森亜るるか、そしてアイスの人   作:ヒラメもち

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皆さまお気づきでしょうか。アニメに1999年にないはずのアイスが登場していて、時空が歪み始めていることを。
きっとこれはアイスによる伏線です。アイスが事件の鍵だと推理しています。




アニメ12話 アイスの美味しさには気づけたかしら

 

 

 最近は街のあちこちで事件が起きているけど、今日も俺は昼前の公園でアイス屋を開いていた。

 

 朝のニュースだと、昨日の宝生美術館の件は大騒ぎになっていた。予告通りに現れた怪盗団ファントムが展示品の1つを盗んだこと。結果的には勇敢な探偵が取り返したこと。そこまではまだ平和的な解決だったと思う。

 でも街の人々の話題は、その後の結末のようだ。盗まれた宝石は偽物だったらしい。しかも美術館に並んでいた展示品は、そもそも全て偽物だったという話まで出てきたから大騒ぎだ。よくわからないけど、これは詐欺になるんだろうか。

 

 そういった話題を、ちょうど来ていたアイス少女とオトモ妖精にも聞いてみていた。

 

「あの美術館、全部偽物だったって本当なのか?」

 

 俺がそう尋ねると、オトモ妖精は小さな身体をふわりと揺らして頷いた。

 

「ええ、何年もウソで騙していた美術館が、本物になったということよ」

 

 オトモ妖精は、どこか自慢するように言ってみせて。

 

「あなたのお手柄よ」

 

 笑顔を浮かべたオトモ妖精によれば、アイス少女が真実の暴露に少なくとも関わっているらしい。

 アイス少女は、褒められてもあまり反応しない。アイスケースの中の並びを見つめたままだった。

 

「ニセモノでも人気だったから、あの美術館はきっと満員」

 

 アイス少女の言う通りかもしれない。

 たとえ偽物だろうと、美術館を訪れた人はたくさんいた。昨日来たカップルだって、元々デートの予定だったんだ。

 本物の美術館に変化すればもっと繁盛しそうで、商売をする者として羨ましく思う。

 

「……決めた」

 

 アイス少女は小銭を台に置いた。

 子ども割引を含めて正しい金額を脳内で計算している常連だ。もはや、メニュー表を作った俺より詳しいかもしれない。数列みたいな発想で8段アイスをお得に食べられることを考え出したし。

 

「2段アイスで」

 

 そう言って、指先でケースの中を示した。

 パチパチするキャンディを混ぜた新作アイスは、アイス少女が連日注文となる。ホワイトチョコの甘さに、口の中で弾ける楽しさを兼ね備えた試作品だ。

 

「あたしはマシュマロを5つ、よろしく」

 

 オトモ妖精は、モフモフした手で小銭を台に乗せた。

 個包装のマシュマロを台に置けば、両腕で抱えこむように持ち上げて笑顔を見せた。

 

「じゃあ、2段アイスを作り始めるぞ」

「ん、よろしく」

 

 ディッシャーでアイスをすくって、コーンに2段で積み上げていく。

 そういえばこうして新作アイスを開発していても、いまだに名前を付けていなかったな。パチパチホワイトチョコは安直だろうか。

 

 完成した2段アイスを手渡すと、アイス少女は両手で受け取ってくれる。

 

「また来る」

「あたしが占いをしなくとも、この子がまだ食べにくるでしょうね」

 

 最高記録が1日17個分のアイス愛好家だからな。

 

「ああ、また来いよ」

 

 1人と1匹は、少し離れた場所の公園の噴水へ向かっていった。

 石の縁にちょこんと腰を下ろしている。まるで誰かとの待ち合わせのようだった。

 

 そこに、慌てて走ってくる男がいた。役者風の服装をした大柄な男には見覚えがある。先日はアイス少女たちにおこづかいを渡していて、中学生女子2人を追いかけていて、おそらく怪盗団ファントムのやつだと思う。

 

 役者男は、アイス少女に何かを必死に頼み込んでいる様子だけど、声までは聞こえなかった。

 いまだ敵か味方か不明だ。でも俺が会話した時に悪意のようなものは全く感じられなかった。怪盗団の中でも話が通じるタイプなんだろうか。

 

 結局アイス少女は、2段アイスを食べ始める前に立ち上がった。オトモ妖精から、まだ個包装のマシュマロを預かってもいる。

 そして、公園から出ていくように歩き出した。

 

「……わからん」

 

 役者男は堂々と街を歩いていて、怪盗団ってもっとコソコソするものでは。

 

 

