とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第132話 人間の感情は簡単じゃない

 一階へ上るエスカレーターに乗ったとき、音楽が聞こえてきた。

 

 ステージが組まれていて、揃いの衣装を着た同年代の女の子たちが踊っている。

 前の方に陣取ったファンが手を振り返し、スマホを掲げて撮影している人も何人かいた。

 

 ふむ、見たことない子たちだけど、ショッピングモールのインストアライブとしては、そこそこ人が入っていた。

 

「あ、ライブやってる」

 

 沙也加がステージの方を見て立ち止まった。。

 ルナそれにつられるように足を止めて、広場の方をじっと見ている。

 キャップのつばが顔に影を落としていて、表情が読みにくい。

 

「知ってる子たちか?」

 

 俺が聞くと、ルナは静かに口を開いた。

 

「〝SPLASHiC(スプラシック)〟……うちの事務所の後輩。デビューしたばかりの子たちで、まだ小さいステージが多いんだけど、一生懸命やってるよ」

 

 その声に、複雑なものが混じっていた。

 嬉しそうでもあり、懐かしそうでもあり、寂しそうでもあった。

 

 曲はサビに入り、五人の声が綺麗に重なる。

 サイリウムを振るファンの動きも、それに合わせて大きくなっていく。

 ルナはそこに立ったまま、動かなかった。

 

 彼女が役者の道を諦めてからアイドルとしてデビューしたての頃も、こういうステージから始めたのだろうか。

 あるいは、もっと小さい場所からスターメイクプロダクションのセンターとして今の位置に立つまでに、どれだけの数のステージを踏んできたのかは俺には見当もつかない。

 

 今のルナの目が、後輩たちを見ているようで、もっと遠くを見ているように感じた。

 

「デビュー当時、朱代ともここでライブやったなー……」

 

 広場を見たまま言った。

 その言葉を聞いた途端、朝香の動きが止まった。

 天太と沙也加も、声を立てなかった。

 

「まだ、アレのこと気にしてたの?」

 

 朝香は絞り出すように問いかける。

 理解できないと言った声音だった。

 

「そりゃー、あんな奴でも仲間だからねー」

「仲間って……あなたを傷つけて、事務所やグループに迷惑をかけたクズでしょ?」

「人間の感情って、そう単純じゃないんだよ、朝ちゃん」

 

 ルナは困ったように笑う。

 

「どんなに嫌われていても、どんなにクズでも、一緒にここまで歩いてきた仲間なだからさー」

「向こうはそうは思ってないわ。だから、ああなった。それだけのことでしょ」

 

 自分のことじゃないのに、朝香の顔には怒りの感情が浮かんでいた。

 

「そだねー……でも、私がどう思うかは別の話だよー」

「わからないわね。ルナがそんな奴のために気を病む必要なんてないのに」

 

 何だかんだ言いつつも、朝香にとってルナは大切な幼馴染なのだろう。

 誰かのために純粋に怒れる。

 そこに朝香の人間らしさが残っているような気がした。

 

 ……俺もまだまだだな。

 

「いいんだよー。こうやって朝ちゃんが代わりに怒ってくれるなら、それでジューブン」

「…………」

 

 その答えに、朝香は何も言わなかった。

 俺の方を一度だけ見て、また広場に視線を戻した。

 

「ルナ。何かあったら俺も力になるぞ」

「よろー。まー、翼君にはできるだけ頼りたくないなー……だって、ライバルだしー?」

 

 そう言って、ルナは好戦的な笑みを浮かべた。

 広場のステージでは、ルナの後輩たちの歌声が続いていた。

 曲が終わりに近づいていて、振り付けがクライマックスに向かう。

 ルナはもう一度だけそちらに目を向け、帽子を被り直す。

 

「行こっかー。お肉は鮮度が大事だからねー」

 

 五人で歩き出すと、ルナの後輩たちの歌声がだんだんと遠くなっていった。

 

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