俺が孫悟空役だったと判明したことで、天太と沙也加とはすっかり打ち解けていた。
「次はクラファイやろうよ!」
天太が目を輝かせながらテレビの前に陣取る。
表示されているのは、世界的に有名な対戦アクションゲーム〝超乱闘クラッシュファイターズ〟の最新版だ。
「やるやるー! ルナちゃん強い?」
「さあ、どうかなー?」
ルナはにっこり笑いながらコントローラーを受け取った。
そこから十五戦、俺たちはルナに一度も勝てなかった。
「えっ、なんで!? 三人がかりなのに!?」
「私のお父さん、このゲームのプロだよ? 小さい頃から鍛えてもらったんだよねー」
「ズルじゃん!」
天太が悲鳴に近い声を上げ、沙也加が半泣きでコントローラーを握り直した。
ルナはどこ吹く風で、余裕の指捌きで俺たちを撃墜していく。
「もう一回! 今度は入力の速さで押し切る!」
「お兄、さっきも同じこと言ってた」
「うるさい」
「俺も作戦を変えよう。ルナ、このキャラの弱点を教えてくれ」
「ダメに決まってるじゃーん」
「ですよねー」
テレビ画面の前で、四人分の声が入り乱れていた。
お菓子の袋が増え、クッションが一つ床に落ち、ゲーム開始前に沙也加が用意したジュースが空になっていた。
そのとき、玄関の鍵が開く音がした。
天太と沙也加の動きが同時に止まり、コントローラーを握る手が固まる。
さっきまでスピーカーから流れていた効果音が、ひどく遠くなった気がした。
廊下を歩く足音が近づいてきて、リビングの扉がゆっくりと開いた。
「ただいま」
入ってきたのは、朝香だった。
出かけたときの格好のまま、鞄を肩にかけている。
千三郎さんのところから戻ったばかりなのだろう、どこか疲労の色がある。
朝香は俺とルナの姿を確認すると、静かに告げる。
「今注目の若手俳優とトップアイドルが、こんなところに何の用?」
「朝ちゃんに会いに来たに決まってるじゃーん」
「居座るつもり?」
「もう居座ってるよー」
ルナが笑いながら答え、朝香は何も言わなかった。
視線が天太と沙也加へ向かう。
二人とも、姿勢が少し伸びていた。
さっきまでルナに向けていた顔とは確かに違う。
朝香はそれを指摘せず、ソファの端に腰を下ろした。
「千三郎さんは、なんて言ってたんだ」
「翼には関係ない話よ」
「そうかよ」
それ以上は聞かなかった。
テレビ画面では、ルナが選んだキャラクターが勝利モーションを繰り返している。
朝香はその様子を、少し離れた場所から黙って眺めていた。
「姉ちゃんも……やれば」
ぼそっと呟くように、天太が朝香へと告げる。
「コントローラー余ってるなら」
「あっ、これ!」
「ありがと」
沙也加が慌てて差し出したコントローラーを朝香は無表情で受け取る。
四人対ルナという構図が出来上がるまで、一分もかからなかった。
三戦やって、三戦とも見事に負けていた。
「……相変わらず、憎たらしいぐらいに強いわね」
「ふふーん、私に勝とうなんて百年早いよー」
ルナはあっけらかんと言ってのけた。
「朝ちゃん、翼君と連携とってみなよ。二人でコンボ狙えば入ると思うから」
「連携って……」
「やるわよ、翼」
何故かやる気を出した朝香と組み、ルナへ挑むことになった。
「入った!」
「今のよかったじゃん!」
対戦が始まると、沙也加が声を上げ、天太が前のめりになる。
「翼やるわよ!」
「おう!」
「そーい」
「み゛」
結局、試合には負けた。