とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第196話 互いの武器を交換した芝居

 いよいよ、本番の収録が始まった。

 今回のシーンは、映画の後半部分に当たる場面だ。

 里を襲う黒化したセミブレードの群れ、そしてキャプテン・ゼアミに操られ暴走するシガラティ。

 

 俺の演じる凪世弥は、最初に暴走したシガラティと対峙したときに手持ちのセミブレードが全滅させられている。

 それ故に治療中という設定のため、民吾とムラセミがシガラティを食い止めている間に、言葉だけで語りかける役目を負っている。

 

 モニターの中、シガラティが赤い光を纏いながら暴れ狂っていた。

 その荒々しい輪郭の向こうに、稽古場で何十回と見てきた朝香の芝居が透けて見える気がした。

 

「シガラティ、覚えてるか! いつか、俺が一人前のセミブレーダーとして成長したら、一緒に旅をしようって言ったよな?」

 

 朝香と交わし続けてきた稽古の成果が、声に乗っているのがわかった。

 朝香が見せてくれた喉の動きをなぞり、それに呼応して感情を引き出す。

 

「み゛っ……み゛ぃぃぃっ!」

 

 朝香の鳴き声には、抵抗と苦しみが同時に滲んでいる。

 セミ感とブレード感の両立。

 それを出すために朝香は、人差し指で唇を震わせつつ芝居をしていた。

 俺が長年鍛え続けてきた技法が、朝香の芝居の助けになっていると思うと感慨深いものがある。

 

「もうやめてくれ、シガラティィィッ!」

 

 民吾役の萌絵が、更に感情の温度を引き上げてくる。

 あの狂気じみた妄信を抱えていた萌絵とは思えない、迷いのない真っ直ぐな叫びだった。

 

「ビビィ、ビビビィィィ!」

 

 秋毫さんのムラセミも、攻撃を止めながら悲痛にシガラティへと訴えかけている。

 二人のコンビネーションが、俺たちを飲み込もうとする。

 

 向こうがどれだけ長年声優としてやってきたかなんて関係ない。

 俺たちは、絶対負けない!

 

「戻ってきてくれ、シガラティ!」

「み゛み゛み゛んん!」

 

 俺と朝香は、互いの武器を交換して積み上げた稽古の分だけ、深く踏み込んでいった。

 萌絵たちのギアが上がるのに合わせて、俺たちも一段ずつ引き上げていく。

 

「クハハハハ! 無駄だ無駄だァ! もう遅い!」

 

 千三郎さんの哄笑が、混沌とした戦場に低く響き渡る。

 これまでのアフレコで散々見せつけられてきた、大樹のように揺るぎない安定感だった。

 どれだけ俺たちが感情を積み上げても、その一段上から悠々と見下ろしてくるような、圧倒的な余裕。

 その余裕にすら食らいつく勢いで、俺と朝香は声を重ねていく。

 

「シガラティ! 俺の声を聞いてくれ!」

「み゛ぃぃぃ……み゛……ん……」

 

 僅かに朝香の鳴き声の震えが弱まった。

 台本上、ここが暴走が止まりかけたように見える瞬間だ。

 スタジオの空気が、ほんの一瞬だけ緩む。

 このまま声が届く。

 誰もがそう感じた、その矢先だった。

 

「ゼアミ様。作戦を実行いたします――ご命令を」

 

 混沌とした状況の中、静かな声が滑り込んできた瞬間、アフレコ現場の空気は一変するのであった。

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