禁忌目録:【死神計画】
■ 試製零号:【闇の盾】
素体:辺境で名を馳せていた銀等級の聖騎士
装備:至高神の象徴を刻んだ重厚なメイスと大盾。
奇跡:聖撃及び祝福
1日3回という限られた奇跡を、彼は常に「仲間の危難」のために捧げる、高潔な冒険者であった
奈落への転落:ある高額報酬の絡む迷宮探索の最中、報酬の独占を目論んだ仲間たちによって背後から襲撃された。
信頼していた仲間に刺され、盾を奪われ、魔物の巣食う深淵へと突き落とされた。
司祭との邂逅:瀕死の重傷を負い、神に祈りながら息絶えようとしていた彼を拾い上げたのが、当時魔神王軍の研究員だった司祭であった。司祭は彼の「神への祈り」が「仲間への憎悪」に変色する瞬間を待ち、その魂を混沌の術式で固定した。
異能:【漆黒の光弾】
司祭の手により、彼の脳内に「憎悪の増幅回路」が埋め込まれたことで発現した異能。
特性:かつての『聖撃』を反転させたかのような、禍々しい漆黒のエネルギー弾。それを掌やメイスの先から高速の光弾として射出する。
威力:憎悪の深さがそのまま火力となり、一発で重装騎士の盾を溶かし、肉を腐らせる。
回数:憎悪を抱く限り無制限に放つことが可能。
記録:高潔な魂が絶望に染まった際の爆発的な出力を証明した最初の成功例。しかし、復讐の対象が個人的であったため、世界を塗り替えるまでの「永続的な拒絶」には至らなかった。
司祭への影響:歪んだ執着の起点
司祭にとって零号は「自分の理論(絶望こそが最強)を証明するはずの傑作」。それが剣の乙女という「光」によって、「哀れな被害者」として処理・救済されたことは、司祭のプライドを完膚なきまでに叩き潰した。
彼は彼女が「光」という名の蓋をして、人間の本質である絶望を否定したと感じ、激しい怒りを覚えた。その意趣返しとして彼女と同じく「ゴブリンに傷つけられた少女」を素体とした死神の創造に病的なまでに固執したのである。
計画の純化:零号にはまだ「聖騎士としての未練」があったから負けたのだ、と司祭は結論づけた。
「次は、救済すら届かない、光が反射することすらない『純粋な拒絶』を創り出す。あの大司教が二度と優越感に浸れぬよう、彼女の心を恐怖で粉砕する死神を」
■ 試製一号:【記録抹消】
素体――王国法典審議会の命により、当該個体に関する出自、経歴、身体的特徴はすべて公記録から削除された。
異能:【不明】
当時の討伐隊が残した断片的な手記によれば、それは「目に見える破壊」ではなく、「魂が内側から崩壊する」類の現象であったと推測される。
【被害状況報告】
かつて、王国南西海域に位置する特定の航路において、数年の間にわたり異常な数の船舶が消息を絶った。
公式記録上の被害規模は「数千人」に及ぶと推測されるが、王国およびギルド上層部はこの事象を「稀に見る大規模な海流の乱れと海獣の活性化」――すなわち、不可抗力の海難事故として一括処理し、公への公表を厳禁とした。
この検体に関する情報は、教団の拠点移動に伴い徹底的に破壊されている。
判明しているのは、この「一号」の運用期間中、当該海域を通過しようとした騎士団の精鋭や、名だたる高位冒険者たちが、ただの一人も「戦うことすら叶わず」に消えたという事実のみである。
生存者の証言は存在しない。
ただ、残された無人の幽霊船の甲板には、争った形跡もなく、まるで全員が「自ら進んで海へ身を投げた」かのような、不気味な静寂だけが残されていたという。
【警告】
「一号」の異能、およびその正体について探ることは、王国の安寧を脅かす「不浄の再燃」を招く恐れがある。
この記録は、司祭が目指した「死神」の系譜における、最初の、そして最大の「歴史的汚点」として、永久に闇に伏せられねばならない。
■ 試製二号:【冥王】
素体:北方軍第四師団最強の隠密・暗殺者。
軍人として、そして暗殺者として完璧な「無」を体現していた。
トラウマの原点:20年前の訓練生時代に北方軍史上最悪の惨劇『邪竜事件』に遭遇。この時、逃げ惑う同期の訓練生たちを影から救おうとしたが、目の前で数名が蒸発。この「守れなかった悔恨」が、後に彼の隠密性を「世界からの逃避(透明化)」へと進化させるきっかけとなる。
