とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第103話 素顔と向き合うということ

 それからルナ演じる沙悟浄は、大幅に演技プランが変更になった。

 特に変わったのは第十話のラストシーン。

 単身、蛟魔王に挑みボロボロになったルナを三蔵法師一行が助けにくる。

 

 ここが沙悟浄一番の見せ場だ。

 

 本来、ここは挑みかかるも軽くいなされる程度のシーンだった。

 それがボロボロになって地べたを這いつくばるまでやられ、メイクも落ちて素の表情が露わになる。

 

 ルナの所属しているスターメイクプロダクションとの調整は、南風原さんが奔走してくれた。

 向こうとしても、炎上しているルナのすっぴんをプラスに変えることができるならということで了承してくれたようだ。

 

 その辺は、南風原さんの手腕への信頼もあったのだろう。

 蛟魔王の衣装に身を包んだ橘高さんは風格があり、いかにも敵役らしい雰囲気を纏っていた。

 

「ルナちゃん。今日はよろしゅう頼んますわ」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 ルナの気合も十分といったところ。

 俺も今からルナの芝居が楽しみでしょうがない。

 

「随分と楽しそうね」

「そういう朝香だって口の端が吊り上がってるぞ」

 

 最近、こういう朝香の綻びをよく見かけるようになった。

 いや、俺が意識して見ようとしていなかったのかもしれない。

 

「あたしはルナのことをまるでわかっていなかった。俳優としての素質はあるのに、努力の方向性が間違っている。そう思って、ずっとアドバイスを続けてきた」

「それの何が悪いんだ?」

「ルナが求めていたのはアドバイスじゃない。すごいね、その一言が欲しかっただけなの」

 

 ルナは朝香と家族ぐるみの幼馴染だ。

 劇団に入ったのも、朝香を追いかけてのことなのだろう。

 

 だからこそ、朝香に演技で絶対的な差をつけられたのはキツかったに違いない。

 俺も朝香を好きだからこそわかる。

 ルナも朝香のことが好きなのだ。

 

「そのときの朝香がいたからルナはアイドルでトップになって、こうして女優としての道も開いた。違うか?」

「だけど、あたしはあの子を苦しめていた」

 

 当たり前のことだった。

 朝香だって人並みに悩んだり、誰かを思いやったりできる。

 冷徹でカッコイイ演技マシーンの羽田朝香である前に、一人の人間である田中朝香なのだ。

 

「やっと素のあの子と向き合えた。それが嬉しいの」

「俺も向き合わないとな」

「え?」

 

 ルナに言われてから心のどこかで引っかかっていた。

 俺は羽田朝香しか見ていない。

 それが全てだと思っていたからだ。

 

「西遊記の撮影が終わって落ち着いたら、さ。学校で一緒に飯でも食おう」

 

 演技以外で朝香と時間を共有することはなかった。

 だから、何気ない日常の一幕を朝香と過ごしてみたいと思ったのだ。

 

「も、もちろんよ!」

 

 俺の提案が嬉しかったのか、朝香は鼻息荒く前のめりになりながら頷いてくれた。

 

「ま、その辺は梨夢たちも含めてまた今度だな」

「ん、んん~? 待って、あの子たちも一緒にお昼食べる感じ?」

「そりゃ、いつものグループだからな。朝香を混ぜてもいいか聞かないと」

 

 まあ、あいつらは寛容だし、この前のやり取りからしても仲良くやれるだろう。

 

「み゛」

 

 そうやって内心安堵していると、絶命寸前のセミのような声が、朝香の喉から絞り出された。

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