縁日コーナーを抜けたところで、焦げた油の匂いが強くなった。
たこ焼き屋台の前に、手書きの看板が立っている。
ロシアンたこ焼き、六個中一個だけ激辛とのことだ。
「せっかくだし、やってみるか?」
「いいじゃない。なんかお祭りっぽいわ」
激辛に怯むことなく即答だった。
こういうところはバラエティー適性が高いんだよなぁ、と思いながら二人分を注文する。
パックに六個が並んで出てきた。
見た目は全部同じで、外側からはどれが激辛か判断できないように見える。
朝香はパックを受け取ってから、六個をしばらく眺めた。
「……どれかしら」
「そういうのを考えないから面白いんじゃないのか?」
そう言いつつも、俺はソースを入れた形跡を探していた。
辛いものは好きだが、デスソースが大量投入されたものとなるとさすがに抵抗はある。
ここにはカメラもないから取れ高にならない。
「それもそうね。こういうのは運だもの」
朝香は肩の力を抜いて笑ったが、これは本気で分析していると見ていいだろう。
六つのたこ焼きを見比べて見ても色の違いは判らない。
つまり、焼きあがったたこ焼きに後からデスソースを注入したわけではないのだろう。
おそらく、具材の中にデスソースを閉じ込めた辛味の爆弾がタコの代わりに潜んでいるのだ。
「手前左から二番目で行くわ」
朝香が選んだのは、焼き色が他より少し濃いたこ焼きだった。
「俺は右奥ので行くわ」
朝香は楊枝を手に取って、その一個を俺の方に向けた。
「じゃあ、ほら」
「……どういうつもりだ」
「幼馴染の〝あーん〟よ。青春って感じでいいんじゃない?」
勝ち誇った表情で朝香は、自分が選んだたこ焼きを俺へと差し出してくる。
「ちょっと待て、それは朝香が選んだたこ焼きだろう」
「ええ、お互いの食べるたこ焼きを選んで食べさせるのよ」
「この、お前……!」
こ、小賢しい!
しかも、朝香からたこ焼きを食べさせてもらえるという、ご褒美も入っているため断りづらい。
朝香はニヤニヤしながら、爪楊枝に刺した一個を持ち上げた。
「ほらほら、あーん」
俺は朝香を見た。
朝香は楊枝を持ったまま、真剣な顔をしていた。
「んぐっ……」
仕方なく、俺は差し出されたたこ焼きを頬張る。
うん、粉っぽくてあんまりおいしくないけど、これはこれで乙なものだ。
「ハズレだな」
「あら、残念」
「じゃあ、次は俺のターンだ」
「へ?」
俺はたこ焼きを爪楊枝で刺して構える。
「ほれ、あーんだ」
「ふ、ふん、上等じゃない」
一瞬だけ動揺したものの、朝香はすぐに勝ち誇った表情を取り戻した。
「いただきます」
もぐもぐと噛んで、勝ち誇った顔がそのままの形で数秒止まった。
じわじわと、目が潤み始めた。
「み゛んっ!?」
返事にならない声が出た。
朝香は口を押さえ、それでも表情だけは崩すまいとしていた。
目から涙が一筋流れ、その努力が無駄になった。
「ごほっ、げっほ!?」
「水、買ってくる」
「けほっ、い、いらないわ、けほっ」
「いや、いるだろ」
近くの自販機に走って冷たいミネラルウォーターを買って戻ると、朝香はまだ口を押さえたまま立っていた。
そして、俺から水を受け取ると、黙って一口飲んだ。
「んぐっ……み゛ぃぃぃ!?」
ちなみに、水を飲むとカプサイシンが口全体に広がって大惨事になるということは後で知った。