この素晴らしいラブコメ本が祝福されるのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
その日。今日も今日とて憎きカエル討伐をなんとか終えた俺達は、ぐったりとした足取りでギルドの扉を押し開けた。
すると、ガヤガヤと扉の外からでも聞こえてきた喧騒が止み、ギルドにいた全員がこちらを向く。
「え?なに、この空気?なんか嫌な予感がしてくるんだが……」
また問題事の気配を感じ、ウチの問題児2人に目をやると、心外とばかりに睨み返された。
だけど俺は知っている。結局はアクアかめぐみんのどっちかが迷惑行為を起こしていて、その尻拭いに俺が奔走されるということを。
そんな俺の思いをよそに、シュワシュワ片手にダストの奴がダル絡みしてきた。
「おいおい、カズマよぉ。お前いつの間に手を出したんだ?」
「なんの話だよ?」
「しらばっくれんなって。めぐみんとダクネスのことだよ」
マジで今日のコイツはどうしたんだ?しかも、周りの連中も止めようともせず、興味津々でこっちの話に耳を傾けてやがる。
「マジで何の話かわかんねえよ。ってか、なんで俺がめぐみんとダクネスに手を出したって話になってんだ?」
「そいつはこれよ、これ!」
酔ったダストが懐から取り出したのは薄い2冊の本。
その薄さにちょっとした既視感があったが、その本の表紙を見た途端、その既視感が吹っ飛んだ。
「なんだこりゃ!?」
なにせ、その2冊の本の表紙にはそれぞれ、俺とめぐみんが♡を手で作っていたり、ダクネスが俺の腕を抱きしめていたりと、ラブラブなカップルがやるようなことをしている絵が描かれていたのだ。
「なんだ、このふざけた本は!?」
思わずぐちゃぐちゃに握り潰そうとしたところを、ひょいっとダストに避けられた。
「おおっと!そうはさせねえぞ!こんな面白そうなネタを潰されてたまるかってんだ」
そのままひょいひょいと距離を取って簡単には奪えない位置まで下がりやがる。
「くっ、スティ「おいおい、兄弟。勝手に人様の持ち物を盗めば盗難だぜ?」ちぃ!こういう時ばっか法を盾にしやがって!!」
「ほんとよね。あっ、読みたいなら本屋に行けば売ってるわよ」
「あっ、おい、リーン!こっから俺の華麗な交渉テクがぁ!?」
「アンタのは交渉テクじゃなくて、タダのタカリでしょ?」
ちくしょう、ダストの野郎!俺から金を毟り取ろう企んでやがったな。
ってか待てよ、今リーンが気になる事を言ってたな?
「なあ、さっき本屋に売ってるって言ったよな?」
「ええ、そうよ。ちなみに私も買っちゃった」
えっ、マジで?つーか、よく見ればギルドにいる奴ら半笑いで、そのうちの何人かが、ダストが見せてきたあの2冊の本を持っていた。
この時点で俺は既にとんでもない手遅れ感を感じながら、丁寧な口調でリーンに持っているであろう、2冊の本を読ませてくださいとお願いする。
「いいけど、これ私のお金で買ったやつだし、握りつぶしたり、破ったりしないでよね」
そう念押しされて本を受け取ると、後ろから今まで静観していたアクアたちが群がるように俺が受け取った本を読もうと近付いてきやがる。
「おい、落ち着けお前ら!」
「いいじゃない。ちょっと早く読ませなさいよ!」
「そうです!私もさっきからずっと気になってたのですから、早く読ませてください!」
「はぁ、はぁ、一体私はどのようにカズマに脅されてこのような行為をうきゅ♡」
なんか1人興奮のベクトルが違う奴がいるが、無視だ無視!
俺は全員が見れるようにテーブルの上に本を置いて、器用に左右の手で本のページを捲っていく。
これも日本にいた頃に身につけた俺の密かな特技の一つだ。おい、地味だしあんまり役に立たない特技だとか馬鹿にするなよ。
「…………いや、おいなんだこれは?」
その本の内容を読んで俺は愕然とした。
この本はこっちの世界じゃ見たことの無かった漫画形式で描かれており、表紙から見て分かる通り、とんでもない絵のクオリティで俺を主人公としたそれぞれのラブコメが描かれてあった。
というか、なんだこの内容は!?
いや、俺こんなことしてねぇからな!?してねぇからな!?