 俺は、少し台の上を整理していた。

 今日も暖かくなりそうだから、昨日の美術館騒ぎくらいには繁盛してほしいものだ。

 

 見覚えのある3人組が近づいてくる。

 明るめの茶髪と暗めの茶髪の女子たちで、あの子たちは街を守る探偵ヒロインたちだと思う。

 そんな2人に続くように、金髪少年が歩いている。前に海で見かけたことがある少年だ。

 

「「わ~」」

 

 そんな街を守るために戦ってくれている女子たちは、目を輝かせている。俺のアイス屋に近づいてきてくれた。

 彼女たちのオトモ妖精は、ポーチみたいに少女の腰にぶら下がっているけど、構造がさっぱりわからないぞ。どうやって支えられているんだろう。

 

「レトロで、はなまるオシャレ!」

 

 ポーチ少女は、移動販売の軽トラをよっぽどレトロと感じているらしい。

 悪気は全くないようで、都会っ子が田舎で楽しんでいるような雰囲気だ。

 

「いらっしゃい」

 

 俺はいつも通りの声をかけた。

 

「アイスの注文いいですか?」

 

 隣の探偵服の少女は言い方は丁寧だけど、声の調子はワクワクしていた。ちょっと背伸びをしたような服装をしていても、まだ子どもらしさがある。

 

「ああ、どのアイスにする?」

 

 俺がそう返事をすると、ポーチ少女と探偵少女の視線は揃って、アイスケースに向いた。

 

「全く見たことないアイスもあります!」

 

 探偵少女が、素直にそう言ってくれた。

 最近はあまり市場調査もしていないが、ピキーンと閃きで作った新作がいくつか入れてあるからな。

 

 少し誇らしく思っていた時、ポーチ少女がケースの1番端を指差した。

 

「あっ、ホッピングシャワーもある!」

 

 そんなアイス名を聞いた瞬間、俺は思わず首を傾げた。

 

「ホッピングシャワー?」

 

 俺は全く聞いたことがなかったけど、まるで当たり前のようにポーチ少女は言った。

 

 数日前に作ってみたばかりの新作で、有名店のパクりではないと信じ込んでいた。

 それなのに、世の中のどこかのアイスと一致してしまっていたんだろうか。

 

 少し気まずい。いや、かなり気まずい。

 

「あー、そのホッピングなんとかに、似ていたのか?」

 

 そう俺が呟くと、ポーチ少女はきょとんとした表情を浮かべた。彼女は、探偵少女の顔を見た。

 

「あれ、この時代はまだ定番アイスじゃないの?」

 

 とても無邪気な声だった。

 時代? 定番? まるで未来人のような発言だった。バック・トゥ・ザ・フューチャーか?

 

「あっ、き、気にしないでください」

 

 探偵少女は慌てたように手を振った。

 

 そう言われても気になる。

 でも、あのアイス少女が珍しそうに2度も買ってくれた。そのことを自信にできそうだった。

 

「どのアイスにする?」

 

 改めて聞いた。

 

「「じゃあ、このアイスをコーンで!」」

 

 少女たちは、ほとんど同じタイミングで指差した。

 その声の重なり方はとても揃っていて、仕草まで似ていた。さっきホッピングシャワーと呼ばれたアイスだ。

 

「1段でいいんだな?」

 

 キミたちの先輩のアイス少女は、2段以上が基本なんだけど。

 

「「はい、お願いします」」

 

 俺はその言葉に頷いて、コーンを用意してディッシャーでアイスを作った。

 完成しても、なんだか物足りない重さだった。

 

 ポーチ少女と探偵少女はそれぞれ、両手でアイスを受け取った。

 

「「ありがとうございます」」

 

 金髪少年が注文した棒付きのキャンディも含めて、子ども割引を入れた計算を頭の中で行った。

 俺が合計金額を告げると、金髪の少年が感心した様子を見せた。

 

「へぇ、メニュー表に書いていない割引があるんだな」

 

 この金髪少年は白衣を着ているけど、少女少年探偵団の頭脳枠だろうか。

 彼が台の上に3人分の小銭を置いた。

 

「まいど」

 

 俺がそう言うと、ポーチ少女はすぐアイスをぺろっと舐めた。

 

「ん~ はなまるおいし!」

 

 その言い方はちょっと独特で、こちらまで気分が明るくなるようだった。

 探偵少女も、アイスをぺろっとなめた。

 

「ホントだ! おもしろい味!」

 

 似たような笑顔で、似たような勢いで喜んでくれた。

 少し違いがあるとすれば、キャンディを口に含んだ探偵少女が、楽しそうに驚いているところだろうか。

 ポーチ少女はどこか懐かしそうな表情を浮かべている。

 

