機動戦士ガンダム ムラサメ研究所、廃棄区画(アビス)より愛をこめて   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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偽装の島国(アマラカマラ商会)

結局のところ、世界は巨大なシステムに過ぎない。

 

そして、そのシステムの駆動を安定させるためには、表層の「平和」という名のカモフラージュが必要不可欠だ。

 

宇宙世紀0084年。極東、日本。

 

かつて八百万の神がいたとされるこの島国は、今や連邦の管理下で平穏を貪る、巨大な温室へと変貌していた。

 

その穏やかな風景の裏側で、ティターンズの資金源として、あるいはムラサメ研究所の「物流の窓口」として機能しているのが、アマラカマラ商会である。

 

私は、偽装された旅客機でその地に降り立った。

 

表向きは、戦後復興のための医療支援と、孤児たちの救済を目的とした慈善事業の視察。

 

だが、私が手にするブリーフケースの中身は、そんな慈愛に満ちたものではない。

 

中国地方の山間部だけでは賄いきれなくなった、新しい「素材」の調達ルートの開拓。それが、この島国を訪れた真の目的だ。

 

「ムラサメ博士、ようこそ。この島は今、一年で最も美しい季節です」

 

アマラカマラ商会の幹部が、揉み手で私を地下の隠し施設へと案内する。

 

古い蔵や寺院を再利用したその施設は、地上の静寂を裏切るように、最新の冷却ファンが唸りを上げていた。

 

この島国が選ばれた理由は、その「忘れ去られた場所」としての価値だ。

 

コロニー落としの直接的な被害を免れ、かつ連邦の監視の目が「平穏」という思い込みによって曇っている場所。

 

そこは、実験の失敗作を遺棄し、あるいは新たな被検体をひっそりと「国有化」するのに、これ以上ない最適解だった。

 

地下三層。ムラサメ研究所の「別棟」とも呼ぶべき実験室。

 

そこには、戦災孤児として保護され、そのまま「数字」へと変換されるのを待つ少女たちが並んでいた。

 

彼女たちは、自分が今からどんな「薬理的解体」を施されるのかも知らず、ただ提供される温かい食事に感謝していた。実に滑稽で、そして美しい光景だ。

 

彼女たちの無垢な感謝こそが、薬理の効果を最も純粋に測定するための、ノイズのないゼロ地点となる。

 

「……せん、せい。ここ、おばけが、いるの」

 

一人の少女が、私の白衣の裾を掴んで尋ねた。

 

彼女の指先は、地下に漂う微弱なサイコミュの残留思念――失敗作たちが残した「ノイズ」を、本能的に感じ取っているようだった。

 

「お化けなどいないよ。それは、君たちの脳が、新しい世界に適応しようとして見せている幻覚だ。いわば、システムの立ち上げ時に発生する、一時的なバグだね」

 

私は彼女の頭に手を置き、その表情を観察した。

 

感情沈殿剤を投与する前の、瑞々しいまでの恐怖と好奇心。

 

この「不純物」を一つずつ取り除き、漂白していくプロセスこそが、私の肺を支配欲で満たす。

 

私は彼女に、数字の「12」を与えることに決めた。

 

「アマラカマラ商会。君たちの役割は、この島国の平穏という偽装を維持することだ。地上では子供たちが笑い、寺院の鐘が鳴る。その地下で、彼女たちがサイコミュの檻の中で絶叫を上げようとも、その声が地上の空気を震わせることはあってはならない」

 

「心得ております、博士。我々は、この島国の『静寂』を売っているのですから」

 

施設内を巡回しながら、私は持ち込んだ薬理プロトコルを端末に流し込んだ。

 

ここでは、フォウ・ムラサメのような「最高傑作」を目指す調整は行わない。

 

目指すのは、より安定した、より安価な「量産型強化人間」の基礎データの蓄積だ。

 

ムラサメのレシピを一般兵士レベルにまで落とし込むための、過酷な耐久実験。

 

少女たちの叫びは、高周波のサイコミュ・ノイズへと変換され、施設の厚い壁に吸収されて消えていく。

 

日誌を広げ、極東の冷たい空気を吸い込む。

 

「極東隠れ蓑『アマラカマラ商会』の稼働を確認。島国の地下に沈められた少女たちは、もはや人間としての名前を失い、ムラサメのシステムを維持するための生体CPUへと国有化された。地上の平和は、地下の絶望によって担保されている。この欺瞞こそが、ティターンズの目指す秩序の雛形である」

 

ふと見上げれば、モニター越しに映る地上の監視カメラには、春の陽光に照らされた桜が映っていた。

 

その花びらが舞う美しさと、地下で繰り広げられる「脳の解体」という醜悪。

 

そのコントラストこそが、私の精製する聖域の完成度を物語っている。

 

「増殖の工程はこれで完了だ」

 

私は、ブリーフケースを閉じた。

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