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一階へ上るエスカレーターに乗ったとき、音楽が聞こえてきた。
ステージが組まれていて、揃いの衣装を着た同年代の女の子たちが踊っている。
前の方に陣取ったファンが手を振り返し、スマホを掲げて撮影している人も何人かいた。
ふむ、見たことない子たちだけど、ショッピングモールのインストアライブとしては、そこそこ人が入っていた。
「あ、ライブやってる」
沙也加がステージの方を見て立ち止まった。。
ルナそれにつられるように足を止めて、広場の方をじっと見ている。
キャップのつばが顔に影を落としていて、表情が読みにくい。
「知ってる子たちか?」
俺が聞くと、ルナは静かに口を開いた。
「〝
その声に、複雑なものが混じっていた。
嬉しそうでもあり、懐かしそうでもあり、寂しそうでもあった。
曲はサビに入り、五人の声が綺麗に重なる。
サイリウムを振るファンの動きも、それに合わせて大きくなっていく。
ルナはそこに立ったまま、動かなかった。
彼女が役者の道を諦めてからアイドルとしてデビューしたての頃も、こういうステージから始めたのだろうか。
あるいは、もっと小さい場所からスターメイクプロダクションのセンターとして今の位置に立つまでに、どれだけの数のステージを踏んできたのかは俺には見当もつかない。
今のルナの目が、後輩たちを見ているようで、もっと遠くを見ているように感じた。
「デビュー当時、朱代ともここでライブやったなー……」
広場を見たまま言った。
その言葉を聞いた途端、朝香の動きが止まった。
天太と沙也加も、声を立てなかった。
「まだ、アレのこと気にしてたの?」
朝香は絞り出すように問いかける。
理解できないと言った声音だった。
「そりゃー、あんな奴でも仲間だからねー」
「仲間って……あなたを傷つけて、事務所やグループに迷惑をかけたクズでしょ?」
「人間の感情って、そう単純じゃないんだよ、朝ちゃん」
ルナは困ったように笑う。
「どんなに嫌われていても、どんなにクズでも、一緒にここまで歩いてきた仲間なだからさー」
「向こうはそうは思ってないわ。だから、ああなった。それだけのことでしょ」
自分のことじゃないのに、朝香の顔には怒りの感情が浮かんでいた。
「そだねー……でも、私がどう思うかは別の話だよー」
「わからないわね。ルナがそんな奴のために気を病む必要なんてないのに」
何だかんだ言いつつも、朝香にとってルナは大切な幼馴染なのだろう。
誰かのために純粋に怒れる。
そこに朝香の人間らしさが残っているような気がした。
……俺もまだまだだな。
「いいんだよー。こうやって朝ちゃんが代わりに怒ってくれるなら、それでジューブン」
「…………」
その答えに、朝香は何も言わなかった。
俺の方を一度だけ見て、また広場に視線を戻した。
「ルナ。何かあったら俺も力になるぞ」
「よろー。まー、翼君にはできるだけ頼りたくないなー……だって、ライバルだしー?」
そう言って、ルナは好戦的な笑みを浮かべた。
広場のステージでは、ルナの後輩たちの歌声が続いていた。
曲が終わりに近づいていて、振り付けがクライマックスに向かう。
ルナはもう一度だけそちらに目を向け、帽子を被り直す。
「行こっかー。お肉は鮮度が大事だからねー」
五人で歩き出すと、ルナの後輩たちの歌声がだんだんと遠くなっていった。