パラメータとかは今回もないです。
今日は家具屋さんに行く日だ。
いつものようにすっきり目が覚めた俺は、うきうきしながら服装を選んだ。
うーん、どうしよう!エリュークさんに買ってもらった街着は全部可愛いけど、その中でも落ち着いた雰囲気のものを選ぶことにする。
黒とか紫はエリュークさんの色っていうイメージになっているから、そういう色が入ってる服だと嬉しくなるね。ううん、でも半分くらいは紫か黒が入ってるなぁ。悩ましい……!
美的センスはあんまりないんだけど、うんうん唸りながらなんとか服装を決めて、髪の毛も整えてしまうことにする。
昨日褒められたからね、今日もアレンジしちゃおうという精神。……また褒めてもらえたら嬉しいな!
まあラナカちゃんは可愛いから。可愛いことそれ自体は普遍の事実だからね。
期待も込めつつ髪型を選ぶ。
本さんに頼んで今日は編み込みのあるハーフアップにした。お淑やかなお嬢様感が出てるんじゃなかろうか。
鏡の前でくるっと回ると長いスカートがふわりと後を追ってたなびく。布地は黒、裏地に銀、裾の方から模様が紫で入っているものにした。前面が少し短くて、後ろ側は
長袖のブラウスは丈が短くてレースが多めのやつ。クロップド丈というらしい。色はスカートと揃えて黒にした。袖と胸元に銀の飾りボタンが付いていて可愛い。さらっとしながらも高級感のある生地は上品さを感じる。
襟ぐりがちょっとだけ広くて、ラナカちゃんの綺麗な首筋がはっきり見える感じ。薄手の上着を羽織るから基本的には見えないんだけど、デコルテが見えた方が可愛い気がしたから選んだよ。
レース地で作られているため下のブラウスが透けるシースルーカーディガンは薄めの灰色。
黒く艶のある革で出来た細身のショートブーツに、踝くらいまでの靴下。
全体的にモノトーンで、所々差し色で紫や銀を入れている。シルエットは基本タイトめで、カーディガンは少しふんわり、スカートだけ動くと布地が多いのがわかる。
うんうん、ラナカちゃんの黒髪と緑目が映える組み合わせじゃないだろうか。
本さんどうかな、似合ってる?俺的にはめちゃくちゃ可愛いんじゃないかと思うんだけど。
うん。
だよねだよね、これならエリュークさんにも褒めてもらえそうだよね!
ブレスレット、指輪、バレッタ、ネックレス。宝物であるお守りたちがきちんと装備されていることを確認。
一粒の黒い宝石と揃いの銀細工。ブレスレットだけは革地だけど、初めてもらったプレゼントということもあって特別感があるね。角度を変えると模様が変化するのも素敵だ。
よし、完璧だ。
俺はにこにこしながら階下に降りた。
早起きしたからね、服装に悩んでいても朝ごはんには余裕で間に合うというもの。
「おはようございます、エリュークさんっ」
「…………おはよう、ございます」
今日のエリュークさんの髪型は上の方でお団子を作ったあと下を流す変則的なハーフアップだった。
ハーフアップ! 俺とお揃いだね。
銀の簪を着けているのも相俟って、俺とのペアコーデ感がマシマシ。偶然だけど嬉しいね。
前髪はもちろん長く垂らされているので表情はほぼほぼ隠れてしまっているけど、微かに覗く口元がぽかんと開いているのが見えた。
「エリュークさん?どうしました?」
「いえ……」
エリュークさんは調理器具を置くと、こちらに近寄ってきて俺の手をぎゅっと握った。顔がぐっと近付く。はい、なんでしょう。
いつも通りの低くて穏やかで耳が蕩けるような良い声が落とされる。
「この世の何よりも、可愛い、です」
真剣で冗談の欠けらも無い台詞だった。
俺はぱちぱち、と瞬きをした後、思わず頬を染めて照れてしまった。なん、いや、ラナカちゃんは可愛いけど!褒めてくれて嬉しいけど!
動揺がまろびでてしまう!
