とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第19話 何か役に立てるなら

 俺は図書室を出て、駅前に向かった。

 家に帰るには、まだ少し早い。

 

 鹿角とは、U-Tubeの相談に乗る関係。

 池手とは、小説の相談に乗る関係。

 

 そんな人付き合いを、どこか気に入っていた。

 広く浅い関係より、少人数と深く関わる方が性に合っているのだ。

 

 相変わらず、父さんと顔を合わせるのは気まずい。

 もっと時間を潰すために、最寄り駅である神保町の駅近にあるカフェに寄ることにした。

 慶明高校の生徒もよく使う店で値段も手ごろだ。

 

 ガラス扉を押すと、ソースの匂いとコーヒーの香りが混じった空気が流れてきた。

 店内はほどよく静かで、テーブル席には学生が数人、参考書を広げている。

 窓際の席に腰を下ろし、適当にブレンドコーヒーを注文した。

 

 スマホを取り出して、何となくSNSを眺める。

 池手の小説は相変わらずバズっている。

 感想欄には、毎日のように新しいコメントが書き込まれていた。

 

 ふと顔を上げると、カウンター席に見覚えのある後ろ姿があった。

 

 同じクラスの帆林郁(ほばやしいく)だ。

 

 休み時間は机に突っ伏して寝たフリをしている地味で目立たない女子で、授業以外に声を出しているのを見たことがない。

 帆林は困ったように俯いている。

 目の前に置かれているのはパスタだ。

 

 しばらく様子を見ていると、小さく手を上げて店員を呼ぼうとしている。

 声が小さすぎて、店員に気づいてもらえない。

 

「あの……すみません」

 

 また手を下ろして、俯いてしまった。

 パスタもソースが冷め始め、表面の油が光を鈍く反射している。

 

 何度か視線が周囲を彷徨う。

 小さく息を吸い、何か言おうとしてやめる。

 注文間違えられたっぽいな。

 

 鹿角には、U-Tubeの撮影テクニックのアドバイスをした。

 池手には、物語の作り方のアドバイスをした。

 

 どちらも、俺の俳優経験が役に立った。

 帆林も何か困っているなら、手伝えるかもしれない。

 俺は席を立って帆林の席に近づいた。

 

「帆林」

 

 呼びかけると、帆林は驚いたように顔を上げた。

 前髪に隠れた瞳が、俺の顔を見つめている。

 

「……な、ななな、凪野きゅん!?」

 

 驚きのあまり、声が思いっきり裏返っていた。

 

「もしかして、注文と違うものが来たんじゃないのか?」

 

 少し戸惑いながら帆林は頷いた。

 

「……あの、ナポリタンを、頼んだん、ですけど……きのこ、パスタ、が来ちゃって」

 

 言葉が途切れ途切れだ。かなり緊張しているらしい。

 

「すぅ……」

 

 俺は軽く息を吸ってから声を出す。

 

「すみませーん!」

「いかがいたしましたか?」

「ナポリタンを頼んだんですけど、きのこパスタがきちゃったみたいで」

「えっ、あ、申し訳ございません! すぐにお取り替えいたします!」

 

 店員は慌てて、きのこパスタを下げていった。

 それを見た帆林は、ほっとしたように息を吐いた。

 

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