とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第169話 思い出話

 個室のあるレストランを見つけて、三人でテーブルを囲んだ。

 料理が運ばれてくる合間、話題は自然と近況報告へと移っていった。

 

「仕事のほうは順調なのか」

「デュフフ、それを聞きますかな?」

 

 独特な笑い声を零しながら、萌絵は得意げにニチャァと笑う。

 

「今年、声優アワード主演女優賞をとりましたぞ!」

 

「「おお!」」

 

 これには、俺と朝香も素直に拍手していた。

 

「これ俳優で言えばアカデミー賞クラスの奴だったか? すごいじゃないか」

「ええ、主演女優賞なんてやるじゃない」

「いや、まあ、うん……その、機会にも恵まれた、というか……」

「あっ、素に戻ってる」

 

 どうやら褒められて照れがキャパオーバーすると、素に戻るようだ。

 

「うぉっほん! まあ、幼少期より拙者が切磋琢磨してきたのは、あなたたちですぞ。そりゃあもう鍛えられますとも」

 

 実際、朝香の代は朝香の一強だったが、俺たちの世代は劇団クロッカスの中でも黄金世代と呼ばれていた。

 星井鳴として活動していたルナは役こそもらえなかったが、演技力はあったため後輩の指導も積極的に行っていたし、俺は変に大ブレイクしちゃったし、萌絵と錬太はバラエティー番組の子役枠のレギュラーとして活躍していた。

 それが今やこうなるとは感慨深いものである。

 

「そうだ、鳴氏は元気ですかな」

「ルナのことか。元気にやってるよ」

 

 なんか鳴氏って呼び方だと、ナルシストみたいで嫌だな。

 

「ルナはライブに向けてレッスンが増えてるんだっけか」

「ドームライブだものね。あんなことがあったあとなのに、すごいわ」

 

 朝香が感慨深そうに告げてドリンクバーのコップを傾ける。

 

「西遊記のときは、あいつのおかげで何度も助けられたな。滝に落ちたときも、真っ先に飛び込んできてくれたし」

「あの子、ああ見えて仲間思いだから」

 

 子役時代の話から、いつの間にか西遊記の撮影裏話へと発展していく。

 

「鳴氏は相変わらず世話焼きなんですなぁ」

 

 萌絵はそう言いながら、ポテトを一口かじった。

 

「そうだ、錬太の近況知ってたりするか? アクション俳優の方面行ったのは、なんとなく知ってるけど」

 

 俺が振ると、萌絵は箸を止めて考える顔をした。

 

「拙者もニチアサで共演してましたぞ。ライダー仮面・グラディウスで、剣ヶ崎鋭守(けんがさきえーす)役でしたな」

「あー、あいつ主役取ったんだったな」

 

 劇団クロッカスの同期、日比野錬太(ひびのれんた)

 彼はスタミナお化けかつ良く通る声が武器だった。

 荒々しい芝居を得意とする、まさにイメージ通りの芝居をする奴である。

 

「拙者は変身デバイスの声を担当しておりましてな。錬太氏が変身するとき『変身!』と叫ぶと、拙者の声で『起動シークエンス開始』と返すんですぞ。現場で錬太氏と初めて顔合わせしたとき、二人揃って『同期じゃん!?』ってビックリしましてなぁ」

 

 いや、サラッと会話中に機械音声っぽい声出してるけど、どれだけ演技の幅広いんだよ。

 

「懐かしいなぁ」

「ちなみに、相変わらずの脳筋でしたぞ」

 

 しばらく錬太の話で盛り上がったあと、萌絵の箸の動きが不意に止まった。

 視線が、俺と朝香の間を行ったり来たりしている。

 

「あの……ちょっと、聞いてもよろしいですかな?」

「ん、何だ?」

「その、お二人は普段から、このような感じでお話しているのですかな?」

 

 声のトーンが、さっきまでの得意げなものとは違う、探るような小さなものに変わっていた。

 萌絵の視線が、テーブルの上で微妙に泳いでいる。

 

「こんな感じって?」

「その、朝香氏が……なんというか、こう、丸くなったなぁと」

 

 どうやら、文化祭を経て人間味を獲得した朝香に戸惑っているようだ。

 

「あたしだって、もう高校生よ? さすがに成長くらいするわ」

「な、なるほど……」

 

 萌絵はそう言いながら、どこか腑に落ちない顔をしていた。

 

「もしかして……」

 

 朝香の目が、急にすぅっと細くなった気がした。

 

「クロッカス時代のこと気にしてる?」

 

 朝香はコップを置いて、ゆったりとした調子で切り出した。

 

「へっ……えっ……」

 

 何故か、萌絵の顔に緊張が走っているように見える。

 

「ごめんなさい。あの頃はあなたの思いを蔑ろにするようなことを言ってしまって……」

「え、え……」

 

 朝香の謝罪に対して、萌絵の目が完全に泳いだ。

 ポテトを持ったまま、両手がぷるぷると震えている。

 

「コポォ」

 

 蟹が泡を吹いたような音が、萌絵の喉から漏れた。

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