とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

134 / 134
第134話 ハンバーグのほうが好き

 ハンバーグが焼き上がった頃、カワハギのしゃぶしゃぶも準備が整った。

 テーブルに料理が並ぶと、五人が席についた。

 

『いただきます』

 

 声が揃って、箸が動き始めた。

 天太が最初にハンバーグを一口食べた。

 咀嚼して、少しの間止まった。

 

「なんでこんなにうまいの?」

「フードプロセッサーで寒天混ぜたからだよー。肉汁がじゅわっとなるのー」

「プロじゃん」

「ありがとねー!」

 

 沙也加もハンバーグを食べて、すぐにおかわりを要求した。

 ルナが嬉しそうに追加を盛ると、沙也加はそれを受け取る。

 

 それを横目に朝香は、カワハギに箸を伸ばした。

 薄切りの身を鍋にくぐらせて、肝醤油につける。

 

「んー、やっぱりおいしい!」

 

 一口食べて、目を丸くした朝香は実にご満悦だった。

 

 ちょっと前なら好きな人の楽しそうな顔が見れて嬉しいと思ったのだろう。

 いや、実際嬉しくはある。

 だけど、文化祭での出来事などを踏まえると手放しで喜べる状況でもなかった。

 

 それからも食卓の賑やかさは続いた。

 朝香はその場にこそいたが、輪の中には入っていなかった。

 

「俺、リレーの選手に選ばれたんだ!」

「すごいじゃーん! 足の速い男子はモテるぞー?」

 

 天太が学校であったことを身振り手振りを交えて話していた。

 

「私も作文コンクールで賞獲ったの!」

「さすが沙也加ちゃん! 下手したらパパより作文うまいんじゃない?」

「えへへ……」

 

 ルナは相槌を打ちながら、二人のお茶碗が空けばさりげなく手を出しておかわりの有無を無言で確認してよそっていく。

 二人もそれを受け入れている。

 

 気づけば、食卓の中心は完全にルナになっていた。

 

 朝香はカワハギをつつきながら、ときおり視線だけをそちらへ向ける。

 会話に入りたいとは思っているのだろう。

 ただ、二人のことを知らな過ぎて、どう話せばいいかわからないようだった。

 

 俺もしゃぶしゃぶして肝醤油にくぐらせたカワハギを口へ運ぶ。

 

「あっ、これうまぁ……」

「ふふん、でしょ?」

 

 味覚が戻ってきていて本当に良かった。

 初めて食べる味だったが、カワハギのしゃぶしゃぶ肝醤油はバカみたいに美味しかった。

 

「まあ、朝香が選んだ時点で味は疑っていなかったけども」

「へぇ、それもうまいんだ。姉ちゃん、食ってもいい?」

「あっ、私も!」

「ふふん、好きに食べなさい。すっごく、おいしいから」

 

 天太と沙也加も気になったのか、しゃぶしゃぶしたカワハギを口へ運ぶ。

 そして、朝香は新世界の神みたいな顔でニヤリと笑っていた。

 

「……うまっ」

「うん、おいしい」

「でしょ?」

 

 二人のリアクションに、朝香が得意げに胸を張る。

 

「でも俺、ハンバーグの方が好き!」

「私もー!」

「えっ」

 

 沙也加も元気よく手を挙げ、朝香がピシリと固まる。

 

「だってみんなで作ったし!」

「それにルナちゃんのハンバーグ、すごいじゅわっとするの!」

 

 二人は無邪気に笑っていて、そこに悪意はない。

 純粋に、今の気持ちを言っただけだ。

 

 朝香はしばらく二人を見つめ、それから黙ってカワハギをもう一枚鍋にくぐらせた。

 

「み゛」

 

 朝香がカワハギを咀嚼して飲み込んだ後、絶命寸前のセミのような声が、食卓に響き渡った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4864/評価:8.73/連載:89話/更新日時:2026年07月03日(金) 12:07 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:4162/評価:7.95/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜(作者:ゲスト047562)(オリジナル現代/冒険・バトル)

どうやら俺は転生したらしい。▼と思ったら妹?その口調、さては貴様も前世覚えてるな?というか今世でも兄妹とか、どんな偶然だよ。▼おい、この世界お前の好きな乙女ゲーだよな?俺ゲームしかしてないから知らないんだよ。基本的に主人公周りとは関わらない方針で行くからよろしく。▼ねえ?何で主人公ちゃんが俺に銃向けてんの?おかしくない?え?ラスボスクリアしたよな?後方師匠面…


総合評価:2875/評価:7.72/連載:18話/更新日時:2026年08月03日(月) 17:00 小説情報

あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する(作者:あに)(オリジナルファンタジー/日常)

身体がちょいとガタつくけど、大丈夫。▼僕はみんなのお兄ちゃんだからね。▼カクヨムの方にも投稿してます


総合評価:3562/評価:8.32/連載:20話/更新日時:2026年05月16日(土) 17:04 小説情報

ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう(作者:マテリ-AL)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

全51話・約32万字/完結済み▼毎日20:18更新▼『ソル&ヴァルキリー 』。神の代弁者・魂導者(ソル)となり、戦乙女(ヴァルキリー)を空へ育て導くヒロイン育成系学園RPG。▼これは、そんなゲームの世界で、▼「戦乙女という空を飛べて広範囲殲滅魔法を使える存在がいるのに、騎士になる意味はあるのか……?」▼と考えてしまい、魂導者となったやられ役のかませ騎士、ルシ…


総合評価:6217/評価:8.43/完結:52話/更新日時:2026年05月09日(土) 10:18 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>