常々疑問に思っていた俺は
ひょんな事からカラスに転生してしまう。
ならば俺が頭の良い生き方を見せてやる!
これはカラスとして最高の生き方を目指す男のストーリーである。
カラスは頭が良い
というのが世間の評価だ。
エサを工夫して食べる。
人の顔を覚えてイタズラをする。
頭良いエピソードは確かにある。
だが、
「あいつら言うほど頭良いか?」
が俺の感想だ。
わざわざゴミ袋を散乱させては、あたりにゴミを食い散らかす。
なんのプライドか知らないけど、特定の人に粘着してはイタズラをする。
人間に飯を提供してもらっておいて、バカじゃ無い?
俺がもしカラスの立場だったら、
人間に、媚びて、媚びて媚びて…
悠々自適なペットライフを送るのに。
とか考えてたら、ある日、俺はカラスに転生していた。
はじめて自分が転生したことに気付いた時は驚いたが、アニメやラノベで流行っている異世界転生ものがついに自分の身に起きたと知ってむしろ喜んだ。
親カラスがくれる咀嚼された虫を食う日々には辟易したが、それでも夢の世界『異世界』という可能性を糧になんとか我慢した。
親カラスの餌を待つだけの退屈な時間も、異世界の定番!魔力が発現する様になんか腹の下に力を込めたり、「ファイアボール」など心の中で念じたり、色々試して過ごした。
それは、それなりに楽しい充実した日々だった。、
しかし、巣立ちが近づき、飛ぶ練習を始め出して気付いた。
どこかで見た風景。
馴染みのある建物。
聞き慣れた言語。
あ、ここは元々いた世界。
地球の日本だ。
あれ?異世界じゃ無い?
異世界ではない、異世界ではない…。
その言葉ががーんと言う重低音と共に頭の中をグルグル回る。
この事実にはかなり凹んだし、生きる気力もなくした。
その後3日くらい飛ぶ練習もせず、巣に引きこもった。
しかし、ある時気付いた。
親カラスがくれるぐちょぐちょの虫を、
これは軍隊のレーションだと言い聞かせ(食べた事ないけど)、
無理矢理嚥下していた時だ、
あれ?元の世界なら、ポテチやらラーメンやらケーキやらあるじゃん!
そして、俺は立ち直った。
こんなクソまずい虫なんか食ってられるか!
と中断していた飛行訓練を再開し、見事、その日のうちに飛行をマスターする。
そして、俺は人間だった頃も含めて初めて親元から巣立った。
さあ、巣立ったからには俺も一人前だ。
かと言って真面目にカラスとして生きる気は毛頭無かった。
俺は人間の食べ物を食べたい!
夏は涼しく、冬は暖かい人間の家で暮らしたい。
俺は人間に飼われて生きるんだ!
俺の意志は固かった。
まずは人間との良好な関係を築かなければならない。
この人間として生きた記憶をフル活用するのだ。
俺は早速行動した。
まずフンだ。
ところ構わずフンをする。
人間には「糞害」と呼ばれて憤慨…。
フッ、今日も俺は冴えわたっていやざるぜ!
…とにかくだ。
ところ構わずフンをすりゃ、当然人間からのヘイトを集めることになる。
だから、俺は決まった場所でフンをすることにしている。
近所に流れる用水路に。
始めの頃は、誰も気が付かなかったが、そのうちわざわざフンをする為に来る俺を人間達は珍しがった。
もちろんゴミを散らかしたりもしない。
ちゃんとゴミ袋の結び目を解いて開けて食べる。
クチバシで開けるのはなかなか骨だったが、毎日繰り返しているうちによほどの固結びでもない限りは開けられる様になった。
あと。他のカラスが散らかしたゴミも片付けた。
これも始めの頃は俺がゴミを散らかしたと思われて、散々追いかけられたり、箒で小突かれたり大変だったけど、今では、片付けている最中に人間に叩かれる事は減った。
それでもなかなか受け入れられるまではいかなかった。
人間には俺と他のカラスの区別がつかないのだから仕方が無い。
他のカラスの評判が悪すぎるのだ。
そこで他のカラスとの差別化の為に、工夫をしてみた。
毎日、山頂付近の湧水で体と羽を洗い身綺麗にした。
拾った模様の格好良いバンダナを首に巻いた。
しかし、これは悪目立ちをしてしまい悪ガキや暇を持て余した老人達からのヘイトを集めただけだった。
人間とて、良い人ばかりでは無いのだ。
俺は良い人に飼われたい。
次に言葉にチャレンジした。
「アホーアホー」
がカラスの鳴き声の定番なら、他の言葉もいけるのでは無いか?
姿も九官鳥似てるしワンチャンいけるのでは?
