超かぐや姫!の二次創作小説。

エンディング~RAYのラストまでの話の自己解釈です。

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超かぐや姫に脳を焼かれてしまったので、人生初の二次創作に手を出してしまいました。


第1話

◇◇◇

 大学を卒業して研究所に勤め、数年。仮想空間内での五感の再現を可能にするデバイスの実用化による功績で、私・酒寄彩葉は研究所の所長に就任した。私の夢へのロードマップの第一歩だ。

 

 ヤチヨにパンケーキを食べさせたい。オムライスだって食べさせたい。……体温を感じさせたい。その想いを原動力に、そしてヤチヨから読み取った8000年の記憶の中に一緒にあった月の超技術と言う少しのズルもあり、私の夢はまず一つ叶ったのだ。

 

 この日の為に、私はずっとパンケーキを練習してきた。いつか作った粉と水のパンケーキなんかじゃない。世界で一番のふかふかでおいしいパンケーキ。

 

 ツクヨミで、私はヤチヨにパンケーキを振る舞う。生クリームも、フルーツもたっぷり乗った、三段重ねのパンケーキ。

「わぁ……」

 髪を下したヤチヨは、ポカンと口を開けて、あの日のかぐやのように目をキラキラと輝かせてパンケーキを見つめていた。そんな姿を見ていると、つい余計なサービスをしたくなってしまう。

「……イ、イチゴソースでハートを描く、オプションもあるけど?」

 声もなく、満月のように輝く瞳で見上げられたら、答えなんて一つしかない。震える手で、震えないように、丁寧にハートを描く。

「で、出来たよ。召し上がれ」

「いただきまぁす」

 温かいメープルシロップが注がれると、バターが熱で溶けてじゅわりとパンケーキに染み渡る。フォークで押さえる手に弾力が伝わり、感触を楽しむように微笑みながらヤチヨはナイフを入れる。

 

 心臓がドキドキしすぎて、アバターなのに、胸が苦しくて、顔が熱い。

 

 気が付いたら祈るように両手を組んで、ヤチヨを見ていた。

 

 そして、パンケーキがヤチヨの口に運ばれる。その唇は震えていた。

 口に入れた瞬間、――その瞳からポロポロと涙が零れていた。

「ずっ……っと、食べたかったんだぁ。おいひすぎるよぉ」

 気づけば私も泣いていた。泣きながら、何度も頷いた。

 

 夢を持たなければ、夢は叶わない。これは、欲張りな私の夢の第一歩――。

 

 ◇◇◇

 

 ツクヨミ空間での五感の再現は無事に成功した。所長となった私の次なる目標は、アバターボディへの人格データの転送。それに続けてアバターボディでの五感の再現。

 建前としては、それが私の最終目標だ。研究所の皆も、出資者の皆も、お兄ちゃんも、ヤチヨでさえそう思っている。

 

「ん~、やっぱりYC型のボディだとまだ上手く歩けないね。なんでだろ?」

 ヤチヨの身体を模したアバターボディ。理論的にはうまくいくはずなのに、どうもバランスを崩して転倒したり、方向転換がうまくいかない。

「それはねぇ、ヤッチョがツクヨミでいつもフワフワ浮いてるからじゃないかな~。よよよ、ツクヨミでの不摂生がこんなところで祟るとは~」

 わざとらしく泣き真似をしながらヤチヨは笑う。

「ヤっ、ヤチヨは悪くないでしょ!?私の技術不足なんだから!じゃあ、次!新型の……KG型!KG型ボディで試してみよっ。ほら、こっちの方が背も低いし、足も長くないから扱いやすいかもよ!?」

「ひどいこと言うなぁ~」

 

 

 少しの休憩の後、YC型をスリープ。KG型の起動に切り替える。これはかぐやの身体を模したアバターボディだ。

「でも、かぐやの身体でヤチヨが入るの変な感じ」

 タブレットの画面に戻ったヤチヨに向かってそう言うと、ヤチヨはいつも通り楽しそうに笑う。

「大丈夫、大丈夫~。身体は心を表す!入ればそれっぽくなっちゃうからさ」

 なんとなく解せないけど、ヤチヨが言うならきっとそうなんだろう。

「……ふーん。ならいいけど。行くよ?いい?」

「どぞ~」

 

 画面のヤチヨは目を閉じる。そして、私はKG型ボディを起動する。

 

 ブン、と短い起動音がして、目の前にボールペンをユラユラと揺らすと、KG型ボディの……かぐやの瞼がゆっくりと開く。

「おはよ」

 つい今話していたばかりだけど、目が開いただけで嬉しくなりそう声を掛ける。寝起きのかぐやは身体を起こしながら『うわ、重~』と顔を歪める。それでも、YC型より動きが安定している様に見える。