「えっ、えへ、えへへっ!もうっ、褒め上手なんですから」
「ラナカさんが、可愛いので」
「ありがとうございます、嬉しいです。……えっと、わたしも、あの、エリュークさんが一番かっこいいって思ってます」
「………………ありがとう、ございます」
照れ照れとした雰囲気を二人で形成してしまうね。
穏やかな朝の光が射すキッチン。今日は雑貨屋さんもお休みなのでのんびり進行なのだ。
「エリュークさんとお出かけなので、可愛い格好にしたくて。褒めていただけるかなって、ちょっと期待しちゃってました」
「心の底から、いくらでも、褒めます、よ?……可愛い、です」
「嬉しいです!でももう褒めていただけたので、それで大満足ですよっ」
というか、褒められすぎるともっと照れてしまうよ。
俺は尚も褒めたそうにしているエリュークさんの背中を押して朝ごはんを一緒に作った。
今日のごはんは定食風。少なめの副菜がいくつかと、ボウルに盛られた主菜。あと焼きたてのパンと暖かいポタージュスープ。
食前の挨拶をしてから食べ始める。
温かくて美味しくて、心がぽかぽかする。ずっとここでエリュークさんといられたらいいのになぁ。
ゲームだから無理だっていうのはわかってるけど、ログアウトした後もエリュークさんが隣にいたら……というのを想像してしまう。だってそうなったらすごくすごく嬉しいから。
でも、その時の俺は世界一可愛いラナカちゃんじゃなくて普通の男になってしまうから、彼と会えるのがここだけでよかったとも思う。
俺の人生の中で一番かっこいい人の隣には一番可愛い姿で居たいもん。
口の中のものを飲み込んでから、エリュークさんに話しかける。
「……今日はオグドさんのお店に行くんですよね?」
「はい。思えば、簡素な、部屋で……申し訳、ないです。もっと家具を、用意して、おけば…………」
「えっ! いえいえ、お部屋を貸してもらっているだけで十分良くしてもらっていますよ」
「…………ラナカさんに、とって、ここは居心地の、良い、家です、か?」
「はい、もちろんですっ! なんと言ってもエリュークさんがいるんですから!」
「そ、うです、か」
エリュークさんはことりとカトラリーを置くと、長い指先を所在なさげに交差させてちらちらとこちらを伺っているようだった。昨日教えてもらった魔石でできた黒い爪がゆらゆらと揺れている。
照れてるのかなぁ、可愛い。
可愛くてカッコよくて頼りになって、エリュークさんってば完全無欠すぎるね。
俺はもうにこにこしてしまって、エリュークさんを眺めながら食べるご飯はいつも以上に美味しく感じた。
◇
食事が終わったあとエリュークさんはお出掛けの用意のために暫く自室に戻って、俺は手持ち無沙汰なのを本さんと戯れながら過ごした。本さんは何を聞いても返事をくれるので話していて楽しい。
とん、とん、と静かな足音。
エリュークさんはその大きな体に見合わず発する音がとても小さいんだ。暗殺者みたいでかっこいいと思う。
「お待たせ、しまし、た」
俺の前に姿を現した彼は、ラナカちゃんと同じモノトーンの服に身を包んでいた。
ゆるっとしたシルエットの黒いワイシャツに、長い足を包むスラックス。エリュークさんは腰が高くて足がとにかく長いから、いつものエプロン姿ではなくこうした格好をすると足の長さが際立つ。
袖や襟には切り返すように紫の布地が使われていて、飾りボタンは銀色。
髪型はさっきと同じお団子ハーフアップのまま。紫がかった黒髪はいつ見てもさらさらで、ちょこんと覗く結晶のような角がアクセサリーみたい。
というか、どことなくペアルック感を醸し出すチョイスでは……!?
ラナカちゃんとお揃いなのでは……!?
色も、服装のジャンルも、二人で並ぶと最初から一緒に誂えたよう。
こんなの、もう、もう、仲良しじゃん……!!!
