Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

17 / 17
4日目-投影

 張り詰めた空気が満ちる道場。その中央で、俺とアーチャーは互いに間合いを測るように対峙していた。

 沈黙を破り、アーチャーがその双眸を細める。奴の両手に魔力の粒子が収束し、無骨な一対の双剣が揺らぎながらその姿を現した。

 

「そら」

 

 アーチャーは無造作に、そのうちの一振りを俺の足元へと投げ渡す。

 どういうつもりなのか。

 乾いた音を立てて転がる鉄塊を前に、思考が一瞬止まる。

 

「は?」

「打ってこい。死ぬ気でな」

 

 手元の剣と、冷徹な視線を向けてくる男の顔を交互に見比べ、俺は言葉の意味を反芻するように眉を顰める。

 

「お前、魔術の使い方とか、そういうのを教えるんじゃないのか」

 

 言い終えるか否か。

 アーチャーの姿がブレた、と認識した瞬間には、既に致命の間合いへと踏み込まれていた。容赦なく振り下ろされる刃。俺は本能のままに、転がっていた剣をむしり取るようにして、それを慌てて受け止める。

 

「ぐお──!」

 

 信じられないくらい重い一撃に、腕の筋繊維が草を掻き分けるようにブチブチと千切れていく。

 一気に満身創痍になりつつある俺を気にもかけず、アーチャーは剣を振り上げる。

 

「小僧、さっき言ったな。なんでお前が出張ってくるんだ、と。そして俺は答えた。お前は凛とあの子の足枷だと」

 

 続けざまの一撃。

 火花が散り、キィンと高い金属音が響く。

 上段から押し込まれるあまりの圧力に、俺は一瞬で余裕を奪われ、歯を食いしばる。対するアーチャーの表情には、微塵の揺らぎもない。完全に力でねじ伏せながら、奴は淡々と言葉を連ねる。

 

「お前とあの子に霊的なパスはない。お前が消えたとしても、あの子自身の現界に支障はないのだろう。あの子の力は貴重だ。しかしお前はどうだ? さて。同盟を組むにあたり、お前の存在は凛にとって利になるのか、はたまた害になるのか。そのくらいは理解出来るな」

「な、お前、はじめから──!」

 

 冗談じゃない。

 怒りと焦燥で声を荒げるが、アーチャーは容赦なく手首を返し、俺の剣を鮮やかに弾き飛ばした。

 数十メートルも離れた場所に転がった剣を恨めし気に見る。アーチャーの追撃を躱しながら、もう一度拾うことなど出来るはずもない。

 

「唯一の武器を失ったな。さてどうする。これは不慮の事故だ。幸い目撃者はいない。お前にとっては、この上ない不運だろうが──!」

 

 命を刈り取る一撃が迫る。俺は必死に身体を翻し、紙一重で躱し続けるが、無理な体勢が祟ってついにバランスを崩した。

 

 ──死ぬ。受けなければ死ぬ。

 

 受ける為にはどうすればいいのか。何が必要なのか。

 そんなものは分かっている。剣を受けるには剣が必要だ。

 けど、無いんだ。無いんならしょうがないだろ。

 なんでもいい、中身がなくたって、ハリボテだって構わない。それが、武器でさえあるのなら──! 

 

投影、開始(トレース、オン)──!」

 

 極限の集中の中で、俺の手の平に魔力が奔流する。死線の一歩手前で、俺は再び手元にさっき弾き飛ばされた剣を投影し、迫る刃をどうにか防ぎ止めた。

 息も絶え絶えの中、アーチャーは無表情のまま剣を構える。

 

「その剣はなんの神秘も宿っていない無銘の鉄屑だ。それでも眠っていたものを起こすには事足りる。お前の強化の魔術は、無から形あるものを生み出す投影魔術の副産物に過ぎん。故に、お前は一度により多くの魔術回路を動かすことになったのだ」

 

 アーチャーの言葉が耳を素通りしていく。

 身体が熱くて熱くて、脳が溶けて視界が歪んで、なんだこれ。

 内側から焼き切れるようなうだる熱。意識が急速に曖昧になり始める。

 

「──くそ」

 

 捻り出すように声を出し、剣を突き出す。

 そうやって辛うじて次の一撃を受け止めた瞬間、耐えかねたように俺の剣が甲高い音を立てて粉々に砕け散る。

 光の礫となった剣を、俺はただ呆然と見ていることしか出来ない。

 

「さて。同じ剣であるはずの俺の剣とお前の剣。なぜお前の剣は砕かれたのか。それは単純な力量以上に、お前の投影が未熟だからだ。すぐに壊れるなまくらでは、己の身を守れるはずもない」

 

