とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第145話 脳破壊される側視点 パート22

 あたしの名前は田中朝香。

 ようやくクラスに馴染むことができた女子高生だ。

 校門を出ると、夜風が思ったより冷たかった。

 ブレザーの前を合わせながら翼の隣を歩く。

 

 怪我しているとはいえ、手持ち無沙汰で落ち着かない。

 断ったのに、やや強引に荷物を持ってもらうことになってしまった。

 

「良かったな、クラスに馴染めたみたいで」

 

 翼がそう切り出した。

 

「あなたのサポートあってのものでしょ」

 

 ファーストキスの話を暴露したこと。

 怪我した後も一緒に残ってくれたこと。

 全部、翼があたしをクラスに馴染ませるために行ったことだ。

 

 あたしだけだったら、こうはならなかった。

 それをちゃんと言わないのは不誠実だと思ったのだ。

 

「さすがに気づくわよ」

「バレバレだったか」

「そういうの、気づかないふりしてるのもアレだから、一応言っておくわ。ありがとう」

 

 自分でも、言ってて照れ臭くなってしまった。

 ありがとうという言葉を、そのままの気持ちで言ったのはいつぶりだろう。

 

「どういたしまして」

 

 翼の声は、普通だった。

 特別な感情を込めるでもなく、ただ受け取った声だった。

 それが、なぜかかえって胸の奥に落ちてくる。

 

「……ったく、昔は散々言ってくれたよな」

 

 翼が続けた。

 

「昔って、なんのこと?」

「稽古場で俺に対して、先輩に気を遣って現場の空気で誤魔化すのは三流だってな」

 

 あたしは少しだけ翼の方を見た。

 

「ああ、あのこと……」

「ちゃんと役に立つだろ?」

「何よ、随分と根に持つじゃない」

 

 笑いが混じっているのがわかって、自分でも少し可笑しかった。

 街灯の間隔が広くなって、暗い区間に入る。

 

 もう少し、この時間が続けばいいと思った。

 遠くで電車の音がして、また静かになる。

 

「ねぇ、翼……その、あたしといていいの?」

 

 気づいたら、声に出ていた。

 

「いいのって、何がだよ」

「ほら、あたしと二人きりで歩いてて。ルナがなんか言ってくるんじゃないの」

 

 打ち上げの夜、盗み聞きしてしまった会話が、ずっと頭の隅に残っていた。

 翼がルナに向かって好きだと言っていた。

 ルナも大好きと答えていた。

 

 だから、てっきりそういうことなのだと思っていた。

 諦めようと思っていた。

 

「ルナが? どうして?」

「彼女を差し置いて、他の女の子と一緒にいるのってよくないでしょ」

「は?」

 

 翼が、あたしの方を見た。

 

「お前は何を言ってるんだ」

「だから、ルナと付き合ってるんでしょ」

「誰から聞いたんだそんな話」

 

 翼の声に、本当に心当たりがないという響きがあった。

 

「え?」

 

 あたしは初めて翼の顔をまともに見た。

 

「違うの?」

「全然違うっての」

 

 言葉が、頭の中でうまく処理されなかった。

 違う。

 翼とルナは、付き合っていない。

 

「だって西遊記の打ち上げのとき、ルナと二人でいたじゃない」

「打ち上げで別々の事情で抜け出して、たまたま同じ場所にいただけだ」

「でもでも! 好きだって言ってたじゃない!」

「あー……」

 

 少しだけ考えこんた後、翼は口を開く。

 

「あれはセミブレードの話だよ」

「は? せ、セミブレード?」

「ほら、元同期の川越萌絵。あいつが主役やってるアニメだよ」

 

 翼が説明を続ける。

 聞いているのに、言葉が滑っていく。

 アニメ、セミブレード。

 

「えっと……じゃあ、好きなのってセミブレードだったのね」

 

 待って。ちょっと待って。

 あたしはずっと、翼とルナは付き合っていると思っていた。

 だから、関係ないと自分に言い聞かせて諦めようとしていた。

 

 あの夜の廊下で聞いた好きは、セミブレードへの愛だったのか。

 それだけの話だったのか。

 

 それを理解した途端、頭の中で何かが音を立てて崩れた。

 崩れた先から、止めどない喜びが溢れてくる。

 

「み゛ぃぃぃぃ!」

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