俺は座っていた椅子から立ち上がると、てってこ彼の前に行って僅かに口許が見える顔を見上げた。
なんだかちょっと緊張しているような雰囲気を感じるが、俺のきらきらお目目の前にはその緊張した姿すら愛おしい。
「エリュークさんっ」
「は、い」
「すっごくすっごくかっこいいです!」
「ぇ」
更にテンションがめちゃくちゃ上がった俺は、ビシッと固まったエリュークさんを眺めながらその周りをくるくる回ったあと、正面から彼の手をぎゅっと握り締めた。俺はちょっと背伸びをして、エリュークさんは背を少し屈めてくれる。いつもの体勢だ。
「それに、お揃いですね……っ!」
「か、勝手に、お揃いに、してしまって、……すみません」
「どうして謝るんですか!? もう、こんなに嬉しいのに!」
俺がわっ、と捲し立てると、きょとんとしたような雰囲気をされた。
「…………嬉しい、です、か?」
「もちろんです! えへへ、エリュークさんとのお出掛けってだけで楽しみだったのに服装もお揃いなんて嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうですよ!」
思わず手をぶんぶん振ってしまい、握っていたエリュークさんの大きな手のひらも連動してぐらぐら揺れた。
きゅ、と口を結んでいたエリュークさんは優しく俺の指に自身の長い指を絡めると、包み込むように手を繋いできた。俺も絡めた指先が離れないように力を込める。
エリュークさんからもらった銀の指輪がじわじわと熱を持っているようだ。いや、黒い魔石が温かくなっているのかな。ひんやりとした体温がそれに対比して心地良い。
「…………オレの、色に、身を包んでいる、ラナカさんが…………、いえ、ラナカさんの、隣なら、お揃いがいいなと、思っ、て」
「えっ、私がエリュークさんの色を選んだことわかってたんですか?」
「………………そ、うなんです、か?」
「えへへ、バレてると思うと恥ずかしいですねっ」
「……ラナカさんは、本当に、可愛い、です、ね?」
「やったぁ、エリュークさんはかっこいいですよ!」
「……ありがとう、ございます」
えへーっと笑いあって、俺たちはオグドさんのお店に行くことにした。
もちろん手は繋いだままだよ。俺もどんどんエリュークさんと手を繋ぐのが大好きになってきてるね。
いや、彼といると何でも嬉しいんだけどさ。
ふわふわと浮かれきった俺はいつも以上に笑みを浮かべながらエリュークさんの傍を歩いていく。
エリュークさんはいつもより更に近い距離で、いつもより紳士な所作をしていた。
通りすがりの来訪者(ごつごつとした装備だった)から守るようにさりげなく動いてくれたり、余所見していて転びそうになった俺を転ぶ前から支えてくれたり、その全てが慈しみと優しさに満ちていて、俺ははにかんでエリュークさんに応えた。
近いと聞いていた通り、短時間で辿り着いたオグドさんの家具工房は、平屋に大きな窓ガラスが嵌められた高級そうな建物だった。勝手に職人さんっぽい所かと思っていたけど、販売も兼ねたモデルルームになっているみたいだね。
「おぉ、大きいですね……」
「良い品を作ると、有名です、よ」
「楽しみですねっ」
「はい、とても」
二人で中に入ると、人数は少ないけれどちらほらとお客さんがいた。殆どが住民……かな?馴染んだ服を着てるからわかんないや。
ただみんなそれぞれ家具に集中していて、入口近くの人だけ俺たちが来たことをちらりと確認したくらいだった。
いい雰囲気のお店だ……!
室内には様々な家具が並べられ、そのどれもが使い心地が良さそう。それに大きさの調整もすぐに出来るとのこと。
色合いはナチュラルなものが中心で、お洒落なデザイナー系というよりは実用性の高いファミリー向けといった印象を受ける。
ゆっくりと店内を歩き回り、あれいいですね、これも素敵ですよ、なんてひそひそ囁き合う。
今も一緒に住んでいるけど、こうして家具を選んでいると本当に家族になったみたいだなぁ。ふふ、エリュークさんは優しいお兄ちゃんでラナカちゃんが妹……みたいな。
俺は当初から目星をつけていたランプ売り場で、可愛い翡翠色のランプシェードに一目惚れをして購入することに決めた。
エリュークさんが買ってくれようとするのを押しとどめて自分の買い物カゴ(お店が用意したインベントリを俺は便宜的にそう読んでいる)に投入。
ちょっぴり残念そうなエリュークさんの手を引きながら、他の場所に足を向ける。うーん、見ていると色々欲しくなってくるね。
