俺の名前は
本名は
舞台と映像を五十年以上渡り歩いてきた、この国で最も有名な俳優だ。
芸能界で成り上がり、今じゃ麻布に豪邸を構えられるくらいになった。
『おつかぶー』
「いやぁ、今日も面白かった……」
俺の最推しVtuberである株地由羽の配信が終わり一息つく。
西遊記の同時視聴でのリアクションがきっかけで、俺の推しは大バズりしていた。
あの叫び声じみたリアクション、今や配信切り抜きの再生数がとんでもねぇことになってる。
そのことに一抹の寂しさを覚える。
推しが評価されるのは嬉しい。
古参が知っていたはずの推しが、世間様のもんになっていく感覚ってのは、正直複雑だ。
まあ、こんな心情も含めて推し活である。
応援するってことは、こういう痛みも含めて丸ごと引き受けるもんだ。
「ただいまー……」
そんなことを考えていると、息子の優二が帰ってきた。
五十歳のときに、当時二十四歳の妻と結婚したあとにできた息子だ。
歳の差婚で、当時はだいぶ騒がれたもんである。
週刊誌の連中に散々書き立てられたが、彼女と一緒になったことだけは、この人生で一等後悔していない選択だ。
「おう、優二。帰ったか」
見るからに肩を落としている様子からオーディションには落ちたのだろう。
贅沢三昧の放蕩息子ではあるが、役者に対する情熱は本物だ。
あとは甘え切った精神と言い訳癖をどうにかできりゃ、化けると俺は思っている。
「ったく、なんて面してやがる」
「しょうがないだろ。このオーディション落ちたらまた親父のコネでモブみたいな役しかもらえねぇし……やっぱり、親父みたいにはなれねぇよ」
優二はソファに崩れ落ちる。
その格好の悪さに、若いころの自分を思い出して舌打ちが出そうになる。
俺だって、最初からこんなふうに演れたわけじゃねぇ。
何度も何度もオーディションに落ちて、何度も何度も惨めな思いをして、ようやくここまで来た。
だが、そういう経緯ってのは、聞かされる側にとっちゃお為ごかしにしか聞こえねぇもんだ。
「なぁにがただのモブだ。おめぇは、おめぇらしい役者になりゃあいいんだよ」
「……なんだよ、それ」
俺の本心からの言葉も、捻くれちまった優二には届かない。
まあ、届かなくてもいい。
こういう言葉ってのは、届かなくても言い続けることに意味がある。
種を蒔いとけば、いつか芽が出るってもんだ。
「てか、母さんは?」
「元モデル仲間とディナーだとよ」
「じゃあ、母さんの夕飯は作らなくていいか」
仕事もないのに俺の個人事務所から給料をもらっていることに引け目があるのか、優二はやたらと家事をやりたがる。
ったく、どっか頑張るとこがズレてんだよなぁ、こいつは。
芝居の稽古に時間使えばいいものを、変なところで生真面目さが出る。
誰に似たんだか……なんてのは考えるまでもねぇか。
「それにしても……」
優二がキッチンに消えていくのを見送ってから、俺は自分のスマホに届いた動画を見返す。
不出来な弟子からの動画だ。
どうやら、文化祭で撮ったものらしい。
宇宙人の役を夕暮れの屋上で演じている。
相手役は、あの伽須翼だ。
「カァー! てぇてぇ、てぇてぇ!」
あの小娘――いや、朝香がついに一皮剥けやがった。
何度見ても、この芝居は素晴らしい。
メソッド演技なんてちゃちなもんじゃねぇ。
こいつは紛れもない本物の、共に生きる芝居だ。
台詞の一つ一つに、相手の呼吸を取り込んでいる。
自分の芝居で一方的に搾取するんじゃなく、相手の芝居を尊重した上で自分の芝居にも昇華させている。
俺が言ってやったことを、この馬鹿弟子はちゃんと血肉にしてやがる。
最後のキスシーンなんて、台本にもねぇアドリブだ。
あの目、あの震え方。あれは、演技の中で本音を隠しきれなかった目。
芝居に思いを乗せる。
それは自分の感情をきちんと持っていないとできない。
朝香のやつ、自覚してんのかどうか知らねぇが、あれは完全に役者として一皮も二皮も剥けた証拠だ。