 アーチャーは手元に残った自身の剣を、見せつけるように突き出した。

 それを見つめる俺の脳裏に、突如としてノイズ混じりの光景が流れ込む。剣の構成、材質、鍛錬の歴史──その構造が、恐ろしいほどの精度で脳裏に浮かび上がってくる。

 

「取り繕うな。真髄を見ろ。視界に入れた時点で、お前の内には設計図がある。ならばそれを読み取り、複製し、反映しなければ意味が無い。お前に出来ることなど、それくらいしかないだろう」

 

 冷徹な叱咤とともに、再びアーチャーの剣が唸りを上げる。

 

「が──くそ、少しは、手加減、しろ──!」

 

 俺は必死に脳内の設計図をなぞり、剣を投影しては受け、投影しては受ける。一撃、また一撃と刃を交えるたびに、自らの魔術回路が、身体そのものが、内側から強引に変質していくような感覚が駆け巡っていく。

 

 散る火花の合間に、見知らぬ光景が脳裏にフラッシュバックする。どこまでも広がる荒涼とした荒野。そして、墓標のように突き刺さる、数え切れないほどの剣の丘。

 

 ──十数回めとなる投影。

 

「──はあっ、はあっ」

 

 視界が霞み、もうまともにアーチャーの顔も見えやしない。

 だが、今度は違った。両手にある重みは変わらない。俺の剣は砕けていない。腕を伝う強烈な衝撃に耐えながら、アーチャーの一撃を、ついにその身で受け切ってみせた。

 

「なるほど。実に腹立たしい。こうなると、やはりお前を殺すのも全くの無駄では無さそうだ──!」

 

 息を入れ、ほんの少し視界が回復する。顔を上げると、アーチャーの口元に、昏く、不吉な笑みが浮かんでいる。

 次の瞬間、奴の手のあった無銘の剣が消え、陰陽の文様が刻まれた一振り──美しい白黒の短剣が投影された。

 

 ──不味い、今までの剣とは明らかにレベルが違う。

 

 本能的な恐怖に突き動かされ、俺は慌てて全く同じ武器を脳内から引きずり出し、形にする。

 しかし、格が違いすぎた。

 

 ぶつかり合った瞬間、俺の投影した短剣はガラス細工のようにあっけなく砕け散り、遮るもののなくなった黒い刃が、容赦なく俺の肉体へと迫る──

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

Fate/stay night 『BA√』(作者:悠問追)(原作:ブルーアーカイブ)

 聖杯戦争を終えて、もう少しで一年が経過しようと言う頃。▼ 時計塔進出を見据えて、周りの鼻を明かすような功績を求めた『あかいあくま』によって。気づけば俺────衛宮士郎は、見知らぬ世界に迷い込んでいた。▼ これは、教師ではなく、先生として。未熟な精神を抱えて、誰かのためにただ進む。聖杯戦争とはまた別の、新たな戦いの────そして。生徒たちの、青春の物語だ。▼…


総合評価:21/評価:-.--/連載:8話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:15 小説情報

神代から弾かれたアマゾネス女王は、間桐桜を攫って聖杯戦争を壊す(作者:あかちゅきぼちゃん)(原作:Fate/)

神代の果て、アマゾネスの女王ヒッポリュテは妹ペンテシレイアの手を握ったまま、世界から弾かれた。▼次に目覚めたのは、第四次聖杯戦争前夜の冬木市。▼現代人としての原作知識を持つ彼女は、間桐へ渡される直前の少女――遠坂桜を救うため、ただ一つの選択をする。▼「なら、奪うしかない」▼だが、その選択は聖杯戦争を大きく歪ませる。▼桜に刻まれる令呪。▼狂戦士として召喚される…


総合評価:172/評価:5.83/連載:44話/更新日時:2026年05月09日(土) 20:52 小説情報

|暗殺する魔法《ザバーニーヤ》(作者:ヒゲホモ男爵)(原作:葬送のフリーレン)

▼全方向から中指立てられる魔族とかいうのに転生した可哀想な奴の話。▼顔がアカンわ。▼


総合評価:7339/評価:7.85/連載:7話/更新日時:2026年03月04日(水) 08:16 小説情報

パ リ ピ 時 臣(作者:融合好き)(原作:Fate/)

信じて送り出した夫がキラキラなギャルにどハマりして夜な夜な怪しげな場所で遊び呆けているなんて…


総合評価:5073/評価:8.62/連載:7話/更新日時:2026年04月13日(月) 14:31 小説情報

TS憑依転生オルガマリーの奮闘記(作者:手屋んDay)(原作:Fate/)

歴代型月作品の中でも有数の不憫キャラである、オルガマリー・アニムスフィアに転生した男の奮闘劇


総合評価:6155/評価:8.84/連載:4話/更新日時:2026年01月21日(水) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>