とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第113話 脳破壊される側視点 パート16

 あたしの名前は羽田朝香。

 最近クランクアップしたドラマ、西遊記の三蔵法師役の女優だ。

 

 ドラマ西遊記の打ち上げ会場で、関係者各位に挨拶をしながら翼と会場を回っていた。

 

「朝香。ちょっとトイレ行ってくるわ」

「うん。いってらっしゃい」

 

 そう言って席を外した翼は、いつまで経っても戻ってこない。

 一体どこで油を売っているのだろうか。

 

 グラスを持ったまま、さりげなく会場の入口に目をやる。

 

 南風原さんが高杉さんと笑い合っている。

 五木監督は感慨深そうにクランクアップと書かれた看板を見ている。

 伊本さんの周りにスタッフが集まっている。

 井田さんは楽し気にご馳走にかぶりついている。

 橘高さんがグラスを傾けながら、静かに壁際に立っている。

 酒寄さんはなんか大勢の人に囲まれながらかくし芸をしている。

 えっ、何あのジャグリング……すごっ。

 

 人の出入りはある。でも、翼の姿はない。

 

「さては、逃げたなあいつ……!」

 

 座長が打ち上げを放り出して逃げるとは何たることか。

 

 ルナもいない、と気づいたのは、その少し後だった。

 

 関係ないとは思う。

 たまたま時間が被っただけだ。

 あたしが心配するようなことじゃない。

 

「いや、探さないと!」

 

 脳に電流が走ったような感覚になり、気が付けばあたしは会場の外へ向かっていた。

 

 嫌な予感がする。

 こういうときの勘は当たるのだ。

 

 会場を出ると、廊下の空気が変わった。

 喧騒が遠ざかって、絨毯の上に静けさが戻る。

 

 突き当たりの手前で、声が聞こえた。

 

 翼の声だった。

 そして、ルナの声もあった。

 

 二人で話している。

 

 足が自然に止まった。

 非常口の前で、扉に身を寄せて耳を当てる。

 

 我ながら、みっともないとは思う。

 それでも、何を話しているか気になったのだ。

 

「好きなんでしょ」

 

「っ!」

 

 ルナの声だった。

 計算も演技もない、真っ直ぐな声だった。

 

 あたしは息を止めた。

 

 翼が、答えるまでの間が、妙に長く感じた。

 実際には、数秒だったと思う。

 

「ああ、好きだ」

 

 翼の声が、扉越しなのにやけにはっきりと聞こえた。

 照れも誇張もない、静かな声だった。

 

 あたしは壁に手をついた。

 手のひらに、錆びた金属扉の冷たさが伝わってくる。

 

 頭の中が、妙に静かだった。

 

 何かを考えようとするのに、言葉が出てこない。

 感情に名前をつけようとするのに、形が定まらない。

 

 ひたすら翼の声が脳内で繰り返されるだけだった。

 

 ああ、好きだ。

 

 ああ、好きだ。

 

 演技じゃなかった。

 

 あたしはこの仕事で長年、本物と偽物を見分けてきた。

 翼の声は、本物だった。

 

 つまり、翼とルナは両想いってことに――

 

「み゛」




いつも本作を読んでいただきありがとうございます。
西遊記編はここまでとなります。
次回からは新章突入するので、お楽しみに!
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