とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

176 / 176
第176話 脳破壊される側視点 パート24

 あたしの名前は羽田朝香。

 伝説のセミブレードを演じることになった天才女優だ。

 

 ベンチに座って二人でホットチョコレートを飲む。

 こんな時間がいつまでも続けばいいのに……。

 

「そうだ、翼」

 

 あたかも今思い出したように、コートのポケットをまさぐってお目当てのブツを取り出した。

 

「渡したいものがあるの」

 

 実はクリスマスプレゼントを用意しておいたのだ。

 

「実は、前から用意してたのよ」

「マーケットで見繕ったんじゃないのか?」

「行き当たりばったりで選ぶわけないでしょ。ちゃんと考えて選んだの」

 

 ずっと前から用意していたハンドクリームを渡す。

 翼が誘ってくれなかったら、どうしようかと思っていたので渡すチャンスがあって一安心だ。

 

「これは……」

「いつ続編が来てもいいように、撮影終わってからも如意棒の素振り、毎日やってるでしょ? 手荒れしてるんじゃないかと思って」

 

 翼は西遊記の撮影が終わってからも、棒術の腕が鈍らないように自主練を続けていた。

 人事を尽くして天命を待つ。

 その姿勢は役者として尊敬に値するものであり、好きな人の姿としても格好良かった。

 

「じゃあ、俺からも」

「え?」

「実は俺も用意してたんだ」

 

 まさか、翼もクリスマスプレゼントを用意しているとは思わず、虚を突かれる。

 中から出てきたのは、喉にいい成分が入っているという評判のスプレーだった。

 

「これ……」

「シガラティの収録、来年からだろ。喉を絶対酷使することになる」

「翼……」

「お互い喉は商売道具だからな。労わっとけ」

 

 それは気遣いしいな彼らしいプレゼントだった。

 

「……ありがと」

「まあ、これからもお互い、飛躍していこうって話だ」

 

 翼からお互いに飛躍しようだなんていわれる日が来るなんて……それこそが、あたしにとって最高のクリスマスプレゼントである。

 

「あたしはもっと上を目指す。今度はちゃんと付いてきてよね」

「上等だ。受けて立つよ」

 

 拳をぶつけあってお互いに、これからの飛躍を誓い合う。

 これだけでもう、最高の一日になったと言えるだろう。

 

 あちこちにカップルらしき二人組が見える。

 手を繋いでいる人たち、肩を寄せ合っている人たち。

 クリスマスというだけあって、街全体がそういう空気に満ちていた。

 

 こういう空気の中に、翼と二人でいる。

 それだけで、心臓が少しずつ落ち着かなくなっていくのがわかった。

 

「それじゃ、名残惜しいが行くか」

「……そうね」

 

 名残惜しい、なんて言われたら、期待するなという方が無理な話だ。

 

「タクシー、アプリで呼んでおいたから」

「へ?」

 

 その一言で、思考が一気に加速した。

 

 タクシーで、この時間から、二人きりで。

 まさか……まさか、まさか。

 

「えっと、タクシー使うんだ」

「そりゃ、使うだろ。人に見られたらまずいし」

「人に、見られたらまずい……」

 

 人に見られたらまずい。

 その言葉が、頭の中でぐるぐると回り続ける。

 

 電車じゃなくて、タクシー。

 人目を避けたい理由。

 これはもう、そういうことなのではないだろうか。

 

 あたしは表面上、平静を装いながら、内心では盛大に取り乱していた。

 こういうとき、どんな顔をすればいいのか、どんな言葉を返せばいいのか、台本なんてどこにもない。

 

 到着したタクシーに乗り込むと、暖房の暖かさが余計に頬を熱くさせた。

 窓の外を、イルミネーションの光が次々と流れていく。

 あたしは頬杖をついたふりをしながら、こっそりと隣の様子を窺っていた。

 

 もしかして、このまま……いや、落ち着け、落ち着くのよ、あたし。

 そう自分に言い聞かせながらも、指先が意味もなく震えていた。

 

 やがて、見覚えのある建物が見えてくる。

 亀戸のタワーマンション――あたしの家だった。

 

「ん?」

 

 そこへタクシーが停まる。

 

「着いたな。ロビーまで送るよ」

「んん?」

「じゃ、天太と沙也加によろしくな」

 

 それだけ言って、翼は軽く手を挙げると、タクシーの方へと引き返していく。

 あたしは、エントランスの前に立ち尽くしたまま、その背中を見送った。

 

「み゛」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4983/評価:8.76/連載:89話/更新日時:2026年07月03日(金) 12:07 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:4390/評価:8.05/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

ヒロイン達の好感度を、何故か友人キャラの俺が知っている(作者:こなひー)(オリジナル現代/恋愛)

https://syosetu.org/novel/392769/▼先日投稿した「ヒロイン達の好感度を友人キャラが知っているのは何故なのか」の長編化版です。▼2章まですでにマルチ投稿済なので、そこまではまとめて投稿します。▼以降は週2話、水曜と日曜に更新していく予定です。▼「友田、今の彼女たちからの好感度を教えてくれ」▼「ああ、わかった」▼ 自称主人公の青野…


総合評価:3501/評価:7.99/連載:61話/更新日時:2026年08月23日(日) 23:00 小説情報

【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-(作者:ビスマルク)(オリジナル現代/冒険・バトル)

天使と悪魔の戦い。世界の裏側に存在する人を巻き込む戦い。それが現実なのだと僕は知る。▼それはそれとして天使も悪魔も滅茶苦茶美少女で可愛いくて好きになってしまったのでラブコメしつつ襲ってくる連中をぶっ倒します。▼これはただの高校生だった僕が神に至るまでの、どこにでもあるような恋物語だ。▼旧タイトル:幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった▼ カ…


総合評価:9171/評価:8.84/連載:120話/更新日時:2026年09月15日(火) 21:01 小説情報

病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き)(作者:池崎)(オリジナルファンタジー/戦記)

突如として前世の記憶を思い出し、自身が病弱貴族になってしまったことを悟った主人公は、とある出来事をきっかけに──「治癒魔法をかけ続けたら戦えるのでは??」と気づき、おっさん治癒術師を巻き込んで修練に励む。▼その結果──確率で血反吐を吐きながら拳で戦うHENTAIスタイルになってしまう。▼「だ、大丈夫! すごく痛いけどすぐ治るから!!」▼


総合評価:3173/評価:8.29/連載:14話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>