「おっはようございま────」
「お友達ごっこは他所でやれぇ」
「はぇ?」
雄英高校1年A組教室。意気揚々と登校してきた瞬に待ち構えていたのは小汚いおっさんのひと言で始まった。
──グラウンド──
「くッ! 入学式、ガイダンス、楽しみにしてたのに……」
担任・相澤消太が「雄英の校風は自由だ」と言い放ち、入学式をまるごとスキップして即座に個性把握テストを開始した。
「ガイダンスは? 入学式は?」
「プロヒーローになったら、そんな悠長な時間はねぇよ」
相澤はスマホを掲げ、淡々と続ける。
「これ、入試前にやっただろ。個性禁止の体力測定……正直、合理性に欠ける。文部科学省の怠慢だな」
ため息をつき、スマホをポケットにしまうと、視線を瞬に向けた。
「瞬。お前、入試実技で1位だったな」
「はい」
「じゃあ個性を使って、ボール投げをやってみろ」
「その……個性はありません」
「「「えッ!?!?」」」
「でもノッキング技術はあります!」
「「「ノッ……キング??」」」
A組の面々は様々な反応をする。ある者はノッキングに対しての興味、ある者はどうやって試験に合格したのか、ある者は怒気がこもった瞳で瞬を睨み続けていた。
「そう言えばそうだったな。すまない、個性なしでも良いから投げてみろ」
「はい!」
相澤先生からボールを受け取り瞬は投げる姿勢を取る。これはビッグバンの応用、筋肉を極限まで収縮し腕が黒く染まる。
「がぁぁ!!」
ボールは空を切り爆発的に距離を稼いでいき反対側のネットまで届く。
「あ〜もしネットに阻まれなければ」
相澤のスマホに表示された数字──1693m。
「1693メートル……マジかよ」
「1キロ超え!?」
「無個性でその距離はもう化け物だろ」
「なにコレ、面白そー!」
「面白そう、か……」
相澤の目が細まる。
不敵な、どこか冷たい笑みが浮かんだ。
「お前ら、3年間そんな腹づもりでヒーローを目指すつもりか? ……よし。決めた」
クラスが息を呑む中、相澤は静かに、しかし確実に宣告した。
「今回の体力測定で最下位の者は、除籍だ」
「えっ……!?」
「なんと!?」
ざわめきが広がるが、相澤はまるで風のように流す。
「驚いてる暇があったら、さっさと始めろ」
──50M走──
「よぅ! 確か飯田君だっけか?」
「む! そうだ確か君は針山瞬君だったか!」
「そう! 瞬って呼んでくれ」
「分かった、僕も呼び捨てで構わない。1年間よろしく瞬」
「それで話しかけた理由なんだけどな競争しねぇか?」
「競争?」
瞬の提案は単純50M走で速いやつを決める単純な勝負。
「良いだろう、僕に挑んだことを後悔してくれ」
「よっしゃ! じゃあ行くぜ?」
両者スタートラインに並び合図を待つ。
「よ〜い……スタート」
飯田は最初からエンジンをフルスロットルにし爆速で駆ける。それに対し瞬も負けじと猛スピードで走り抜ける。
記録
飯田3.04秒
瞬3.45秒
「どわー負けた〜」
「ふぅ……ふぅ危なかった、瞬! 君は本当に無個性なのかね?」
「そうだよ?」
「凄いな一体どうやって鍛えたんだい?」
「ジジイに死ぬほどシゴかれたからな、実際何回か死んだかもしれねぇ」
「はっはっは、瞬は冗談がうまいな」
事実瞬が言っていることは間違っていない。次郎との修行で瞬は何度か心肺停止状態になり、その度にノッキングで叩き起こされていた。
「よし次は──」
──そうして数時間後──
個性把握テストは順調に進み遂に終わりを迎えた。残るは結果発表のみ。
「それじゃあ結果発表するぞ」
相澤がランキングを投影する。
——総合順位発表。
1位:針山瞬
2位:八百万
3位:轟焦凍
「おっしゃ〜!!」
「スゲェ! 無個性で1位だ」
「とんでもないな君は……」
「悔しいですけど負けを認めますわ」
「がはは! 八百万さんも頑張ったな」
「うぐぐ……悔しいですわ」
「それはそうと相澤先生?」
瞬が手を挙げて相澤先生を呼ぶ。
相澤は深いため息をつき、面倒くさそうに振り返る。
「……なんだ」
「除籍はしないんですか?」
「あ!」
「そう言えば!」
「あれね、嘘。合理的虚偽ってやつだ」
「「「……嘘ぉぉぉ!!!」」」
「それじゃあ解散。教科書やカリキュラムは机の上にあるからな」
