幼い頃、アタシは幼馴染と共に
“魔女の森”に迷い込んだ。

泣き叫び、取り乱した記憶だけが残り、
肝心の出来事は思い出せない。

数年後、森は消え都市になった。
だが、あの日の記憶だけが、
どこか不自然に欠けている。





以前、よそで投稿していた物を書き足して持って来ました。

1 / 1
昔他所で書いていた物を見直して持ってきたものです。
軽い気持ちで読んでください。


少女のいた森

「ちょっとー!たーくん!どこに行ったのー!近くにいるのなら出て来てよー!私、倒れちゃうよー!……本当に倒れちゃうよぅぅ。…うう、わああぁぁぁん。」

 

 ここは何処か遠くの国に属する木々が生い茂る森の中。

 頭上を照らす日差しは、木々の隙間から微かに零れる程度だった。

 昼間だと言うのに、森の奥は薄暗い。

 人も滅多に近寄らない場所だった。

 

 そんな森の中をこの少女は一人でいた。連れがいたのか少女は声を上げて叫ぶが、辺りに響くだけで戻っては来なかった。

 それでも少女は叫び続けていた。それしか出来る事が無かったのだろう。

 少女に荷物は無かった。持って来なかったのか、落としたのか、それを知る物はここにはいなかった。

 

「うう、おなかすいたぁ…。パン、どこ…いっちゃったぁの…?」

 

 少女の声は次第に小さくなっていった。

 もう叫ぶ力は残っていないのだろう。

 少女はまだ幼く、七五三を終えたばかりに見える。

 幼い体で森の奥をさまよい続ければ、体力が尽きてしまうのも無理はなかった。

 

「うぅぅ…」

 

 そして、ついに少女はその場にへたり込んでしまった。

 肩を震わせて、力なく吐く息は小さい。このままでは少女が死ぬのも時間の問題だ。

 幸いな事に、今はまだ日が高く辺りも暖かい。これならば寒さで凍え死ぬまでには時間が掛かる。

 それに、少女の上着は厚手だった。

 それまでに助けが来れば助かるだろう。だが、ここはこんな人も寄り付かない森の中。

 今の少女では助けを呼ぶ事も出来ないだろう。上着を考慮に入れたとしても、助けが来る可能性も低いだろう。

 この状況を打破できる方法は思い付かない。少女にはどうしようもない。

 

 

 

 時が経った。

 

 あれから高かった日は落ち、照らしていた木洩れ日は消えた。

 灯の無いこの森は真っ暗となった。あの少女はどうなったのだろうか。

 その過程に興味は無かった。だから、少女が死んでいく過程は見ていない。

 死んでいるだろうか、生きているだろうか。知りたいのはそれだけだ。その解に直接得る物は無い。だが、その解を知る事で私に得れらる物があった。だから私は、その解を知るためにこの森を進んでいた。柄にもなく心は浮ついていた。少女はすぐそばだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前をけたたましい音を立てて列車が走って行く。

 ここは大国の中心地。

 塗装されたコンクリートの壁が立ち並ぶ並木通りに、鉄の車輪が行き来する。交差点には青信号を待つ、人々の波がうねりあっていた。

 ここには大きな都市が栄えている。

 そんな中、少し大人になった少女は、感慨深い物を感じていた。

 ここは数年程前までは、大きくて暗い森が広がっていた。人は寄り付かず、整備もされずに伸びきった木々。日差しが入り辛くて昼間でも薄暗かった。

 そのせいで人々にあの森は魔女の森と恐れられ、滅多に人が立ち入らない場所となっていた。

 アタシも用事が無ければそんな場所には立ち入らなかった。

 

「……本当にあの時はどうかしていたわ」

 

 アタシがまだ幼かった頃に、一度だけあの森を訪れた事がある。その時は、いくつだったかしら?…5歳、かしらね。

 幼馴染の、当時はたーくんと呼んでいた彼。その彼と共に、森の奥に生息している、なんて言われていた植物を採取しに行った。

 …思えばあの頃は、噂話を受け流す事を知らなかったな。

 今ならそんな事はしない。それに、暗い森に二人で入るにしては、装備が心許無かった。

 ランタンに肩掛け鞄。用意できたのがそんな装備だった。

 だから、はぐれた時はそれはもう大変だった。

 彼とはぐれたのは森の中腹部辺りだと思う。

 散策しながら歩いていたアタシは、彼とは違う道を歩いているのに、気が付かなかったのだ。

 しかも、肩に掛けていた鞄は休憩している時に、何処かに行ってしまった。

 あの中には後で食べようと入れていたパンが、入っていたのに。

 持って来た荷物も無くなって、あんな暗い森の中で一人になった。

 

 

 …だから仕方なかったんだ。

 焦って混乱状態に陥ったって、仕方が無かったんだ。

 

 

 あの時はどうしようも無くなっていて、本気で焦っていた。

 だから何か、すっごいこっぱずかしい事をしていた気がする。

 誰もいない状況だったから、たがが外れていたはずだから。いつもと違う事を、口走っていたはずなんだ。

 

 しかし、あの時の記憶は何故か、靄が掛かった様に思い出せない。

 ただ、アタシが何かを口走っていた事。それだけが、頭の中に残っているのだ。

 年を取って、大人になった今でも、あの時に何を口走っていたのかは思い出せない。

 でも、別に内容を知りたい訳じゃ無い。…思い出すとはずかしいし。

 …ただ、それを彼に聞かれていたのか。それが気がかりなのだ。

 彼がそんな事を気にするような人じゃ無いのは、分かっている。

 でも、アタシ自身の問題として、彼にそんな姿を見られたなんて嫌だ。

 知ったら彼は絶対にイジってくる。彼だけ知ってる状態でイジられるなんて………本当に嫌だ。

 だから、はずかしいけど思い出す事を偶にやっている。

 …成功はしてないけれど。

 本当にあの時程、焦ったらダメだって思う事は無い。

 あの時だって、深呼吸でもしていればこんな事にはならなかったのだ。

 だってあの時、着ていた上着のポッケに、両手程のお菓子が入っていた。落ち着いていれば、醜態をさらさないで済んでいたはず。

 それなのにアタシは落ち着く事が出来なかった。

 子供だったから仕方ない、そう割り切れたら楽なのだろう。

 でも、アタシにとって羞恥という物、は簡単に割り切れる物では無かった。

 

