ただ人でありたくて   作:メめ

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三十六話 雨は気が滅入るよなぁ。気分も落ち込むしな

 

 

 

 犬系獣人の街から出発して一日。

 もうしばらく歩いたところにゼータちゃんの故郷付近にある、馬の休憩で使われる湖の小屋に着くと言うところで雨が降ってきた。

 

 小高い丘の間にあるせいか風が強くて、雨は横殴り。

 ゼータちゃん抱えて強行突破してもよかったんやけど、足場悪いし、視界も悪いし。雨でびしょびしょになるんはええけど、泥でドロドロにはなりたくなかった。

 それに、熊系の大型魔物の巣穴も見つけたし、中はお留守みたいやから雨宿りに使わせてもらっとる。

 

「雨、止まんなぁ」

「止まないね」

 

 うへぇー。服がビッショビショやぁ。靴もドロドロやし、着替えようかね。

 …………。

 なんや、えらい見てくるやん。視線が頭から足先まで上下してますやん。

 

「人の着替えは、ガン見するようなもんやないで」

「それは失礼。相変わらず、体の線が細いと思ってね」

「これでも鍛えてはいるんやけどね。シドみたいに、筋肉バキバキにゃあ、まだ遠いけどな」

 

 ボクの場合。筋質密度が高いだけやとは思うんやけどね。身長よりも体重あるし、かと言って太っとるわけやないからなぁ。

 ボクも男の子やし、シドのあの体付きは羨ましいけどなぁ。あんな、なんでもなさそうな面しといて、あの体つきしとったらちょっと引くよな。ボク引いたし。

 

「まあ、筋肉ダルマなったら。身体重いし、膨張した筋肉が邪魔なったりもするからなぁ」

「見た目の威圧感は出ても、そもそも私達は正面戦闘よりも基本的に姿を見せない暗殺だからね」

「態々威圧する必要ないし、難しいところよなぁ」

 

 趣味をとったら体が邪魔で。仕事をとったら趣味がない。折り合いって大切よな。

 

 体の話しとるけど、それはそれとしてやなぁ。

 

「あんまり凝視されとると、流石に恥ずかしいで」

「気にしなくていいよ。そもそも、お互いに裸体を見た仲じゃないか」

「一緒に風呂入っただけな? 誤解を招く様な事は言わんといて」

「ふふ、本当にそれだけだと思ってる? ついこの間、記憶が飛ぶまで飲んだじゃないか」

 

 やめてくれ、その口撃はボクに効く。致命的な一撃になるで。

 

「あの日は、あんなに激しく求めて来たじゃないか」

「そないな記憶はございません」

「だって、記憶飛ばすほど疲れて眠っちゃったもんね」

「見ててもええです。ボクの着替えを見ててもええから、その話すんのやめません」

 

 ボクのメンタルに良くないから。

 

「わかった。じゃあ、存分に身体を観察させてもらうよ」

「……もう好きにしてくれ」

 

 もう好きにしてくれ。やっぱ、女の子には口で勝てんわ。

 

「……なぁ、ゼータ。仮にやで、ボクがゼータの着替えをガン見してたらどう思う?」

「んー、恥ずかしいけど。私の身体に興味があるってことだし……二人だけの秘密だよ?」

「聞いたボクが間違っとった。待て待て、ステイ!」

 

 スライムスーツを解除しようとすな。目のやり場に困るやろ。いや、目を閉じればええだけやけどさ。

 

 こら、楽しそうに笑うんじゃありません。思春期男子で遊ぶと痛い目みるで。っと。よし、スライムスーツはこんなもんかね。

 

「揶揄い甲斐があって楽しいよ」

「そら良かった。でも、昨日から酷ない? ボク、ずっと揶揄われとる気がするんやけど」

「気のせいだよ」

「ほな気のせいか。ってなるか」

 

 気のせいなわけないやろ。……ホンマに、酔った勢いでゼータちゃんになんかしたとかないよなぁ? 