と期待したが、完全に言語を発する事は出来なかった。
そもそも人間の時と発声自体が違うのだ。
一つ一つ試してはみたが、カ行とア行はなんとなく出せたが、他はほぼアウトだった。
ハ行とガ行の一部がなんとかいける程度、それもかなり不明瞭。
ついでに一気に言えるのが3文字までだった。
そして、極め付けに致命的な点が音量の調節が出来ない所だ。
何度か人間と会話を試みようとしたが、急に大音量で鳴くカラスを人々は歓迎してくれなかった。
そんな感じでトライアンドエラーを繰り返し、挫けそうになりながらも愛玩動物への道を模索する俺に、
ある時転機が起きる。
100円玉を拾ったのだ。
俺はそれをそのままネコババした。
いやまあ人間なら遺失物横領罪という立派な犯罪行為だが、俺はカラスだ。
人間の法律なんざ関係ない。
ちなみに東京の人は驚くのだが、関西には100円で買える自動販売機というものがあちこちにある。
中には50円で買える缶コーヒーなんてのもあるくらいだ。
という事で、俺は拾った100円玉でジュースを買った。
100円玉をコイン投入口に入れ、
クチバシでボタンを押す。
足と頭を使って取り出し口から器用にペットボトルのジュースを引き摺り出す。
足とクチバシで蓋をくるっくるっと回して開け、クチバシで咥えてラッパ飲み。
カラスに転生してから、既に何度かやっているので手慣れたものだ。
手は無いけどな!
などと少し得意になりながら、ジュースを堪能していた。
油断していた。
その様子をはじめから人間に見られてしまったのだ。
まだ20代前半の会社員と言った風の女性だった。
ヤバい!
頭の中に、マッドサイエンティストに拷問の上、改造される自分の姿が思い浮かぶ。
人間は自分達以外の知的生命体を見るととりあえず解剖する生き物だ。
人間だった頃、宇宙人の特番で妖しげな自称宇宙人研究家が話していたのを唐突に思い出す。
殺される。
「ホク…イイ…カアウ(カラス)」
咄嗟に命乞いの言葉が口から出る。
最弱のモンスタースライムが勇者に命乞いをする有名なシーンを思い出す。
今の俺、あのスライムの気持ち、すごい分かる。
心の中で「僕悪いカラスじゃ無いよ!良いカラスだよ!殺さないで!」
と必死に念じる。届け!この想い!
「わぁ!すっごぉい。キミ、ちょーあたまいーじゃーん」
その余りの能天気な声に恐怖が一気に吹き飛ぶ。
え?何?その頭の悪い反応。
あっコイツ酔っ払ってやがる。
平日の真っ昼間だぞ。
と心の中で悪態をつく余裕まで生まれた。
可哀想なものを見る目でその女を見ていると、
「ねぇねぇ、もっかい、やって見てよー」
とニヘラニヘラとダラシのない顔でふらふらと近づいてくる。
そこで俺はピンッとくる。
「…オカェ(お金)」
と言ってみると、
一瞬キョトンしたが、それでもちゃんと伝わった様で、
「あっ!そっかー、カラスくんお金持ってないもんねー」
と言いながらカバンから財布を出して小銭を探す。
ブランド物のカバンも財布、財布の中には万札が数枚。
よしっ!金を持っている。
少なくとも貧乏人ではない!
こいつを俺の飼い主にしよう。
ふっふっふっと心の中で悪党の様に笑う。
そして、女から貰った金で自販機でジュースを買う。
なんだか女のツボにハマった様で、やんや、やんやと拍手をして喜んでいる。
俺もちょっと嬉しくなってしまい、結局。そのくだりを五回も繰り返す事になった。
そして、両手一杯にジュースを抱えながらご満悦な女に、
すりすりと甘え、上目遣いにみる。
そして、
「カァー…」
と弱々しくお腹が空いたアピール。
俺の考えた最強コンボだ!
効果はバツグンだ!
「へへぇー、お腹空いてるのかなー?うち来る?」
かかった!
見事、家に上がり込む事に成功する!
よくやった、俺!
前の人生も含めて生まれて初めての女性の部屋への上がり込み!
夢にまで見た、ゴミじゃない!暖かな食事!
美味そうに食う俺を見て、
「ふふ、うちの子になる?」
女は微笑みながら、俺に語りかけた。
数ヶ月後、
女は仕事に出かけていない。
女はキャバクラで働いているらしい。
夕方ごろ彼女は出勤する。
俺はおもむろに台所の引き出しに入れてある買い物用の財布を取り出し、
慣れた手つきで女の財布から千円札を抜き取る。
手じゃなくてクチバシだけど。
抜き取る金額はバレないギリギリを狙う。
その辺りの加減は人間の頃に散々培ってきたからお手のものだ。
そして、ガラリとベランダへ出入りするための窓を開け、飛び立つ。
今日もいつもの所へ。
パチンコ屋だ!
センサー式の自動ドアを開けると
「カー」
と一言、入口の近くにいた店員に挨拶する。
店員は
「あ、まいどー」
と軽く挨拶をする。特に訝しがる様子も無い。
当然だ。
俺は常連だからだ。
ぐるりと店を周り、しっかり台を見定める。
通りすがりに、
「おう!かー坊!また来たな!」
「よう!飼い主働かせて今日もパチンコかい?」
と顔馴染みの常連達が軽口を叩く。
そいつらを無視して、俺は台を決め、千円札を投入口に差し込み、打ち始める。
虚しく球が落ちていく。
「カア!(くそっ!)」
悪態つく俺。
その時、けたたましく音楽が鳴り、ライトが点滅する。
当たりだ!
脳汁が溢れ出てくる!
最高だ!これだから止められ無い!
こうして俺は、近所でも評判のクソヒモカラスとして、
悠々自適なペットライフを満喫している。