今はインベントリに入れっぱなしになっている植生図鑑を収納する用の本棚とかも欲しいかも。
でもやっぱり家具っていい値段がするからなぁ……悩ましい。
「楽しそう、ですね、ラナカさん」
「えへへ、こうして色々見て回るの好きなんです」
「オレが何でも買います、よ?」
「ありがたいですけど、吟味するのも楽しいので……! あ、でもエリュークさんは何か買わないんですか?」
「そう、です、ね……」
エリュークさんは予想外の質問が来たような雰囲気で少し考え込み、小さく首を傾げた。
「ラナカさんには、色々と、あげたいものがあります、が、自分になると……どうにも」
「確かにエリュークさんのお家は既に家具が揃ってますもんね」
最近この世界に来たばかりの俺と違って、ずっとここで暮らしてきたエリュークさんのお家に家具がない方がおかしいね。
ううーん、何かプレゼントしようとしても困らせちゃうかな……。
俺たちが小さくお喋りをしていると、後ろに近付いてくる人の気配。
「よう、おふたりさん。来てくれたんだな? 嬉しいぜ」
子供のような背丈ながらがっしりとした体格は成人した男性のもの。低い声をからからと快活に響かせながら、もじゃっとした眉の下でにっかり笑顔を見せる小人族。
家具職人のオグドさんである。
俺はぱっと顔を綻ばせ、エリュークさんはその大きな体をゆっくりと折り曲げた。
「オグドさん! こんにちは」
「こんにち、は」
「おう。どうだい、俺ぁの工房はよ」
「えへへ、全部素敵で目移りしちゃいます。特にさっき見つけたこのランプシェードが本当に可愛くて!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、ほれ、言ってた通り安くするからよ」
「えぇっ!?」
オグドさんが手元の装置をぱっぱと動かすと値段ががくっと下がった。具体的に言うと3割くらい。
俺が慌てていると、オグドさんは豪快に笑った。
「これも祝いの品だ、受けとんな。この街の奴らはよぉ、エリュークさんにゃ助けられてきてんだ、少しでも返させてくれってもんよ」
「えりゅ、エリュークさんの功績をわたしが貰うのはどうなんでしょう!?」
「なぁに言ってんだ、お嬢ちゃんはもうエリュークさんとこの子だろ? 遠慮せんでも大丈夫だ。な、エリュークさん」
「はい」
確かに俺はエリュークさんの雑貨屋さんの店員だけども……!エリュークさんも同意してるのは何故!
というかここまで好かれてるエリュークさんは何をしたんだ。世界一強くて優しくてかっこいいってこと??? それは知ってたけど……?
「それに特急で仕上げたからな、本命ももう出来てるぜ。こっちだ、ほれ、ついてきな」
「は、はぁい……っ」
俺はぐるぐる目を回しながらオグドさんの後ろについていく。
エリュークさんもどことなく緊張している。きゅ、と繋いだ指先が握られたところからもそれが伝わってくる。
オグドさんは勢いがすごいってわけではないんだけど、意思が強くて全てが彼の引力に導かれていくみたいだった。
表の家具が並んでいたところから裏の通路に入り、加工用品や材料などが綺麗に収められた部屋を抜けると、そこはオグドさんの仕事場であった。
職人さんの部屋って感じだ。否が応でもテンションが上がるね。
中央には布が被せられた物体があって、それがオグドさんが見せようとしているものだとわかる。
「これだ」
小人族らしい逞しい腕によって一気に布が取り払われる。
部屋のど真ん中に鎮座していたのは大きなベッドだった。
見ているだけでそこに寝転んでしまいたくなる魅力がある。絶対に快眠できそうな素敵なベッド。
それにエリュークさんが寝転んでも余裕だと一目でわかるほど大きい。
というか横幅も大きいから、ラナカちゃん3人くらいならのびのび寝られそうだ。
「大きいベッドですね……?」
「おう、祝いの品だからな。エリュークさんの体格でも大丈夫なように大きさと材質には拘らせてもらったぜ。布団も特注の最高級品だ、これなら目覚めた時にいつも絶好調ってもんよ」
「ありがとう、ございます」
「へっへ、こんくらいお安い御用よ。嬢ちゃんもどうだい?」
「とっても素敵です。よく寝れそうですねっ」
「わかってるねえ、まあこれからはおふたりさんのモンだから好きに使ってくれや」
おふたりさんのもの……?
えっ、これ俺とエリュークさん用なのか。
だからこんなにも大きく、いやそもそもなんで二人用のベッドを……?
