とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第191話 それがオレのセミブレー道

 事務所のテレビではひたすら、セミブレードのアニメが流れていた。

 朝香は事務所のソファに陣取ったまま、セミブレードのアニメを一話ずつ止めては戻し、止めては戻しを繰り返している。

 

『オレは絶対に諦めない! どんなに強い相手だろうが、オレには一緒に戦ってくれるセミブレードたちがいる。今までだって、何度も、何度も何度も何度も何度も負けて! 悔しくて、情けなくて……それでも、みんなで立ち上がってきたんだ! だから、今回だって同じだ。最後まで自分とセミブレードたちを信じる。それがオレのセミブレー道だ!』

 

「……やっぱり、何度聞いてもすごい」

 

 唖然とした様子の朝香から賞賛の言葉が零れ落ちる。

 

「子役時代から肺活量と活舌は異常だったが、ここまで仕上げてるとはな」

「息継ぎのタイミングが普通じゃない。アニメの魅せ方に合わせるために、人体の呼吸を無視してる。それでいて、スタミナがまるで切れていない」

 

 俺は付き合わされる形で、隣のソファに腰を下ろしていた。

 

 シガラティの収録が始まって以来、朝香はこの調子だ。

 萌絵の演技を咀嚼して、自分の糧にしようとしている。

 

「もう何周目だよ、それ」

「まだ足りないわ」

 

 画面の中で、民吾がムラセミに向かって叫ぶ。

 

『ムラセミ!』

 

 朝香はその瞬間だけ音量を上げて、また止める。

 

「ここ! ここの『ムラセミ!』の一言だけで、緊張と信頼が同時に乗ってる!」

 

 朝香の顔には、明らかに焦りの色が見えた。

 

 俺の予想通り、朝香も理解してしまったのだろう――萌絵の芝居が、自分の遥か上の次元にあるのだと。

 

 いくら専門が違うとはいえ芝居で負けたのだ。

 ずっとトップを走り続けてきた朝香にとって、これほど悔しいことはないだろう。

 

 ……俺だって悔しい。

 ずっと朝香を超えることを目標にしてきたのに、超えられたのはプライベートAIの火事場の馬鹿力みたいなメソッド演技。

 西遊記での芝居もようやく並べるといったところだ。

 それなのに、萌絵は声という武器を鍛えて一点特化させることで朝香を破った。

 

「さすがに、休憩挟んだ方がいいんじゃないか」

「休憩してる場合じゃないのよ。あたしには時間がない」

 

 そう言いながら、朝香はもう再生ボタンに指をかけている。

 

 そこへ事務所の扉がノックもなしに開いた。

 

「もう九時過ぎてるわよ、二人とも」

 

 入ってきたのは、朝香のマネージャーで、叔母でもある愛夏さんだった。

 腕時計にちらりと視線を落としてから、呆れたようにため息をつく。

 

「ごめんね、翼君。この子に付き合わされて大変でしょ?」

「いえ、俺も朝香と見るのは勉強になるので……」

 

 自分の解釈と朝香の解釈を擦り合わせて見ると、吸収効率がいいのだ。

 

「愛夏姉さん、お願い! 今はじっくり研究したいの! 家だと天太や沙也加がいるからゆっくり見れないし……」

「あー、あの子たちセミブレード好きだもんねぇ」

 

 愛夏さんは苦笑しながら続ける。

 

「それでも、これ以上はダメ。時間かけて役作りした以上、それがあなたがプロとして納品できる芝居よ」

「み゛ぐっ……」

 

 痛いところを突かれて朝香が呻く。

 

「あんまり気負わないで、純粋な気持ちで見たら? それこそ弟たちの純粋な感想でも聞いた方がいいでしょ」

「み゛み゛み゛……!」

「……それと、あんまりセミ化しすぎないでね?」

「それに関しては手遅れだと思いますよ、愛夏さん」

 

 だって、お正月以来、朝香がセミのように鳴いて消える切り抜き動画やMADが死ぬほど量産されているもの。

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