Fate/stay night[Endless Stardust] 作:おーたまー
張り詰めた空気が満ちる道場。その中央で、俺とアーチャーは互いに間合いを測るように対峙していた。
沈黙を破り、アーチャーがその双眸を細める。奴の両手に魔力の粒子が収束し、無骨な一対の双剣が揺らぎながらその姿を現した。
「そら」
アーチャーは無造作に、そのうちの一振りを俺の足元へと投げ渡す。
どういうつもりなのか。
乾いた音を立てて転がる鉄塊を前に、思考が一瞬止まる。
「は?」
「打ってこい。死ぬ気でな」
手元の剣と、冷徹な視線を向けてくる男の顔を交互に見比べ、俺は言葉の意味を反芻するように眉を顰める。
「お前、魔術の使い方とか、そういうのを教えるんじゃないのか」
言い終えるか否か。
アーチャーの姿がブレた、と認識した瞬間には、既に致命の間合いへと踏み込まれていた。容赦なく振り下ろされる刃。俺は本能のままに、転がっていた剣をむしり取るようにして、それを慌てて受け止める。
「ぐお──!」
信じられないくらい重い一撃に、腕の筋繊維が草を掻き分けるようにブチブチと千切れていく。
一気に満身創痍になりつつある俺を気にもかけず、アーチャーは剣を振り上げる。
「小僧、さっき言ったな。なんでお前が出張ってくるんだ、と。そして俺は答えた。お前は凛とあの子の足枷だと」
続けざまの一撃。
火花が散り、キィンと高い金属音が響く。
上段から押し込まれるあまりの圧力に、俺は一瞬で余裕を奪われ、歯を食いしばる。対するアーチャーの表情には、微塵の揺らぎもない。完全に力でねじ伏せながら、奴は淡々と言葉を連ねる。
「お前とあの子に霊的なパスはない。お前が消えたとしても、あの子自身の現界に支障はないのだろう。あの子の力は貴重だ。しかしお前はどうだ? さて。同盟を組むにあたり、お前の存在は凛にとって利になるのか、はたまた害になるのか。そのくらいは理解出来るな」
「な、お前、はじめから──!」
冗談じゃない。
怒りと焦燥で声を荒げるが、アーチャーは容赦なく手首を返し、俺の剣を鮮やかに弾き飛ばした。
数十メートルも離れた場所に転がった剣を恨めし気に見る。アーチャーの追撃を躱しながら、もう一度拾うことなど出来るはずもない。
「唯一の武器を失ったな。さてどうする。これは不慮の事故だ。幸い目撃者はいない。お前にとっては、この上ない不運だろうが──!」
命を刈り取る一撃が迫る。俺は必死に身体を翻し、紙一重で躱し続けるが、無理な体勢が祟ってついにバランスを崩した。
──死ぬ。受けなければ死ぬ。
受ける為にはどうすればいいのか。何が必要なのか。
そんなものは分かっている。剣を受けるには剣が必要だ。
けど、無いんだ。無いんならしょうがないだろ。
なんでもいい、中身がなくたって、ハリボテだって構わない。それが、武器でさえあるのなら──!
「
極限の集中の中で、俺の手の平に魔力が奔流する。死線の一歩手前で、俺は再び手元にさっき弾き飛ばされた剣を投影し、迫る刃をどうにか防ぎ止めた。
息も絶え絶えの中、アーチャーは無表情のまま剣を構える。
「その剣はなんの神秘も宿っていない無銘の鉄屑だ。それでも眠っていたものを起こすには事足りる。お前の強化の魔術は、無から形あるものを生み出す投影魔術の副産物に過ぎん。故に、お前は一度により多くの魔術回路を動かすことになったのだ」
アーチャーの言葉が耳を素通りしていく。
身体が熱くて熱くて、脳が溶けて視界が歪んで、なんだこれ。
内側から焼き切れるようなうだる熱。意識が急速に曖昧になり始める。
「──くそ」
捻り出すように声を出し、剣を突き出す。
そうやって辛うじて次の一撃を受け止めた瞬間、耐えかねたように俺の剣が甲高い音を立てて粉々に砕け散る。
光の礫となった剣を、俺はただ呆然と見ていることしか出来ない。
「さて。同じ剣であるはずの俺の剣とお前の剣。なぜお前の剣は砕かれたのか。それは単純な力量以上に、お前の投影が未熟だからだ。すぐに壊れるなまくらでは、己の身を守れるはずもない」
アーチャーは手元に残った自身の剣を、見せつけるように突き出した。
それを見つめる俺の脳裏に、突如としてノイズ混じりの光景が流れ込む。剣の構成、材質、鍛錬の歴史──その構造が、恐ろしいほどの精度で脳裏に浮かび上がってくる。
「取り繕うな。真髄を見ろ。視界に入れた時点で、お前の内には設計図がある。ならばそれを読み取り、複製し、反映しなければ意味が無い。お前に出来ることなど、それくらいしかないだろう」
冷徹な叱咤とともに、再びアーチャーの剣が唸りを上げる。
「が──くそ、少しは、手加減、しろ──!」
俺は必死に脳内の設計図をなぞり、剣を投影しては受け、投影しては受ける。一撃、また一撃と刃を交えるたびに、自らの魔術回路が、身体そのものが、内側から強引に変質していくような感覚が駆け巡っていく。
散る火花の合間に、見知らぬ光景が脳裏にフラッシュバックする。どこまでも広がる荒涼とした荒野。そして、墓標のように突き刺さる、数え切れないほどの剣の丘。
──十数回めとなる投影。
「──はあっ、はあっ」
視界が霞み、もうまともにアーチャーの顔も見えやしない。
だが、今度は違った。両手にある重みは変わらない。俺の剣は砕けていない。腕を伝う強烈な衝撃に耐えながら、アーチャーの一撃を、ついにその身で受け切ってみせた。
「なるほど。実に腹立たしい。こうなると、やはりお前を殺すのも全くの無駄では無さそうだ──!」
息を入れ、ほんの少し視界が回復する。顔を上げると、アーチャーの口元に、昏く、不吉な笑みが浮かんでいる。
次の瞬間、奴の手のあった無銘の剣が消え、陰陽の文様が刻まれた一振り──美しい白黒の短剣が投影された。
──不味い、今までの剣とは明らかにレベルが違う。
本能的な恐怖に突き動かされ、俺は慌てて全く同じ武器を脳内から引きずり出し、形にする。
しかし、格が違いすぎた。
ぶつかり合った瞬間、俺の投影した短剣はガラス細工のようにあっけなく砕け散り、遮るもののなくなった黒い刃が、容赦なく俺の肉体へと迫る──