 他に客も来ないので、3人はアイスやキャンディを店前で味わっていた。

 

「それにしても、全然見つからないね」

「これ食べたらまた調査に戻ろう」

 ポーチ少女の呟きに、探偵少女は食べながら頷いた。

 

 あのアイス少女も、先日は人探しをしていたことがあったな。なんとも探偵らしいことだ。

 

「キミたちも人探しなのか?」

 

 俺がそう尋ねてみた。

 ポーチ少女はアイスを食べながら、素直にこくりとうなずいた。

 

「そうなんです」

 

 そう言った探偵少女は、オシャレで洋風なノートを片手で開いた。そして、俺の見やすい位置まで軽く持ち上げてくる。

 

「この人は知りませんか?」

 

 ノートの左ページには、お世辞にも上手とは言えない鉛筆書きの似顔絵が描かれていた。きっと必死に思い出しながら描いたんだろう。

 右ページには、特徴が箇条書きで並んでいた。頭に黒いリボン、くるんとハネた髪、髪色はくすんだベージュか。

 

 再び似顔絵を見れば、その3つの特徴は捉えている。

 

 あのアイス少女のことだと思った。

 アイスが大好物という内容は書かれていない。断言はできないけど、軽く頷いてみせた。

 

「似ている子なら知っているぞ」

 

 そう伝えれば、ポーチ少女と探偵少女は、ポカーンとアイスを食べることを中断した。

 

「「え~~~!!」」

 

 ポーチ少女と探偵少女の声が見事に重なった。

 リアクションまで揃っていて、姉妹なのか?

 

「名前は!?」

「どこにいるか知っていますか!?」

 

 2人はほとんど同時に身を乗り出してきた。

 俺は少しだけ笑いそうになりながら、視線を公園の通りのほうに向けた。

 

「名前は知らない。ついさっきアイスを買って、あっちの通りに向かっていったぞ」

 

 俺が心の中でアイス少女やオトモ妖精と呼び、向こうはアイスの人と呼んでくる。

 そんなアイス屋と常連客の関係でしかないからな。連絡先すら知らない。

 

「ついさっき!?」

 

 ポーチ少女は叫んだ。

 

「目印はアイスだけ!? でも早く追いかけよう!」

 

 探偵少女も、慌てて次の行動に移った。

 まあアイスはすでに食べ終わっているだろうけどな。

 

 少女たちは揃って、ぺこりと頭を下げた。そしてアイスを持ったまま小走りで向かっていった。1段だからさすがに落とさないと思う。

 

「慌てすぎだ」

 

 金髪少年は、2人の背中を見てため息をついた。彼もキャンディを1つ食べ終えれば走っていった。

 

「怪我しないよう気をつけろよ~」

 

 俺は少女少年探偵団を見送りながら、少し声を張った。

 

 彼女たちが街の平和のために戦っていることは、俺は密かに知っている。

 いつかアイスのサービスができるといいな。

 

 

***

 

 

 今日は昼間が騒がしかっただけで、俺のアイス屋が戦場に巻き込まれることもなかった。

 久しぶりに平和的に夕方を迎えることができて、俺はそのまま店の片付けを少しずつ始めていた。

 

 そうしているうちに、アイス少女とオトモ妖精は戻ってきた。

 来るときと同じくらい自然で、でもどこか少し急いだ様子だった。

 

「今日もおつかれ」

「ん」

 

 アイス少女は小さく頷いた。

 この子たちもきっと探偵の仕事を日々こなしているんだろう。さっきの役者男の件も含めて、また1つの事件を片付けてきたようだ。

 

「5段のシャーベット、おまかせで」

 

 アイス少女は、ぴったりの小銭を台に置いて注文した。

 

 やっぱり少し急いでいるのが、声からもわかった。

 俺も急ぎつつ、丁寧に5色のシャーベットアイスを縦に並べた。

 

 9段ほどの重さではないな。

 

「ほら」

「ん、ありがと」

 

 アイス少女は両手で受け取って、すぐに立ち去ろうとする。 

 

「後輩たちも買いに来たんだよ。キミを探していたようだけど、会えたのか?」

 

 俺は、昼間のことを思い出しながら聞いてみた。

 アイス少女は、少しほほえんだ。

 

「そう」

 

 たったそれだけの返事だったけど、たぶん会えたんだろうな。

 アイス少女とオトモ妖精の背中を見送りながら、俺は片付けを再開した。

 

 

 そろそろ少女少年探偵団と、アイス少女組で、一緒にアイスを食べている光景が見られるかもしれないな。

 

 

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