とにかく曇る天才女優の幼馴染!(旧題:天才子役の幼馴染に勝てなかったので、分相応に生きていこうと思います)   作:サニキ リオ

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第2話 脳破壊される側視点

 あたしの名前は羽田朝香。本名は田中朝香。

 名前が二つある理由は単純だ。私が芸能人だからだ。

 高校生にして、世間では天才女優と言われている。

 

 三歳のとき朝ドラで子役デビュー。

 翌年には大河ドラマで主演。

 さらに六歳でハリウッドデビュー。

 

 幼い頃から演技の世界で生きてきた。

 台本を読み、役を演じ、カメラの前に立つことが当たり前の日常だった。

 この世界で生き残るのがどれだけ難しいか、あたしは知っている。

 才能だけでは足りない。運も、タイミングも、全てが揃わなければ消えていく。

 

 結果が出るまでするのが努力。それが当たり前だ。

 

 そんな厳しい世界で、あたしの隣に立ち続けた子役がいた。

 凪野翼。

 初めて会ったのは小学生の頃。

 劇団の稽古場で、あたしを真っ直ぐに見つめる男の子がいた。

 他の子役たちがあたしを避ける中、彼だけは違った。

 

『僕、朝香ちゃんのことが好きなんだ!』

 

 子供っぽい告白。だから、あたしは試した。

 

『悪いけど、演技が下手な人に興味ないの。口説き落としたかったら、あたしよりうまい演技をしてよ』

 

 無茶な条件だと思った。

 

『じゃあ、僕が演技で勝ったら彼女になってよ!』

 

 彼は本当に挑んできた。

 稽古場で必死に台詞を覚え、何度も何度も同じシーンを繰り返した。涙を流しながら演技を磨く翼の姿を見るたび、あたしの中で何かが動いた。

 

 嬉しかった。誰も私に挑んでこない中、彼だけは諦めなかった。

 顔を合わせるごとに厳しい言葉をかけたが、翼は諦めなかった。

 少しずつ成長し、いつしかあたしの隣に立てるほどの演技力を身につけた。

 共演したとき、翼の演技は素晴らしかった。あたしの芝居を受け止め、返してくれる。呼吸が合う。何よりも、楽しかった。

 

 翼はあたしに食らいついてこれる唯一の存在だった。

 あたしはもっと翼に成長してほしかった。いつか本当にあたしを超えてほしかった。

 

 ……正直、気持ちとしては「ま、まあ? 付き合ってあげなくもないけど?」くらいには翼に心を許していた。もちろん、異性として。

 

 ただ、それを伝えれば翼は頑張れなくなるかもしれない。

 そう思って、ひたすら彼の気持ちにはダメ出しで返すことにした。

 それからほどなくして、翼は芸能界から姿を消した。

 表向きの理由は、学業に専念するため。

 

 あたしにはわかっていた。

 翼は戦略的に表舞台から一旦姿を消したのだ。

 子役というイメージを払拭し、一人の俳優として認めてもらうためのリセット期間。

 それが明けるのが楽しみで仕方なかった。

 

 入学式の日、教室で翼の姿を見つけたとき胸が高鳴った。

 放課後、あたしは翼を待ち伏せた。

 

「高校生まで活動休止なんて、ずいぶんと待たせてくれるじゃない」

 

 きっと翼は演技を再開するつもりなんだと思っていた。

 

「学業への専念を理由に芸能活動を辞めたのは、高校生で復帰して子役時代のイメージを払拭するため。なかなか戦略的じゃない」

 

 これだけ長く一緒にいたのだ。私は翼のことをよくわかっている。

 

「あなたの演技がどれだけ成長したか、楽しみにしているから」

 

 翼はきっと照れくさそうに笑ってくれると思っていた。

 

「いや、だから俺はもう芸能界はやめたんだって」

 

 え? う、嘘……やめた? 本当に?

 

「だから、もう朝香に付き合ってくれなんて突っかかったりしない。安心してくれ」

「み゛」

 




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