反逆と追跡戦:司祭が北方軍司令部に「死神計画」を提言し、同盟が成立した際、彼は公然と異を唱えた。
邪竜の再来を予感したため。また、高潔な魂を壊して兵器にするという司祭のやり方が、武人としての彼の矜持を許さなかった。
北方軍vs冥王:彼一人の捕縛のために、第四師団の全密偵、さらには第三師団の魔眼鳥までもが動員された。一ヶ月に及ぶ追跡戦の末、彼は親友であった当時の師団長の手によって捕縛された。
死刑から「素材」へ:軍法会議で即刻処刑が確定したが、その類まれな暗殺技術と精神の強靭さに目をつけた司祭が司令部と取引。「処刑されたことにして、死体(素材)を譲り受ける」という形で、彼は教団の実験室へと送られた。
異能の解析
司祭は、彼の「存在感を消す」という暗殺技術を、混沌の術式によって概念レベルまで昇華させた。
① 完全透明化
単なる光学迷彩とは一線を画す、「世界からの消失」。
特性:光の反射、体温、足音や呼吸音、さらには体臭やフェロモンに至るまで、物理的な痕跡をこの世から完全に抹消する。
魔導的死角:高位魔導師の索敵呪文に対しても、そこに彼がいることを悟らせない。唯一の看破方法は、彼が立っている場所だけ「世界に不自然な『無』が存在する」ことを読み取ることのみだが、激しい戦場においてそれを実行するのは不可能に近い。
② 冥王の右手
「殺しの効率」を極限まで追求した、防御不能の即死攻撃。
特性:司祭が開発した極めて強力な「心臓停止の呪毒」を右腕の神経系に循環させている。
効果:彼の指先が対象の肌にわずかに触れた瞬間、呪毒が血管を通じて一瞬で心臓へ到達し、鼓動を停止させる。
脅威:重装甲の鎧を纏っていようとも、呪毒は魔力の隙間を縫って浸透するため、物理的・魔法的な防御は一切意味をなさない。
記録:隠密と必殺の極致。技術的には完成されていたが、その本質は「世界からの逃避」であり、司祭の求める「世界への積極的拒絶」とはベクトルが異なっていた。
また最期まで「軍人としての自意識」を捨てきれなかったため、司祭の望む「絶望を撒き散らす装置」としては、純度が低かった。
■ 試製三号:【ケルベロス】
素体:一卵性三つ子の兄弟。司祭は彼らを「三つの器に盛られた一つの魂」と称した。
特性:生まれながらにして極めて高い精神共鳴を持っており、互いの思考を読み取るまでもなく、呼吸を合わせるように行動することが可能であった。
出自:奪われた未来と「家」への執着
小鬼禍の犠牲者:ゴブリンにより故郷の村を焼かれた戦災孤児。
踏みにじられた夢
長男は「弟たちを守る強い盾」に。
次男は「王都の学院で学ぶ賢い魔導師」に。
三男は「誰よりも速く走るかけっこ」に。
それぞれが純粋な夢を抱いていたが、ゴブリンの襲撃で両親を失い、飢えと寒さの中で死にかけていたところを、教団によって「質の良い絶望」として回収された。
彼らが抱いていた「三人でまた温かい家で暮らしたい」という切実な願いを、司祭は「生者への激しい飢え」と「死への異常な拒絶」へと反転させた。
その戦闘力は一人一人が金等級冒険者を凌駕しており、彼ら三人が揃った際、勝機を見出せる冒険者は四方世界にも数えるほどしか存在しない。
長男:【剛力の牙】
特性:物理破壊の極致。
能力:肉体強化と骨格の魔導鋼化により、その怪力は純血のオーガをも上回る。
戦術:数トンに及ぶ巨大な岩石や敵の馬車を片手で軽々しく持ち上げ、投石機以上の速度で投げ飛ばす。彼の前では、重装騎士の盾も城壁も「紙細工」に等しい。
次男:【呪詛の咆哮】
特性:魔導による蹂躙。
能力:脳内に埋め込まれた混沌の魔力炉により「無詠唱」かつ「無制限」に広域殲滅魔法を連発可能。
戦術:本来なら数分の詠唱を要する爆裂魔法や雷撃を、呼吸と同じ速度で放ち続ける。回数制限という概念自体が存在せず、彼一人で「魔導歩兵師団」に匹敵する火力を有する。
三男:【神速の爪】
特性:超高速の暗殺。
能力:神経系を混沌の術式で加速させ、北方軍最速を誇る第1迅雷旅団のワイバーンすら凌ぐ移動速度を獲得。
