ナイトメアにレクイエムを 作:AZ
ここは、どこだろう。
陰鬱で、重苦しくて、どんよりとした閉鎖的な空間。
モンスターたちの呻き声が四方八方から響いてくる。
何をすればいいのだろう、どこへ行けばいいのだろう。何も分からないエミリーを、誰かが抱きかかえて、走っている。
そうだ、前にもそんなことがあったはずだ。目の見えない彼女をあの地獄から救ってくれた、ヒーローがいたんだ。
名前は、そうだ、グレースだ。また、助けに来てくれたんだ。
ぼやけていた視界が、だんだんとハッキリしてくる。
そして、エミリーの目に飛び込んでくる、憧れの人。
体中が真っ白で、縦長の直方体で、腕も顔もなくて、ポヨンポヨンと軽やかな足音を立てて、スターズのベレー帽を被っていて……?
「グレース……?」
「お久しぶりやで~」
エミリーを抱きかかえて走っている、『自称グレース』
彼女が知っているグレースと、なんかちょっと違う。
いや……? 色白で華奢で妙に足が速くて。ほなグレースか……。
それにしても、どうして服を着ていないんだろう。ゴツゴツ、ザラザラしたお肌がそのまま露わになっている。
エミリーはそっとグレース(?)のお肌を指で突いてみる
「なにすんねん!」
怒られてしまったので指をひっこめる。
それにしても、どうやって自分を抱きかかえているのだろうとエミリーは思う。だって腕もないのに。傍目から見れば、自分がこの四角い立方体にしがみついているようにしか見えないだろう。
「ねぇ、グレース(多分)、私たち、脱出できるのかな」
「はぁ~しんどぉ~」
わからない、けど、全力でやってみるしかない……と言ってるらしい。
そんなこんなで、館の出口付近まで辿り着いた時、そこには、目を見張る程の数のゾンビたちの姿。
どれもこれもが腹をすかせ、エミリーとグレース(っぽいの)をじろりと睨んでいる。
「どうしよう……」
エミリーが慄いていると、グレース(らしきもの)はエミリーを近くの椅子に置いて、どこから取り出したのかよくわからない包丁を一本持つと、「しばくぞ!」と言ってゾンビの群れに突っ込んでいく。
「いてっ!」
「やめろや!」
「なにすんねん!」
「やめて~」
「しばくぞ!」
「しばくっちゅーてるやろ!」
ゾンビとの大乱闘。エミリーの目が間違ってなければ、多分食べられてる。噛まれてるとかではない、おいしく食べられてる。それでもまぁ、まだ声が聞こえるから生きてはいるんだと思う。
「グレース……まだ身体残ってるのかな」
なんて呟きながら待ってると、グレース(無根拠)がゾンビの群れから戻ってくる。
「はぁ~しんどぉ~」と言いながら、体中ゾンビたちの歯型跡が残ってるが、割と平気らしい。
倒れたゾンビたちの頭には包丁が刺さっている。
「全部やっつけたんだ、すごいね!」
「しばくぞ!」
賞賛に喜んだのか、シンプルに怒られたのか、今のは分からなかった。
そうしてまた抱きかかえてもらった時、どおん! と館の天井が付き破られ、そこから落ちて来たのは大型BOW。あの、ザ・ガール。
「でかい……!」
「どうしよう、グレース(と思われるもの)!」
「ほんまキツイってぇ」
そして二人は追いかけるザ・ガールから逃げる。時折捕まって食べられたりしたが、グレース(決して豆腐ではない)が結構丈夫にできているので耐えている。
そんなこんなで館の中を逃げ回り、鉄格子で遮られた行き止まりへ。
隣に開閉器があるので急いで操作。鉄格子が徐々にリフトアップしていく。しかし、ザ・ガールは近くまで迫っている。
僅かに開いた隙間から「ヨイショ」とすり抜けようとするが、ザ・ガールに足を捕まれて、格子の中へと引き摺り戻される。
「きゃあ!」
「もうあか~ん」
そのまま暗闇に引きずられようとしたその時、ドン! と急な爆発音。
ザ・ガールが怯む。開いた鉄格子の方には、一人のエージェントの姿。
「レオン!」
二人を助けに来てくれた、DSOの敏腕エージェント。その出で立ちは、緑色のしっとりしたつやつやなお肌に、スターズのベレー帽を被っており、こちらも顔と腕がない。そして服も着ていない。
「シバクゾッ!」
レオン(決してういろうではない)はザ・ガールに向かって追加で手榴弾をいくつか投げつけると、ザ・ガールは大きなダメージを受け沈黙する。
そのまま、三人で館の外へ。二人揃ってポヨンポヨンと気の抜けるような音を出しながら、太陽のある方へと走っていく。そんな二人に抱きかかえられながら、エミリーは思った。多分この人たち、グレースとレオンじゃないなと。
でもまぁ……いいか。
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「……リー、エミリー起きて」
優しい声色に意識を呼び戻される。気が付けば、ソファの上。ブランケットに包まって、胸の上には読みかけの本。
「あれ……?」
「おはよう、よく眠れた? そろそろお夕飯にしましょ」
外の日がすっかり落ちている。台所にはグレースが、お鍋の湯気に包まれて立っている。
テーブルに着くと、グレースがぐつぐつと煮えたお鍋を持ってきてくれる。
「今日のご飯なあに?」
「ふふ、寝起きには優しいスープだよ」
そう言ってグレースが取り分けてくれるスープの中身は、コンソメベースに、カットされた野菜とソーセージ。そして、白くぶよぶよした何か。その何か、それは夢でみたグレースっぽいのとなんか似ている。
「これなあに?」
スプーンに乗せて、グレース(本物)に見せる。
「豆腐よ、トーフ。とってもヘルシーで、美味しいよ」と言ってくれる。
「やっぱりグレースじゃなかったんだ」と呟くように言うと、グレースは不思議そうに首を傾げる。
そして、豆腐を一口。なめらかな口触りと、見た目からは想像できない程しっかりとしたコク。
こりゃ、ゾンビたちもこぞって食べたくなるだろうなとエミリーは一人ながらに理解した。
豆腐モード難しすぎな