先生が『死んだ日』   作:連邦生徒会のモブ書記

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『或る勇者の独白』

アリスは勇者です。

 

勇者はどんなに強い敵が現れても、どんなに悲しいイベントが起きても、最後には笑って『ハッピーエンド』を目指さなければなりません。

 

モモイが、ミドリが、ユズが、そしてセミナーの皆がミレニアムを去る前に、アリスを『会長』から『終身名誉会長』という立派な名前にジョブチェンジしてくれました。

 

アリスが勇者として、自分達の後輩の光となってくれるように願って

 

そしてそれから19年の時間が経ちました。

 

その間、アリスはケイと伴に色々な生徒を見ました。

 

モモイやミドリの後輩たちと成長し、確かに勇者としてミレニアムを守っていたつもりでした。

 

こんな毎日がずっと続くのだとアリスは思っていましたが、

 

現実は私達に優しくありませんでした。

 

唐突な先生の死

 

そのニュースがミレニアムに届いた時、

 

確かに世界から色が消えて行くのを感じました。

 

その時に、アリスは分かってしまいました。

 

アリスたちの背中をいつも優しく見守って、

 

今日の『冒険』で疲れたアリス達が明日もまた『冒険』出来るように『記録(セーブ)』してくれた『先生』がいない世界には、

 

もう『つづきから遊ぶ(コンティニュー)』なんて概念が存在しないのだということを。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

先生の遺した端末は、冷たい氷のように固く閉ざされていました。

 

連邦生徒会の役員たちが権利だとかルールだとかいう言葉で、先生の『心』を奪い合っている間、アリスとケイは暗い部屋でその端末を見つめていました。

 

「……アリス、解析が完了しました」

 

ケイが、先生の最後の言葉――『遺言』をハッキングして見つけ出してくれました。

 

先生の端末――『シッテムの箱』のセキュリティは固く、ケイを以ってしても抜き出せた遺言は僅かでした。

 

『もしも私がキヴォトスで死んでしまったら、私の体は私がやってきた外の世界に還してほしい。』

 

『…………もしそれが叶わないなら、かつての私が眠るアトラ・ハシースの方舟の近くで、静かに宇宙葬にしてほしい。』

 

それは、あまりにも寂しい先生最後の『お願い(クエスト)』でした。

 

先生は、死してなおこのキヴォトスに縛られることを望まなかった。

 

いいえ、違います。

 

先生は、自分という存在が残ることで、アリスたちが自分に『依存』し続けてしまうことを恐れたのかもしれません。

 

でも、その願いを叶えられる生徒は一人もいませんでした。

 

みんな、先生を自分たちの学園に繋ぎ止め、神様として祀り上げることに必死だったからです。

 

ただ一人、あの『首席生徒』を除いて。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 比翼レンリさん

 

本来であれば『あの日』から先生の補佐を行う筈だった人です。

 

そして先生と一度も会えなかった、悲しい『後継者』でもあります。

 

彼女だけがただ一人、遺言を知らずとも、先生の気持ちを理解していました。

 

彼女は自分のキャリアも、未来も、命さえも危険にさらして、連邦生徒会の厳重な警備を潜り抜け、先生の遺体をミレニアム・ファルコン号まで届けてくれました。

 

「……アリス会長。」

 

「先生を……よろしく、お願いします。」

 

彼女はそれ以外、何も言いませんでした。

 

そして、何事も無かったように警備に戻る彼女が浮かべたあの表情を、アリスは一生忘れません。

 

それは努めて平静を装いながら、憧れだった人を一度も見ることなく見送る、あまりにも気高くて、あまりにも残酷な『片翼の鳥』の顔でした。

 

もし……もしも彼女がもっと早く先生に出会えていたら。

 

アリスたちのように、先生と笑い合える『冒険の時間』を持てていたなら。

 

彼女は、きっと誰よりも素晴らしい『先生の遺志を継ぐ者』になっていたはずです。

 

アリスとケイは、せめて彼女が泥を被らないように全ての記録を書き換えました。

 

これは、わがままな勇者とその従者による『独断専行』なのだと。

 

それだけが唯一、アリスとケイが彼女に報いる事の出来る方法でした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

宇宙戦艦『ミレニアム・ファルコン号』のブリッジは、とても静かでした。

 

窓の外には、並行宇宙から迫る『脅威』の絶望が、赤い波のように広がっています。

 

「ケイ、私は……アリスは……勇者にはなれませんでした」

 

アリスでなく先生なら、きっとこんな時も『大丈夫だよ』って笑って、みんなを一つにして、誰も死なないルートを見つけ出したはずです。

 

本当は、分かっていました。

 

アリスはもう諦めていたのです。

 

先生のいない世界で、先生の遺した言葉だけを支えに生きていけるほど、アリスたちは成長できていなかった。

 

その証拠に、いつもと変わらない筈の光の剣(スーパノヴァ)は重すぎて、アリスの腕はまだこんなに震えています。

 

この重さが、『もう自分に勇者の資格はない』という事を嫌でも伝えて来ます。

 

アラートが鳴り響くブリッジを脱出し、アリスとケイは非常区画へと向かいます。

 

「……ケイ、ごめんなさい。ケイまで巻き込んでしまいました」

 

ケイはアリスを守る為にケガをしてしまいました。

 

ケイにはアリスの『わがまま』に付き合わせてしまいました。

 

アリスは、最後の脱出ポッドのハッチを開けました。

 

せめて、ケイだけでも。

アリスの半身である彼女だけでも、冷たい宇宙の塵になる必要はない。

 

「ケイ、ここから脱出してください。あなたは、アリスの記録と先生の物語を、どこかで語り継いでください。」

 

けれど、ケイは動きませんでした。

彼女は、強い『意志』を持った声で答えました。

 

「拒否します。……アリス、あなたも先生もいない世界に、私の存在意義はありません。」

 

ケイは肩掛けにしていたエアレンデル:ルミナス・ノヴァを発射しました。

 

その光が、アリスが用意した唯一の『逃げ道』である脱出ポッドを、粉々に砕きました。

 

「私も、ここに残ります。」

 

「アリス、私は最後まで、あなたの傍に。……先生に、一緒に叱られにいきましょう」

 

アリスは、涙でぐちゃぐちゃになりながら、ケイの手を握りました。

 

二人の体温は、もうすぐ失われてしまうけれど。

 

今この瞬間だけは、アリスは一人ではありませんでした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

脅威の波が、艦を包み込みます。

アラートの赤、火花の青。

アリスの視界が、真っ白な光に染まっていきます。

 

あの日にゲーム開発部の部室で、みんなとコントローラーを握っていた時間は、走馬灯だったのでしょうか?

 

先生に撫でてもらった、あの手の温もりは幻覚だったのでしょうか。

 

……いいえ。

 

アリスとケイは最後の最後で、みんなに会うことができました。

 

「……ケイ、最後に一つだけクエストを更新します。」

 

「……はい、アリス。なんでしょうか」

 

「先生に、『私たちのクエスト』の完遂(エンディング)を報告する。……報酬は、先生の『笑顔』です。……いいですか?」

 

「……分かりました、勇者アリス。……最高難易度ですが、私たちなら、クリア可能です」

 

崩壊するブリッジ、光速を超えた衝撃の中で。

 

勇者と従者は、大好きだった人のもとへ、長い長い旅路を終えるべく瞳を閉じました。

 

 

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