 香水の匂いもしなかったし、ゼータちゃんの匂いも変わった感じはせんかった。

 強いていうなら、ボクの匂いが少し混ざってたぐらい。

 

「そうだね。揶揄うというか、こうやってヒツギと話してると楽しくてね」

「……ほーん。まあ、楽しいならええよ」

 

 ボクも別に嫌ではないしな。……酔いの話以外は。ホンマに、あの話は心臓に悪い。

 

 とりあえず、濡れた服はスライムを使って乾かそう。ボクの体よりも暖かくなるし。水分絞って近くに置いてれば乾くやろ。出力調整ミスったら爆散するけど。

 

 外はまだ強い雨。もう少しすれば止むかもしれないけど。……雲行き的にそれも怪しいなぁ。

 

「スライム使って濡れるの防ぎながら小屋まで行くか?」

「雨は長くなりそうだし、それもいいかもね」

「ま、そんなことするぐらいなら。始めっから小屋まで走っとればよかったんやけどね」

 

 泥だらけの服でいるのは着心地も悪いから。一旦、着替えるためにここに来たと思えばええんかね? 

 いや、そもそも雨に濡れたら体温奪われるしなぁ。

 

「小屋に暖炉とかあったりする?」

「うーん。確か、あったと思うよ」

 

 よし。あるなら、低体温になっても暖まれるな。

 

 服は濡れモノやからスライム棺桶の中に入れて縮小。葬棺の中にしまう。

 

「よし、小屋に移動するで。走れるか?」

「大丈夫。問題ないよ」

「ほな、行こか」

 

 探知にデカめの気配ひっかかったし、留守にしてた魔物も帰ってくるんやろ。

 さっさと移動してしまおうか。

 

 合図をすることもなく、ボクとゼータちゃんは巣穴から飛び出て小屋まで走る。足元は泥だらけになったけど、近くに湖あるし。雨があがったら体を清めに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マージで雨止まんなぁ」

「この調子だと、暫くは止まないかもね」

 

 小屋について、暖炉で火を焚きながら時間を過ごす事数時間。雨が止む気配はない。

 なんなら、激しさを増しとるんやないやろうか。

 

「これ、ボクら動けんくなるかもなぁ」

「夏だからね。雨が多くなるのは仕方はどうしようもないかな」

「夏季は雨が結構降るんやっけ?」

「結構というか、かなりの頻度だね。特にここは一週間のうちの最低でも三日と半日近くは雨だね」

 

 それは、雨季や。

 しかも、ここ一帯だけなんやろ? 

 確かに、そんだけ雨降ってれば湖もできますわ。

 

「そんな訳だから、雨を避けようと思うとかなり足止めされるかもね」

「……雨上がったら全力ダッシュやな」

 

 ゼータちゃん抱えて。

 

「まっ、そうなるかもね。あ、あったあった。この小屋、いつでもコレ、置いてあるからさ」

 

 奥の壁板の一部を剥がして、ゼータちゃんが何やら取り出した。

 細くしなやかそうな棒先に、糸が巻き付けられており。その糸先には金針が結ばれている。簡易的な釣竿やろうか。

 

「雨が降ってると、水が濁って魚が浅瀬でも釣れるからさ。雨避けをしながら、釣りをして雨が止むのを待つのがここでの過ごし方だよ」

「雨避けしながらって、傘でもさすんか?」

「いや? なんのためにここに暖炉が設置されてると思うのさ」

 

 ……ああ、なるほど。雨避けしながらっていうても、最低限の傘だけ被って釣りして、寒くなってきたら暖炉であったまるんか。

 

 なかなかワイルドや。

 あと、シンプルに身体に悪そうや。

 

「私は釣りに行くけど、ヒツギもどう? ここ、結構釣れる場所だから楽しいよ」

「えー、雨濡れんの嫌なんやけど」

 

 雨は身体冷えるから好きやない。

 

 でも、たまにはええかな。水の多いこの辺なら、発熱に効く薬草とか、あの丘のところとかなら水捌けも良さそうやし、腹痛とかに効くやつもあるやろ。

 それに、今は抗生剤もあるから万が一は大丈夫やしな。

 

「でも、たまには誘いに乗らせてもらうわ」

「良いね。じゃあ、仲良く釣りと行こうか」

 

 魚の知識は無いけど、その辺りはゼータちゃんが詳しいやろうし。色々教えてもらうか。

 それに、ボクは魔力使った生体探知の精度と範囲は自信あるし。ソナー代わりにもなる。魚探すのに使ったことないけど、なんとかなるやろ。水も魔力通るやろしな。

 

 

 

 結局、ボクらは夜中まで釣りをしてた。雨が止んだら、釣った魚を全部スライムで覆って走って局所的雨多発地帯を抜けた。

 魚は思ったより釣れた。

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