俺がびっくりしていると、エリュークさんが軽く手を引いてきたので顔を近付けた。
何度聴いても低くて穏やかで背筋がぞくぞくするほど色気のある声が耳に流し込まれる。
「ラナカさんと、朝から、晩まで、ずっと一緒にいたくて……オレと、一緒の部屋で、寝てくれません、か?」
「ふぇ、も、もちろんいいですよっ!」
良い声すぎて気絶するかと思ったが、俺は即座にこくこくと頷いた。
否やなんて言うはずがないじゃんね。
俺だってずっとずっとエリュークさんと一緒がいいんだもん。
それに、二人で並んで寝るなんてめちゃくちゃ楽しそうじゃないか。俺は行ったことないけど、修学旅行みたいに夜中まで語り合えるのが毎日になるってことだよね。
好きなものの話とか、今日あったこととか、明日何をしようかとか、眠りに落ちるまで好きなだけ喋れるんだろうな。喋ることがなくなっても隣にエリュークさんの気配を感じながらいられるし、起きた時に最初に目に入るのもエリュークさんってことだよね。
それってすごくない?
文字通り朝から晩までずっと一緒なんだ……!
未来への期待とエリュークさんへの親愛が俺の全身を埋めつくしていくみたいだった。体がぽかぽか暖かくなって、頬が紅潮する。絡めあった指先が愛しくて自然とエリュークさんに体を寄せたあと、オグドさんの方へ顔を振り向けた。
「えへへっ、オグドさんありがとうございます!」
「喜んでもらえりゃ何よりだ」
「エリュークさんもありがとうございますっ」
「お礼を言うのは、むしろ、こちらの方です、よ?」
「わたしもエリュークさんも嬉しい提案をしてくれたので!」
いい気持ちのままオグドさんとお会計をして、俺たちは帰路へついた。
道を歩きながらちらっとエリュークさんを見上げるとエリュークさんもこちらを見ていて、互いに照れて微笑み合うのを何度も繰り返した。
「今日は最後までずっと傍にいましょうね」
「はい。もちろん、です」
お昼は少し過ぎてしまっていたけど、ピークからズレているためか空いていたご飯屋さんでお腹を満たした。海鮮系で美味しかったなぁ。始まりの街は各地からモノが集まるというのもあって、ご飯のジャンルが多様なんだよね。
その後はぷらぷらと腹ごなしの散歩をして、夕方前には雑貨屋さんに戻ったよ。
「あ、そういえば、ベッドを置くのってわたしの部屋ですか? エリュークさんの部屋ですか?」
「オレの部屋、のつもりで、いましたが…………い、嫌でした、か?」
「そんなことないです! それに初めてエリュークさんのお部屋に入るので楽しみですよ」
「面白みのない、部屋です、が……」
「えへへ、エリュークさんの部屋っていうだけで素敵ですから」
「そう、ですか?」
「そうですよ」
自信満々に頷くと優しい雰囲気で頭を撫でられた。丁寧な動き。こっちを傷付けることなんて微塵も想像できないような。
思わずぱちぱちと目を瞬かせていると、俊敏な動きで一気に彼の腕が持ち上げられた。大焦りの雰囲気を感じる。
「すみません、あの、あ、きょ、距離を……ま、間違えました」
「もっと撫でてもいいんですよ?」
エリュークさんの手のひらを取ってラナカちゃんの黒髪の上に載せる。そのまま彼の顔を見上げる。
「エリュークさんですもん、いくらでも、どうぞ?」
「………………ラナカさんは、本当に、可愛いです、ね」
「えへへ、ありがとうございます!」
ちょっぴりぎこちなさの滲む動きで頭を撫でてもらった。
嬉しい。
目を閉じてそれを甘受していると、暫くしてからゆっくりと手のひらは離れていった。
もっと撫でてもらいたかったような名残惜しい気持ちになりつつ手櫛で髪の毛を整えた。
「こっち、です」
先導されながら、普段俺が立ち入らない居住区域に足を運んだ。
俺の部屋から奥に進んだ突き当たりがエリュークさんの部屋だった。
広さは俺に宛てがわれた部屋の二倍くらい。大きいベッドもこれなら余裕で置けそうだ。
背の高いエリュークさんに合わせて天井は高く、すんと鼻に香るのは薬草の匂い。
壁を埋め尽くすほどの本と、モノづくり用の工具。どれも手入れがきちんとされているが、使い込まれた雰囲気を感じる。ここで長い時間過ごしてきたんだなぁ。感慨深い……。
ぐるっと見回した部屋の中は道具から材料まで全部綺麗に整理整頓がされていて、エリュークさんらしい几帳面さが伺える。素敵だね。
「エリュークさんって感じの部屋です」
「そう、ですか?」
「素敵で、落ち着けて、いくらでもここに居たいなって感じます」
「…………ありがとう、ござい、ます」
エリュークさんが元々あったベッドをインベントリにしまってオグドさんのところで購入した新しいのに入れ替えている。
どーん、と置かれたそれはやっぱりとても大きい。俺たち二人で寝転んでも余裕たっぷりだ。
元々あったサイドテーブルには今日買ったランプを置かせてもらった。うんうん、この翡翠色がラナカちゃんの瞳の色っぽくて素敵だと思ってたんだよ。エリュークさんの部屋の雰囲気にも合う。
「寝るのが楽しみですね」
「はい。それでは、一階に、戻りましょう、か」
夜ご飯までの間、俺はエリュークさんから簡単な加工技術を教わって、いくつかお店に置いてある日用品を作れるようになった。レシピを本さんが記録してくれているから時間が経っても安心。
その後は夕食とお風呂を済ませ、いつもは俺が先に寝に行くところを今日は一緒にベッドに入った。
ふかふかの布団はしっかりと俺の体を受け止め、横になっただけで瞼が閉じそうになる。
ね、寝たくない!