戦術:音速に近い速度で戦場を駆け、特殊な歩法により空中歩行さえ可能。視認することすら不可能な速さで背後を取り、対象が痛みを感じる前に首を刈り取る。
異能:【共有命脈】
彼らを真に無敵たらしめている術式。
絆の反転:本来、兄弟が持つ「互いを想い、守り合う」という高潔な絆を、司祭は「互いの命を吸い合い、依存し合う」という混沌の呪いへと反転させた。
即時再生:三人には「共有された一つの命」が流れており、「三人のうち誰か一人が生き残っている限り、他の二人は数秒で欠損した肉体ごと完全に再生する」という不死性を持つ。
攻略の絶望:彼らを倒すには、金等級レベルの三人を「一瞬の狂いもなく同時に消滅させる」以外に道はない。
過去の戦績
教団に敵対した「金等級冒険者」をリーダーとする一党を返り討ちにし、また王都の裏社会を支配していた大規模な闇組織を、一晩で構成員数百名ごと「血の海」に変えて壊滅させた。北方軍司令部も、この三人の実力を高く評価し、司祭への出資を継続する判断材料とした。
司祭にとって、ケルベロスは「最高級の傑作」だったが、同時に「まだ複数人でなければ完成しない不完全な絶望」であった。
■ 完成体:【拒絶の死神】
素体:女武闘家(元・白磁等級冒険者)
正体:『ゴブリンスレイヤー』本編第1話にて、ゴブリンの巣穴で仲間を失い、自身も蹂躙された末に救出されたあの少女。
選別理由:司祭曰く「最高級の真珠」。彼女が選ばれたのは、単に被害者だったからではない。
高潔な献身:自分が地獄に落ちる瞬間まで、仲間(女神官)を逃がそうとした「本物の勇気」を持っていたこと。
落差の極致:その高潔な魂が、生還した後に故郷の村人から「汚物」として拒絶され、誰にも救われなかったことで生じた、純度100%の絶望。
無の器:父を亡くし、仲間を失い、故郷を追われ、愛に逃げる余地すら残されていなかった「完璧な孤独」。
出自:辺境の「忘れられた犠牲者」
彼女は神殿での治療後、故郷の村へ送り返された。しかし、そこにあったのは安らぎではなく、「ゴブリンに汚された不浄の者」という冷酷な視線であった。
村人たちは彼女を「口減らし」の対象とし、死を強要した。この「社会による二次的な殺害」こそが、彼女の魂を完全に反転させ、司祭に「世界を滅ぼす権利」を与える口実となってしまった。
異能
①不浄の指針
彼女の瞳に宿る意志。対象が抱く「殺意」「劣情」「計算」といったあらゆる情動を「不浄」として感知。彼女の視界では、それらを持つ者はすべて「緑色の醜悪なゴブリン」として映し出される。
②拒絶掌
「誰にも触れられたくない」という極限の恐怖を、不可視の物理衝撃に変換して放つ権能。
絶対防御:彼女の周囲数メートルは「絶対不可侵領域」となり、飛来する矢や魔法、近接攻撃のすべてを接触の瞬間に粉砕する。
概念破壊:対象の防御力や質量を無視し、「そこに在る不浄」を空間ごと押し潰す。
王都侵攻作戦の切り札:【内側からの更地化】
北方軍司令部が彼女に期待したのは、単なる「強い兵士」ではなかった。
防衛網の無効化:王都の堅牢な城壁や近衛騎士団の盾も、彼女の「拒絶」の前では単なる不純物でしかない。
精神的瓦解:かつての英雄(剣の乙女)がゴブリンに怯える中、そのゴブリンを塵のように扱う彼女の姿を見せつけることで、王国の精神的支柱を粉砕する。
戦略的「空白」:彼女を王都に放てば、そこは一日で「ゴブリンのいなくなった完璧に清潔な更地(死の街)」に変わる。北方軍は、彼女が掃除し終えた後の抜け殻を占領するだけで勝利が確定する――という、最も合理的で残酷な「終わりの一手」であった。
総評:死神計画の到達点。零号の憎悪、二号の必殺、三号の不死性を凌駕した真の神。神々のダイスの出目を「衝撃」で書き換える、遊戯盤上の特異点。
この彼女を止める唯一の「切り札」が、かつて自分を見捨てずに探してくれた仲間(女神官)の、何の力も持たない「ただの抱擁」であったことは、司祭が最後まで計算できなかった神々のダイスの最大の狂いであったといえる。