ハンバーグが焼き上がった頃、カワハギのしゃぶしゃぶも準備が整った。
テーブルに料理が並ぶと、五人が席についた。
『いただきます』
声が揃って、箸が動き始めた。
天太が最初にハンバーグを一口食べた。
咀嚼して、少しの間止まった。
「なんでこんなにうまいの?」
「フードプロセッサーで寒天混ぜたからだよー。肉汁がじゅわっとなるのー」
「プロじゃん」
「ありがとねー!」
沙也加もハンバーグを食べて、すぐにおかわりを要求した。
ルナが嬉しそうに追加を盛ると、沙也加はそれを受け取る。
それを横目に朝香は、カワハギに箸を伸ばした。
薄切りの身を鍋にくぐらせて、肝醤油につける。
「んー、やっぱりおいしい!」
一口食べて、目を丸くした朝香は実にご満悦だった。
ちょっと前なら好きな人の楽しそうな顔が見れて嬉しいと思ったのだろう。
いや、実際嬉しくはある。
だけど、文化祭での出来事などを踏まえると手放しで喜べる状況でもなかった。
それからも食卓の賑やかさは続いた。
朝香はその場にこそいたが、輪の中には入っていなかった。
「俺、リレーの選手に選ばれたんだ!」
「すごいじゃーん! 足の速い男子はモテるぞー?」
天太が学校であったことを身振り手振りを交えて話していた。
「私も作文コンクールで賞獲ったの!」
「さすが沙也加ちゃん! 下手したらパパより作文うまいんじゃない?」
「えへへ……」
ルナは相槌を打ちながら、二人のお茶碗が空けばさりげなく手を出しておかわりの有無を無言で確認してよそっていく。
二人もそれを受け入れている。
気づけば、食卓の中心は完全にルナになっていた。
朝香はカワハギをつつきながら、ときおり視線だけをそちらへ向ける。
会話に入りたいとは思っているのだろう。
ただ、二人のことを知らな過ぎて、どう話せばいいかわからないようだった。
俺もしゃぶしゃぶして肝醤油にくぐらせたカワハギを口へ運ぶ。
「あっ、これうまぁ……」
「ふふん、でしょ?」
味覚が戻ってきていて本当に良かった。
初めて食べる味だったが、カワハギのしゃぶしゃぶ肝醤油はバカみたいに美味しかった。
「まあ、朝香が選んだ時点で味は疑っていなかったけども」
「へぇ、それもうまいんだ。姉ちゃん、食ってもいい?」
「あっ、私も!」
「ふふん、好きに食べなさい。すっごく、おいしいから」
天太と沙也加も気になったのか、しゃぶしゃぶしたカワハギを口へ運ぶ。
そして、朝香は新世界の神みたいな顔でニヤリと笑っていた。
「……うまっ」
「うん、おいしい」
「でしょ?」
二人のリアクションに、朝香が得意げに胸を張る。
「でも俺、ハンバーグの方が好き!」
「私もー!」
「えっ」
沙也加も元気よく手を挙げ、朝香がピシリと固まる。
「だってみんなで作ったし!」
「それにルナちゃんのハンバーグ、すごいじゅわっとするの!」
二人は無邪気に笑っていて、そこに悪意はない。
純粋に、今の気持ちを言っただけだ。
朝香はしばらく二人を見つめ、それから黙ってカワハギをもう一枚鍋にくぐらせた。
「み゛」
朝香がカワハギを咀嚼して飲み込んだ後、絶命寸前のセミのような声が、食卓に響き渡った。