そう言い残し相澤先生はそのままふらふらと何処かへ行ってしまった。
「そんじゃあ皆。教室に行こうぜ」
「えぇ、貴方のことも聞きたいですし」
「お? ナンパか?」
「違います!!」
八百万が顔を真っ赤にしながら否定する。
「ケロ、面白い子ね」
──1年A組教室──
教室に戻ると、瞬は自分の机に飛び乗って両手を広げた。
「皆、俺に興味津々らしいので質問会を開催しま〜す!!」
「イェ〜イ」
「「「……」」」
ほとんどの生徒が呆れた顔をしている中、唯一ノリノリでついてきたのは透明化個性の葉隠透だった。
「ハイハイ!」
葉隠透がぴょんぴょん跳ねながら手を挙げる。
「そこの透明少女! ノリが良いねぇ! まずは君から!」
「それじゃあ……針山くんって本当に無個性なの? どうやって入試で0ポイントロボ壊したの?」
「まず無個性は本当。なんかないか試行錯誤したけど個性らしい個性は見つからなかった。入試は身体一つでぶっ壊した」
「ぶっ壊したって……」
「それとノッキングって何?」
「簡単に言うと筋肉の動きに干渉して動きを止める方法だよ、試しに受けてみたい人はいる?」
「よっしゃ! じゃあ俺にしてくれ」
切島が目を輝かせて前に出る。
「良いねぇ。じゃあちょっとだけ。ノッキング」
瞬は軽く切島の肩に指を当てそして離れる。
「ガッ」
一瞬で切島の体が硬直し、ピクリとも動かなくなる。
「えッ、今軽く触れただけじゃ……」
「切島? ……切島!?」
瞬はすぐに肩に指を置き。
「はい、ノッキング解除」
切島が大きく息を吐き、興奮した顔で叫ぶ。
「はぁ! はぁ! スゲェ!! 全く動けなかったぜ!」
クラスが再びざわつき、質問が一気に増え始めた。
「俺も俺も! ノッキングって痛いの?」
「ケロ、興味深いわね。筋肉に干渉するってことは、硬化個性にも効くの?」
「……お、おっぱい触れる?」
「峰田くん!?」
瞬は苦笑いしながら手を振る。
「触れないよ! 悪いけど、悪用は禁止な!」
八百万百が手を挙げ質問をする。
「では私からも。針山さんは、これからどんなヒーローを目指していくのですか??」
瞬はみんなの顔をゆっくりと見回し、真剣な表情で答えた。
「俺は……誰も見捨てないヒーローになりたい。一度捨てられたからこそ、誰かを絶対に捨てないヒーローになりたいんだ」
一瞬、教室が静まり返る。
緑谷が小さく呟く。
「……かっこいい……」
麗日お茶子が明るく手を叩く。
「針山くん、いいね! 私も一緒に頑張るよ!」
瞬は照れくさそうに笑いながら、みんなに言った。
「みんな、よろしくな。これから1年間、一緒に強くなろうぜ!」
教室に温かい笑い声と拍手が広がった。
瞬はみんなの顔を見て、心の中で静かに思う。
(ジジイ……俺、ちゃんとここでやっていけそうだよ)
——雄英高校・屋内訓練場──
あれから数日後。
クラスメイトと少しずつ打ち解けてきた瞬は、巨大な扉の前に立っていた。
重厚な扉がゆっくりと開くと、そこに現れたのは満面の笑みを浮かべた巨大なシルエット。
「今日の授業は……屋内対人戦闘訓練だァァァ!!」
オールマイトの声が訓練場に響き渡る。
クラスが一瞬にして沸いた。
「うおおお! マジかよ!」
「ついに本格的な戦闘訓練だ!」
興奮の声が飛び交う中、オールマイトはくじ引きの箱を高く掲げて説明を続ける。
「ペアをくじで決め、ヒーロー側 vs ヴィラン側! 仮想核兵器の奪取か、相手の捕獲で勝負だ! さぁ、始めよ──!」
合図をしようとしたオールマイトを、八百万百が静かに手を挙げて止めた。
「先生」
「なんだい?」
「生徒は21名ですので……1人余ってしまうのでは?」
「…………」
「…………」
オールマイトの完璧なスマイルが、一瞬で凍りついた。
額に大粒の汗が浮かび、明らかに「やっちまった」という顔をしている。
「む、むむむ……確かにその通りだ……」
クラスがざわつく。
「え、マジで? どうすんの?」
「オールマイト先生、計算ミス!?」
「21人って奇数だから……」
オールマイトは豪快に笑いながらも、明らかに動揺を隠せていない。
「はっはっは! これは失態だな! しかし心配するな! プロヒーローは柔軟に対応するものだ!」
その時、瞬が軽く手を挙げた。
「先生、俺は一人でやっても大丈夫ですよ?