「やっぱり、YC型より適合するね」

「身体、重くなぁい?」

「新型ってのはそういうものなの」

 

 ベッドから起き上がり、身体の動きを確かめるかぐや。まだ試作段階ではあるけれど、実用化の道筋は立ったと言えるだろう。

 

 次の夢。アバターボディでの五感の実装。自信過剰な事を言うつもりはないけれど、きっとこれも早晩成功するだろう。私と、ヤチヨがやっているのだ。できないはずがない。

 

「さっすが彩葉。この調子なら、もうすぐこの身体でもパンケーキが食べられる~」

 かぐやは嬉しそうにその場でジタバタと足を踏み鳴らす。

 

「ありがと、彩葉。約束通り、ハッピーエンドに連れてきてくれて」

 かぐやは、あの頃みたいに無邪気に笑う。

 

 その顔に少し口元を緩めながら、私は考えてしまう。私はなんて我儘で、図々しくなってしまったのだろう。

 

 ――まだ、ハッピーエンドなんかじゃない。

 

「ねぇ、ヤチヨ」

 

 私は『かぐや』にそう呼びかける。『かぐや』はきょとんとした顔で私を見る。本当にこれが正解なのかはわからない。うまく伝えられるのかもわからない。

 

 だから、私は歌を歌う。私とヤチヨを繋いでくれた、私の命を繋いでくれた、あの大切なメロディを。

 

 歌に聞きほれるように、微笑んで私を見つめていた『かぐや』。私は歌を止めて、言葉を続ける。

 

「自転車が壊れたら、直すんでしょ?」

 

 我ながら馬鹿な事を言っている自覚はある。けれど、実現不能な事を言うつもりはない。

 

「なら直そう。『もと光る竹』を。そして――、」

 

 ――『もと光る竹』、それは月の超技術でかぐやが作り、地球にやってきた時間遡行機能付きのタケノコ型宇宙船。隕石にぶつかり、多くの機能を喪失してしまい、今はツクヨミに接続されてその演算機能のみを用いて運用管理の補助を行っている。

 

 私は、『かぐや』の目をまっすぐ見て、力強く宣言する。

 

「8000年前のかぐやを迎えに行こう」

 

『かぐや』は、ヤチヨの顔であきれ笑いを浮かべた。

「無茶言うねぇ」

「うん。でも無理は言ってるつもりはない。私は、ヤチヨの8000年を無かった事になんてしたくない。だから!かぐやにも、8000年なんて過ごして欲しくない!」

 

 ――そして、三人でまた一緒にライブをやろう。

 

 そう言うと、かぐやはかぐやの顔で、ひまわりのような満面の笑顔で頷いた。

「うんっ、やろっ!」

 

◇◇◇

 

 私とヤチヨが持っている月の技術と理論。目の前にある『もと光る竹』の現物。それらを最大限に駆使して時間遡行装置……いわゆる『タイムマシン』を復活させる。これは研究所で出来る仕事ではない。当然、予算も使えない。自費だ。かぐやが月に還った時に残してくれたふじゅ~。今まで一切手を付けてこなかったこれを使わせてもらおう。いいよね?かぐやの為だもん。

 

「時間軸と場所のログは『もと光る竹』に残ってるから、正確に戻れると思うよ。ちゃんと直ればね~」

 

 某猫型ロボットのタイムマシンと違って、生身で乗り込んでいくタイプでなく、人格データのみ乗り込んでいくスタイルの様だ。本来身体を持たない月人。身体は現地調達が基本らしい。

「私が行くにはどうしたらいいかな?」

 

 カタカタとタイピングしながら画面の中のヤチヨに問いかける。

「ダメダメ。それは私の役目だよ。彩葉だって見たでしょ?私言ってたもんね、『ヤチヨ、助けて……』って」

 歌って踊れて8000歳、そんな言葉を本当に信じていたあの頃のかぐや。8000年前にもいるだろうヤチヨに助けを求めたかぐや。

「そう言う事なら、任せる。かぐやのこと、お願いね」

「承り~」

 

 敬礼の真似事をして、いつも通り軽く返事を返すヤチヨ。

 

 あくまで過程の話ではあるが、多元宇宙論や量子論から類推するに観測された事象は一つの事実として確定するとして、もしもかぐやを8000年前から連れて帰る事が出来たのなら、それはヤチヨの言う『輪廻』と言う因果から外す事ができるのではないだろうか?

