とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第108話 脳破壊される側視点 パート15

 あたしの名前は羽田朝香。

 現在放送中のドラマ、西遊記で三蔵法師役を務める天才女優だ。

 

 西遊記の第四話が放送された翌日、休み時間になった瞬間に翼と二人でクラスメイトに囲まれた。

 サインを求められるくらいなら慣れている。

 

 悟空と三蔵法師をその場でやってほしいという要求には、さすがに苦笑するしかなかった。

 それからあたしは翼に連れられて校舎裏のスペースにやってきた。

 

「それで……なんでこんな校舎裏に集まったわけ?」

「しょうがないだろ。休み時間になったらクラスメイトに囲まれて飯どころじゃなくなるんだから」

 

 翼の声には、苦笑が混じっていた。

 校舎裏は静かだ。

 この五人で話せる時間が、きちんと確保できる。

 

「二人とも大人気じゃん!」

 

 お弁当を頬張りながら鹿角さんが嬉しそうに声を上げる。

 帆林さんもそれに同意する。

 池手さんが沙悟浄の女体化に気づけなかったと悔しがっている。

 あたしはそれを見ながら、弁当箱を膝の上に置いた。

 

 この子たちが翼の隣にいることは、もう前ほど複雑じゃない。

 翼の心を救ってくれたのは、この三人だ。

 悔しい気持ちはあるけど、あたしの尻ぬぐいをしてもらったのだ。

 感謝の気持ちだってある。

 

 この子たちがいたから、翼はあたしの居場所へ戻ってきてくれた。

 

「ふむふむ……天才女優は以外と素はネガティブと……」

「ちょっと、池手さん。うちのお父さんみたいなことしないでくれる?」

 

 池手さんがメモ帳を取り出したのを見て、あたしは思わず声に出した。

 この子たちの顔を見回した。

 鹿角さん、池手さん、帆林さん、そして翼。

 全員があたしを見ていた。

 

「あっ……ま、あなたたちならいっか」

 

 そう言いながら、肩の力が抜けるのを感じた。

 お父さんが小説家で、お母さんがコスプレイヤーだという話をした。

 二人共知名度のある人間のため、あたしが娘だということはできるだけ隠してきたのだ。

 

 今までこういう話を誰かにしたことはなかった。

 なんだかあたしを知ってもらえているようで妙に嬉しかった。

 

「そういえば翼君、お弁当のおかず少なくないですか」

 

 帆林さんが翼のお弁当を見ながらそん疑問を口にした。

 それから帆林さんは自分のおかずを翼に差し出す。

 

 筑前煮だった。

 きちんと面取りされた根菜が、丁寧に並んでいる。

 あたしはそれを横目で見ながら、唐揚げを口に運んでいた。

 

 翼が一口食べた瞬間、手が止まる。

 表情が変わった。

 眉がわずかに動いて、目の焦点が定まらなくなるような、内側に向かうような顔だった。

 

「味が、する」

 

 その声が低かった。

 翼は味覚障害で、今も味を感じ取ることができなかったはずだ。

 最近はナイト兄さんの勧めで病院を紹介してもらって通っているらしいが、治ったという話は聞いていない。

 

「郁」

「は、はい」

「うまいぞ、これ」

 

 翼の表情が目に入り、自然と箸が止まる。

 あたしが一度も見たことのない顔だった。

 

 そして、それを引き出したのは、帆林さんだった。

 

 帆林さんの手料理で、翼が失っていた味覚が蘇ったのだ。

 それはとても、素晴らしいことだと思う。

 

 思う。思うのに……!

 

 あんなにおいしかった唐揚げの味が、突然よくわからなくなった。

 

「み゛」

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