続いての格付けはローストビーフだった。
「高級ローストビーフと、量販店で売られているお手頃なローストビーフ! 果たして舌の肥えているはずの芸能人の皆さんは、食べ比べて違いがわかるでしょうか!」
「じゃあ、次は俺が行きます」
「……翼。大丈夫なの?」
朝香が、心配そうな顔で俺の袖を軽く引いた。
「翼。無理して出なくてもいいんだぞ」
井田さんまでもが、真剣な顔でそう言ってきた。
「いや、俺やりますよ。二人にばっかり任せてたら爪痕残せないですし」
俺の味覚障害が最近改善したばかりだから心配しているのだろう。
二人の心配は、純粋に嬉しい。
だけど、せっかくのお正月特番で埋もれるつもりもなかった。
「では、こちらをつけてください」
「ありがとうございます」
スタッフから手渡されたアイマスクを装着すると、視界が完全に暗闇に包まれた。
口に運ばれた肉を、俺は慎重に噛みしめた。
うーん、ソースの味が強くて肉の味がわかりづらいな……。
Aは結構脂身があった。
ただ脂がくどい感じではなく、サシが入っている。
それからBを口に入れた瞬間、同じソースの味がした。
その瞬間、これがはずれをできるだけ出すための意地悪めの問題だと理解できた。
同じソースをかけられてしまっては、肝心の肉の味と香りがわからなくなり、食感などで当てざるを得なくなる。
これは相当舌が肥えていないと、正確に当てるのは難しい問題だ。
クイズ系でこういうのはご法度だが、意地悪問題の裏をかかせてもらおう。
「Aはサシが入ってておいしいんですけど、いいお肉を使ったローストビーフって、たぶん熟成肉使ってるから脂があんまりないと思うんですよね」
これが意地悪問題だとすれば、よりわかりづらくするために正解の高級ローストビーフの方は熟成肉を使っている可能性が高い。
「Bの方は、あんまり脂身を感じませんでした。だから、熟成肉を使っていると思うので、高級ローストビーフはこっちだと思います」
味覚の問題なのに、味覚を潰してくる意地悪問題だからこそ、正解しやすい。
こちとら味覚障害のときも、食レポの仕事で稼いで母親を満足させてきたのだ。
味覚以外の情報から料理の状態を把握することは、俺の得意技である。
俺は自分の答えを告げると、ブースの奥へと進んだ。
Bの扉を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは、ペアで参加していた秋毫さんと萌絵の姿だった。
「あ、翼君」
「二人と同じ部屋か……」
周囲を見渡すが、千三郎さんの姿はどこにもない。
「千三郎さんがいない、ってことは……正解か」
『おいコラ、どういう意味だ』
Aの部屋からは千三郎さんの不満げな声が飛んでくる。
いや、だってあなた、絶賛連敗記録更新中じゃないですか……。
「翼君。よくわかったね」
絶賛地上波用の話し方をしている萌絵が感心した様子で話しかけてくる。
「子役のときに食レポの仕事もらってたのが功を奏したみたいだ」
「やー、さすがだねぇ。まあ、私も正解してるんだけどね!」
萌絵の言葉に、秋毫さんが苦笑しながら頷く。
「萌絵ちゃんは、サシが入ってるから絶対Aだって言ってたけどね」
「いやぁ、申し訳ないです」
萌絵がぺろりと舌を出しながら告白する。
「そうだったのか?」
「ノノさんがBの方がワインに合うって自信満々だったので、そっちに合わせちゃった」
「あはは、結果オーライってことでいいじゃない」
照れくさそうに笑う秋毫さんだったが、その顔はどこか誇らしげだった。
問題は、もう一つの部屋だ。
少し遅れて、隣の部屋の扉が開く音が響いた。
『嘘、でしょ……』
最後の挑戦者である佐波さんの声が聞こえてくる。
『ルナちゃん……ごめんね……』
力なく膝をつく気配とともに、佐波さんが誰へともなくそう呟いた。
『なぁ、もしかして俺……死神みてぇな扱いになってねぇか?』
千三郎さんの言葉に、俺たちは静かに目を伏せるのであった。