個室のあるレストランを見つけて、三人でテーブルを囲んだ。
料理が運ばれてくる合間、話題は自然と近況報告へと移っていった。
「仕事のほうは順調なのか」
「デュフフ、それを聞きますかな?」
独特な笑い声を零しながら、萌絵は得意げにニチャァと笑う。
「今年、声優アワード主演女優賞をとりましたぞ!」
「「おお!」」
これには、俺と朝香も素直に拍手していた。
「これ俳優で言えばアカデミー賞クラスの奴だったか? すごいじゃないか」
「ええ、主演女優賞なんてやるじゃない」
「いや、まあ、うん……その、機会にも恵まれた、というか……」
「あっ、素に戻ってる」
どうやら褒められて照れがキャパオーバーすると、素に戻るようだ。
「うぉっほん! まあ、幼少期より拙者が切磋琢磨してきたのは、あなたたちですぞ。そりゃあもう鍛えられますとも」
実際、朝香の代は朝香の一強だったが、俺たちの世代は劇団クロッカスの中でも黄金世代と呼ばれていた。
星井鳴として活動していたルナは役こそもらえなかったが、演技力はあったため後輩の指導も積極的に行っていたし、俺は変に大ブレイクしちゃったし、萌絵と錬太はバラエティー番組の子役枠のレギュラーとして活躍していた。
それが今やこうなるとは感慨深いものである。
「そうだ、鳴氏は元気ですかな」
「ルナのことか。元気にやってるよ」
なんか鳴氏って呼び方だと、ナルシストみたいで嫌だな。
「ルナはライブに向けてレッスンが増えてるんだっけか」
「ドームライブだものね。あんなことがあったあとなのに、すごいわ」
朝香が感慨深そうに告げてドリンクバーのコップを傾ける。
「西遊記のときは、あいつのおかげで何度も助けられたな。滝に落ちたときも、真っ先に飛び込んできてくれたし」
「あの子、ああ見えて仲間思いだから」
子役時代の話から、いつの間にか西遊記の撮影裏話へと発展していく。
「鳴氏は相変わらず世話焼きなんですなぁ」
萌絵はそう言いながら、ポテトを一口かじった。
「そうだ、錬太の近況知ってたりするか? アクション俳優の方面行ったのは、なんとなく知ってるけど」
俺が振ると、萌絵は箸を止めて考える顔をした。
「拙者もニチアサで共演してましたぞ。ライダー仮面・グラディウスで、
「あー、あいつ主役取ったんだったな」
劇団クロッカスの同期、
彼はスタミナお化けかつ良く通る声が武器だった。
荒々しい芝居を得意とする、まさにイメージ通りの芝居をする奴である。
「拙者は変身デバイスの声を担当しておりましてな。錬太氏が変身するとき『変身!』と叫ぶと、拙者の声で『起動シークエンス開始』と返すんですぞ。現場で錬太氏と初めて顔合わせしたとき、二人揃って『同期じゃん!?』ってビックリしましてなぁ」
いや、サラッと会話中に機械音声っぽい声出してるけど、どれだけ演技の幅広いんだよ。
「懐かしいなぁ」
「ちなみに、相変わらずの脳筋でしたぞ」
しばらく錬太の話で盛り上がったあと、萌絵の箸の動きが不意に止まった。
視線が、俺と朝香の間を行ったり来たりしている。
「あの……ちょっと、聞いてもよろしいですかな?」
「ん、何だ?」
「その、お二人は普段から、このような感じでお話しているのですかな?」
声のトーンが、さっきまでの得意げなものとは違う、探るような小さなものに変わっていた。
萌絵の視線が、テーブルの上で微妙に泳いでいる。
「こんな感じって?」
「その、朝香氏が……なんというか、こう、丸くなったなぁと」
どうやら、文化祭を経て人間味を獲得した朝香に戸惑っているようだ。
「あたしだって、もう高校生よ? さすがに成長くらいするわ」
「な、なるほど……」
萌絵はそう言いながら、どこか腑に落ちない顔をしていた。
「もしかして……」
朝香の目が、急にすぅっと細くなった気がした。
「クロッカス時代のこと気にしてる?」
朝香はコップを置いて、ゆったりとした調子で切り出した。
「へっ……えっ……」
何故か、萌絵の顔に緊張が走っているように見える。
「ごめんなさい。あの頃はあなたの思いを蔑ろにするようなことを言ってしまって……」
「え、え……」
朝香の謝罪に対して、萌絵の目が完全に泳いだ。
ポテトを持ったまま、両手がぷるぷると震えている。
「コポォ」
蟹が泡を吹いたような音が、萌絵の喉から漏れた。