 実際にアタシが落ち着いたのは、そんな醜態をさらした後だった。

 散々騒いだアタシは疲れて、その場に座り込んでいた。

 肩を震わせて呼吸を整えようとしていた。

 

 そんな時だった。

 

 ガサ……

 

 すぐ近くの茂みが揺れる。

 風ではない。誰かが、そこを歩いたような音だ。

 

 聞こえた瞬間、アタシは何を思ったのか咄嗟に死んだ振りをした。

 おそらく熊が来たと思ったからだ。

 今になって思えば、あれは人間だったのかなぁと思う。あの森で熊が出た何て噂は聞かなかったし…。

 

 その物音は死んだ振りを続けるアタシを置いて、何処かに行ってしまった。

 遠くなった物音を背に体を起こす。

 助けてくれなかった。その時に思ったのはそれだ。

 やっぱり熊だったのかな?

 人間だったら、アタシのことを助けてくれたはずだし。

 

 

 考えていたら、自然と落ち着いて来たんだよね。

 だから、ガサっていった上着のポッケにも気づけたんだ。

 取り出した時は、なんか安堵と渇いた笑みが浮かんだんだ。

 入っていたお菓子は、森に行く前日に親から貰っていたお菓子だった。着ていた上着に入れっぱなしになっていたのだ。

 思わず、最初から気づけよって自分に言っちゃった。

 まあ、その後すぐに腹に入れたんだけども。

 まあ、助かったんだしいいか。……いや、やっぱりあの助かり方は良くないわ。

 

 だって、アタシが助かった原因は森で火事が起こったからだし。

 火の元は彼なのが更に良くないわ。

 なんで転んだ拍子に、ランタンを壊して森に引火させるのよ!

 しかも、彼が転んだ場所がアタシのいた所から5分も掛からない所だったのよ!

 そんなに近くにいたのなら、アタシの叫び声で来てくれてもいいじゃない、聞こえる距離にいたでしょうに!

 ……あ、でも聞かれたらはずかしい。

 …でも、助かった。

 助かったから、それで良いのよ。…そうよね?

 

「おーい、おーい、きこえてるー?」

「ええ、助かったから良かったのよ!」

「…助かった?…何の事だ?おーい、返事してくれ。」

 

 ええ、助かったから、アタシが多少はずかしい所を見られても良いのよ。うん。

 ………あら?彼の声が聞こえたような…?

 

「…ん、やっと気が付いたか?呼んでも譫言ばっかだから心配したぜ?」

「………(ぱくぱく)」

「ん、またか?」

「い、何時からい、いたのよ!」

「何時からって言われてもなぁ…。そうだな、お前がこう、遠くを見ていたあたりかな?なんかこう、昔を思い出すような感じで。」

 

 いつの間にか現れていたこの男は、さっきからアタシの回想に出て来ていた幼馴染である。

 それにしたって、はっきりしない答え方ねぇ。

 それじゃあ、何時からかわかんないわよ…。

 それなのに、なんで的確に当てて来るのよ。アタシの心を読めるっていうの?

 

「それで、何を見てたんだ?随分長く見ていたけど」

「……別に、わざわざあなたに言うほど大した物じゃないわよ」

「えー、そう言われると気になるんだけど」

「そんな事を言っても絶対に教えないからね」

「…はいはい、分かったよ。もう聞かない、これでいい?」

「…ええ、まあ、それでいいわ」

 

 彼は困った顔をしながら両手を挙げて、降参の旨を伝えて来る。

 …これ以上駄々を捏ねたら馬鹿な子供と同じじゃない。

 そう考えると自然にアタシの方が折れて彼を許した。

 これが惚れた弱みって奴なの?…まったくもう、仕方ないんだから。

 

「あ、そうだ。他にも用事があったんだ」

「なによ、レポートか何かかしら?」

「お、良く分かったね。教授からこれを明後日までに仕上げて来てくれって言われてね。僕じゃあ、終わりそうになかったから君に手伝って欲しかったんだ」

「時間ないじゃない!急ぎましょう、明後日ならギリギリね」

 

 ああ、あの森は大きい都市に変わったのに、彼やアタシは変わらないのね。

 全然閉まらないじゃない。まったくもう、無理やり終わるわよ。

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ、昔で思い出した」

「急にどうしたのよ、びっくりしたじゃない」

「ああ、ごめんごめん。いやさぁ、森の火事があったじゃん。原因は俺だけど」

「そうね、結構大事になったわね」

「それでさぁ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あの後にさ、あの森で死体が発見されたんだ」

 

 

「へ、そんなの聞いた事無いわよ!?…まさか、火事で…?」

「いや、死因は別だったみたい。あの森って熊が出没するんだ。だから、それは熊に襲われたからっていう事みたい。」

「…そうなの、あんたが殺したんじゃないかと心配したじゃない。…でもまあ、良かったわ。幼馴染に人殺しがいたなんて目覚めが悪すぎる物。」

「…そうだね。」

 そう言っていた彼は、不思議と遠くを観ていた。

 

 彼の瞳に映っていたあの少女は、誰だったのだろうか。

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。