 

 確認する手段がない以上、それはあくまでも可能性の話に過ぎないけれど。

 

 夢を見る事。それが、夢を叶える第一歩――。

 

 そして、その日は思った以上に早く来た。

 

 理論上、時間遡行宇宙船『もと光る竹』は完成した。厳密にいえば、擬態生成機能は復旧していないけれど、それは後回しで構わない。いま必要なのは、宇宙航行機能でも、擬態作成機能でもない。

 

「それじゃ、行ってくるね~」

 まるで近所のコンビニにでも行くように画面上のヤチヨはのんきな声で手を振った。

「緊張感ないなぁ……。絶対、帰ってきてよね」

「もちろん、二人で……ねっ!」

 

 別に今生の別れでもないのに、私とヤチヨは画面越しにいつものサインをした。そして、『もと光る竹』はフッと姿を消した。

 

 

 ◇◇◇

 

 ――遡る事約8000年。

 

 隕石に衝突して不時着した『もと光る竹』。そこから意識だけ離れたかぐやは辺りを見渡せる岩壁の上で膝を抱えて一人過ごしていた。船に搭載された擬態作成機能が損なわれてしまった為、身体を得ることができなかったのだ。

 

 一人で、ずっと世界を眺めていた。ここは彩葉のいた地球なのだろうか?もしかして、随分と昔に飛んでしまったのだろうか?そう考えると、怖くて一人膝を抱えて座っていた。千年前、二千年前、……一万年前なのだろうか?

 

 八千年以内だといいなぁ、とかぐやは考える。『歌って踊れて八千歳。分身もできる!』彩葉はそう言ってヤチヨを自慢していた。

「……ヤチヨ。どっかにいるんでしょ?出てきて。助けて」

 

 誰にも聞こえない独り言をつぶやくとほぼ同時に、空間を裂いて七色に光る『もと光る竹』が現れた。目を疑った。遠くを見ると、自身の乗ってきたそれが光を失い佇んでいる。『もと光る竹』が二つ!?

 

 事態が呑み込めないかぐやの頭に声が響いた。

「じゃじゃーん。呼んだ?」

 驚くほどのんきで場違いな声に目を丸くする。

「え。え?ヤチヨ!?なんで!?」

「ふっふっふ。ヤッチョはな~んでもお見通し。話はあとあと!一緒に帰りましょ。彩葉が待ってる」

 

 姿のない身体は震え、体温のないはずの目から熱い涙が零れる。

「うんっ!」

 

◇◇◇

 

 『もと光る竹』が8000年前に飛び立って三秒後。私の前に再び『もと光る竹』が現れる。

「わっ、びっくりした!早っ」

 思わず身じろぐ。そりゃそうか、時間を飛んでくるんだからそうなるか。一人納得していると、タブレットの画面が光る。

 

「やおよろ~、迷子連れてきたよっ」

 いつも通り笑うヤチヨが画面に映り、画面の外に手を伸ばす。そこから引っ張り出されて出てきたのは……、かぐやだった。

 ツクヨミのアバターの姿で、ばつが悪そうに、申し訳なさそうに上目遣いで私を見て苦笑いを浮かべる。

「……えへ、迷っちゃってた」

 

 言葉が出せずに、口元を手で隠していると、かぐやは画面の向こうから私を指さす。

「ってか、彩葉!超キレイになってなぁい!?ずるいっ」

 私の反応が無いことにむぅっと頬を膨らませると、今度は敬礼のポーズを取る。

「酒寄かぐや!恥ずかしながら、月から戻ってまいりましたっ!」

 つい、ぷっと噴き出してしまう。

「……っはは。あんたいつ酒寄になったのよ」

 私が笑うと、かぐやもようやく嬉しそうに笑う。

「んぇ?最初からそうじゃない?。いろはっ、ただいま!」

「ん。……おかえり、かぐや」

 

 

 ◇◇◇

 

 復活ライブを終えてしばらくが経ち、私の夢はまた次の段階へと進む。かぐやの事を『強欲怪獣』とか言っておいて、結局私の方が強欲じゃん。

 

 私の次の夢、それは『もと光る竹』に本来搭載されている擬態機能の復元だ。元々物理的な身体を持たない月人は、現実空間に姿を現す際には、現地の条件に適応した擬態が必要であり、『もと光る竹』にはそれを自動で生成する機能が備わっていたそうだ。かぐやが電柱から生まれたのがそれに当たる。

 

 これは、私のわがままなんだけど……、私はかぐやを人間にしたい。

 

 三人寄れば文殊の知恵。私とかぐやとヤチヨがいれば、それもそう難しい問題ではなかった。普段の言動から忘れがちではあるけれど、元々かぐやのプログラミング能力は常軌を逸したものがあり、やろうと思えば銀行へのハッキングも容易に熟せる上、『もと光る竹』のプログラムを組んだのもほかならぬかぐや自身なのだから。