だってのに、翼ときたら、あれを台本通りの演技だと思い込んでる顔しやがって。
あのセミが絶命したような声。
あれ絶対、想いが伝わってねぇから絶望した声だろ。
「若者特有のすれ違いラブコメってのはいいもんだよなぁ……」
思わず、独り言が漏れる。
演技だけは化け物じみて上手いくせに、他のことやらせると途端にポンコツになる。
ま、それも人間らしいっちゃ、人間らしい。
「うっ……っと、危ねぇ。
あんまりにも尊い光景を見せられると、心臓に悪い。
推しの配信でも、弟子の成長でも、良いもんを見た後は必ず発作が出やがる。
スマホを置いて、天井を見上げる。
片方の心残りが消えた今、優二の俳優としての成長を見届けるまでは死ねない。
朝香のことは、もう心配いらねぇだろう。
あいつは、立派な役者になった。
これで俺が背負ってきた責任の半分は、もう肩から下ろしても構わねぇ気がした。
残るは、キッチンでぶつぶつ言いながら米を研いでる、あの不器用な息子だけだ。
「さぁて、セミブレードでもするか。今シーズンこそは聖剣ランク最終二桁には入ってやるぜぇ!」
俺はコントローラーを手に取った。
優二の飯を待つ間くらい、ゲームで気晴らしをしても罰は当たらねぇだろう。
―――――――――――――――
【次回予告】
ナレーション「この夏!」
(鋼鉄の羽が火花を散らしながら激突)
ナレーション「最高の冒険が――」
(セミブレードたちが大空を飛翔する)
ナレーション「君たちを待っている!」
民吾「ここが、セミブレード発祥の地……
ムラセミ「ビッビビィ!」
(民吾とムラセミが街を巡る)
民吾「ん、あれは……?」
(巨大な神殿の奥)
キィィィィィン……
(神々しい金色のセミブレードが姿を現す)
ナレーション「そこで出会ったのは――」
(黄金の翼を広げる伝説のセミブレード)
(シガラティが羽ばたく)
ギィィィィン!
(山を真っ二つに切り裂く斬撃)
ナレーション「伝説に語られる最強のセミブレード!」
シガラティ「み゛ぃぃぃぃぃっ!」
(BGM:天翔けろ! セミブレード~夏remix~)
『天翔けろ! 曇天の空を斬り裂け~♪ 鋼鉄の羽で〜♪』
セミオートマタ「ゼアミ様。蒼空の紅剣はこちらです」
キャプテン・ゼアミ「クハハ、ついに見つけたぞ……」
(巨大施設が起動)
ゴゴゴゴゴ……
キャプテン・ゼアミ「最強のセミブレードは――俺様のものだァ!」
(暴走する黒いセミブレードの群れ)
凪世弥「まずい! シガラティが操られてる!」
(赤い光に包まれるシガラティ)
民吾「シガラティ! 正気に戻ってくれぇぇぇ!」
シガラティ「み゛み゛ぃぃぃ!」
(シガラティが民吾とムラセミへ襲いかかる)
ドォォォォン!
(崩壊する遺跡の落石に巻き込まれるムラセミ)
ムラセミ「ビィビィビィィィ!」
民吾「ムラセミィィィ!」
(落下しながら民吾が必死に手を伸ばす)
シガラティ「み゛ん……」
(眩い光と共に、黄金の装甲が砕ける)
ギュォォォォォン!
(真紅の翼を持つ究極形態)
凪世弥「これが……シガラティの真の姿!?」
(セミブレード同士の超高速空中戦)
ギィン!
ガギィィン!
ドォォォォン!
ナレーション「受け継がれる聖剣の意志!」
シガラティ「み゛ぃぃぃぃぃっ!」
民吾「いくぞ、ムラセミ!」
ムラセミ「ビビィ!」
ナレーション「民吾とムラセミの新たな冒険が幕を開ける!」
(タイトルロゴ出現)
劇場版
斬鉄飛翔セミブレード
~
ナレーション「この夏、全国ロードショー!」
【キャスト一覧】
ムラセミ:
ナレーション:
【特別出演】
シガラティ:羽田 朝香
キャプテン・ゼアミ:両賀 千三郎
セミオートマタ:株地 由羽
(最後の一カット)
民吾「ところでシガラティって何食べるんだ?」
シガラティ「み゛ん」
(高級樹液を指差す)
民吾「高っ!?」
ナレーション「入場者特典! 限定セミブレードカード〝シガラティα〟がもらえる!」
シガラティ「み゛!」