とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います) 作:サニキ リオ
あたしの名前は羽田朝香。本名は田中朝香。
名前が二つある理由は単純だ。私が芸能人だからだ。
高校生にして、世間では天才女優と言われている。
三歳のとき朝ドラで子役デビュー。
翌年には大河ドラマで主演。
さらに六歳でハリウッドデビュー。
幼い頃から演技の世界で生きてきた。
台本を読み、役を演じ、カメラの前に立つことが当たり前の日常だった。
この世界で生き残るのがどれだけ難しいか、あたしは知っている。
才能だけでは足りない。運も、タイミングも、全てが揃わなければ消えていく。
結果が出るまでするのが努力。それが当たり前だ。
そんな厳しい世界で、あたしの隣に立ち続けた子役がいた。
凪野翼。
初めて会ったのは小学生の頃。
劇団の稽古場で、あたしを真っ直ぐに見つめる男の子がいた。
他の子役たちがあたしを避ける中、彼だけは違った。
『僕、朝香ちゃんのことが好きなんだ!』
子供っぽい告白。だから、あたしは試した。
『悪いけど、演技が下手な人に興味ないの。口説き落としたかったら、あたしよりうまい演技をしてよ』
無茶な条件だと思った。
『じゃあ、僕が演技で勝ったら彼女になってよ!』
彼は本当に挑んできた。
稽古場で必死に台詞を覚え、何度も何度も同じシーンを繰り返した。涙を流しながら演技を磨く翼の姿を見るたび、あたしの中で何かが動いた。
嬉しかった。誰も私に挑んでこない中、彼だけは諦めなかった。
顔を合わせるごとに厳しい言葉をかけたが、翼は諦めなかった。
少しずつ成長し、いつしかあたしの隣に立てるほどの演技力を身につけた。
共演したとき、翼の演技は素晴らしかった。あたしの芝居を受け止め、返してくれる。呼吸が合う。何よりも、楽しかった。
翼はあたしに食らいついてこれる唯一の存在だった。
あたしはもっと翼に成長してほしかった。いつか本当にあたしを超えてほしかった。
……正直、気持ちとしては「ま、まあ? 付き合ってあげなくもないけど?」くらいには翼に心を許していた。もちろん、異性として。
ただ、それを伝えれば翼は頑張れなくなるかもしれない。
そう思って、ひたすら彼の気持ちにはダメ出しで返すことにした。
それからほどなくして、翼は芸能界から姿を消した。
表向きの理由は、学業に専念するため。
あたしにはわかっていた。
翼は戦略的に表舞台から一旦姿を消したのだ。
子役というイメージを払拭し、一人の俳優として認めてもらうためのリセット期間。
それが明けるのが楽しみで仕方なかった。
入学式の日、教室で翼の姿を見つけたとき胸が高鳴った。
放課後、あたしは翼を待ち伏せた。
「高校生まで活動休止なんて、ずいぶんと待たせてくれるじゃない」
きっと翼は演技を再開するつもりなんだと思っていた。
「学業への専念を理由に芸能活動を辞めたのは、高校生で復帰して子役時代のイメージを払拭するため。なかなか戦略的じゃない」
これだけ長く一緒にいたのだ。私は翼のことをよくわかっている。
「あなたの演技がどれだけ成長したか、楽しみにしているから」
翼はきっと照れくさそうに笑ってくれると思っていた。
「いや、だから俺はもう芸能界はやめたんだって」
え? う、嘘……やめた? 本当に?
「だから、もう朝香に付き合ってくれなんて突っかかったりしない。安心してくれ」
「み゛」