東方×ホロライブ(幻想郷の人妖やホロメンが現代入りしたり幻想入りしたり)   作:Sano / セイノ

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紫咲シオンが幻想郷に連れ去られ、そこで霧雨魔理沙に召喚魔法を教える話。
そんなホロメン達の日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。
『霧雨魔理沙の異世界蒐集』の続きの話になります。


紫咲シオンの召喚魔法

目を覚ました紫咲シオンは、物憂げに体を起こす。

そして乱れた長髪を手櫛で整えながら辺り見回した。

自身が横たわっていたソファー、その周りには大量の本、魔術用の道具や薬品の材料と思しき品の数々、それらが雑多に積まれている。

 

 

まさに物を増やし続ける悪癖の為せる様相であろう。

窓から差し込んだ陽光が、置かれた物の上を舞う埃を照らして輝かせていた。

 

 

(ここ……どこ?)

覚えのない光景に、シオンは記憶の糸を手繰り始める。

(……確か異世界の人間と戦って――)

 

 

そして、シオンははたと顔を上げた。

フラッシュバックした魔力防殻が破られる光景に、自身が敗れた事実に思い至ったのである。

 

 

とはいえ、今の己を取り巻く現状は謎に包まれている。

シオンは腕のデバイスを起動して座標を確認しようとした。だが彼女が眉根を寄せて睨んだのは、測定不能の表示である。どうやらデバイスは不調であるらしい。勿論通信も機能しない今、出来ることは自身で情報を収集することであった。

 

 

窓辺に立って外を伺ったシオンを迎えたのは、見覚えのない大樹海。

まず間違いなく、ここは東京ではあり得ないだろう。

 

 

無秩序に置かれた物を避けながら階下に降りると、一階はより混迷を極めていた。

飽和し溢れ出そうになっている物の間を物色しながら歩き回るシオンは、うずたかく積まれた本の頂の一冊に目を留めた。

 

 

それは、先の戦闘中に勝敗の分け目で彼女の視線を奪ったあの本だ。

シオンはその手を、色褪せた革表紙に伸ばそうとした時――

 

 

――ギィとドアが軋みながら開き、山菜籠を背負った魔法使いの少女が姿を現したのである。まるで先のわだかまりなど無かったかのように、にっと歯を見せて笑う少女。その明るい笑みには竹を割ったような性格が出ていた。

「よう、目を覚ましたみたいだな!」

 

 

〝で、えぇと……〟と問うような視線の意図に気づき、シオンは名乗った。

「紫咲シオンよ。ねぇ、ここどこなのよ」

「アタシは霧雨魔理沙だぜ。そして、ここは幻想郷。まあ、そっちから見ての異世界ってところだな」

 

 

自身が異界に身を置いているなど、つゆとも思わなかったシオン。

想定外の事実を突きつけられて、魔女っ娘は目を大きく見開いた。つまりは東京どころか、元の世界ですら無い場所に連れてこられたというわけである。

 

 

「はあ!? なんでシオンを連れてきたのよッ!」

吼える魔女っ娘に、〝まあまあ落ち着けって〟と魔理沙は宥めながら視線を泳がせる。

「……あー、周りを見てくれ」

シオンの視界に映るのは、何でも集める悪癖により蒐集された魔法関係の品々だ……つまりは眼前の少女は蒐集癖で、シオンすら持ってきてしまったということらしい。

 

 

意味を解してまなじりを吊り上げたシオンに、魔理沙は頬を掻く。

「悪ぃな、つい癖で」

「ね゛え゛え゛え゛え゛え゛! ぶち切れ発狂パラダイスなんですけどおおおお!」

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

本を寄せ辛うじて出来たテーブルの空間。

そこに並んだ山菜の辛子漬けや佃煮、そして茸の澄ましの吸い物をシオンはじろりと眺める。

 

 

そも、なぜこのような展開になったかというと……

癇癪に叫んだ直後、くぅとシオンの腹の虫が可愛らしい音を立てたのである。憮然とした表情でお腹を押さえるシオンに、魔理沙は〝とりあえず今はアタシが料理を振舞ってやるよ〟と猫のような笑みを浮かべたのだった。

……という成り行きがあったのである。

 

 

だが西洋魔術師の装いの少女が、用意したのがまさかの和食。

(うわぁ……これ絶対美味しくないでしょ)

