こんなことになるくらいなら、結婚もしたくなかった。
やっぱり俺には、あいつしかいなかったんだって、今ようやくわかった。
ずっとごめん。
1人にさせて、ごめん。
読まれていなくても楽しめると思いますが、先にそちらを読まれたほうがさらに楽しめるかと思います。
よろしくお願いします。
思えば、出逢いと別れの人生だった。
出逢いは、新たな関係を築き、深め、繋いでいく。
別れは、関係を崩し、また次に出逢うためのステップのよう。
人々はこれを当たり前のようにこなし、そして無限のように出逢いと別れを繰り返す。
しかし、だ。
親友との別れが永遠だと知ったなら、あんたならどうしたんだ?
それは、夏の終わり頃の話だった。
秋も近いのか、ちょっと涼しくなってきた時期。
俺は結婚式をあげた。
白い教会で、妻と誓いのキスをする。そんな夢のような結婚式を。
家族や友達、そして俺の親友も呼んで、見届けてもらった。
中でも、俺の親友はめっちゃ泣いてくれた。
おめでとうって、俺に抱きつきながら言ってくれた。
嬉しかった。
みんなが祝福してくれた。
きっとどんな困難も、妻と一緒なら乗り越えられるって、あの時はそう思えたんだ。
「……叡太が、死んだ?」
遺族からの電話。
前々から世話になっていた時もあったし、何かあったら連絡が来たりするのもおかしくはなかった。
でもそれが、親友が亡くなったことを伝えるものだとは今まで想像がつかなかった。
「はい…はい…え、手紙…?」
どうやら、叡太が俺宛の手紙を残しているらしい。
俺はいてもたってもいられなくて、すぐに家を飛び出した。
「あら?どうしたの急に…」
「ちょっと出かけてくる!」
「えっ…?いってらっしゃい…?」
妻の声が聞こえたが、俺は急いでたせいであまり話せなかった。
そのまま車を出し、叡太の家へ向かう__
……。
………。
道中、よく考えていた。
あいつがどうして死んだのか。
あいつの両親が言うには、自殺らしい。
何かとても嫌なことがあって、耐えられなかったのか。
日々のストレスが積み重なったのか。
それとも…俺が結婚したから?
それはない。あいつだって泣きながら祝福してくれたんだ。
じゃあいったい、あいつに何があったっていうんだよ…
そう考えていたら、もうあいつの家は目前だった。
車を近くに停めて、駆け足で向かう。
玄関の近くにはあいつの両親と知らない人たちが立っていて、何人かは静かに泣いている。
「あの…こんにちは」
「あら、あきらくんじゃない。来てくれたのね」
「すまないね…うちの叡太とはいつも仲良くしてもらってたから、ダメージは大きいはずなのに」
「気にしないでください!それより、手紙について…」
そう聞くと、母の方から『縞本あきらへ』と書かれた手紙を受け取る。
「これが…」
「今ここで読んでもらっても構わないけど、気持ちの整理をつけるために一度帰ってからでもいいからね」
「はい…ありがとうございます」
この手紙を見つめる。
叡太からの、遺言書のような手紙。
何が書いてあって、何を伝えたかったのだろう。
気にはなる。気にはなるけど、やっぱりまだあいつが亡くなった事実が認められない。
「少し…気持ちを整理してきます」
「ええ、そうね。そうしたほうがいいわ」
「今度、また話し合いしようか」
「御心遣いありがとうございます、でも俺は大丈夫なので!」
そう言って、逃げるように車へ駆け込む。
大丈夫なわけがない。
一番の親友が、もうこの世にはいない。
そんな事実にだんだんと実感が湧いてきて、喪失感が襲ってくる。
自室に戻ってきた。
なんだか夢みたいな感覚だな。
ベッドに座って、恐る恐る手紙を開ける。
勇気を出して、中を読んでみる。
『あきらへ
これが読まれているということは、僕はもうこの世にはいないんだろうね。
びっくりしたと思う。誰から知ったのかはともかく、僕が死んだことをまだ受け入れられてない頃だと思う。
あきらにはつらい思いをさせたと思う。ごめん。
今こうして手紙を残しているのは、今まで言えなかった本音を伝えようと思ってね。
僕はね、あきらのことが好きだったよ。
親友としても好きだけど…
この好きは「恋」の意味だから。』
目を見張った。
あいつが、叡太が、俺のことを好き、だなんて。
…でも、
思い出すこともある。
あいつが居眠りしてた時、俺が好きとか言ってたし、
高校時代ではよくあいつが何かを言いたそうに、でも我慢して言うのをやめたりをしてたり、
プールの授業の時も、俺の水着姿を見てなんだか息を荒くしてたように見えたことも。
思い当たる節が次々と頭に浮かんでくる。
あの時わからなかった仕草が、どんどん一つの意味に繋がっていく。
……続きを読んでいく。
『変だよね、オスがオスを好きになるなんて。
でも、僕はあきらのことが本当に好きで好きで仕方なかったんだ。
あの日、放課後の自習室で初めて出会った時から、
ずっと、好きでした。
でも結局、伝えられなかった。
あきらがあの子の告白を受けたとった日。
覚えているかな?