俺はエリュークさんとお話するんだ……!
隣にいるエリュークさんは遠慮しているのかちょっと距離があったので、腕が触りそうな近さまでぐっと詰めた。体温が薄ら伝わる距離。布団の中で俺とエリュークさんの温かさが混じりあっていく。
それにいつもは身長差で見上げないといけないところを真っ直ぐ視線を向けられる。同じベッドで寝るって素敵だね。
ふわ、とエリュークさんの爽やかな匂いがする。
「ラナカさん」
「何でしょうか」
「あなたと…………、永遠に、一緒に、いたい、です」
「わたしもです。エリュークさんとずっとずっと一緒がいいです。えへへ、手を繋いでもいいですか?」
「もちろん、です」
腕を伝って大きな手のひらを引き寄せた。そのまま肩に凭れるように頭を預ける。さらさらとした髪の毛が俺の首筋を擽る。
ずっと一緒にいたい。
エリュークさんと一緒に食事を作って、お店を営業して、一緒に眠って、お休みの日は一緒におでかけしたりして。
そんな素敵で穏やかな毎日を過ごしたい。
でもこれはゲームで、エリュークさんは
俺は必ずログアウトしないといけないし、考えたくもないけどいつかこのゲームが終わる時が来たらエリュークさんともお別れしないといけない。
永遠なんてない。
それが悲しくて、受け入れがたくて、…………嫌だと、思った。
初めての感情だ。誰かとこんなにも離れがたく思うのは。
「ね、エリュークさん。わたし三日後にすぐまた来ます」
「待って、ます」
「本当は、離れたくないんですけど…………」
「オレもです、よ」
「同じ気持ちですね。お揃いです」
「はい。…………お揃い、ですね」
「えへへ、寝る直前までお話できるのってすごく贅沢に感じます。これからもそれが続くなんて、夢みたいです。あ、そういえば、エリュークさんからいただいた図鑑の中で少し気になるところがあって……」
「はい、何でも、聞いてください」
ログアウトするのが名残惜しくて、俺は制限時間ギリギリまでずっとエリュークさんに話しかけていた。
エリュークさんは全てに応えてくれるから、何を話しても話し足りなくなる。
他愛のない話を繰り返して、驚いたり、嬉しくなったり、またひとつエリュークさんのことを知ったり、それでもやっぱり時間は来てしまう。
ぎゅ、と絡めた指先に力を込めるとエリュークさんも優しく握り返してくれた。
「…………そろそろ、寝ないといけなくなっちゃいました」
「そう、ですよ、ね。……あの、ラナカさん」
「はい、何ですか?」
「オレは、あなたが傍にいる時も、いない時も、ずっと、ラナカさんのことを、想って、います。待っています」
訥々と紡がれる言葉は俺への強い想いに満ちていて、胸が詰まりそうになる。
「わたしも、エリュークさんのことばかり考えています。すぐ、会いに来ますから。待っててくださいね」
「もちろん、です。……おやすみなさい、ラナカさん」
「おやすみなさい、エリュークさん」
挨拶を交わしあう。
目を閉じるとすぐに俺の意識は落ちてログアウトに向かっていった。
また、早くエリュークさんに会いたいよ。
続きは未定です。