供された食事のあまりのミスマッチさが、シオンには不穏だった。だからこそ、彼女は不承不承辛子漬けを摘まんで口に運ぶ。

 

 

はたして予想とは裏腹な、滋味深い繊細さと美味しさにシオンの顔が自然と綻んだ。

「ね゛え゛え゛え゛え゛え゛! ちょっと美味しいんだけど!」

眉を八の字に垂らして簡単に篭絡されたシオンに、〝だろ。アタシ結構料理上手いんだぜ〟と魔理沙は得意げに笑う。ホロライブで様々な物に分からされてきた彼女は、この世界でも魔理沙の手料理によって分からされたのである。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

「――その異界へと通じる次元の裂け目なんだが、少なくともあたしが通ってきたところは、さっきついでに見に行ったら無くなっちまってた。だからまた探さなきゃいけないぜ」

料理をつつきながら、シオンは魔理沙の話に相槌を打つ。

「それで?」

「一朝一夕で見つかるかは分からん。だからしばらくは幻想郷でも楽しんでくれ」

 

 

シオンの方からも、魔理沙に気になっている魔導書について訊ねることにする。

この本の来歴が明らかになれば、自ずと帰還への算段も付くのであろうと考えてのことであった。

「ふぅん。ねえ、そういえばその召喚術の魔導書って、なんで魔理沙が持ってんのよ」

 

 

魔理沙は眼前の少女が指さした本に手を伸ばし、〝こいつか?〟と取って見せる。

「それ、シオンが昔使ってた召喚魔法の教科書なんだけど」

魔理沙が表紙を開いてみると、確かに見返しのところに『紫咲シオン』と記されている。

 

 

途端に魔理沙の目が輝かせて立ち上がった。

「じゃあ、シオンがこっちにいる間だけでいいから召喚魔法を教えてくれよ。その代わり宿はここを使ってくれて構わないからさ」

 

 

魔理沙の提案はシオンにとって悪い話ではない。自身の境遇を鑑みると、とりあえずは安全そうな拠点を確保する方が良いのである。それに教えると言っても、初級程度の召喚魔法なのだ。仮に教えたとしても大した影響はあるまいと、彼女は思いを巡らせたのである。

「じゃあ、美味しいご飯も作ってくれるなら、それで手を打つわ」

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

魔法練習のため、魔理沙の後に続いて屋外に出たシオン。

彼女は玄関に掛けられた霧雨魔法店という看板に怪訝な顔をする。

「魔法店って何?」

「何でも屋みたいなもんさ。客の困りごとを魔法で解決するんだ。ほら、それよりも早く教えてくれよ」

はしゃぐ魔理沙に、シオンは〝分かったわよ〟と肩を竦めて応じたのである。

 

 

地べたへと続く石段に二人は腰を掛け、魔導書を開いた。

「最初なんてこれがいいわね」

そういってシオンが指さしたのは物を呼び出す魔法だ。

召喚魔法の神髄は魔獣召喚だが、それには魔獣を屈服させられる力量差が必要だ。それに誤った呪法は、手に負えない魔獣をも呼び出してしまうことだってある。その点、物を召喚する魔法は、よく知るものであれば上手くいきやすいし、失敗したとしても危険は少ない。

 

 

魔理沙は本を参考にして、地面に木の棒で召喚陣を描く。

初歩の召喚術ですらその魔法陣は複雑怪奇。おかげでシオンの直しがいくつも入ったのだった。

そして遂に完成した幾何学紋を、魔理沙は魔力を流して起動したのである。

 

 

はたして、現れたのは煎餅が盛られた漆塗りの菓子皿である。

シオンは知らないことがだが、これは魔理沙が神社で霊夢とお茶を飲みながら摘まむ煎餅の皿だ。

「お、成功だぜ!」

魔理沙は笑いながらシオンに煎餅を一枚手渡し、自身も一つを齧る。

 

 

だがここで、思ってみないハプニングが発生したのである。

窓からいくつかの魔術具が飛び出し、召喚陣に突き立った。そしてそこから魔法陣をより複雑な魔獣召喚用のものへと書き換えていくのである。

シオンは表情を険しくして立ち上がった。

(マズイ!? こんなにも干渉してくる魔術具があるなんて!)

