とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第111話 とあるVtuberの西遊記第一話同時視聴

 私の名前は株地由羽(かぶちゆう)

 大手Vtuber事務所に所属するVtuberだ。

 

 デビューからずっと清楚キャラで売ってきたが、ここ最近は停滞気味。

 事務所の看板のおかげで登録者数十万人まではいけたが、そこからはあまり伸びていなかった。

 最近はテコ入れとばかりに、いろいろな企画を試しているが結果は芳しくない。

 

 今日のドラマ同時視聴企画もテコ入れの一つだ。

 放送前から話題沸騰中のドラマ西遊記。

 これで起爆剤になってくれれば御の字である。

 

「皆様、ごきげんよう。本日は予定通り、西遊記の同時視聴を行っていきますわ」

 

[ごきげんよう!]

[楽しみですわ~]

[最近テレビ見てなかったから久しぶりにドラマ見るわ]

 

 リスナーのリアクションもそこそこに、事前情報を共有することにした。

 

「西遊記といえば、昔から何度もドラマ化されてますけれど、今回はあの伽須翼様と羽田朝香様が共演いたしますわ」

 

[久しぶりに翼君みたけどめっちゃ格好良くなっててびびった]

[朝香ちゃんも大人っぽくなったよねぇ]

[まさか三蔵法師と孫悟空で共演するとは思わなかった]

 

 そう。今回のドラマは最近芸能界に復帰したことで話題の翼君と、子役から途切れずテレビに出続けている朝香ちゃんが共演するのだ。

 控えめにいって神とさせていただく。

 

「あとエコドルの斎藤ルナ様の謎の女は一体……」

 

[謎の女は謎の女だよ]

[まあ、原作と考えればあれよね]

[予想はつくけど]

 

 リスナーも察しているように、おそらく私の推しであるルナぴが演じるのは沙悟浄だろう。

 今まで西遊記のドラマで沙悟浄が女体化されたことはない。

 

 だから確実とも言い切れない予想といったところに落ち着いた。

 時刻になって、ドラマが始まった。

 

「それでは参りますわ」

 

 画面が切り替わる。

 壮大な音楽と共に、砂漠の映像が流れてナレーションが入る。

 

『それは……まだ、世に妖が息づいていた頃の物語。

三蔵法師は、世に安寧をもたらす経を求め、西へと旅立った。

供を務めるのは、孫悟空、沙悟浄、猪八戒。

力を持ちながらも、戒めに縛られた者たち。

彼らが向かうは、遥か彼方、天竺・大雷音寺。

さて、今宵、三蔵法師一行の旅路に待ち受けるますものはぁ?』

 

「おお、映像が豪華ですわ! それにこの声は翼様のナレーションですわね!」

 

[お金かかってる感じする]

[鳥取砂丘らしいよ]

[翼君ナレーションもいけるのか]

[そのうちアニメ映画のゲスト俳優とかやりそう]

[それは子役時代にやってるぞ]

 

「まず三蔵法師一行の旅の様子から始まるのですわね」

 

 砂丘を歩く三人の姿が映し出された。

 三蔵法師の白い衣装が風に揺れている。

 

「朝香様の三蔵法師、想像以上に似合ってますわ」

 

[ほんとだ、絵になりすぎ]

[三蔵法師といえば女優って感じあるよね]

 

「翼様の悟空も――えっ、これ翼君!?」

 

[聞いたことない声出てて草]

[中身がポロリしておりますわ~]

[気持ちはわかる]

 

 画面の中で、如意棒を担いで歩いている翼君は完全に孫悟空だった。

 軽い足取りでありながら、周囲への警戒を怠っていない。

 台詞もまだ言ってないのに、悟空がそこにいた。

 

「なんか、歩き方というか、佇まいというか……プライベート・AIのときとは別人ですわ」

 

[なんか動きが猿っぽい]

[悟空のビジュアル完璧じゃん]

[子役時代も可愛かったけど大人になって化けたな]

 

 それから沙悟浄のいない三人の掛け合いが始まる。

 