ヴィラン側、ヒーロー側を一人でやります」
オールマイトが目を丸くする。
「針山少年! それは……本当にいいのか?」
瞬は笑顔で頷く。
「はい。みんなと戦えるなら、むしろ楽しみです」
クラスが少しざわめく。
オールマイトは少し考えた後、大きく頷いた。
「よし! では針山少年は特別に一人チームとする! 他のペアは通常通り、ヒーロー側とヴィラン側に分かれて戦ってもらう! さぁくじ引きを始めよう!」
くじ引きの結果、瞬はヴィラン側に決定。
ヒーロー側との対戦相手は——
葉隠透 & 尾白猿夫 のペアだった。
オールマイトが明るく発表する。
「最後の対戦カード!
ヴィラン側:針山瞬
ヒーロー側:葉隠透&尾白猿夫
準備ができ次第、開始するぞ!」
クラスが少しざわつく。
「葉隠ちゃんと尾白か……意外な組み合わせだな」
「尾白の尻尾と葉隠の透明化……針山、どう戦うんだ?」
瞬は二人に向かって穏やかに笑いかける。
「葉隠さん、尾白くん、よろしくね。二人とも、遠慮なく来てくれ」
葉隠透は元気よく手を振り。
「了解〜! 針山くん。私、透明だから見えないよ〜?」
尾白猿夫は尻尾を軽く振りながら静かに頷く。
「了解だ。全力でいく」
オールマイトが両手を広げて宣言した。
「では両チーム、建物内へ! 制限時間は15分! 仮想核兵器の奪取、または相手の捕獲で勝負だ! 始め!!」
建物内に一人で入った瞬は、仮想核兵器のケースの前に立ち、静かに目を閉じる。数分もしないうちに……
「……来たか」
建物内は静まり返っているはずだったが、瞬の耳には微かな音が聞こえていた。
(吐息……軽い足音。床の微かな軋み。透明化していても、完全に気配を消すのは難しいな)
葉隠が接近しているのが分かった。同時に、別の方向から重い足音と尻尾が床を叩く音が近づいてくる。尾白だ。瞬はゆっくり目を開け、低く構えた。
「二人とも……いいタイミングだ」
突然、右側から尾白猿夫が飛び出してきた。尻尾を鞭のように振り回し、瞬の側頭部を狙う高速攻撃。
「はぁっ!」
瞬はわずかに体を傾けてかわし、即座に反撃。尾白の腕を掴み、軽く引き寄せて肩口に掌底を叩き込む。
ドンッ!
尾白が後ろに吹き飛ばされ、壁に背中を打ちつける。
「ぐっ……!」
その隙に、左側から葉隠透の声が響く。
「捕まえた〜!」
葉隠が瞬の背後に回り込み、両手で瞬の腕を掴もうとする。しかし瞬は振り返らず、わずかに首を傾けただけでその位置を正確に把握していた。
「そこか! ノッキング」
瞬は素早く後ろに手を伸ばし、葉隠をノッキングする。一瞬で葉隠の動きが止まる。
「うぐ……動かない……」
体が硬直したまま、驚いた顔で瞬を見つめている。瞬は優しく声をかける。
「ごめんね、葉隠さん。透明でも、吐息と足音で位置はだいたい分かっちゃったから」
尾白が再び立ち上がり、尻尾を大きく振り回しながら突進してくる。
「まだだ!」
純粋な格闘戦。瞬は尾白の尻尾攻撃を全て読み切り、的確に距離を詰める。尾白の拳と尻尾の連撃をかわし、隙を見て尾白の胸の急所に指を軽く突く。
「ノッキング!」
「ガッ」
尾白の体が一瞬硬直し、動きが止まる。瞬はすぐに指を離し、二人に向かって笑顔で言った。
「二人とも、強かったよ。特に尾白くんの尻尾攻撃、タイミングが良かった」
葉隠が体を動かせるようになり、ぺたりと座り込む。
「うわ〜ん……全然見えてないのに、ばっちり当てられた……針山くん、強すぎるよぉ……」
尾白も肩で息をしながら、素直に頭を下げる。
「負けを認める……お前の動き、読めなかった」
モニター越しにオールマイトの興奮した声が響く。
「勝者、ヴィラン側・針山瞬!! 素晴らしい戦いだったぞ、若いヒーローたちよ!」
クラスメイトの声が訓練場のスピーカーから聞こえてくる。
「すげェ! 一人で二人を相手に!」
「葉隠さんの透明化を気配だけで見破って……尾白くんの格闘も完璧に……」
爆豪は腕を組んだまま、苛立ったように呟く。
「……チッ。無個性の分際で……」
瞬は二人に手を差し伸べ、笑顔で言った。
「二人とも、ありがとう。
また一緒に訓練しようぜ」
葉隠が瞬の手を取って立ち上がり、明るく笑う。
「うん! 次は絶対にばれないように頑張るね!」
尾白も尻尾を軽く振りながら頷く。
「また戦おう、針山」
訓練場に拍手と歓声が広がった。
駄文読んでくれてサンガツ