とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第11話 小説家志望のクラスメイト

 放課後の図書室は、いつもより静かだった。

 部活にも入っていない俺がここを訪れるのは、家に居づらいからだ。

 現在、俺は親父と二人で暮らしている。

 

 母親は親権を取れなかった。

 俺の稼いだ金を使い込んだ上に不倫をして、相手の男に貢いでいたからだ。

 親父も当時は俺に当たり散らしていた。

 母親から年収で嫌味を言われ続けていたことも影響していたのだろう。

 

 今は謝罪もあったし、当たられることもない。

 それでも、顔を合わせるのは気まずい。

 こじれすぎた関係は、簡単には元に戻らない。

 

 だから俺にとって、静かに勉強できる図書室は天国だった。

 窓から差し込む夕日が、開いたページを照らしている。

 参考書の文字が頭に入ってこないまま、ぼんやりとペンを走らせていると、ふと視線の端に引っかかるものがあった。

 隣の席の池手丸代だ。

 

 いつもは静かに本を読んでいるはずなのに、今日は違う。

 ノートパソコンに向かい、ひどく真剣な表情でキーボードを叩いている。

 画面を見ては眉をひそめ、また叩く。

 消して、また書く。その繰り返しだ。

 うっすら見えた感じ、小説を書いているようだ。

 

 鹿角に演技の話をして、彼女の動画が伸びていくのを見て気づいた。

 俺が挫けた場所で身につけたものが、形を変えて誰かの役に立てるのだと。

 だったら、彼女にも何か言えることがあるかもしれない。

 そう思うと、自然に口が開いていた。

 

「池手」

「……っ」

 

 声をかけると、池手は驚いたようにパソコンの画面を手で隠した。

 眼鏡の奥の目が、泳いでいる。

 

「な、な、な、凪野君!? い、いつからいたの!?」

「最初からいたぞ」

「み、見てた? 画面」

「ちらっとな」

 

 池手はみるみる顔を赤くして、ぎゅっとパソコンを抱え込んだ。

 

「お、おお、お願いだから忘れて……」

「小説、書いてるんだな」

 

 俺がそう言うと、池手はしばらく固まってから、観念したようにパソコンをテーブルに戻した。

 

「……うん。ずっと書いてるんだけど、全然読まれなくて」

 

 池手はそう言って、スマホの画面を俺に見せた。

 開いたページには、〝イケマル水産〟という作者名と〝この潮騒になんと名前を付けようか〟というタイトルの小説が表示されていた。

 アクセス数を見ると、一桁台だった。

 投稿開始からかなり経っているのに、この数字は厳しい。

 

「文字数は十万字超えてるのか」

「うん。毎日書いて、更新して……誰も読んでくれない」

 

 池手の声が少し震えている。よほど悔しかったんだろう。眼鏡の奥の瞳が揺れていた。

 

「俺でよければ、読んでみようか」

「え?」

 

 池手が顔を上げる。

 

「俺はネット小説には詳しくない。でも、台本は死ぬほど読んできたし、物語の構成くらいならわかる。的外れかもしれないけど」

「台本……そっか。元子役だもんね」

 

 どこか納得したように池手が呟いた。

 池手は俺の隣の席だったから鹿角との会話が少しだけ聞こえていたのかもしれない。

 

 

「……本当に、いいの?」

 

 その目には、期待と不安が半分ずつ混ざっていた。

 かつて朝香の背中を追いかけてもがき続けた自分を、どこか思い出す。

 

 小説を書く池手の目には情熱が宿っていた。

 かつて、朝香の背中を追いかけてもがき続けた自分を思い出す。

 

「ああ。見せてくれ」

 

 だから、その情熱に薪をくべたいと思ってしまった。

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