『なあ、八戒さん。なんで徒歩で天竺目指さなきゃいけねぇんだよ。俺の筋斗雲でひとっ飛びだろうが』

『お師匠さんが飛べないからねぇ。ま、一歩一歩道を大地を踏みしめるのも乙なものじゃないかい』

『なあ、おい玄奘! 今から仙術修行して飛べるようになったほうが早ぇんじゃねぇのか?』

『悟空。師に向かって、その態度はなんですか』

『これはこれは、失礼いたしました……三蔵法師様?』

 

「え゛っ、良……」

 

[オタク出てる出てる]

[お嬢様が崩れておりますわ~]

[どうしてこの事務所の清楚枠はいつもこうなるんだ]

 

 八戒役のいもっちゃんは、芸人とは思えない自然な演技をしていた。

 そこにいたのは紛れもなく、三蔵法師一行だった。

 今までの西遊記とはイメージが違うのに、そう思ってしまうだけの説得力があったのだ。

 そして、その三蔵法師一行を後ろから追いかける影がある。

 

『はぁ……あたし、水がないと死ぬんですけどー』

 

 謎の女役のルナぴだった。

 

『ったく、ちんたら歩かないでよ、三蔵法師ご一行ー……』

 

 謎の女が目を細めて、遠くを見る。

 その顔が、やたらと絵になった。

 

「水がないと死ぬって言ってるし、やっぱり沙悟浄?」

 

[っぽいよね]

[しっかし、顔面つよいな]

[まんま斎藤ルナやんけ]

 

 ルナぴの演技は言ってしまえば、本人がそのままいるような雰囲気だった。

 けれど、不思議とそれでも西遊記というドラマの中に馴染んでいる気がした。

 それから、訪れた焼き払われた国で、悟空は兄貴分として慕っていた牛魔王が悪者であるわけがないと主張し、三蔵法師と大喧嘩になる。

 

 八戒の仲裁も空しく、筋斗雲で飛び出していってしまう。

 そこで再会した牛魔王は、かつての義賊としての一面を失っていた。

 変わり果てた兄貴分と対峙することもできず、悟空は三蔵法師一行の元へと帰る。

 

 そこからは、三蔵法師と悟空の過去など、情報量の洪水のようなシーンが続いた。

 同時視聴配信はリアクションが命。

 それなのに、私はついつい引き込まれてしまい、お嬢様を演じることも忘れて興奮しっぱなしだった。

 

『先に手を出したのは人間だ。兄さん達の力を恐れた愚か者共が、友好的だった紅孩児を殺したんだ。ハッ、俺なら国を焼くだけじゃ生ぬるいと思うけどな』

『だからといって、罪なき者を巻き込んでよい理由にはなりません』

『綺麗事抜かしてんじゃねぇよ、クソ坊主! 妖怪は強いから、弱い人間に奪われたってしょうがないってか!? そんなふざけた話があるか!』

『そうではありません。復讐は何も産まないという話をしているのです!』

『だが、復讐を為せば前には進める!』

 

 悟空の慟哭に息を飲む。

 それは、魂の叫びだった。

 

『あの人は妖怪も人間も長きに渡って守り続けてきた! やられたからやり返しただけの兄さんを退治するなんて筋が通らねぇだろうが!』

『暴力は暴力しか産まないのです!』

 

「うう゛……辛い、辛いよ悟空ぅ……!」

 

[第一話からすごいな]

[迫真すぎる……]

[演技力の暴力]

 

 翼君と朝香ちゃんの掛け合いは、本気の想いからくるぶつかり合いだった。

 プライベート・AIのときにも見た剥き出しの感情。

 それを遥かに上回る掛け合いだった。

 

『なら、俺は……どうすればいいんだ』

『共に牛魔王を救いましょう。あなたの尊敬する兄者を共に取り戻すのです』

 

 三蔵法師の言葉で悟空の迷いが晴れる。

 そして、二人は自然に笑みを零して頷き合う。

 その光景に私は脳を焼かれた。

 

「ほげぇぇぇぇぇ!?」

 

[お嬢様キャラ明後日の方向に投げ捨てて草]

[ドラミングすなwwwww]

[清楚系ゴリラ]

[捕鯨ゴリラ]

 

 あまりの尊さに盛大に台パンをかましてしまった。

 この同時視聴をきっかけに、私は〝捕鯨ゴリラ〟と呼ばれてバズることになるのであった。

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