その一心で彼女は生き抜いたのだ。

 

 胸が、喉が熱い。

 涙がこみ上げてくる。

 

 親友が守ろうとした約束を、人生を懸けて果たそうとしてくれたその約束を、アスナは守れなかった。

 

 あやかは最期に何を思ったのだろう。

 

 彼女のことだ。

 アスナを責めることなどなかっただろう。

 色々と苦言を言っても最後は、また寝坊してと、苦笑しただろうか。

 

 もう我慢することができず、アスナはしゃくり泣いた。

 一度こぼれた涙はもう止まらない。

 

 約束を守れなかった申し訳なさ。

 もう二度と会えないのだという悲しみ。

 

 それらはアスナの心を深く(えぐ)っていった。

 固めたはずの覚悟がぼろぼろと剥がれ落ちる。

 

 残された現実の前に、アスナはただ泣くことしかできなかった。

 

 

 

 

「アスナ君……」

 

 どれくらい泣いていただろうか。

 

 ふいに後ろから声がかけられた。

 

 懐かしい声。

 大好きだった声。

 聞こえるはずのない声。

 

 アスナはこぼれる涙を拭うことすら忘れ、振り返った。

 

 そこにいたのは──タカミチだった。

 

 自分の知るよりも少し老けた姿。

 左目と左腕を失っている。

 

 それでもアスナはすぐにタカミチだと気づいた。

 

「高畑……先生……? なんで……? どうして……?」

 

 口からは疑問しか出てこない。

 

「ネギ君のおかげでね。アスナ君に会うために、僕も眠ることにしたんだ」

 

 タカミチは優しく微笑みながら語りかけた。

 

 しかし、それはアスナが納得できる言葉ではなかった。

 

 タカミチに会えた喜びはある。

 だが、それは自分と同じく、タカミチも過去に別れを告げてきたということである。

 

「なんで……? なんで……ですか? みんなともう会えないんですよ。高畑先生がそんなことしなくても……」

 

 そうせざるを得なかったアスナと違い、タカミチは百年を眠る必要なんてない。

 

 仲の良かった人たちに別れを告げる。

 もう二度と会えなくなる。

 それがどれほどつらいことなのか、今のアスナは痛いほど理解している。

 

 だから、なぜタカミチがそうしたのかわからない。

 

 その様子を見たタカミチが歩み寄りながら話し始めた。

 

「アスナ君が眠りについてから、僕は戦い続けた。魔法世界を救うために、平和のために」

 

 タカミチがゆっくりと近づいてくる。

 

「だけど、途中で気付いた。いや、ネギ君に気付かされたんだ。……僕が戦っている一番の理由はアスナ君のためだったって」

 

 一歩また一歩近づいてくる。

 

「最後にアスナ君に会ってから、ずっと僕の心の中に君がいた。色々と戦う理由はあったけれど、一番根本にあるのは、自らを犠牲にしてまでも魔法世界を救いたいと願った君のためだった」

 

 手を伸ばせば届く距離まで近づいた。

 

「それに気付いたらもう止まらなかった。なによりも君に会いたいと思った。みんなに別れを告げてでも」

 

 アスナの目の前に辿り着いた。

 

「高畑先生は……ばかですよ……。そんな理由でみんなと別れて……未来に来るなんて」

 

 自分と同じ別れの悲しみを負わせてしまったことに胸が痛い。

 そのため、アスナはタカミチを見上げながら言った。

 

「はは……。そう言われると返しようがないな。だけど、間違ってなかったと断言できるよ。……もう一度君に会えた。泣いている君を支えることができる」

 

 そして、タカミチは真剣な顔でアスナを見つめ、自らの想いを伝えた。

 

「アスナ君、君を愛している。たくさんの宿命に縛られた君を守りたい。この先も守りたいんだ。……だから……ずっと僕の側にいてくれないかな」

 

 そしてタカミチは未だ泣き続けるアスナを優しく抱き締めた。

 

 それは右腕だけの不格好な抱擁であった。

 けれど、タカミチの鼓動が、熱が、ぬくもりが伝わってくる。

 同時に、タカミチが抱えてきた歳月や痛みまでも伝わってくる気がした。

 

 アスナの目からは、これまでとは違った涙があふれてきた。

 

 この時代で一人だけだと知り、心に大きな穴が空いたようだった。

 しかし、タカミチはその穴ごと包み込んでくれた。

 大切なものに別れを告げ、自分のもとまで来てくれた。

 

 ずっとずっと好きだったのだ。

 姫御子としての記憶を取り戻した後も、いや取り戻したからこそ、自分の知る大人としてのタカミチだけではなく、子供らしいところを知って、より愛しく思っていたのだ。

 

「私、ばかで子どもだから、どうしたらいいかわからないときがたくさんあります。たぶん、頼ってばかりになると思います」

 

「僕の方が大人だ。頼ってくれるとうれしいな」

 

「性格も単純だから、これと決めたら一直線に進んで、間違えることもあります」

 

「素直なところはアスナ君のいいところだと思うよ」

 

「たぶん……姫御子の能力はこの時代でも、トラブルを呼び込むことになると思います」

 

「だからこそ、一人にはならないでほしい」

 

「……そんな私だけどいいんですか? ……高畑先生の隣にいていいんですか?」

 

「そんな君だからこそ隣にいてほしいんだ。僕はもう、君と離れて後悔したくない。……好きだよ、アスナ君」

 

 幸せで胸が一杯で、苦しい。

 笑顔を見せたいのに、こみ上げてくる感情のせいでうまく笑うことができない。

 けれど、タカミチの想いに答えたい。

 だからきっと、涙でぐしゃぐしゃになったひどい顔でアスナはタカミチに返した。

 

「私も……高畑先生が好きです。ずっと……ずっと好きだったんです。……ずっと……一緒にいてください」

 

 それ以上は言葉が続かなかった。

 

 タカミチの腕に、いっそう力がこもった。

 (すが)りつくように、離すまいとするように。

 タカミチの肩がかすかに震えていた。

 アスナは何も言わず、そっと抱き返した。

 

「ああ……ずっと一緒だ。もう離さない」

 

 

 ◆

 

 

 おそらく二人にとって、これが正解だったのだろう。

 何かひとつでも欠けていれば、タカミチは自分の思いに気付くことはなかった。

 未来へ旅立ち、二人が思いを交わすことはなかった。

 

 失ったものもある。

 けれど、百年を超えた先で、二人はついに幸いに包まれた。




久しぶりにネギまを読む→タカミチとアスナの話を見たい→ssを探す→見つからない→自給自足しかないのか……

そんな流れで勢いで書きました。

なお、この世界線ではチャオは登場しません。
この先も二人でこの世界を生きていくことになります。


話の流れ的に外さざるを得なかったシーンがあるので、もしかしたら後日談を書くかもしれません。

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