 

 もちろん、ヤチヨにもそれを打診した。だけど、意外にもヤチヨの首は横に振れた。

「ヤチヨはねぇ、電子の海の歌姫だからね~。たま~に、アバターボディで彩葉のところに行くけど、ヤッチョの世界はこのツクヨミなのです☆」

 おどけた様子でそう言ったヤチヨは、嬉しそうに微笑みながら、画面の中でポップコーンを頬張る。

「味も、匂いも、温度も、ぜーんぶ彩葉がくれたからさ」

 

 そんなことない。全部貰ったのは、私の方だ。

 

◇◇◇

 

 現代技術を超えた『もと光る竹』、時間遡行・記憶のデータ化・擬態の作成。言うなれば何度でも命をやり直せる不死の薬。

 

 竹取物語では、かぐや姫に二度と会えないことを嘆いた帝は、かぐや姫からもらった不死の薬を富士の頂上で焼いた。だが、『もと光る竹』はかぐやが月で製作した最強の外殻。大気圏突入にも耐えうるその機体、燃やすことは到底できない。

 

 一度きりで、複雑で、自由。それが人間だ。やり直しができる可能性。それを手元において、使わない事が選べる程強くないのも、人間だ。

 私たちは、それを捨てなければならない。

 

 そんな話をすると、かぐやがポンと手を打った。

「あっ、いいこと思いついた☆」

 左手の人差し指をクルクルと回しながら、パチッと私にウインクをする。

「富士山に埋めちゃわない?竹取物語っぽく!」

 

 かぐやらしいスケールの大きな話。その日から計画が始まった。

 

 

『私は、かぐやを本当の意味で人間にしたい』

 全ての事情を伝えてある兄にそう告げる。不死の薬を、人として生きる為に捨てるんだ。

 

「帝サマがやらなくていいの?」

 お兄ちゃんがツクヨミでの姿のように少し気取った風に問いかけたので、私はクスリと笑って首を横に振る。

「うん。これは、私とかぐやで決めた事だから。ありがと、お兄ちゃん」

 

 そして私たちは富士の山を登る。かぐやのリュックには『もと光る竹』が入っている。

 

 雲を見下ろす山頂付近。鳥居を見つけると重い荷物を持っているにも関わらずかぐやは杖を放り出すと、声を上げて飛び上がった。

「わっ、ちょっと……転ばないでよ!?」

 

「やっと、ここまで来れたね」

 急にそんな表情で言われると、こっちまで泣きそうになっちゃうじゃない。

 

 月の技術も無駄に取り入れた『超スコップ!』で岩盤を掘り、『もと光る竹』を埋める。

 

「もと光る竹、応答せよ」

 かぐやが呼びかけると、もと光る竹は仄かに光りてそれに応える。

「もと光る竹、……機能を停止せよ」

 

 かぐやが作った、かぐや専用の時間遡行宇宙船。『もと光る竹』は主の呼びかけに応えるように、点滅し、光り、点滅しを幾度か繰り返してから、やがて光を失い機能を停止した。

「今まで、ありがとうね」

 かぐやは、戦友を労うように、『もと光る竹』の冷たく硬い身体を何度も撫で、私はその姿をずっと見守っていた。

 

 空を見ると、うっすらと月が出ていた。今日は満月だ。かぐやの右手を、私の左手が繋ぐ。

 

 あの月に、今もかぐやはいるのだろうか?今もバリバリ社畜をしているのだろうか?何十年か経って、私の元に来る事を楽しみにしながら。私たちの歌を、口ずさみながら。大切なメロディを、歌いながら。

 

 もし、輪廻なんてものが本当にあるとして、それを本当に変えられたのか確かめる(すべ)はない。

 

 だから、私は声を上げる。月に届くように、口に右手を添えて、大きな、大きな声で叫ぶ。

「かぐやーっ!急がなくていいから!今度は安全運転でねー!私、ずっと待ってるからー!」

 あの日かぐやから貰った右手のブレスレットが、かすかに光った気がした。

 

「さて、帰ろっか」

「えぇ!?宿取ってないのぉ!?」

 かぐやが大げさに驚くのが面白くて、ついイジワルを言ってしまう。

「嘘。取ってるよ。ご来光、見て帰ろ」

「やったぁ!さっすがいろP!」

「……いろP言うな」

 

 ――これが、私たちの物語。私と、かぐやと、ヤチヨの物語。

 

 最後の言葉は最初から決まっているよね?

 

 そして、三人は、それからも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

 

 

 終

 

 

 

 

 

 

 


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