 

 

魔術具同士の干渉は、時に思いもよらない結果をもたらす。

まさかそれだけのレベルの呪具が、魔理沙の家にため込まれていたとは想定外だった。

 

 

かつてシュブニグラスという黒山羊の化け物を呼び出してしまった失敗が、束の間シオンの頭を過る。大きな被害に繋がらなかったのは、ノエルやフレア、そしてルーナが率いるルーナイト達が魔獣を制したからだった。

 

 

魔法陣から湧き上がる巨大な緋色の蛇の多頭に、シオンは顔をしかめた。

(……げ、フレイムヒュドラじゃん!)

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

魔理沙が呆然と見上げたそこには、巨大な何かがいた。

頭上に差した影、その正体はいくつもの頭を持つ蛇の巨体。その体を覆う鱗は熾火のような光を放っている。それぞれの頭がいかにも恐ろしげな牙を剥くと、耳をろうする咆哮と共に熱気が押し寄せてくる。

その熱さとは対照的に魔理沙の背に冷たい汗が流れる。

(こいつは……ヤバいぜ)

 

 

我先にと逃げ惑う野良の妖精たちを後目に、二人は化け物と対峙してしまっていた。

紅蛇の口々が次々に炎を吐き出した。巨大な紅蓮が空間を飲み込み、それが地を這いながら迫る。炎に飲まれた木々は瞬く間に超高温の業火に巻かれ、灰燼と散っていく。形を保つ消し炭すら無く、大気を局所的に熱対流させていた。

 

 

それを幾重にも及ぶ魔法障壁で押し留めたのはシオンである。

マジカルステッキを握りながら歯を食いしばるシオンに、魔理沙も慌てて立てかけていた箒を取りに走り出す。

空気さえも焦がすような熱が二人の少女の肌をも焼こうとしていた。

 

 

「シオン、もうちょっとだけ堪えてくれ!」

上空から全力のマスパでもお見舞いしてやろうと目論んでいた魔理沙。

だが彼女が飛び立つ前に事は起こった。

 

 

七色に輝く光球が、上空から魔獣に次々に降り注いだのである。

その光が宿した尋常ならざる霊力が、大気を震わせ木々を大きく揺らす。その力は生命力に優れるヒュドラでさえも消し飛ばす程であった。

 

 

先ほどまで魔獣が暴れていた場所へと、着地したのは巫女装束を纏った一人の少女。

彼女こそは幻想郷の調停者である当代の博麗の巫女、博麗霊夢。

 

 

「あんた、またやらかしたのね」

「助かったぜ、霊夢。ちょっと実験が失敗してな」

〝すまん〟と拝むように謝る魔理沙に、霊夢は御幣を突き付けながら〝次は無いわよ〟と睨んだ。

だが反省しながらも、頑として実験を繰り返すのが魔理沙なのである、そのことを巫女はよくわかっていた。

霊夢は諦めたように大きな溜息を吐いて、御幣を下ろした。

 

 

「それにしても随分早い到着だったな」

「あぁ、ウチの煎餅皿を盗っていった不届きものがいたのよ。見つけたらとっちめてやろうと思って——」

言い差して、霊夢は魔理沙邸の玄関前に置かれている菓子皿を目にしたのである。

何をいわんや、それこそが霊夢の探し物であり、それをこの場に召喚したのは魔理沙なのである。

 

 

「道理で見当たらないはずね……」

冷ややかな視線を向ける霊夢に、魔理沙はひょうげたように〝働いた霊夢のためにお茶にでもしようぜ、茶菓子ならある〟と返すのであった。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

魔理沙と連れ立って歩く巫女の少女、シオンはその尋常ならざる強さに目を瞠っていた。

シオンの知る魔界ですらもこれほどの強者はそうはいまい。そう思わせるだけの力を持った巫女なのである。

その巫女の少女がシオンの前で足を止めて、射抜くような視線を向けてくる。

 

 

「あんた外来人でしょ、騒ぎだけは起こさないようにね」

彼女はさっぱりとした態度でそう忠告だけをする。

同じ巫女でもホロライブの巫女とはえらい違いだ、とシオンは思ったのであった。

 

 

 

 




(今回と関係する話)
姫森ルーナの怪物退治 https://syosetu.org/novel/401404/11.html
白銀ノエルの運命的な出会い https://syosetu.org/novel/401404/7.html
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