あの時、僕は一緒に帰る約束をするため、そして告白をする約束をするために側まで行ってたんだよ。
…でも、タイミングがね。』
初めて知る真実に、まだ頭が追いつかない。
あの時、近くに叡太がいた。
それはどんなに辛かったのだろうか。
こんな俺でも、想像はできてしまう。
きっと、心臓がはち切れるくらい辛かったんだろう。
『そこから僕は、どうやってあきらと接したらいいかわからなくなって。
距離を置いたりもしたけど、あきらはしぶとく一緒にいたよね。
生きている時に聞きたかったけど、どうしてあそこまで側にいようとしてくれたの?
あきらには、もう大切な恋人がいたのに?』
「…っ…!」
なんだか息が詰まったような気がした。
そっか、あいつにはそう見えてたんだな。
俺はただ、恋人も大切だけど親友も大切だから。
離れるのが嫌だっただけなんだ。
『大学時代も、会社の同期になった時も、
僕はね、辛かった。
例えるなら、目の前にずっと好きなものがあって手の届きそうなところにあるように見えるのに、実際は遠くにあって絶対に触れられない状態。
そんな感じ。』
俺のしてたことが、あいつを。
叡太を、苦しめていた。
そりゃそうか。好きなものを絶対に触れないよう目の前にぶら下げているようなもんだよな。
結婚式なんて、拷問じゃないか。
…ごめん。なんて、今更言ったって…
『あきら、僕はね。
あきらのこと、まだ好きでいたい。
でも、この世界は残酷だから。
きっとまた、辛くなる。
眠れない夜が増えていくんだ。
結婚式の後の夜、僕はずっと泣いてた。
ううん、今も。この手紙を書いてる今も泣いてる。
ずっと好きだったのに。
ずっと側にいたかったのに。
ずっと愛してるを言いたかったのに。
あきらはほんと、昔から焦らすのが上手だね。』
「……っゔゔ…ごめん…ごめんなさい…!」
涙がこぼれる。
続きが読めない。
もういないあいつにずっと謝る。
俺が叡太をずっと苦しめてた。
何が親友だ。何が大切だ。
親友の気持ちすらわかっていなかったじゃないか!
虚しさと悲しみと謝罪の気持ちが胸にいっぱい溢れてくる。
涙を拭き、続きを読み進める__
『だからこれは、僕からあきらへの
もうあきらを好きになりたくないから。
もうあきらを見て側にいてほしいなんて思いたくないから。
この先かける迷惑を、減らすために。
僕だけがいないこの世界を
あきらは、この世界で幸せに生きてね。
大丈夫、あきらにはお嫁さんがいるでしょ?
それに近い将来子どもだってできるはず。
だから、僕よりも幸せな人生を送ってね。
僕のことなんか、忘れてね。
じゃあね、さようなら。
貴方に恋をした一番の親友 笹野叡太より』
読み終わった。その場で崩れ落ちる。唖然とする。
ごめん。
ごめんなさい。申し訳ない。すいません。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
もはや謝罪の言葉しか出てこない。
それも二度と届かないが。
「あ…あぁ…」
もはや嗚咽しか出なかった。
こんなことが、こんな事があっていいのか。
一番信頼して、一番側にいてくれた親友は、俺への好意と夢を埋葬した。
「ごめんっ…なさいっ…!」
涙がボロボロと零れ落ちる。
もう親友だったなんて言えない。
あいつの、叡太の気持ちをわかってなかった俺には、それを言う資格なんてどこにもない。
ガチャ。
ドアの開く音が聞こえた。
「大丈夫?あなた…」
「…ぁあ…真理子…」
妻がいた。心配そうにこちらを見ていた。
「……平気」
「…そう…」
こと、と机に何かを置いた。
「これでも食べて、元気出してね」
妻はそう言って、ドアを閉めた。
机を見る。
黄色いバームクーヘンが一つ。フォークも付いていた。
手が動く。
一欠片、フォークで切って、口に含む。
「………」
バームクーヘンの甘さと、涙の酸っぱさ。
噛みしめる度に、舌に広がっていった。
涙は止まらなかった。
…きっとこれが、後悔の味なんだろう。
一欠片が大きすぎて飲み込めなかった。
ふと、思い出したことがあった。
物語の終わりの一つに、結ばれそうだったのに片方が別の人と結ばれたというものがある。
確か…バームクーヘンエンドと言ったか。
ならこれは、バームクーヘンエンドのその先の話。
後悔と残された者の罪の話。
目の前のそれは、黄金色をしていた。
この甘く酸っぱかったバームクーヘンのように、人生はまだ残っている。
これからどうしようか。
…今は、まだわからない。この気持ちを消化できてないから。
………さようなら、そしてごめん。叡太。
おわり
ご読了誠にありがとうございます!
つい作ってしまいました。
あと1作品作らさせてください!
いつ書き終わるかわかりませんが続き作ります!!
どうかお待ちください!
それから、現在連載中のアイス・ブレイク!シリーズもよろしくお願いします!
それでは!