とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第146話 リハーサル

 文化祭の前日になった。

 体育館では午後から全クラスの通しリハーサルが組まれていた。

 俺たちのクラスの出番は三番目だった。

 

 舞台袖で待機している間、キャストたちの顔に本番前特有の緊張が滲んでいた。

 台本を手に持っている子、小声で台詞を確認している子、ただ黙って深呼吸している子。

 それぞれのやり方で、自分を整えていた。

 

「大丈夫か、郁」

 

 声をかけると、郁が振り返った。

 顔が少し青いように見える。

 

「緊張してるみたいだな」

 

「……してます」

「あんだけ練習したんだから、あとは身体に任せればいい。結果はおのずと付いてくるもんだ」

「はい……!」

 

 郁は一度だけ深く息を吸って、頷いた。

 出番が来た。

 俺は客席の端に腰を下ろして舞台を見た。

 照明が落ちて緞帳が上がる。

 

 最初の数分は、やはりぎこちなかった。

 台詞の間が揃わず、動きが少し遅れる。

 それでも止まらずに続いていく。

 

「降下完了」

 

 郁が登場した場面で、空気が変わった。

 

「個体識別番号、L‐01。通称、累。本任務を開始します」

 

 声が客席まで届いていた。

 

「報告します。地球へ到着、任務を確認します」

 

 台詞が、音ではなく言葉として聞こえていた。

 これが高校生が文化祭でやるレベルの芝居なのかと驚かされる。

 

 もちろん、本職の俺たちとは違う。

 ただこの芝居には、学生が限られた時間をつぎ込んで得た熱が籠っていた。

 

 俺は何も言わずに、舞台を見続けた。

 通しが終わった後、キャストたちが袖に戻ってくる。

 一番最初に声を上げたのは梨夢だった。

 

「よかったよ! めちゃくちゃよかった!」

「ほ、本当に?」

「本当に! 郁ちゃん、途中から別人みたいだったよ!」

 

 郁の顔が、ふにゃっと崩れる。

 泣くのをこらえているのがわかった。

 丸代はノートを抱えたまま、舞台の方をじっと見ていた。

 何かを確認するような目だった。

 

 それから、静かに息を吐いた。

 朝香は少し離れた場所に立っていた。

 袖の端、誰とも話さずに、舞台の方を向いたまま動かない。

 

 表情は読めない。

 でも、目は舞台から離れていなかった。

 俺が近づくと、朝香はこちらへと向き直る。

 

「どうだった」

「悪くなかったわ」

 

 朝香の口から出た〝悪くなかった〟は、並みの人間が言う絶賛に近い。

 

「本番も同じくらいできれば十分だな」

「同じじゃないわ。本番は今日よりいいものになる」

 

 根拠を問う気にもならない確信めいた口調で断言した。

 

「みんな、役を生きてるから」

 

 子供っぽい笑顔を浮かべた朝香はそれだけ言って、また舞台の方を向いた。

 俺はしばらく、その横顔に見惚れていた。

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