ここのところ、俺は改めて自分の芝居を見つめ直していた。
メソッド・オブ・フィジカルアクション。
肉体の動きに呼応して感情を引き出す演技法。
西遊記でものにした俺の武器は、声優のアフレコ現場では出すことができない。
これを解決しない限り、満足のいく芝居なんてできるわけもないのだ。
「翼。ちょっといいかしら」
特別ドラマ〝プライベートAI〟の撮影終わり、朝香が声をかけてきた。
「芝居の精度をクオリティを上げたいの。このあと空いてたわよね?」
「こっちからお願いしようと思ってたくらいだ」
朝香も俺と同様、自分の芝居の壁にぶつかっていた。
だからこそ、今までにない選択肢を取ることにしたのだ。
ぶつかり合う稽古ではなく、手を取り合う稽古。
それを行うために、俺と朝香は急いで事務所の下にある稽古場へ駆け込んだ。
「待ってくれ、シガラティ! 僕だ、凪世弥だ!」
「ミ゛ィィィ!」
「くっ、仕方がない……クマセボルグ――」
「はい、ストップ」
さっそく共演シーンの掛け合いを行っていたのだが、朝香から中断の声が上がった。
「翼。身体が動いてるわ。本番で使えないのに、メソッド・オブ・フィジカルアクション使ってどうするのよ」
「すまん。アフレコ現場では動かないように意識してたからつい……」
「それも芝居にロックがかかってる原因ってわけね……」
今のところは、その制約に縛られた状態が凪世弥の守り人としての現状とリンクしているおかげでメソッド演技が活きているが、感情を爆発させるシーンになると物足りなくなることは目に見えている。
この問題は早急に解決すべき問題だ。
「そういう朝香も全然役を生きてないぞ」
「くっ、こんどはブレード感が強すぎたわね」
「ああ、無機質な芝居に寄りすぎてる」
朝香も朝香で、セミブレードであるシガラティ役には大苦戦していた。
朝香の得意技であるメソッド演技は、人の経験を自分に取り込んだり、自身の経験を想像力で変換させることで幅広い役作りを可能としてきた。
だが、虫と武器の融合体である架空の生き物の感情と出力される声がかみ合わなかったのだろう。
「セミブレードであって、セミではない。秋毫さんの言ってたことはこういうことだったのね……」
「秋毫さんには相談したのか?」
「ええ、そろそろ来ると思うわ」
朝香はそう言うと、稽古場の隅でスマホを取り出した。
「着いたってさ」
「準備がよろしいことで」
それから稽古場に秋毫さんがやってきた。
「どうもですー」
稽古場に足を踏み入れた秋毫さんの片手には〝蝉殺し〟という名前のパック酒が握られていた。
「急だったんのでサクッとガソリン入れてきちゃいました」
「ガソリンって……」
「あっ、これお酒じゃないですよ。ノンアルの日本酒です」
「一言で矛盾するのやめれます?」
これでも中堅トップクラスの声優である。
まあ、トップクラスの役者って変人多いからな。
「それで……翼君はマイク演技で行動を起点とした芝居が封じられて困っている。朝香ちゃんはシガラティのセミ感とブレード感のバランスで困ってるってことでいいでしょうか?」
「「いやいやいや!」」
「あら、違いました?」
「当たってるからビックリしてるんですよ!」
本当になんなんだ、この人!