とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第176話 脳破壊される側視点 パート24

 あたしの名前は羽田朝香。

 伝説のセミブレードを演じることになった天才女優だ。

 

 ベンチに座って二人でホットチョコレートを飲む。

 こんな時間がいつまでも続けばいいのに……。

 

「そうだ、翼」

 

 あたかも今思い出したように、コートのポケットをまさぐってお目当てのブツを取り出した。

 

「渡したいものがあるの」

 

 実はクリスマスプレゼントを用意しておいたのだ。

 

「実は、前から用意してたのよ」

「マーケットで見繕ったんじゃないのか?」

「行き当たりばったりで選ぶわけないでしょ。ちゃんと考えて選んだの」

 

 ずっと前から用意していたハンドクリームを渡す。

 翼が誘ってくれなかったら、どうしようかと思っていたので渡すチャンスがあって一安心だ。

 

「これは……」

「いつ続編が来てもいいように、撮影終わってからも如意棒の素振り、毎日やってるでしょ? 手荒れしてるんじゃないかと思って」

 

 翼は西遊記の撮影が終わってからも、棒術の腕が鈍らないように自主練を続けていた。

 人事を尽くして天命を待つ。

 その姿勢は役者として尊敬に値するものであり、好きな人の姿としても格好良かった。

 

「じゃあ、俺からも」

「え?」

「実は俺も用意してたんだ」

 

 まさか、翼もクリスマスプレゼントを用意しているとは思わず、虚を突かれる。

 中から出てきたのは、喉にいい成分が入っているという評判のスプレーだった。

 

「これ……」

「シガラティの収録、来年からだろ。喉を絶対酷使することになる」

「翼……」

「お互い喉は商売道具だからな。労わっとけ」

 

 それは気遣いしいな彼らしいプレゼントだった。

 

「……ありがと」

「まあ、これからもお互い、飛躍していこうって話だ」

 

 翼からお互いに飛躍しようだなんていわれる日が来るなんて……それこそが、あたしにとって最高のクリスマスプレゼントである。

 

「あたしはもっと上を目指す。今度はちゃんと付いてきてよね」

「上等だ。受けて立つよ」

 

 拳をぶつけあってお互いに、これからの飛躍を誓い合う。

 これだけでもう、最高の一日になったと言えるだろう。

 

 あちこちにカップルらしき二人組が見える。

 手を繋いでいる人たち、肩を寄せ合っている人たち。

 クリスマスというだけあって、街全体がそういう空気に満ちていた。

 

 こういう空気の中に、翼と二人でいる。

 それだけで、心臓が少しずつ落ち着かなくなっていくのがわかった。

 

「それじゃ、名残惜しいが行くか」

「……そうね」

 

 名残惜しい、なんて言われたら、期待するなという方が無理な話だ。

 

「タクシー、アプリで呼んでおいたから」

「へ?」

 

 その一言で、思考が一気に加速した。

 

 タクシーで、この時間から、二人きりで。

 まさか……まさか、まさか。

 

「えっと、タクシー使うんだ」

「そりゃ、使うだろ。人に見られたらまずいし」

「人に、見られたらまずい……」

 

 人に見られたらまずい。

 その言葉が、頭の中でぐるぐると回り続ける。

 

 電車じゃなくて、タクシー。

 人目を避けたい理由。

 これはもう、そういうことなのではないだろうか。

 

 あたしは表面上、平静を装いながら、内心では盛大に取り乱していた。

 こういうとき、どんな顔をすればいいのか、どんな言葉を返せばいいのか、台本なんてどこにもない。

 

 到着したタクシーに乗り込むと、暖房の暖かさが余計に頬を熱くさせた。

 窓の外を、イルミネーションの光が次々と流れていく。

 あたしは頬杖をついたふりをしながら、こっそりと隣の様子を窺っていた。

 

 もしかして、このまま……いや、落ち着け、落ち着くのよ、あたし。

 そう自分に言い聞かせながらも、指先が意味もなく震えていた。

 

 やがて、見覚えのある建物が見えてくる。

 亀戸のタワーマンション――あたしの家だった。

 

「ん?」

 

 そこへタクシーが停まる。

 

「着いたな。ロビーまで送るよ」

「んん?」

「じゃ、天太と沙也加によろしくな」

 

 それだけ言って、翼は軽く手を挙げると、タクシーの方へと引き返していく。

 あたしは、エントランスの前に立ち尽くしたまま、その背中を見送った。

 

「み゛」

 

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