なんなら、隣を見ればアワアワと慌てふためきながら「広めなきゃ、皆んなにこの事を広めなきゃ」と、何気にヤベェことを口走ってるアクア。
俺と自分がモデルになってる本を読んで、顔を真っ赤にしながら、もじもじしているめぐみん。
同じように、自分がモデルになってる本を読んで、いつものような変態的な恥じらいの顔ではなく、乙女的な恥じらいの顔をしているダクネス。
そして、俺はというと、そんな2人(アクアを除いた)に挟まれた俺を見つめるギルドにいる連中からの生温かい目の視線にむず痒さを覚えていた。
いや、正直気持ちは分かる。俺も他人事なら絶対に同じような反応をする。
とはいえ、当事者になったからには、この面倒事をどうにかしなくてはならない。
「んで、これはどこのどいつが描いたのか、知ってる奴はいるか?」
俺はどうせ誰も知らないだろうと、半ば諦め気味で問いかけた俺の言葉に誰よりも先に答えてくれたのはダストの奴だった。
「本の最後の方を見てみな。それで大体わかると思うぜ」
「最後の方?」
俺はダストに言われた通り、本の最後の方をめくってみた。
そこに挟まっていた見覚えのありすぎる紙を見た瞬間、背筋が凍った。
それは、アルカンレティアで散々見せつけられた、あの忌まわしき入信書。
俺はその入信書を両手で持ち、ギルドにいる全員に見えるように天高く掲げると、すぅ~っと息を吸って──
「またお前らの仕業かぁぁぁぁ!!!!」
「あああぁぁぁ!!!私のとこの入信書がぁぁぁ!!!」
アクシズ教への入信書をビリビリに破きながら絶叫するカズマと、それを見て涙目を浮かべたアクアの絶叫する声がギルド中に響き渡る。
「うるせぇ!なんでラブコメ漫画の最後に入信書が挟まってんだよ!!どう考えてもお前らの布教活動だろうが!!」
「違うもん!!私は知らないもん!!勝手にやったのは信者たちだもん!!」
「それが一番タチ悪いんだよ!!女神だってほざいてんなら、自分のトコの信者の管理ぐらいしておけぇよな!!」
俺が怒鳴りつけるなか、アクアはせっせこ俺が破った入信書をどこからか持って来た米粒を糊にして修繕しに掛かっている。
そんな俺らの様子を、周りの冒険者たちは腹を抱えて笑っている。
「やれやれ、流石はアクシズ教だな……」
「いやぁ、これはカズマも災難だな。中身はクソ羨ましいけど」
「でも絵はめっちゃクオリティ高いな」
「続編いつ出るんだろ」
おい、最後のやつ。お前は何を期待してんだ。
「いいか、お前ら!俺はまだめぐみんとダクネスにこんなことはしてねえ!!」
「ほぉ、
「ちなみに、その予定はどっちにするつもりなのだ、カズマ?」
ガシッと俺の両肩を掴むめぐみんとダクネスに俺は油の切れたブリキ人形の動きで振り返る。
「コトバノアヤダヨ……」
「「…………本当は?」」
ヤバい!いや、うん。女の子にモテるのは非常に嬉しいことなんですが、俺はまだまだ遊びたい盛りの年頃と言いますか。
まだ、結婚して人生の墓場に入るのは早いと言いますか。
そして何より──どっちのルートにするかなんて決めてねぇ!!
だから俺は、勇気ある決断をした。
「めぐみん、ダクネス。ひとまず戦略的撤退ということでぇ!ドレインタッチ!からの逃走……」
「「なぁっ!!?」」
2人の体力を吸い取って腕の力が緩んだ瞬間、俺は全力で走り出した。
「今だ、逃げろおおおおおおおお!!」
めぐみんもダクネスも俺よりスタミナがある。
だからこそ、追いつかれる前に早く曲がり角で撒いてから潜伏するしかない。
「カズマぁぁぁ!!!あなたという人はぁぁぁ!!!」
「今すぐに出てきたら、ゲンコツ10発で勘弁してやる!!!」
目を紅く光らせためぐみんと、あなた本当に貴族の娘さんでいらっしゃいますか?って疑問に思っちゃう顔で拳を握りしているダクネス。
ああ、お父さん、お母さん。あなたの息子は今、異世界で修羅場の真っ最中です。
っつうか、こうなった原因は全部あの本のせいだ。例え犯人がアクシズ教の迷惑信者だろうが、見つけ出して絶対にドロップキックの1つでもお見舞いしてやらねば気が済まねえ!!!
「カズマを見つけてひっ捕らえた者には私が今日の飯代を全て奢ってやる!!草の根分けてでも探し出せぇ!!!」
おい、ダクネス!?金の力で人を動かすはズルくないか?一体お前はいつからそんなに貴族らしい小賢しさを覚えたんだ!!
ああ、ダストの奴を筆頭に、ギルドに居た連中のほぼ全員が俺を捕まえに!!
「ええい、捕まってたまるかぁぁぁ!!!」
「いたぞぉ!!!」
「逃がすな、捕まえろ!!!」
「待て、兄弟!後生だ、今の俺は金欠で今日の晩飯を食う金もねえんだ!!」
知るかぁ!?どうせ、お前はいつも食い逃げして拘置所でお世話になるんだから問題ないだろうが!!!
ああ、俺の憧れた異世界生活は何故こうも逃げてばかりなんでしょうか!!!
「このクソッたれの異世界めぇぇぇ!!!」
一応、評価とか感想が貰えたら、めぐみんとダクネスの本を読む回を作ります。
今、めぐみんとダクネス以外で、頭の中で出来てる本のモデルはダスト・ミツルギ・クリスの3人ぐらいです。