とにかく曇る天才女優の幼馴染!   作:サニキ リオ

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第20話 アウトプットが苦手な少女

「……あ、ありがとう、ございます」

 

 声が震えている。

 よほど緊張していたんだろう。

 

「いや、別に大したことじゃない」

「……凪野君って、声通るんだね」

「まあな。発声練習は今でもやってるし」

 

 習慣とはなかなか抜けないもので、いまだに早朝起きてランニングと発声練習をしないと身体が落ち着かない。

 

「発声練習?」

「ああ、いや、こっちの話」

 

 俺は帆林の向かいに座った。

 帆林は緊張した様子で視線を泳がせている。

 

「てか、凪野君……私の、名前、知ってるんですか」

「知ってるも何も、同じクラスだろ。帆林郁。出席番号は三十二番」

 

 帆林は驚いたように目を見開いた。

 

「出席番号まで……!?」

「当たり前だろ。同じクラスなんだから」

「で、でも、私、目立たないし、喋らないし」

 

 帆林は信じられないという顔をしている。

 

「俺は、同じ学年の人間の顔と名前は、全員把握してるぞ」

「全員!?」

 

 帆林は驚愕している。

 

「昔からの癖でな。人の名前を覚えるのが習慣だった」

「す、すごい……!」

 

 感心したように帆林が呟く。

 その声は相変わらず小さい。

 俺はメニューを開き、適当にパスタを注文する。

 

 向かいでは、湯気の立つナポリタンをフォークで少しずつ巻き取り、慎重に口へ運んでいた。

 食べ方、小動物みたいで可愛いな。

 それにしても、コミュニケーション能力に難ありか……軽く話題を振ってみるか。

 

「さっきの注文のこと、なんで自分で言わなかったんだ?」

 

 声をかけるとフォークの動きが止まり、視線が皿に落ちる。

 

「私、人と、話すのが、苦手で……」

「苦手って、いうと?」

「何を、話していいか、わからなくて……いつも、黙っちゃうんです」

 

 困ったような笑みが浮かぶ。それは、どこか自分を責める表情でもあった。

 

「それに、言いたいことがあっても……うまく、言えなくて」

「なるほどな」

 

 言いたいこと自体がないわけじゃない。

 言葉は少なく、声も小さいだけ。

 

 要するに、アウトプットが苦手ってだけの話だ。

 

「学校では、どうしてるんだ?」

「……あんまり、喋らない、です」

「友達は?」

「いると、思いますか?」

 

 そう言って自嘲するように笑う。

 その笑顔がやけに痛々しい。

 

「趣味とか、好きなことは?」

「……ネット小説、読むこと、です」

「ネット小説?」

「……はい。一日、五、六時間、読んでます」

 

 帆林は恥ずかしそうに俯いた。

 

「……あと、ショート動画も、見ます。ダラダラと」

「それだけ好きなことがあるなら、同じ趣味の友達作れるんじゃないか?」

「話しかけられなくて……誰も私のこと、気づいてない、と思います」

「そんなことないだろ」

「……私、目立たないし、喋らないし」

 

 視線はテーブルの端から戻ってこない。

 

「……いつも、教室の隅に座ってて……誰とも、話さないから」

「それは、話しかけてないからじゃないか?」

 

 俺の言葉に、はっとしたように顔が上がる。

 

「帆林から話しかければ、普通に話してくれると思うぞ」

「……でも、うまく、喋れないし」

「それは練習すれば良くなる」

 

 考え込むように、フォークを握り直す。

 

「練習、ですか」

「コミュニケーションも技術だ。練習すれば、誰でも上手くなる」

 

 目が、少しだけ大きく開かれた。

 

「……本当に?」

「ああ。コツくらいなら教えてやれるかもしれない」

 

 一瞬、言葉に詰まったあと、帆林は表情を引き締めて答える。

 

「その、凪野君……コツ、教えてもらっても、いいですか?」

 

 その声はさっきより、ほんの少しだけ、はっきりしていた。

 

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