機動戦士ガンダム ムラサメ研究所、廃棄区画(アビス)より愛をこめて   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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搬入の儀式(イズマの秤)

次なる舞台は、もはや実験室の中だけでは完結しない。

 

精製された「部品」たちが、実際の戦場で、実際の命を奪うための最終検証。

 

中立コロニー、イズマ。

 

漆黒の宇宙を背景に浮かぶその円筒形は、ティターンズの軍事的野心と、我々が精製した「部品」たちの実力値を測定するための、最高級の秤であった。

 

私は、大型輸送艦の薄暗いハッチの中に立っていた。

 

背後には、巨大なサイコ・ガンダムの脚部が、重厚な威圧感をもって鎮座している。

 

そしてその傍らには、精神を薬理で漂白し、戦うためのOSとして書き換えられた少女たちが、まるで出荷を待つ精密機器のように静止していた。

 

「……ムラサメ博士。資材の搬入状況はどうだ。閣下はお急ぎだぞ」

 

バスク・オムの、あの苛立ちを含んだ低い声が通信回線を震わせる。

 

彼にとって、被検体はもはや人間ですらない。単なる「資材」であり、機体を動かすためのバイオ・チップに過ぎない。

 

その徹底した非情さは、ある種、私の提唱する「国有化」の極致を体現していると言える。

 

「問題ありません、バスク大佐。被検体たちの精神状態は『空虚』そのものです。外部からの刺激をすべて機体育成のエネルギーへと変換する、理想的な沈殿状態を維持していますよ」

 

私は手元の端末を操作し、ドゥー・ムラサメと、フォウ・ムラサメ、そして予備検体たちのバイタル・データをチェックした。

 

彼女たちの脳波は、イズマコロニーという名の「異郷」へ運ばれる不安さえも見せていない。

 

なぜなら、私は彼女たちの脳内に、強力な条件付けを施してあるからだ。

 

「いいかい、ドゥー。よく聞きなさい。……この暗いハッチこそが、君の魂が唯一戻るべき場所だ。外部の世界はすべて君を傷つけるノイズに過ぎない。敵を排除し、任務を完遂したときだけ、君はこの安らぎに満ちた檻に帰ることを許される」

 

私の囁きに、ドゥーが虚ろな瞳を微かに動かした。

 

LSD-25誘導体による共感覚が、彼女にハッチの鋼鉄の質感を「母の胎内」のような安堵感として誤認させている。

 

感情沈殿剤が、未知の戦場への恐怖を「任務遂行への渇望」へとすり替えている。

 

彼女たちにとって、戦場は地獄ではなく、このハッチという名の聖域へ戻るための、通過儀礼でしかなくなるのだ。

 

「搬入を開始せよ。……これは、単なる機体の移動ではない。連邦の意志を、宇宙の深淵へと刻み込むための儀式だ」

 

私の号令とともに、巨大なクレーンが動き出し、少女たちを乗せたキャビンがサイコミュ・システムの中枢へと吸い込まれていく。

 

イズマコロニーの港湾区画。その平和な景色を、彼女たちは照準器越しに、無機質な「座標」としてのみ捉えるだろう。

 

私は日誌を広げ、イズマの淡い光の下でペンを走らせた。

 

「イズマへの搬入の儀式を完了。被検体たちは、ハッチへの帰属本能という名のバグを利用した条件付けにより、実戦環境への完全な適応を見せている。彼女たちの自我はもはや存在しない。あるのは、巨大な機体と一つになり、ノイズを排除しようとする兵器としての本能だけだ」

 

ふと、フォウ・ムラサメがハッチの隙間から見えたイズマの街並みに、一瞬だけ視線を止めたような気がした。

 

だが、それも次の瞬間には、パルス注入された薬剤によって、沈殿の底へと沈められた。

 

彼女が流したはずの微かな溜息は、サイコミュの冷却ファンの音にかき消される。

 

「……さあ、イズマの夜を、ムラサメのレシピで染め上げてあげよう」

 

私はハッチが閉まる重厚な金属音を聞きながら、冷徹な満足感に浸った。

 

これから始まるのは、演習ではない。

 

ジャミトフ・ハイマンが描く、政治的偽装と軍事的圧砕を融合させた、残酷なデモンストレーション。

 

その先兵として、私の精製した少女たちが、最初の産声を上げるのだ。

 

「国有化された聖域は、今、宇宙を喰らい始める」

 

私は艦内の自室へと戻り、モニターに映し出されるイズマコロニーの地図を、巨大な解剖図を見るかのような冷徹さで眺め続けた。

 

ノイズは、まもなく消去される。

 

連邦という名の巨大なOSが、この宇宙を完全に統治するために。

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